【2人で生きよう】
「消えたいなんて…いわないでくれよ」
「…でも、おれ、もう嘘つきたくない」
(オレが変われたらよかった。彼女の存在を肯定して、抱きとめて、「一緒に生きよう」って言えばよかった。彼女の世界を変えてあげられたらよかった)
「嘘ついてもいいよ。ふうが、オレさ、変わりたいんだ…一緒に生きようって言える自分に。嘘も本当も受け止められる自分に。誰かと幸せになれる、愛し合える自分に。オレ、寂しがり屋の獣のままではいたくないんだ。でも、オレ、何も無い…命も大切なものも全部落としちゃって、ふうがしか残ってない。だけど、何も無い今だからこそ…変われる気がするんだ」
「ゆずは…」
「友達になろうよ。本当の友達として永遠に、ふたりでここで生きようよ。オレ、ふうがのこと、怒ってないし全部許してるから。なんていうか、笑いたいんだ。この霊界は、多分…オレたちのために用意された幸せな監獄だったんだよ」
「幸せな監獄…」
「ふうがのこと、もう怖いだなんて思わないよ、自分の方が何倍も怖いし。でも、ふうがは、ゆずはなんて怖くなんてないぞって言ってくれるだろ?だから、大丈夫。
オレ、ふうがに捧げるよ。
強くて優しいなりたかった自分も、臆病で残酷な気持ち悪い自分も。全部、ふうがとの友情に捧げて、尽くすよ。変わらないように守るよ。だから、受け止めて欲しい。オレとの未来を、オレの人生最後のチャンスを受け止めて欲しい」
どこにもいかないから。ずっとそばにいるから…汗ばんだ手を握りしめた…、これでいい、これでいいんだ。大丈夫。にっこりと笑った。オレらしくない爽やかな笑顔だった。
もう間違えたくない、生きていたいんだよ。
自分の気持ちを溢れさせて…こんなこと、きっと誰のためにもならないのかもしれない。それでもここにいるふうがを見て、素直な自分でありたいと、まっすぐな自分になりたいと、強く、強く思ったんだ。
これでいい、これがいいこれしかないって思えたんだ。諦めること、捨てること、受け入れること…オレにはそれが、前向きでポジティブで、1番綺麗なものに見えるんだ。
オレは破れたスケッチブックを拾い上げ、ふうがに見せた。
「ふうがはここにいるよ。スケッチブックの中じゃなくて、オレの目の前にいる。これからはオレがふうがの、スケッチブックになってあげる。オレがふうがを繋ぎ止めてあげる。
オレがいるから、大丈夫。もう、寂しくないよ。だから、消えたいだなんて辛い言葉、二度と言わないで。
オレに、聞かせないで」
この霊界はやっぱりオレの夢なのかもしれない…なんてな。だって、オレ、変われるんだ。救われるんだ。幸せになれるんだ。これからはまっすぐに愛せるんだ。奇跡みたい。
永遠に変わらないものなんてない?でもこの霊界は誰にも干渉されない…息苦しくて煩わしい社会も人間も感情もない。オレがこの世界とふうがを変わらないように守れば、ずっと安心して笑えるんだ。
もう、迷わない。
「ひまわりの花言葉は情熱、君だけをみつめてる…オレたちにぴったりじゃない?」
「…ッ、…ゆずはって、ゆずはって馬鹿だ!おれなんか壊して埋めちゃえばいいのに…受け入れるだなんて、きっと馬鹿だよ。あはは。おれ、幸せになっちまう…あはは…はは、涙が、とまらないな。おれ、ゆずはにありがとうなんて言える立場じゃねぇのに!心からありがとうって思ってる!!友達だ、友達♪おれの友達、おれだけの友達…なぁ、ゆずは!おれのこと、大好きか?おれのことだけ、永遠に愛してくれるか?」
オレは泣き笑うふうがを大切に抱きしめて、頭を撫でた。
「うん、大好き。愛してる。ありがとう、ふうが」
「…あははははっ、ゆずは変なの、すごくかっこいいな」
「そりゃそうだ、オレこそがふうがの友達なんだから」
オレは込み上げる開放感にまかせて、ふうがにキスをした。ふうがは真っ赤になってオレを力いっぱい突き飛ばし、手をパタパタとさせて顔を仰いでいる。オレは吹っ飛んで転がった。
「おれ、ゆずはに染まっちまう…また自分が分からなくなっちまう、おかしくなっちまったらどうしよう…はぁ、キスって好き好き同士がするものだろ?あ、おれ、今特別な体験しちゃったのか?き、きす…」
オレは起き上がって、笑った。
「ふうがのはじめてはぜ〜んぶオレが貰うよ。だってオレたち、好き好き同士の特別な友達だろ?オレはふうがのこと好き、だから今日から、ふうがの全部はオレのもの」
ひまわり畑が揺れている。また明日がやって来る。何度も、何度も。もうこれからは「正」をかく必要はない。そもそも数える必要なんて初めからないんだ。オレたちを待つのは永遠、なのだから。この運命を愛し続けるよ。
…もしこれから、存在する意味を迷ったり、気持ちが揺らぐようなことがあったら、言葉にして伝え合えばいい。本心を受け止めたいという思いがあるならば、嘘をついても幸せになれる、それくらい大丈夫なんだ。何度でも確かめなおせれば、それでいいんだ。
…たった一人の特別な友達はうずくまって、泣いたり笑ったり顔を真っ赤にしたり、忙しそうだ。
オレはそんなふうがに手を差し出した。
「ほら、立てよ!何して遊ぶ?」
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TrueEND!(二章へ続く)「ズッ友2人きりルート」