ごめん、ごめん。やっぱり俺、もう、何もできないみたいだ。
考えられない、体が痛くてたまらないんだ。
はは、なんだよ、俺ってマジで頼りねぇよな。なんにも守れなかったし、オキに傷ひとつあたえられねぇ雑魚だったし。3000年以上生きてきたけど、大切なものに気が付くのが遅すぎたのかな。でもさ、そんな俺のこと、からすは愛してくれたんだ。俺も俺のこと、好きになれたんだ。
だから、諦めたけど後悔はしてねぇよ。からす、「全部わたしのせいにしていいから」なんて言ってたけど、誰も悪くねぇんだ。俺たち、一生懸命息をしていた。
これでよかったんだって思ってる。
からすのあたたかい腕の中、安心して目を閉じた。
おやすみ。からす、俺の星。
またな。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・
「見つけた」
すやすや眠るさくら君を撫でていたら、背後から声が聞こえた。わたし(からす)はさくら君を抱えなおして、立ち上がり、振り返った。
「こんなところに隠れてたんだ。
嘘ついて、閉じ込めるなんてひどいよ」
返り血まみれのオキ君が立っていた。オキ君の隣には、可愛らしい形をした金属製のくまが浮遊している。オキ君は話し始めた。
「さくら君は、力任せの臆病者…その通りだったんだね。
だって策もないのに自分だけ逃げて、仲間を見殺しにしたんだ。
天国も現世も、ぜんぶ破壊してあげたよ。もう、帰るところなんてない。
…どうする?
からす君」
一瞬で殺されるのかと思っていたが…オキ君はわたしの遺言を聞きたいらしい。余裕が伝わってくる。恐らく、わたしの体の中にある爆弾のことも、全部知っているんだろうなぁ。何を言い返してみようかな、言いたいことなんてないのだが。命乞いをするつもりもない。荒らされたこの星なんて見たくないし、自分だけ生き残ろうとは思わない。
あえて言うのなら、面倒なことになるのは避けたい。
「うーん、言いたいことはないな。楽に殺してくれ!ということだけだな」
オキ君がわたしに金属製の、鋭くとがった腕を向ける。鉄の拳に電気のエネルギーが集まり、輝きが増していく。皮膚の上を走る、ビリビリとした感覚。
そうだ、それでいいんだ。
その時、金属製のくまが慌てて話し始めた。
「オキ!!ストップ、そいつをやるのは待ってくれ!!!」
「…わかった。ことお君、慌ててどうしたの?さくら君に何か用?」
「さくらじゃない、そいつだよ、そいつ!!からす、あんたなんなんだ!?爆弾を取り出すために、遠隔操作で体内を分析してたんだけど、この宇宙を超越した、解明できない力ばかりが検出されるんだ。宇宙は未知で広大だ…遠い星には俺たちには想像もできない力が、まだまだ、たくさんあるとは思ってる。だけどこの力は…異常だ」
わたしは困った顔で首をかしげて、身に覚えがないアピールをした。
「ことお君?だったか。わたしは変な話に付き合うつもりも、戦うつもりもないんだ」
「オキ、そいつが持つ力は俺が探している「宇宙の神みたいな奴」の手掛かりになるかもしれねぇんだ!
さくらはその場で殺していい。でも、からすは生きたまま連れて帰ってきてくれ。頼めるか。あとでオキには、俺の目的と過去を全部話す!」
「わかった、まかせて」
二人の会話を聞き流しながら、わたしは自分の手のひらを見つめた。
わたしが生まれた時から体に宿していたこの力、お母さんが星のはなびらとなり宇宙に溶けてしまう直前にくれたこの力。この力は、言葉で表現するには難しい、深海のようなものだ。
一体何なのか、確かめる術はもうない…それを知っているのは、知ることができたのは、この宇宙で、お母さんひとりだけだったんだ…と思っている。
憶測だが。多分わたしのお母さんはただの星の化身じゃなかった。
お母さんは、この宇宙の外からやってきた特別な存在だったのだろう。
魂は、星の化身が作ったものじゃない、この宇宙が作り、それぞれの星に配っているもの…それは、星の化身なら感じ取れる知識だ。そう、配ってる…誰かが、配ってるんだ。この宇宙を、外から見ている誰かがいる。育てている誰かがいる。ことお君が言う、「宇宙の神みたいな奴」。それがその、誰かなのだろうか。
お母さんはその「誰か」の仲間だったんじゃないか、なんて想像している。だけどお母さんはこの宇宙にやってきて、この宇宙の一員となって生きることにしたんだ。
お母さんが、夜に聞かせてくれた「おとぎ話」。そのおとぎ話は、お母さん自身の体験だったのではないかと、今になって気が付いた。
「藍色(あいいろ)の家族の星」…その星に、秘密の使命を果たすために、星の化身として降り立った女の子(お母さん)は、とある星の民と一生に一度の恋をした。星の民が死んでしまっても、また巡り合って、何度も何度も好きだと伝えあった。幸せな恋が奇跡を運んで、男の子(わたし)が生まれた。…おとぎ話の内容はそんな感じで、誰かの幸せを願う強い気持ちは、奇跡を起こすという内容だった。
お母さんは、愛した星の民のために、わたしのために…、全てを捨てて、この宇宙の一員になることにしたのだろうか。
わたしは、生まれつき特別な力を持っていたが、恐らくそれは星の化身相当の力で、あくまでこの宇宙の中で説明がつく力だった。お母さんは星のはなびらとなる直前に、わたしに、残った星の化身の力を全部食べさせて、宇宙に投げて逃がした。それがこの宇宙の過去と未来、魂、心…全てに手が届く深海の力だった。
真面目で優しいお母さんはこの宇宙の運命と規則を受け入れて、深海の力は使わず生きた。
お母さんの言葉…「星の民のため、星のため、宇宙のため。その前にたった一人を幸せにしてみなさい」。
お母さんはわたしを信じてくれたんだな。
この力と、お母さんの想いはわたしのものなんだ。
オキ君とことお君にわたして、悪用されるわけにはいかないんだ。
お母さんの想いも、さくら君との一生に一度のこの恋も、美しいまま大切にとっておきたい。それが今の、わたしの願いだ。
「お母さん、ごめんなさい。この力を使ってしまって。
それでも、守りたいんだ。
だから…その、ありがとう」
わたしは、そう呟いて微笑んだ。この宇宙に向かって。
その瞬間…青色の不死の星は消えてしまった。
わたしも、さくら君も消えてしまった。
わたしたちの過去と未来は、この宇宙から消えてしまった。
誰の記憶にも残らない、誰にも知られない存在となった。
さくら君の重みと柔らかい感触だけが、腕の中に残り続けているような気がしていた。
きがして いた。
Badend2/4 「星のしょうめつ」