星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~ 七章後編「守り人、また明日」

恋心が暴走する!生死を超え、世界を手に入れ宇宙を跨ぐ…ヤンデレ男子たちが主役のダークファンタジー小説(全九章。)

はじめに

残酷な表現等を含みます。作品をお読みになる前に以下の注意事項を必ずご確認ください

星のはなびら七章後編「守り人、また明日」

さくらは、永遠に存在するための切符「時間の宝石」を、ゆずはにわたすことにし、霊界へと向かった。楽しそうな2人の様子に安心していたら、ふうががさくらを花畑へ連れ出して…。「なぁ、さくら、変な話、してもいい?」

本編

また、会いに来るから。からすに伝えて俺(さくら)は透明の翼を広げる。笑顔で手を振るからすを残して、秘密の空間を出た。昨日よりも少しだけ胸を張って、飛び立つ。

赤黒い壁に囲まれた地獄の入り口に出た時、ポケットからポロリと何かがひとつ転がり落ちた。もちろん「時間の宝石」だ。地獄の下へ下へと落ちていく宝石。

「マジか、無くしちまう!うぉおおおおおおお」

(疲れて体中が痛ぇのに)必死に追いかける。翼を折りたたんで、まさに急降下だ。奥の奥、地獄の門が見えてくる。迫りくる底…まぁ落ちて割れてもいいか。笑。諦めかけた時、底で待ち受けていた一人の女の子が、それを素手でキャッチした。

「ささめき、ナイス!」

「なにやってるのよ、もう!!」

守り人(俺)の相棒、ささめき。死後の世界のリーダー的存在だ。帰るところをなくした侵略者に戦士としての居場所を与えてまとめたり、地獄で項垂れている霊と話してその心に寄り添ったり…カリスマ性を活かして、いつも動き回り、働いている器用な奴。皆ささめきのことを頼りにしている。でも気が強すぎるし、うるさいんだよな~。ほらまた、腰に手をやり飽きれ返った表情で口をとがらせている。

「さくまちゃんから聞いたけど。時間の宝石を適当に保管してるなんてありえないわ!持ち歩かずに丈夫な金庫にでも入れておきなさいよ!!ど、う、せ!!面倒くさがって、ガムのゴミと一緒にポケットに入れたままにしてたんでしょ?ほんと、おまぬけ」

「うっせぇうっせぇ!!俺は強いんだ、俺が持ち歩くのが一番安全なんだ!!それに、流石にガムと一緒に保管してるわけねぇ!!今疲れてるんだからでけぇ声出してくんなよ」

「あら、じゃあポケットの中身、見せてみなさいよ」

「ちっ…」

俺は乱暴にポケットの中に手を突っ込み、中に入っているものを鷲掴んでみせた。

「あ、やべ…」

時間の宝石と、ガムのゴミと、ガムのゴミと、レシート(いつから入ってんだ?)と、ゴム(未開封…いや、からすと)…

「何が俺が持ち歩くのが一番安全なんだ~よ。それを狙って侵略しに来る戦士がいることくらい私も知ってるわよ。一般人や霊や天使たちが危険な目にあったらどうするつもり!?無責任!」

「う…それは、…」

「まあいいわ、私に考えがあるの。どうするかは守り人さんに決めてもらうけど…」

「考え?早く言えって…もうこの宝石、早く手放しちまいてぇんだ」

ささめきは俺の耳に顔を近づけ、こっそり囁いた。俺はささめきの提案に心底驚いた。

「…はぁ!?ささめき、本気かよ。

ひとつ、ゆずは先輩にプレゼントするって!?

ゆずは先輩を別の宇宙に飛ばして大丈夫なのかよ!ていうか、どうなるのか想像もできねぇ…」

そういや、むむが言ってたっけ…「欲しい人にあげるのはどうかな。その宝石には、永遠に死ぬことができない偽物の世界を作り出す危険な力が宿ってる。強い気持ちでうまく使いこなせば、誰かと一緒にその世界にいくこともできる…らしいよ。つまり、永遠に一緒にいられる運命が約束されるんだ。失敗すれば、それぞれ違う世界に飛ばされて二度と会えなくなる可能性もあるとは思うけど。自分たちだけの新しい宇宙(せかい)を作りだす力…相応しい人、いないかな」って。

ささめきは、ゆずは先輩が時間の宝石にふさわしい奴だって言いたいのか?

…最後に会った時。ゆずは先輩が、顔を涙と汗でぐちゃぐちゃにしながら、俺に武器を向けたことを思い出した。先輩は、愛する人のために、簡単に引き金を引いた。血まみれで苦しむ俺には見向きもせず、ふうがさんだけを見つめ、彼の元へと駆け寄っていった。そして、…オレをこの霊界の化身にしてほしい、この霊界の全知全能の神にしてほしい、なんて言い出して。根負けした俺は、星の化身としての力を半分渡した。

ゆずは先輩は真剣に話していた。「この霊界をオレの意識の中に飲み込んでしまいたいんだ。この霊界の過去も未来も、全てがオレの手の中にあれば…ふうがをどんな運命からも守ることができる。ふうがの罪を、悲しみを一緒に背負って、助け合えるのは、この宇宙にオレしかいないんだ。どんな恨みを背負ってもいい、許してあげたいんだ、オレだけは」

…多分ゆずは先輩は、この星の誰よりも変化を恐れているんだ。ゆずは先輩の壊れそうな心を、壊れないように繋ぎとめている、たった一本の細い糸…それがふうがさんなんだろう。ゆずは先輩の世界には、ふうがさんしか残らなかったんだろう。世界を敵に回して、孤独感を貫いて、必死に生きようとしてる先輩のことを、今更悪人だとは言いたくねぇけど。言いたくはねぇけどさ。俺には先輩が、かっこつけた裏切り者みたいに見える。

「さくまちゃんから詳しいことを聞いて、門番さんと3人で相談しながら、色々考えたのよ?

ゆずは君と兄さん…ふうがさんがいる霊界は、守り人さんじゃなくてあいつ、ゆうぎが作った世界。でも大丈夫、どんな条件であっても、時間の宝石は使い方次第なんだと思う。正しくあろうとしてる、真面目で器用な人には使えないのよ、きっと。自分なら世界を思い通りにできるって信じてる、傲慢な人にしか扱えない…そういう物でしょ?彼なら、できると思う。

宝石の力で、あの霊界だけがぽっかり浮かぶ新しい宇宙を創るの。そして、霊界の時間を「止める」のよ。時間を戻したり早めたりすれば、ゆずは君が二人に増えるなんてことになるかもしれないし。慎重にね?

使った後の宝石は、ゆずは君が自分の体に取り込んでしまえばいいわ。そうすれば宝石の力は穏やかにその世界に溶け込むんだって。

霊界はこの星から、宇宙から、完全に独立する。誰かに何かに、干渉されることもなくなるわ。ゆずは先輩は二人だけの宇宙で永遠に存在することになるってわけ」

「全部憶測なんだろ?ゆずは先輩と話して、宝石を使うかどうか、決めてもらうしかないか。…行きたくねぇし、会いたくねぇけど」

心配事は沢山ある。

そもそもゆずは先輩は今もゆずは先輩として存在しているのだろうか。ふうがさんと一緒に、あの時と同じ気持ちを持ちつづけているのだろうか。変わっていないのだろうか。だってあの霊界は時間が流れる速さが違うんだ。ゆずは先輩にとっては、あれからもう、

1000年近く過ぎているんだ。

流石に干からびてるだろ!!!

もう、どこにもいないんじゃね?

…それだけじゃない、時間の宝石は命の危険を感じた時に効果を発揮するものだ。ゆずは先輩、霊だし…今更死を感じる瞬間何てあるのか?

この星の仕組み上、ゆずは先輩もふうがさんも死んでいることにはなってるけど、実際魂は残ってる。本当に死んでいるわけじゃねぇ。問題なく使えるはずだけど…うーん。

「仕方ねぇ…様子見に行ってみるか、これでゆずは先輩と会うのも最後になるだろうしな」

「いってらっしゃい、帰ったらどうなったか聞かせてね。お土産、期待してるわよ」

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地獄の壁…体をねじ込ませて、霊界へ足を踏み入れる。現世より時間が100倍くらい早く進む、ゆずは先輩の特別な世界。(もちろん、俺に適用される時間は星の力で調整して、現世や天国と同じ時間進むように調整してる。この調整をし忘れると、浦島太郎みたいな、大変なことになる…)

ゆずは先輩とふうがさんはもう、1000年の時を共にしていることになる。

霊界に足を踏み入れた瞬間…

甘い、花の香りが広がった

「何しに来たの?さくら君」

「…ゆずは先輩」

俺の前には、あの日から何も変わっていないゆずは先輩が立っていた。

「さくら君…オレのこと、そんな風に見ないでよ。言ったじゃん、オレもふうがも何も変わらないって。さくら君が何をしに来たのかは…言わなくてもいいや。もう、わかったから。ありがとう、その宝石、もらうよ。さくら君が帰ったら、こっそり使う。心配しなくてもいいよ、オレなら普通に使えるし、この星の仕組みも知ってるし」

「…はぁ?霊界と魂を共有してるから、霊界の中に入ってきた俺の心もお見通しってことか!?」

「折角だし、霊界の中案内しようか?ふうがと色々作ったんだよ」

「マジ!?てっきり宝石だけおいて今すぐ帰れって言われるのかと思ってました…」

「敬語、使わなくていいって。今日は帰れとは言わないよ、だってさくら君、興味津々じゃん」

「俺の心の中、勝手に見るなって!!」

「見たくなくても流れ込んでくるんだよ。見たくないものを見た後は記憶を消しちゃえばいいんだけど、知ることも知らないでいることも、辛いっていうか…オレの愚痴はいいや。

会ったり話したりするのもこれで最後になるだろうし、他人に踏み入れてほしくない霊界だけど、さくら君になら見せてもいいかなって思った。そう思えるくらい、その宝石を見て安心した。それがあれば、不安で眠れない夜もなくなる」

「不安って、何が?ふうがさんと喧嘩でもするのか?」

「わからない?不安なことは色々あるけどさ。さくら君が怖い、それが1番大きな不安かな。オレの幸せなんて、さくら君の手のひらの上、宇宙の手のひらの上で成り立ってるものだし、安心できないし信じられないんだ。あ、でも、さくら君が弱いって言いたいわけじゃなくて…」

「はいはい、わかったわかった!もういいって、そんなつまんねぇ話!早く何百年熟成させて極めたチーズとか酒とか、レアで美味いやつを食わせてくれよ」

「え?無いよ、昨日全部食べきっちゃったんだよね。長い時間をかけて作った、究極の焼きそばも食べちゃったし…すごくおいしかったよ」

ゆずは先輩はそう言いながら、「先に受け取っておくよ」と、手を差し出した。俺は時間の宝石を手渡す。「ふふ、ありがとう」…ゆずは先輩はそう呟き、それを空中で液状化させ、体内にしまった。無くさないだろうけど、真似したくはねぇ保管方法だなぁ。

「とりあえず家に案内するよ、ふうがに隠し事したくないし、あいさつしてほしい」

ゆずは先輩はふわりと宙に浮いて、何もない青空を指さした。

「あの向こうに、オレたちの家があるんだ。ふうがもそこにいるよ」

…と言われてから、もう体感2時間以上飛んでる、飛び続けてる。

「ゆずは先輩…帰っていいか?」

「あとちょっとで着くよ」

「あとちょっとなら、我慢するか…」

視線を下すと、広大な花畑が広がっていた。向日葵、薔薇、秋桜、紫陽花、水仙、…花のテーマパークだな。あれはハーブ園?桜の木も、黄色に染まった銀杏の木も見えるな。遠くには遊園地、観覧車がゆっくりとまわっている。透明の湖。雪景色、輝くオーロラ。青い霧が遠くの建造物を隠している。四季と昼と夜が混ざり合う、一生かかっても遊びきれない、二人のための楽園。

全部ゆずは先輩が作ったのか?俺の力を俺よりも使いこなしやがって。なんか、ムカつく。

体感1時間後、ようやく一軒のログハウスに到着した。家の前、大きなブランコをこいでいる人影は、こちらに気が付き…近付いてきて、目を丸くさせた。冷たい風を浴びたように、体を小さく震わせて、後退りした。ふうがさんもあの日から何も変わってねぇみたいだ。

「ゆずは、そ、そ、そいつ何だ!?!?おれ以外の友達、作ったのか!?……そんなわけないか。なんか、見たことあるような、ないような…ないか」

俺は一応あいさつする。

「俺はさくら。ゆずは先輩の元後輩で、この星の化身。ちょっと見てまわったらすぐ帰るから」

「ふーん、さくらか。新しいおもちゃかと思ってびっくりした。ゆずは、植物は作ってくれるけど、動物はダメって言うし…おれも欲しいとは思わないけどな。そうだ、カレーライス作ったんだ、一緒に食うか?」

「もしかして、何百年研究して極めた、この霊界だけのレアで特別なカレーか!?食いたい!!」

「ああ、特別なカレーだぞ!だって、隠し味にケチャップを入れたんだ、…あ、隠し味なのに喋っちまったら意味ないか」

ゆずは先輩は、俺とふうがの会話を見てクスクス笑っている。ゆずは先輩は、霊力で椅子を一つ増やした。俺はその木製の椅子に座る。おいしそうなカレーライスが運ばれてくる。ふたりも席に着く。

「いただきます!」と手を合わせて、俺はカレーライスを口に運んだ…そして、ひっくり返った。

「さくら君、どうしたの!?」「おいしすぎたのか!?」

「ちげぇよ!!チッ、なんだよこのカレーライス!!焼きそばの味がする!!」

「言ってなかったか?焼きそば味のカレーライスだぞ♪おれ、クリームソーダ味のカレーライスとか、ミニトマト味のカレーライスとか、色々作れるんだ」

「変なもん食わせんなよ!まぁいいや、レアな料理だし、違和感すげぇけど味はうめぇから食うよ…」

もぐもぐ…

「さくら君、余ったカレー、保存容器に入れてあげようか?お持ち帰りする?結構おいしいでしょ」

「え?…う、うん。ちょっと面白いし、お土産にするか…」

食べ終わり、ゆずは先輩は鍋に入った余ったカレーを、保存容器に入れ始めた。そのとき、ふうがさんが俺の手を握って引っ張った。

「なぁ、ゆずは!こいつとちょっとだけ遊んできてもいい?」

「うん、いいよ、遊んでおいで」

「だってさ、行こうぜ、さくら!」

「え!?あ、ああ…」

俺は家の外へと引っ張られて、ひまわり畑へと連れていかれた。

「ひまわり畑!いっぱいいっぱい、ずっと咲いてるんだ」

ふうがさんは楽しそうにくるくるまわって走ったり、スキップしたり、宙に浮いたりしている。

「綺麗だけど、ふうがさんは見飽きてんじゃねぇの?」

「ああ、見飽きてるぞ。だから見たくなくなったらゆずはに消してもらうし、見たくなったら、咲かせて元に戻してもらってる。ゆずはは毎日、色んな花とか、雪とか、空の色見せてくれるんだ。しんしゅ?の花とか、カラフルなキノコも見せてくれる。ゆずは、絵も料理もすっげぇ上手くなったから、一緒にするの面白いんだ。難しいゲームとか、かっこいい服とかも作ってくれるんだ。だから毎日退屈じゃないし楽しいんだ!自慢の友達!」

「ふーん、楽しいならよかったな。…ともだち?まだ友達の関係なのかよ、それ、ゆずは先輩が聞いたら絶望するんじゃねぇの…いや、でも、この会話もゆずは先輩には聞こえてるんじゃ…!!」

流石に友達…ってことはないだろ。ふたりの表情とか、距離感とか…恋とか愛とかだよな?ちげぇの?

「さくら?何慌ててんだ、ゆずははずっと友達だぞ」

「いや、でも、キスするんだろ?」

「…するけど」

「ゆずは先輩のことが友達以上に好きだから、体と心を許してんじゃねぇの?」

「ゆずはのことは好きだし、えっと愛してるけど…もう、なんだよ!さくら、何が言いたいんだ?おれをからかってるのか?///」

俺ならからすに「友達」なんて言われたら、すげぇ複雑な気持ちになるだろうな。ふうがさんの、特別な価値観。恋人でもなく、家族でもなく、…友達。

「ずっと友達が欲しかったから、友達がいいんだ。キスするとか、関係ないんだ。「ゆずはが家族」っていうのはなんか引っかかるような気もするし、おれには、友達って言葉が一番しっくりくるっていうか、一番かっこよくて欲しくて、いいなって思うんだ!」

「ふーん、まぁお互い納得してるならいいか」

「さくらは友達いるのか?」

「…俺は、友達じゃなくて恋人だと思ってるけど、特別で大切な人はいるぜ。からすって言うんだ。10年くらい一緒にいるし、正直、家族ってことにしたい。プロポーズなんてしてねぇけど、いつかは…(からすを助けてあげられたら、俺がもっと強くなれたら)…するつもり。友達もいる。地上に住んでるみどりさん、天国で一緒に星を守ってる門番、さくま、それから、ささめき。バイトのやつ、他にもいろいろ」

「家族とか、恋人とか、呼び方がいっぱいあって難しいな…」

「呼び方なんてなんでもいいっていうか、とにかく全員大事な仲間。今は、この星にいる奴らのこと、みんな大切だって思えるようになった。ふうがさんの基準で言うと、全員友達、かもな」

「ふーん、さくらって面白いんだな」

ふうがさんは、興味があるのかないのか、どちらともいえない声色でそう言った。横顔を見ると、目を細めて、下を向いてほほ笑んでいた。いつもは大きな口を開けてあははと笑うのに。風に吹かれて、崩れた前髪が、輝く銀色の瞳を隠した。隠した。

「なぁ、さくら、変な話、してもいい?」

「今更改まってなんだよ、お前らの話は全部変だし、話せって」

「うん。おれ、ゆずはのこと好きなんだ。大好きなんだ。でも、好きすぎて…時々わかんなくなって、疲れちまうんだ。おれのせいで、ゆずはのことも疲れさせてる気がするんだ。

だから、もう。魂と体だけじゃなくて、おれの全部…過去も未来も、「心」も、あげちゃおうかなって迷ってるんだ。その方が、ゆずは、幸せになれるのかなって思ったりして…どう思う?」

その言葉を聞いて、俺は思わず立ち上がった。全部あげる?どういう意味だよ。こいつ、何言ってるんだよ。

「絶対あげんなよ!」

俺はふうがさんの腕をつかみ、強い感情をのせた声をあげた。ふうがさんは驚き、何も言えないでいる。

「好きにすればいいけど、心だけはあげんなよ!それをあげちまったら、共有しちまったら、お前もゆずは先輩も、ひとりぼっちになっちまうんだ」

「…!」

「あの日のゆずは先輩、「いつだって、嘘の言葉も本当の言葉も隠さず言いあって、受け入れあって、笑いあいたい」とか言ってたけど、俺は違うと思ってる。言い訳、本音、嘘、…言いたくないこと、言いにくいこと、色々あるだろ、そういうのは隠してもいいんだ。自分のためとか相手のためとか関係ねぇ。隠すことは悪いことじゃねぇんだ。

そんなこと気にせずに、自然体で、ダラダラ一緒にいられるのが、友達だ。

愛されることから逃げたらだめだ。

俺も時々ある、自分が嫌になるようなダサい感情や、考えが芽生えること。知られたくない自分ばっかりだ。でも、それが自分なんだ、仕方ねぇんだ。

心配いらねえよ。ゆずは先輩はそういうふうがさんのことも、全部好きなんだ。ゆずは先輩はそもそもマトモじゃないし、心配性で尽くすタイプの男なだけだって。

ていうか、言ってやれよ、「お前、重すぎる」って!「もう友達やめる!家出する!」とか言ってもいいんだって。

多分…ゆずは先輩は、ふうがさんがワガママ言わないから、暴走してんだ。我慢させてるんじゃないかって、毎晩不安になってるんだろ。

だから、変なこと考えず、自然体でいればいいんだよ。

…何年も悩んでたんだろ?俺も長い間悩んだ経験あるんだ、だから、ふうがさんの顔みたらわかる」

「うん…、さくら、ありがとう、あはは、はは…はぁーあ!、なんかすっきりした!!おれ、ゆずはに、ずっと言いたかったんだよ!寝るときに歌ってる子守歌の歌詞がキモイって!」

「…プっ、ふふ、どんな歌なんだよ」

「おれの体のパーツひとつひとつに名前を付けて、順番に愛してるよって伝える歌だ。髪とか歯とか、全部に言うから、すげぇ長いんだ…」

「キモイな、俺でもやらねぇ」

「ふふ、えっちするときもその歌うたうんだぞ」

「え…マジかよ」

「歌いながら興奮して涎垂れてるし、おれが死ぬまで体動かすのやめないんだ…」

ふうがさんは大きな口で、あははと笑った。家へ向かって歩き出す…ゆずは先輩のところへ帰るのだろう。

「さくらもそう思うよな、やっぱりキモイよな~!ゆずは、昔から…ずっと昔から、突然変なことするんだよ。どれくらいゆずはと一緒にいるのかなんて、もうわかんねぇけど、あいつ、全然変わらないんだ。でも、ゆずはのそういうところを見ると、なんか、愛されてるって感じするんだよな♪キモイところも好きった感じだな!」

「はいはい」

「なぁ、さくら。話聞いてくれてありがと。

また、会おうな」

「……またな。俺、そろそろ帰らなきゃいけねぇんだ、ゆずは先輩、呼んできてくれる?一応あいさつしておきたいし」

ふうがさんは元気に家の中へと入っていった。「ゆずは~、さくらが呼んでるぞ。もう帰るみたいだから、バイバイ言おうぜ!…どうしたんだ、うずくまって震えて。さくらの所へ行きたくないのか?だめだ、さくらは、大事な「こうはい」なんだろ?それなら無視しようとせずに、しっかりバイバイしなきゃ!」

ふうがさん、ゆずは先輩と何かを言い合ってる…。多分、ゆずは先輩は、俺とふうがさんの会話を聞いていたんだろうな…笑。

俺も家に入って、言い合ってる二人の間に入る。

「ゆずは先輩、俺帰るから!じゃあな!」

「アッ、あ…待って。さくら君。これ持って帰ってね、焼きそば味のカレー。これもあげるよ、…ネックレス。オレとさくら君って、趣味似てた気がするし、こういうの好きでしょ?」

「…まぁ、嫌いじゃねぇけど?へへッ、もらえるなら、もらっとくぜ」

ダイヤの形をした、黒色のネックレス。早速首にかけてみる…ちょっとだけ、嬉しい。

「俺もなんかプレゼントしてぇけど、ガムのゴミしか持ってねぇんだ…気持ちだけもらっておいてくれ」

「さくら、ガム好きなのか?じゃあ、おれが作ったガムやるよ!帰り道で食ってくれ」

「ふうがさん、ありがとう」

「さくら君、気を付けて帰ってね」

「さくら、バイバーイ!」

「じゃあな、ふうがさん、ゆずは先輩」

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天国へ帰る。門の前で、ささめきと門番、さくまが待っていた。

「くくく…レアなお土産はあるのか?」さくまは楽しそうだ。

「ありす、好き嫌いないから、何でも食べられるよ」門番も楽しそうだ。こいつら、お土産は食べ物だって思い込んでたんだな…食いしん坊。

俺は二人に、カレーを差し出す。「レアなカレーだ。一応、からすの分も残しといてくれよ」と言っておく。美味しそうなにおい。2人の表情が輝いた。

さくまが「これが悪魔の力だ!」なんて言いながら、テーブルと人数分のイス、スプーンと皿、ほかほかの白米を作り出し、並べていく。今すぐ食うのかよ、別にいいけど。

その様子にニコニコしながら、ささめきも近づいてきた。

「守り人さん、うまくいったようね。よかったわね。そのネックレス、ゆずは君からもらったの?彼が好きそうなデザインね、結構似合ってるわよ。無くさないように、大切にしなさいよね…ねぇ、何食べてるの?ガム?」

「ガムだ、焼きそばみてぇな味がする。不味くはねぇけど、しばらく焼きそばは食いたくねぇな」

ささめきは興味深そうに、腕を組んでいる。

「さくまちゃんたちが待ってるわ。霊界特性のカレーライスを食べながら、話しましょうか。…あ、守り人さん、あと一つの時間の宝石だけど…持ってる?落としてきてないでしょうね!」

歩きながらポケットを探る…良かった、あった。

「皆で「守り人さんが時間の宝石を無くさない方法」について話し合ったのだけれど。守り人さんのズボンに縫い付けておくことになったのよ。裏側にポケットを作って宝石を入れて、縫い付けて塞いじゃうの」

「はぁ?いや、ダサすぎるだろ、普通に持っておくから…」

「また落としたりするのが目に見えてるでしょ!ちょっとカッコ悪いけど我慢してよね。…早く脱いで。忘れないうちに縫い付けるから」

ささめきは裁縫道具を取り出し、針に糸を通して準備している。俺はしぶしぶズボンを脱いで宝石と渡した。バイト先で服に何か縫い付けてるのバレたりしたら、からかわれるだろ…。

「ささめき。カレー、先にいただくぞ…我は待ちくたびれて、腹が減っているんだ」

「ありすもお腹すいたし、食べようかな」

時間の宝石が縫い付けられたズボンを手渡されるのと、ありすとさくまが「焼きそばの味がする!」と叫んでひっくり返るのは同時だった。

ささめきはあまり裁縫は得意ではなかったみてぇだ…自覚してるのかは知らねぇけど。俺の大事なズボンに適当に針をぶっ刺してポツポツあいた穴と、2cmくらいの大きく乱雑な縫い目。表からも丸わかりだ…。このズボンをずっと履いてなきゃならねぇのか!?この宝石も、さっさと手放しちまいてぇな。他に欲しそうなやつ、使いたいと思ってそうなやつ、…まだ思いつかねえけど。

俺はクソだせぇズボンをはきながら、

「霊界では焼きそばが流行ってるんだぜ」と、適当なことを教えてやった。

END(八章へ続く)

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