【隠し持っていた鏡の破片でふうがを切りつけた】
「ゔっ…」
ふうがはその場に崩れた。オレが隠し持っていた鏡の破片でふうがの首を深く切りつけたからだ。ふうがは首を両手で強く抑えながら、顔を歪めてもがき苦しんでいる。相変わらず血は流れない。
ふうががオレに恐ろしい鏡を見せた時。オレはビビって落として割ってしまったけれど、そのときに破片をひとつ拾っていたんだ。これは致命傷になるんじゃないか?早く邪魔者を消して、ささめきを取り戻したい。
「いたぃ、イダ…ぃ、ぅあ、グギ」
ふうががうつるよう破片を傾ける。そこにうつったのは、沢山の目玉がついている、人の形をしていない、真っ黒の化け物だった。
「…オレの夢を邪魔する化け物」
オレはふうがに向けて何度も何度も鏡の破片を突き刺した。抵抗し突き出された手にも突き刺した。マントも引き裂いて、穴だらけにして。やがてうめき声も泣き声も聞こえなくなり、ふうがは動かなくなかった。
「ふうが!」
名前を呼んでみても、虚ろな目でぐったりとしたまま、その場に寝そべっている。オレの心は晴れやかだった。早くささめきに会いたい気持ちでいっぱいだった。しかし両手を合わせて強く強く願っても夢は、景色は何も変わらない。そのとき、ふうがの姿が鏡にうつっていた化け物に変化していった。黒い黒い目玉の化け物…
「ゥググ…おれ、私、誰、なんだっけ…」
「!!」
そういうことだったのか、ささめきははじめからオレの傍にいたんだ!オレは化け物に叫ぶ。
「会いたかったよささめき!!大丈夫、今、全てを思い出させてあげるからね」
オレは化け物を、ささめきを、思いきり抱きしめた。
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「おはよう、ささめき。今日も可愛いね!」
「もう!何言ってるのよ…今起きてきたばっかなんだから、あんまりじろじろ見られたら恥ずかしい」
オレが住んでいた部屋の思い出のリビングでささめきは恥ずかしそうに笑った。赤い瞳、整った顔立ち。目の前にいるのは間違いなく、あの日のささめきだ。
「それにしても、本当に幸せなことね。大好きなゆずは君と永遠に一緒にいられる…その夢が叶ったなんて。」
混じりけのない、赤い瞳…嘘のない、二人だけの世界。
「オレも同じ気持ちだよ…さあ、今日は何しよっか!」
「もう決めてる!ついてきて!」
ささめきは外に飛び出した。ひまわり畑が広がっている。
「この思い出のひまわり畑で、結婚式をしましょっ!」
ささめきは魔法の力で、小さな教会を建てた。そして、着ていた部屋着を真っ白なドレスに変化させる。まるでシンデレラだ。
「ほら、ゆずは君も来て!髪型もお洒落に仕上げてあげるから!」
「うん今行く。ささめき、大好きだよ!」
「私も!ずっと…ずっと一緒にいようね」
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BadEND2/5「幸せな夢」