【ふうがの顔を思い切り殴りつけた】
ふうがは大きく体勢を崩してよろめいた。殴られた頬を擦りながら、悲しそうに言う。
「ゆずは…友達に戻りたくないのか?本気なのか?」
「ささめき、早くオレのこと思い出してよ」
「おれは…ふうがだろ」
まだ手はある。オレは立ち上がり、ポケットからあるものを取り出した。鏡の破片だ。ふうががオレに恐ろしい鏡を見せた時。オレはビビって落として割ってしまったけれど、そのときに破片をひとつ拾っていたんだ。
「お前…またおれを傷つけるつもりか?おれのこと、壊してしまいたいのかよ!!」
言葉を遮るようにふうがの顔面をもう一度力一杯に殴った。避けきれず、倒れ込んだふうがの目玉に向けて破片を振り下ろす。その瞬間…霊力が放たれた。
紫の閃光が広がりオレの体は
バラバラに弾け飛んだ。
「え、…」
ふうがの足元がみえる。オレの腕が脚が胴体が離れたところに見える。転がっている。何が起きた?声が、だせない…。オレの体からは、まるで血飛沫のように赤いバラの花びらが勢いよく溢れ出ている。なに、これ。
「うわぁああ!!やってしまった、おれ、おれ…」
ふうがの泣き声が聞こえる。きこえる。
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目の前には絶望が広がっている。おれ(ふうが)は、壊されるかもしれない恐怖に負けて、霊力を加減せずに放ってしまった、ゆずはを…バラバラにして壊してしまったんだ。後悔と自分への怒りが涙と一緒に溢れ出る。混乱して過呼吸になって…。
折角友達になれたのに…こんなことになるなんて。
おれはゆずはの体の中から溢れ出た赤い花びらを1枚、震える手で摘まんだ。これはゆずはの体の中に詰まっていた自我、記憶、心だ。辺りにはバラバラになったゆずはの体が転がっている。霊力でつなぎ合わせても、もう…元には戻せない。そのとき、転がる頭部…ゆずはの虚ろな瞳がこちらを向いているのが見えた。
「あああ…」
だめだ、こんな現実、おれには受け入れられない!!!受け入れられない!!!ふと視界に入った鏡の破片。…そこにはおれの本当の姿…目玉が沢山ある、黒く醜い化け物がうつっていた。
そうだ。おれはとっくに壊れている…悪霊なんだ。
悪霊の友達なんて簡単に見つからないよな。そうだ、友達を作るのって、難しいことなんだ。失敗は誰にもあるし。仕方の無い事なんだ。それにゆずはは悪人だった、おれに包丁を向けたり、殴ったりしたんだ。これは、仕方のないことなんだ。おれが悪いんじゃない。ゆずはが悪いんだ。
おれは壁に手をついてゆっくりと立ち上がる。胸に手を当てて呼吸を整える。
「ここはおれの霊界だ。強い霊力も持ってる。おれが主人公なんだ、だから大丈夫、幸せになれる…大丈夫」
おれはゆずはの体をかき集め、外に出た。
晴天。ひまわり畑が広がっている。昨日も二人で見た景色、何も変わらない景色。おれは霊力でひまわりの根元を深く掘り、その穴にゆずはを投げ入れた。そして、ポケットから、ひとつのライターを取り出す。それもぽいと投げ入れて、最後に上から土をかぶせた。
「ゆずはと過ごした記憶…悲しくて邪魔だな。帰ったら消してしまおう。あんな奴、はじめからいなかったんだ」
大丈夫だ、また、違うやつを連れてきて、友達になれるように頑張ればいいし。おれには難しいかもしれないけれど…諦めることは出来ないから…。家に入ろうとした時、ふと、誰かの視線を感じて振り返った。
「…?」
ひまわりがおれを見つめているように感じる。視線…視線…何本ものひまわりがおれを見つめている。
今日が終わればまた明日がやってくる。何も変わらない、変えられない。おれも、おれの霊界も。繰り返す。くりかえす。
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小さな病室。眠る「女の子」の呼吸音が微かに聞こえる。包帯だらけの体、彼女の青色の髪が僅かに揺れた。
「ん…」
瞼がゆっくり、ゆっくりと開かれ、虚ろな赤色の瞳に光が灯される。眠っていたのは…目を覚ましたのは…ささめきだった。
「ゆずは君、ごめんね、私、行かなくちゃ」
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BadEND1/5「悪霊」