星のはなびら一章【2人で消えよう】

【2人で消えよう】

「じゃあ一緒に消えよ。友達だろ?」

「ゆずは…」

「オレもふうがも、きちんと罪を償うことが出来たひとりの人間だったんだ。オレたちは進む道を間違えてしまった…これ以上誰も悲しませないためにも、全部終わらせよう」

大好きだったあの子。土の下のふうがの元友達。…沢山の人を悲しませたふたりの寂しがり屋の獣。過去も未来も、全部オレが連れて逝く。寂しさの連鎖は、オレが終わらせる。これこそがオレがこの世界のためにできる、幸せな結末だ。

「ゆずは…ゆずはは、優しいな。やっぱりおれの友達には、もったいないな」

「そうかな、お似合いだと思うけど?」

胸の中が空っぽになっても、ふうがのように新たな自我を持ち、動き出せる可能性があるのなら…オレたちの消え方は限られている。それにこの霊界では、存在を完全に消すことは難しいだろう。心も体も全てを無くしても、この霊界に永遠に在り続けることは変わらないんだ。

「ゆずはは怖くないのか?おれ、消えたいのに、怖いって思ってる…ずっとずっとひとりぼっちになるのかなって。手が震えてる、わがままかな…」

「わがままじゃないよ。…大丈夫、ひとりぼっちじゃない、オレがいるよ。ふうがの手を握り続けるよ。ずっと、ずっと離さないから」

オレはふうがの手を、両手で強く握りしめた。

「どうして…ゆずはの1番大切なものを奪ったおれに…そんなことが言えるんだよ…」

「…だって、オレだって怖いし寂しいから。でも、一緒に死のうって約束できることって、きっと幸せだよ」

「そっか、ありがとう」

ふうがは二人で過ごした家も、ブランコも、何もかもを消し去った。透明の瓦礫が、花びらのように舞い散って、消えていく。オレたちは、自分を壊して深い土の下に埋まることにした。

「穴掘るか!ゆずは、スコップはいどうぞ…もっと大っきいスコップ作った方がいい?ショベルカーとか」

「せっかくなんだから、この小さいスコップで、ゆっくり掘ろうよ」

ふうがはどこか楽しそうだった。オレも心が軽かった。だってもう、何も考えなくて良くなるのだから。ふうがとの思い出を、楽しく話した。

好きなふうがの手料理の話。毎日のようにひまわり畑を散策して、2人でブランコに乗っていたこと。ふうがはブランコを漕ぐのが下手なこと。絵はうまいけど、ゲームは弱かったな、特にトランプの大富豪なんて最弱。

きっと、オレたちは友達だった。ふうがの言う、友達。最上級の、唯一の、特別な関係だった。

ひまわり畑には、二人分の男が簡単に入る程の深く、大きな穴があいている。埋まれば二度と動けないだろう。

オレが握った包丁を見て、ふうがは怖い、怖いと泣きはじめた。

「これで胸にサクッと穴を開けて、手を繋いで穴の中に寝っ転がる。それからふうがの霊力で上から土をかけて埋まる、な?簡単だよ、怖くなんかないって」

「わかってる、でも、勇気がでない…きっと凄く痛い…」

「…泣くなって。そうだ、オレ、痛みが和らぐ魔法知ってるよ」

「ま、まほう…?」

オレは怖がるふうがの手をひいて、穴の中に入った。2人で横たわる。オレは左手で握っている包丁を見えないように隠した。

「その魔法は、痛みだけじゃなくて、寂しさも吹き飛ばすんだ」

「本当に?ゆずは、おれに嘘ついてないか?ゆずは、魔法なんて使えないおばけだろ!?」

「こんな時に嘘なんてつかないよ…オレもそんなに余裕ないって」

「早く魔法かけてくれよ」

オレは繋いでいた手をほどいて、ふうがの顔に添えた。そして包み込むように引き寄せて、足を絡めて…唇を重ねた。

「ふうが、愛してるよ」

ふうがの手を繋ぎ直し、もう片方の手で、刃物をふうがの背中に突き立てた。引き抜いて、自分の左胸にも刺した。ふうがは、縋るようにオレを抱きしめて、笑っていた。バラの花びらが大空へと舞い、太陽の光を透かした。紫色の閃光、真っ暗になる視界。押しつぶされていく体。

オレの手を強く握る感触。それはプラスチックの様に冷たく、優しかった。

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BadEND5/5「土の下の温もり」

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