からすが何か言いかけたのに、耳を傾ける余裕なんてなかった。
目を閉じたまま、喉を潰すために力を入れた。
皮膚が破れて、骨が折れた感触がして、液体が噴き出て、俺の右腕も顔もビショビショに濡れた。
「ッあ゛ぁ゛ッ!うぶっッ、ぁ゛… …」
思わず手を離した。痛々しい声が耳と心を引き裂いて、俺の感情は冷やされた。
目を開けた。喉にめり込んだ親指が見えた。
からすはひゅーひゅーと、細い息をしながら、びくびくと体を震わせていた。青紫の肌、濁った青色の瞳は、力なく上を向いていた。からすが詰まった呼吸をするたびに、鼻と口からは青色の血があふれ、白色の肌を汚した。
俺はそんな壊れそうなからすを見て、先ほどまでは確かにあった決意を泡のように溶かした。
呼んでも、叫んでも、もう苦しそうな声を出し続けるだけで、俺に応えてはくれない。青色の布団に汗でぬれた髪がべったりと散らばっている。
青ざめて、息が上がる、俺はなんてことをしてしまったんだ。
怖い。俺が、からすが、怖い。怖い。
俺はもう、何もかもが怖くなってしまったんだ。
「ぃ…だい…い…た…ぃ」
苦しむからすを前にどうすることもできない。
何もできない、俺は泣きながら、後退りした。
その時、からすが、からすが。言ったんだ。
「…ころして」って。
ころしてってったんだ、俺に、
おれに、ころしてって!
…ころしてとか、ころしてほしいとか、そんなこと、ころして、ころしてなんて、うそだ、ききたくない、ころして、なんて、ころして、とか、むり、やめろこわい、ころして、ころして、ころして、なんて。ああああ、ころして?ころして、
…ころして、とか、ころして、なんて。
頭がぐちゃぐちゃになる、その言葉に急かされて、後退りして、急かされて後退りして。ころして、なんて。ころして、なんて。
できないよ。
俺は叫んだ。
「ぁあああああ!!!」
えぐれたからすの喉を掴んだ、掴んだ。
つかんだ。
ぐしゃって、力こめて、ぐちゅって、青い血がどろどろ。
つぶした。つぶした。
つぶれて、なにも、きこえなくなった。
きこえなくなった。からす、からす?
おれもふとんも、あおいろ。
からすにそまっている。
ぐしゃって、かんしょくが、ぐちゅって、あふれた、おとが、まだする。あ。
まだのこってて、まだのこってて
きもちわるいなって。
からすも、きもちわるい?どうしてそんなかおして、うごかないんだよ、からす?
おれ、なにかきにさわるようなこと、したか?
からす、なぁ、からす…
…
…
「見つけた…さくら君。こんなところに隠れていたんだ。
力任せの臆病者…その通りだったんだね。だって策もないのに自分だけ逃げて、仲間を見殺しにしたんだ。天国も現世も、ぜんぶ破壊してあげたよ。もう、帰るところなんてない。
…さくら君?」
あ。
「ぁ…あ…ぁ!きたな、オキ!へへ、まっていたぜ!まっていたぜ!これからからすといっしょに、あいてしてやるからな!あいてしてやるからなぁ!あいて!おれはつよいんだぜ、からすもいるんだ、からすはやさしくて、つよくて、こわくて、きもちわるくて、だいすきいいイあああ!!!」
Badend4/4 「ぐちゃぐちゃなだいすき」