【短編小説】ソクミタの影3

四話 ソクミタの調査

…探偵事務所(自宅・リビング)・今日の午後…

夕ご飯は唐揚げだ。ベーゼが揚げたての唐揚げを、大皿いっぱいに盛り付けていく。唐揚げ、炊きたての白ご飯、麦茶、お箸…ポポタマスがウキウキ気分でテーブルへと運んでいく。ハルは座って待っており、テーブルに運ばれてきた唐揚げを、早く食べたそうにしながら、見つめている。

ハル「ベーゼ、今日は忘れ物を届けてくれてありがとう」

ベーゼ「お気になさらず。届けられてよかったですよ」

ポポタマスがベーゼに隠れて、唐揚げをひとつ、つまみ食いした。もうひとつつまんで、ハルにも食べさせようとしたとき、ベーゼがポポタマスを睨みつけて、「おいコラ」と怒った。

ベーゼ「手で食うな!ポテトサラダを混ぜて、スープを盛り付けるから、手伝いに来い!…あ、ハルお嬢様は座って、待っていてくださいね♪」

ベーゼがポポタマスの服を掴んで、キッチンへと連れていく。

ポポタマス「手伝わなきゃダメ?執事なら、僕のご飯も作ってよ」

ベーゼ「は?俺は貴様の執事じゃないからな。ほら、早く混ぜろ!!ハルお嬢様のための料理なんだ。雑な仕事をしたら、この家から追い出すからな」

ポポタマス「ハルちゃんのためなら仕方ないね。心を込めて混ぜるよ。僕の投げキッスも入れておこうっと。ちゅ♡」

ベーゼ「入れるな!!

仕返しに、ポテトサラダにピーマン入れてやる!」

ポポタマス「入れないで!!ピーマンは苦いから食べられないんだ。も〜、怒ったもんね!」

ハルは唐揚げをつまみ食いしながら待っていた。

ハル「ふたりとも、ケンカしちゃだめだよー?」

ふたりは素直にケンカをやめた。

ハル「よーし、スマホ見て、明日のスケジュール確認しておこう。どんな調査依頼が来てたかなぁ〜♪」

その時、玄関のチャイムがなった。

ベーゼがエプロンを外し、マスクを付けて「お待ちください」と外に出ていく。ポポタマスもマスクをつけた。

ハル「誰かな、お客様かな?」

ポポタマス「誰だろうね。ご飯にほこりかぶらないように、ラップかけておこうよ♪」

ベーゼが、リビングにひょこっと顔をのぞかせ、とげとげしい表情をしてポポタマスに合図を送った。

ポポタマス「「ヤバい」って合図してるよ。ハッピーではなさそうだ。気を引き締めないとね」

ハル「怪しい人が来たのかな?」

その直後、「お邪魔します」という男性の声が聞こえた。ベーゼに案内されて、部屋に入ってきたのは…警察官のソクミタだった。

ーー

ソクミタは軽く自己紹介をした。ポポタマスはソクミタをテーブルに案内し、「どうぞどうぞ」と唐揚げをすすめた。ソクミタは「いいのか?ありがとう」と、唐揚げを頬張っている。

ソクミタ「おいしい唐揚げだな。料理がお上手だ」もぐもぐ

ハル「おいしいでしょ、ベーゼが作ったんだよ♪ソクミタさん、お腹すいてるの?いっぱい食べていいからね」

ハルはソクミタと世間話をしている。

ポポタマスとベーゼは、焦っていた。どうしよう?と目を合わせた。

…ポポタマスとベーゼには、警察官には話せない、後ろめたい事情があった。

ポポタマス(小声)「ベーゼ、どうする?ソクミタって確か、裏社会の有名な悪人、ロウソクを捕まえた凄腕の警察官だよ。

僕たち、色々怪しまれてるのかも。ハルちゃんと離れ離れになったらどうしよう…泣きそう」

ベーゼ(小声)「怪しまれるから絶対に泣くなよ。俺とハルお嬢様は、お父様とお母様(ナツカと花飾長柑)の悪行とは無関係ということになっているし、堂々としておけば、大丈夫だろ」

ポポタマス(小声)「ん〜、あれから半年くらい経つけど、花飾長柑の後任はまだ決まってないんでしょ?だから今はソクミタが指揮をとっているのかもよ。ロウソクを捕まえた、有名で優秀な警察官だからね。…裏社会の闇を解き明かして、警察組織を作り直すつもりなんじゃない?裏社会について色々調べ直されて、僕らの雑な仕事の痕跡とかが見つかっちゃったのかも。

ソクミタが直々に来るなんて、最悪だ〜。」

ベーゼ(小声)「口裂け男だという正体を確かめに来た可能性もあるんじゃないか?」

ポポタマス(小声)「そんなの、マスク外されたら一発アウトじゃん!僕は何も悪いことしてないのに。ベーゼのせいで、捕まっちゃうよ。」

ベーゼ(小声)「悪いことはしてただろ!今日もハルお嬢様に発信機をつけていたくせに、何を言ってるんだ」

ーポポタマスとベーゼの過去ー

口裂け男になる前のポポタマスは、裏社会で、人気NO.1のホストとして働いていた。華やかなホストとして働きながらも、怪しい情報を売ったり、怪しい荷物の運び屋をしたりしていて…怪しい男であることには変わりなかった。

ポポタマスはハルとのハネムーンを夢見ていた。貯金するために、仕事を頑張っていたのだ。タワマン最上階の部屋、家具家電を購入するなどして、勝手に準備していた。

しかし…綾小路家は没落した。ポポタマスはハルの家族を守れなかったと悲しんだ。ポポタマスはそのことを、「自分がハルのことを何も知らなかったせいだ」と考え、後悔した。

だからポポタマスは、ハルの全てを知るために、ストーカースキルを高めて、これまで以上に過去や個人情報を調べ、盗聴器やカメラを仕掛けて観察した。

ハルとのハネムーンの準備もあと少しで終わりそうだった。しかしポポタマスは、怪しい闇医者に美容整形手術を依頼してしまい、口裂け男にされてしまった。

イケメンだったのに、口が裂けた恐ろしい顔にされてしまったポポタマスは、怪異だと噂されて孤独になった。

仕事も家もお金も全て失った。「昔は幸せだったのに」と絶望し、裏社会の闇の底で、武器や情報を売買し、生活するようになった。

実はポポタマスを口裂け男に変えて闇に葬ったのは、ベーゼだった。

…綾小路家が没落した後、ハルはハルの知らないところで、悪意ある者から調査をされたり、命を狙われたりしていた。

ベーゼは、探偵になって頑張りたいというハルの夢を守りたかった。怖い思いをしてほしくなかった、邪魔をされたくなかった。だから、裏社会のルートを使って、ハルを狙う悪者達をこっそり闇に葬っていた。ストーカー男のポポタマスも、その一人だったのだ。

ベーゼは、ポポタマスを闇に沈めるために、闇医者になりきってポポタマスの口を裂き、口裂け男がいるという噂を流したのだ。

口裂け男にされた後もポポタマスは、ハルに恋をし続けていた。しかし、ベーゼが目を光らせているため、ハルに近付くことすらできなかった。

それでも、恋に恋するポポタマスは諦めきれなかった。人生を賭けた恋を、自分の人生を滅茶苦茶にしたベーゼに奪われることだけは許せなかった。

数ヶ月前。ポポタマスは「もういい、僕はハルちゃんと一緒にお空の上に行くもんね!」と闇堕ちを決意し、銃を片手にハルとベーゼのところへと向かった。

ポポタマスとベーゼは再会した。べーゼは「手術をしたとき、存在ごと消しておけばよかった」と悔しがった。

しかし、リーダーは結局、ハルなのだ。綾小路家直伝の光と闇の技術(密偵、戦闘、あんさつ技術など)があるハルは二人よりも、誰よりも強いのだ。

ハルが「ケンカはだめだよ」と仲介し、仲直り?をさせて、今に至る。

ーー

唐揚げをたくさん食べておなかいっぱいになったソクミタは、三人と向かい合って、話しはじめた。

ソクミタ「協力して欲しいことがあるんだ。

綾小路ナツカはかつて、怪異、悪霊、魔法、霊能力…人知を超えたそれらを手に入れ、悪用しようと企み、研究員を雇い、研究をしていた。

裏社会の廃病院にある秘密の研究所「綾小路研究所」では、ナツカがいなくなった今も、研究員が残っている。

とある研究員が、人知を超えた力に魅了されて、好奇心を抑えられず、ナツカに隠れて別の研究を進めたり、指示されていない行動をしたりしていたらしい。そいつを中心に、今も闇の研究が続けられているようだ…。

それで、わたしが調査をしているんだ。」

ハル「研究所に直接行って、中を調べることはできないの?」

ソクミタ「研究所内部は、厳重に警備されているんだ。センサーが張り巡らされていて、感知されると、撃ち抜かれてしまう仕組みもある。

人知を超えた技術で出来た特殊な武器も使われていて…とにかく危険だった。

実はわたしはひとりで潜入調査をしようとしたんだ。中には入れたが、しっかりと調査できる状況ではなかった。帰ってくるだけで精一杯だった。

綾小路研究所の中枢、「実験室」は廃病院の地下にある。鉄格子、手錠、鉄製のベッド…恐ろしいところだ。情報を整理して準備をして、今度こそ、その中を調べたいと思っている。

具体的には、『地下室の機械を操作するための、パスコード』が知りたいんだ。

些細な情報でもいい。知っていることを教えてくれないか?」

ポポタマスとベーゼは眉間にシワを寄せて、ムッとしている。(早く帰ってほしい)

ソクミタは話しながら、ウエストポーチから一冊のノートを取り出し、三人に見せた。

ソクミタ「…裏社会のゴミ箱の中からこのノートが見つかった。見て欲しい。

これは怪異の口裂け男に関する情報をまとめてある、手書きの調査資料だ。特殊能力や習性、特性などについても詳しく書かれている。日付は、最近のものではないが。

少し読み上げる…

【口裂け男 口が大きく裂けた怪異。身長180cm。体重80kgの成人男性。職業は執事。いつもマスクをしている。大きな鎌を出現させ戦う。高速で走る。においの強いものが苦手。口元を隠すために髪を伸ばしている。

口が悪く、足癖も悪い。乱暴な性格だが、執事らしく振舞おうと努力している様子。

好きな食べ物は魚。出汁が好き。

お気に入りのタオルがないと眠れないタイプ。

体臭はワカメっぽい。臭くはないけど普通。香りにこだわれない男はモテないだろう。

いつも縞模様のダサいブリーフをはいている。ロマンティックな夜にこんな下着を見せられたら、テンション下がること間違いなしだ。

風呂では、いちばん最初に膝を洗う。

その上……

しかも…

結論 男としてイケてないね。こういうタイプの男と付き合ったら、ぜったい後悔するから注意。

この国で一番イケてる男を知っているから、そいつの名前と連絡先と職場を教えてあげるよ。会いに来てね♪】

…このような内容だ。」

…ノートの最後のページは破り取られている。

そして、裏表紙には、怪しい名刺が貼り付けられていて、イケてる男の名前(ポポタマス)と電話番号と勤務先のホストクラブが書かれている。

ベーゼがポポタマスの胸ぐらを掴みあげて睨みつけた。

ベーゼ「(小声)貴様が書いたのか?ああ?」

ポポタマス「(小声)…ぐぐ。こ、こんなノート知らないよ」

ソクミタがスマホを取り出し、名刺に書かれている電話番号を入力し、電話をかけた。

〜♪

リビングに響く、着信音。

ポポタマスはポケットからスマホを取り出し、ピッと通話終了ボタンを押した。

ベーゼはポポタマスを乱暴に揺さぶって怒っている。

ベーゼ「貴様ぁあ!雑な仕事をしやがって!せめて電話番号は変えておけよ!」

ポポタマス「ああもう〜!うるさいなぁ!これは探偵事務所に来る前に作ったノートだよ。お屋敷に忍び込んで、ハルちゃんにノートを届けて、ベーゼの印象を悪くしようと思ってたんだ。でもノートを無くしちゃったし、今の今まで忘れてたんだよ」

ベーゼから解放され、ポポタマスは疲れた様子でソファに座った。ベーゼはハルをポポタマスから遠ざけた。

ハル「ポポ君って、ベーゼのことを結構前から知ってたんだね。

…ベーゼ、体洗うとき、膝から洗うの?」

ベーゼ「わ、わかりません…ッ…そんなこと、意識したことねぇから、わからねぇよ…。」

ソクミタ「おふたりの正体が口裂け男であることは、公にはなっていないが調査済みだ。

…だが、揚げ足をとるつもりはない。今のあなたたちは協力し合っている。そして、人々を助ける探偵として働いている。心を入れ替え、努力していることを理解している。

だから、力を貸してほしいんだ。些細な情報でもいい。知っていることがあるだろう?教えてくれないか。」

ハル「…地下室の機械を操作するための、パスコードがあれば、研究をとめられるの?でも、それは知らないなぁ。

お父さんは、ベーゼの内臓で魔法薬を作ろうとしていたよ。私はそれしか、本当に知らない。

研究所がまだ残っているなんて、絶対だめ。怪異は実験材料なんかじゃない。ベーゼみたいな優しい怪異も、怖くて悪い怪異もいる…だから私は、怪異も私たちと同じ、人間だと思ってる。特別な力を持つ人を、守りたいよ。

だから、私、ソクミタさんに協力したいな」

ベーゼ「そうだったのか、お父様は俺を、そのために育てていたのか…。でも、ハルお嬢様にそう言っていただけて、俺は幸せ者だな。」

ポポタマス「…このノート、ゴミ箱から見つかったの?マジ?ノートのせいで、ベーゼが口裂け男だとか、僕の電話番号とか色々知られて、調べられちゃったのかな。

協力するって言ってもなぁ…。何も出来ないよ。

僕たち、勝手に研究対象にされて狙われていただけで、研究所との関わりはないから、マジで何も知らないし。」

ソクミタ「ポポタマスさん、隠しても無駄だ」

ソクミタはノートの裏表紙から名刺を剥がし、ポポタマスに見せた。

ソクミタ「これは、名刺にみせかけた、偽造セキュリティカードだ。綾小路研究所の入口にかざせば、認証されて扉が開く、通行証のようなものだ。詳しく聞かせてもらおうか」

ポポタマス「あ〜、それもバレちゃってる感じか。こ、困ったな〜♪

…そのセキュリティカードは僕が作ったもので間違いないよ。ソクミタさんはこのカードがあったから、研究所の中に入って、潜入調査することが出来たのか。」

ソクミタ「ああ、そうだ。潜入調査するために、利用させてもらった。」

ポポタマス「ふーん、わかったよ

それなら〜…

…協力できないね!!ばーか☆

ポポタマスは普段より大きな声でそう言った。マスクを脱ぎ捨てて、ソクミタにべ〜、と舌を出して驚かせた。ソクミタは目を丸くして、一歩後ろにさがった。

その後もポポタマスはイライラした様子で、ベーゼのマスクも取り外し、床に投げ捨てた。ベーゼは慌てて、ポケットから新しいマスクをとりだし、身につけた。しかしソクミタに顔を見られてしまった。恐ろしい顔を見たソクミタは、ビクッとしてもう一歩後ろにさがった。

ポポタマス「口裂け男に食われたくなかったら、今話したことは全部忘れて、今すぐ帰れよ!ばーかばーかばーかばーか、ハルちゃんに手出しはさせないもんね」

ベーゼ「ポポ、何やってるんだ!大人しく情報提供しろよ。そんな研究所、無くなったほうがいいだろうが。お前ひとりなら構わないが、俺たちまで怪しまれて、警察署に連れていかれたらどうするんだ!?」

ハル「ポポ君、お父さんや研究所に手を貸していたわけじゃないよね?正直に話した方がいいと思うよ。偽造カードなんてあったら、疑われちゃうよ〜?」

ポポタマス「やだね。こんなやつ、信用できない。

もう〜!ハルちゃん、こいつから離れて!ベーゼも関わらない方がいいよ。

だって、こいつ、警察官じゃないよ!

ソクミタ「…な、何が言いたいんだ。わたしは警察官だ。今は単独行動しているが、調査が進めば部下の力も借りられる。現段階では危険も多いから、ひとりの方が楽なんだ。

ロウソクを捕まえた後、彼は亡くなってしまったそうだが…。それで裏社会の闇が晴れるわけではない。

綾小路一族の真実を解き明かし、その闇を解体しなければならない。ロウソクのような悪人を生んだ裏社会を正し、守るために」

ポポタマス「もういいって!準備不足な上に、嘘つくのも下手な奴なんて見てられないよ。

本当は何がしたいの?僕が持ってる情報がほしいの?ベーゼの怪異の力がほしいの?

いい?この名刺のフリをした偽造のセキュリティカードは、僕が一生懸命作ったものだけど、実際には使えないんだよ。質が悪いからね!笑

使える偽造セキュリティカードは別にある。ほら、これだよ。」

ポポタマスはスマホケースの中から、一枚のカードをとりだし、ソクミタに見せた。

ポポタマス「このカードじゃなきゃ、研究所には入れない。

僕が作った、名刺デザインの偽造セキュリティカードじゃ、潜入調査なんてできないはずなんだよ。改造した形跡もないし、ペラペラだし、僕が作ったときのままだし…使いものにならないよ。

このカードでも一応、扉は開けられるみたいだけど、偽物だと検知されて、警報が鳴り響くはず。侵入している事がバレちゃうはずなんだ。

でも、ソクミタさんは地下室の機械を操作するための、パスコードが知りたいって言ってた…マジで、どうやって中を調べたの?どうやって生きて帰って来られたの?

機械を操作するための、パスコードって何!?

怪しい怪しい。関わりたくないね」

ソクミタ「そ、そ…そう言われても、このカードで、中に入ることができてしまったんだ!地下室の機械を調べたかったが、パスコードが必要で、何も出来なかった。

パスコードを教えてほしい、知っているなら…!頼む、頼む!」

ポポタマス「…さあね。知らないよ。そんなヤバい情報、もし知っていたら、過去の僕なら売って金に変えてるし、今の僕なら胸にしまうか、警察に知らせてる。

このノートはロウソクが逮捕される直前、僕がホストとして働いていた頃に作ったんだ。まだナツカも生きていた頃だよ。

綾小路研究所の存在は、裏社会の情報屋なら皆知っている情報だった。ハルちゃんの執事が本物の口裂け男なんじゃないかって噂もね。僕も知っていたよ。でも、真実を確かめるために、屋敷や研究所、べーゼを調べに行った人たちは、誰も帰ってこなかった。だから、皆ビビっていたし、その情報は高値で取引されていた。

貯金を頑張っていた僕はそこに目をつけた。

僕はナツカの屋敷に侵入するのが得意だったから、カメラや盗聴器を仕掛けて頑張ったんだよ。研究所に侵入するのは、僕の力じゃ無理だと思って、やらなかったけどね。

ベーゼはずっと、綾小路研究所の研究対象だったんだ。ベーゼが研究所にさらわれて、痛い目に合わされたりするのは、ドンマイって感じだけど…仲良しのベーゼを助けるために、ハルちゃんがナツカに黙って研究所に忍び込もうとしたら最悪だよね。ケガしちゃうかもしれないし。

でもハルちゃんは綾小路家で育った、最強の女の子だからね。セキュリティカードさえあれば、正面入口から研究所に入れるし、ナツカの部下のフリをすれば、厳重な警備も抜けられるし…絶対大丈夫♪って思ったんだ。

それで、僕はハルちゃんのためにこの名刺デザインのセキュリティカードを作った。

ベーゼがさらわれたら、ハルちゃんにこっそりカードをプレゼント♡しようと思っていた。名刺なら、誰にも怪しまれないでしょ♪

ついでにノートも用意した。ベーゼの印象をダウンさせて、僕がハルちゃんの手助けをして、印象アップする作戦♪

…でも、このノートもカードも必要なくなった。理由はシンプル。ベーゼが研究所にさらわれたり、ハルちゃんがナツカの面倒事に巻き込まれたりする前に、僕がハルちゃんと結婚すればいいということに気が付いたんだ!

だから、研究所やベーゼの情報、頑張って作った偽造セキュリティカードはお金(ハネムーン費用)に変えることにした。

仕事帰り。情報を売る相手を探すために、路地裏を散歩していた。その時、知らない男性に声をかけられたんだ。

顔を見てびっくりした。指名手配されている切り裂き魔、激ヤバ悪人「ロウソク」だったんだ。

ロウソク「おいお前…」

危険だから関わらない方がいい、直ぐに逃げた方がいいとは思ったけど、好奇心には勝てなかった。

ポポタマス「な、なに?」

ロウソク「落としたぞ、ほらよ」

ロウソクは僕が落とした、ホストクラブの名刺を拾ってくれただけだった。

ロウソク「そうだ。そこの曲がり角にあるコンビニの、ドーナツを買ってきてくれよ。ドーナツが食いたくてたまらねぇんだ、ドーナツ…ドーナツ…」

ポポタマス「え〜?まぁいいか。何味?」

ロウソク「美味そうなドーナツなら、なんでもいい」

僕はコンビニで、「あんドーナツ」を買って、ロウソクの所へ戻ってきた。(ドーナツ生地であんこを包み、油で揚げたもの、丸い形)

ロウソク「これはドーナツじゃねぇよ!穴が空いてねぇだろ。あんこはそんなに好きじゃないんだ…まぁいい。腹減ってるし、食うか。」もぐもぐ

ポポタマス「え〜、あんドーナツはドーナツだよ。名前にドーナツって入ってるし、穴がなくてもドーナツはドーナツなんだよ。ロウソクはドーナツを半分に割ったら、ドーナツじゃなくなると思ってるの?」

ロウソクはニヤリと笑った。僕はヤバっと思った…大好きなあんドーナツの話をするのに夢中になって、「ロウソク」という名前を口にしてしまった。

ロウソク「お前、俺の正体を知っているのか。知っているなら、尚更関わらない方がいいと思うぜ?ポポタマス」

ポポタマス「僕の名前知ってるの!?」

ロウソク「落とした名刺を見たからな。

まあいい、お前の名前なんて興味無い。それよりもドーナツを半分に割ったら、ドーナツじゃなくなる…とはどういう意味だ?そちらの方が気になるな。」

ポポタマス「そのままの意味だよ。ドーナツを半分に割ったら穴がなくなるじゃん?それはドーナツなのかって話」

ロウソク「…半分に割ってもドーナツはドーナツだろ」

ポポタマス「じゃあ、あんドーナツに指で穴あけたら?それはドーナツ?」

ロウソク「あんドーナツはドーナツじゃねぇよ。あんこは好きじゃねぇんだ。俺は認めねぇ」

ポポタマス「じゃあ、あんこを取り除いたあんドーナツのことはどう思う?指で穴をあけたら、それはドーナツ?」

ロウソク「あんこ入ってねぇならドーナ…いや、でも元々はあんドーナツなんだよな。ああ、わからなくなってきた。変な話をしやがって。この後もあんドーナツのことを考えつづけてしまいそうだ…。まあいい、暇つぶしにはなるか、ははは」

あんドーナツを食べ終わったロウソクは、「ありがとよ」と呟いた。ロウソクの瞳はユラユラ揺れていて、視線が合わない感じが不気味だった…僕じゃない、違う誰かと話しているみたいな感じだった。

立ち去ろうとした僕に、ロウソクが「それはなんだ」と声をかけた。僕が持っていたノートを指さしていた。ヤバ!

ポポタマス「えっと〜」

ロウソク「なんだ、俺には見せられない代物なのか?見せてみろよ」

ロウソクはヒョイッと僕からノートを取り上げた。

ロウソク「暗くて読めねぇな、スマホで照らせよ」

ポポタマス「仕方ないなぁ」

読み終えたロウソクは、つまらなさそうにしていた。

ロウソク「こんなノート、暇つぶしにもならねぇ。ドーナツの話の方が面白い。」

ポポタマス「オカルトとか興味ないタイプ?」

ロウソク「どうだろうな。だが…オカルトマンガは好きだったな。空想の物語は面白いと思う。現実味があるものはつまらないが。

俺はこのノートに書かれていることは全て知っているんだ。だから、面白くないと言ったんだ。

俺はナツカに関わる情報は誰よりも持っている。あんなジジイ、もう関わりたくないし、どうでもいいけどよ。

…口裂け男はナツカの屋敷で、毎日楽しく暮らしているそうじゃないか。あんな場所で育ったくせに、何も知らずにしねるなんて、羨ましいことだな、ははは。」

でもロウソクは最後のページに貼りつけていた名刺の形の偽造セキュリティカードを見たとき、目の色をキラリと変えたんだ。

ロウソク「…コレ、ただの名刺じゃねぇな。お前が作ったのか?質が悪いな。これではナツカは騙せねえ。

ナツカは情報技術に詳しいんだ。それはもう、トップレベルさ。研究所でこのカードを使えば、入口は開くかもしれないが、異常が検知されてしまうだろうな。警報が鳴り響いて、…あの世行きだ。」

ポポタマス「マジ?頑張って作ったんだけどなぁ。使わずに済んでよかった。これ、売れると思う?」

ロウソク「高値では売れないだろうな。裏社会の下っぱや、情報技術に乏しい警察官は騙せるかもしれないが…。」

ロウソクはそう言いながら、ポケットに手を入れて、何かを探しはじめた。汚いゴミ(口から出したガム、髪を結ぶためのヨレヨレのゴム、鼻をかんだ後のティッシュなど)と一緒に、カードを数枚取り出した。

ロウソク「このカードをやろう。これは上質な偽造セキュリティカードだ。これなら、研究所で、実際に使えるだろう。

俺はナツカに関する鍵は全て持っていた…作ったのはときめきだが。これは、彼女にしか作れない、特別な代物さ。俺は使わなかったし、これから使う予定もない。

遠慮するなよ、ドーナツの礼だ。

…怪異、人知を超えた力を持つ者は珍しい。だから、強くて特別な存在のように思うかもしれない。だが、実際はそうでもない。俺は仕事で、霊能力者の悪人と戦ったことがある。名前くらいは聞いたことがあるだろう?…「ジュエット」。あいつは俺が×した。少し手間はかかったが。

霊力を使って戦うことができたとしても、センスがないやつは、俺のようなただの人間に負けるんだ。

特殊能力なんて、銃やナイフと同じ、武器のひとつにすぎない。肝が座っていないやつには、使いこなせないものなんだ。

…あいつらも人間と変わらない。お前も裏社会で生きるなら、そのことを覚えとおくといい」

ポポタマス「カードくれるの?ラッキー!ありがと。

…武器のひとつ、か。でもさ、もしもロウソクが特殊能力を持ってたら、裏社会の誰よりも強い存在になれると思うけど。特殊能力、欲しくないの?」

ロウソク「俺は既に、特殊能力よりも輝かしいものを持っているから、必要ないな」

ポポタマス「え?何!?」

ロウソク「美貌(びぼう)だ。」

…。ロウソクの顔を見る…た、確かにちょっとかっこいい?でも僕は、僕の方がイケメンだと思うよ、と言いたかったけど、身を守るために言わなかった。

ロウソク「このノート、貰っても構わないか?紙が欲しかったんだ。」

ポポタマス「いいよ。どうせ高くは売れないだろうし。紙で何をするの?」

ロウソク「愛おしい男の似顔絵でも書こうか。先ほどは悪かったな、こんなノート、暇つぶしにもならないと言って。暇つぶしにはなりそうだ。」

ロウソクはポケットから短い鉛筆を取り出して、ノートの一番最後のページに何かを描き始めた。僕は飽きたから、その場を後にした。

その後ロウソクは逮捕されて、あの世へと旅立った。

ロウソクから貰ったカードはすごくレアだけど、僕が持っていることがバレたら、ロウソク絡みのヤバい事件に巻き込まれてしまう気がした。だからずっと隠し持っていたんだ。

…ソクミタさんも、誰も知らなかったと思うけど、僕、ロウソクに会ったことがあったんだよ♪」

ポポタマスはソクミタからノートを奪い、一番最後のページを開いてみせた。しかし、そのページは破り取られている。

ポポタマス「ロウソクはこのページに何を書いていたのかな。破りとったのは、ロウソクか、ソクミタさんか。僕はソクミタさんが破ったと思う。僕らには見せたくない内容だったから?」

ベーゼ「ノートをゴミ箱から回収して、警察が調べたのに、ポポタマス製の使えない偽造カードだということを見破れなかったのか?しかもそれを使って、ソクミタさんひとりで潜入調査したのか…。なんか変だな。

それにソクミタさんが、今、俺らを警察署に連れていかない理由もわからねぇ。」

ハル「ソクミタさん、何か隠してるの?」

ソクミタは困った顔で、大きなため息をついた。それから頭を抱えて、「もういい。すまない」と呟いた。

ソクミタ「嘘をつくのは苦手なんだ。警察じゃないなんて言われて、動揺してしまった。

警察じゃない。その通りだ…わたしは今、誰の力も借りずに、個人的に綾小路家の研究所について調べているんだ。警察組織にも秘密にして、勝手に行動しているんだ。

このノートをゴミ箱で見つけたという話は嘘だ。ロウソクが倒れて運ばれたと聞き、独房に駆けつけた時に、落ちていたのを拾ったんだ。

ロウソクが書いた最後のページは、あなた達にも、誰にも見せたくなくて、わたしが破りとって保管している。

最後のページはあいつの遺書だったんだ。あいつが体験した過去の出来事と本心が書かれていた。

……

犯した罪と過ち、ときめきと子どもたちを守れなかった、愛しきれなかった後悔と悲しみ。

……

(『もう正義なんて信用できねぇ、大嫌いだ。ときめきの正義には、俺も家族も含まれていなかった。ソクミタはいつも身を投げ出して、俺を追ってくるが、どうせ、ソクミタの正義もろくなものじゃないだろう。そうに違いない。

俺は自分しか信じない。善も悪も、正義も俺が決める。…だが、今は何も選べないんだ。何も、決めたくないと思うんだ。

俺は奪ってきた。これ以上奪いたくない。でもどうすればいいのかわからない。過去は変えられず、未来は続いていく。のこされた者は、これからも悲しみ続ける。俺が死ねば彼らは少しだけ楽になるか?だが、それで解決するような、単純な問題じゃないだろう。死ぬだけで解決するなら、俺は楽だが。

何ものこせやしない。俺はどこで間違えたのか。人生をさかのぼっても、さかのぼっても、わからない。

はじめから間違えていたのだろう。生まれた時から間違えていたのだろう。

だから、俺は生まれてこなければよかったんだ。

そうすれば、本物の愛情を知れたのだろうか。

ソクミタなら、言ってくれるだろうか。

生きている意味がない人間なんていないって。

生まれてこなきゃよかったなんて、二度と口にするなって。

ソクミタなら、言ってくれるだろうか。

ソクミタなら、ソクミタ、ソクミタ、

ソクミタ…』)

……

ロウソクの字は意外と綺麗だった。それを読み終えて、わたしは悲しくなったんだ。

…ああ、言ってやるさ、言ってやりたい。生きている意味がない人間なんていないと言ってやりたい。

今すぐ会って、伝えたい。そう思った。

わたしはロウソクを捕まえたが、これで終わりだとは思っていなかった。わたしは悪人を捕まえるためだけに働いているのではない。

わたしは苦しんでいる者の心に寄り添い、救い、願いを叶えるために働いているのだ。

わたしはロウソクを見捨てない。

ロウソク。受け止めることを怖がるな。誠意を持って償うんだ。培ってきた知識と技術を、この星の未来のために使うんだ。

そうすれば見えてくるはずだ。お前の中にある、本物の愛情が。見えてくるはずなんだ。

わたしは上司にロウソクの居場所を聞いた。どの病院に運ばれたのか?病状は?

孤独ではないと伝えなければ、あいつは簡単にしんでしまう気がする。…しなせやしない。

しかし…

警察官A「ロウソクは体調を崩して倒れた。顔が真っ白だった…あれは、ただの病気じゃない。怪異や霊能力、呪いの類だろう。過去に、霊能力を扱える者に、呪いを植えられていたのかもな。

だから、花飾長柑の判断で、綾小路研究所に送られたよ。」

ソクミタ「病院ではなく?わたしたちが調査している、怪しい研究施設か。その呪いを解くためか?」

警察官A「いや、違う。実験台にするためだ。

ロウソクは既にしんだことにされて、仕事がすすめられているし、すぐに報道もされるはずだ。

ロウソクを解剖してその呪いを調べれば、人間の能力を一時的に向上させる、特別な薬品…魔法薬を作ることができるかもしれないそうだ。

その魔法薬は警察組織が回収する。…研究所を取り締まるのはその後だ。」

ソクミタ「実験!?花飾長柑の判断は間違っている!直接話をしてくる、やめさせなければ…。」

警察官A「ソクミタ、やめろ、よく考えるんだ。魔法薬があれば、警察組織は強くなれるんだ。もっと多くの悪人を取り締まることができるんだ。人々を守りたい、ひとりでも多く守りたい。未来のために、必要な犠牲なんだよ。

ロウソクの脳を取り出すことができれば、記憶を分析できるかもしれないらしい…。調査に役立つはずだ。あいつが自白するとは思えないし、俺は花飾長柑の考えは間違っていないと思う。」

ソクミタ「わたしは間違っていると思う!命の重さは同じなんだ。それがわからないやつは、誰の命も救えない。」

その時。花飾長柑がやってきた。ソクミタの肩にポンと手を起き、話し始めた。

花飾長柑「…ソクミタ、よくやったな。粘り強く戦い、ロウソクを捕らえた。ソクミタは誰よりも優秀な警察官だ。評価する。

だから、あとは任せてくれ。

ロウソクは倒れたが、これも運命だな。公にできることではないが、彼の命が未来を守ることに繋がるのだ。これが悪人の末路。これから彼は罪を償うのだ。

人間の能力を一時的に向上させる魔法薬は、ソクミタが使うべきだと思っている。ソクミタは精神も肉体も強いから、その効果を誰よりも生かせるだろう。

怪我をしても何度でも立ち上がり、立ち向かう…皆、尊敬しているぞ。特殊能力を手に入れた後も、人々のために働いてほしい。自分の体を大切にすることも忘れるなよ。」

ソクミタ「…そ、そんな力は必要ない!公にできないことはしてはいけないんだ。わたしはしたくない。わたしたちは、客観的に見て、模範的な存在であるべきだ。こんなことをしてしまえば、警察組織そのものが腐ってしまう。」

花飾長柑「模範的な存在?はぁ…。ふふふ、それは、お前のことなのか?ソクミタ。

お前があと一日早く、ロウソクを捕まえることが出来ていれば、その一日で、別の悪人を捕まえて、救えなかった命を救うことができたかもしれないのだぞ。

その一日を求め続けることが、我々の仕事だ。手段を選ぶなよ。

賢いソクミタなら、わかるだろう?」

ソクミタ「わ、わからない、わかりたくない。やはり、綾小路ナツカと花飾長柑は、裏社会で悪事を…」その時、花飾長柑の眼光がギラリと突き刺さり、最後まで話せなかった。

花飾長柑「…ん?聞こえなかったな。ソクミタ、私や上司に隠れて、何か調べているのか?調査内容は全て報告しろよ。

…ほら、早く仕事に戻れ。冷静になれば、お前にもわかるはずだ。」

ソクミタ「…わかりました」

お手洗いで顔を洗い、ひとり考えた。鏡にうつる自分を見つめた。わたしは間違えているのか、正しいのか、わからなくなって涙があふれた。手が震えていた。だが、迷いはなかった。

わたしは服の中に隠していたノートを取り出した。わたしはこのノートを花飾長柑に提出しなかった…悪用される気がしたからだ。その行動がわたしの答えだった。

生きている意味がない人間なんていない。そのことを伝えるために、わたしは警察官になったんだ。

花飾長柑が守らないものを、わたしが守ろう。そうすれば、ひとりでも多く、一日でも早く、守れるはずだ。

ロウソクを助けよう。

研究所に侵入するにはセキュリティカードが必要だということが分かった。しかし、そんなものはない。

手がかりを求めて、ノートを調べると、貼り付けられていた名刺が、偽造されたセキュリティカードだとわかった。ロウソクが持っていたものだから、問題なく使えると思い込んだ。

わたしはそれを握りしめてひとりで研究所に向かった。ナツカの部下になりすまして、忍び込んだ。

だが、セキュリティカードは使いものにならなかった。

扉は開いたが、警報が鳴り響いて、直ぐに見つかってしまったんだ。体を滑りこませて中に入り、研究員から逃げた。廃病院を駆け回って、ロウソクを探した。

センサーが張り巡らされていて、感知されると、撃ち抜かれるんだ。研究員は先回りし、特殊な武器を使って道を塞いだ。

走るしかなかった。研究員をふりきり、走りきった。そして、綾小路研究所の中枢、地下の実験室にたどり着いた。

鉄格子の向こう側に鉄製のベッドがあった。そこにロウソクが横たわっていた。手錠をつけられていたが、その鎖はわたしの手が届くところにある機械に繋がっていた。

その機械にパスコードを入力して操作することができれば手錠を外せる、鉄格子も開けられる仕組みだった。

だが、パスコードがわからない…。ロウソクは目の前にいるというのに、何もできない。

ソクミタ「おい、おい、起きろ!起きろ、ロウソク!!手前(てめえ)、寝てる場合じゃねえぞ…!!」

鉄格子ごしに叫ぶことしかできなかった。結局わたしは何も成し遂げられず、命からがら脱出した。

セキュリティカードを使って、スマートにロウソクを助けだすつもりだったのに、派手に行動してしまった。

弾を何発くらっても、押し潰されても、ちぎられても、真っ二つになっても、立ち上がって走り続けるから…研究所の奴らには、わたしが人間ではないことは知られてしまった。

警察組織は研究所と内通しているから、わたしの正体はすぐに知られてしまうだろう。大失敗だった。

廃病院から抜け出し、走り続けて、裏社会の路地裏に逃げ込んだ。ノートを取り出すと穴だらけになっていたから、不本意ながら「自然の力」で修復した。

ーその後、綾小路家が没落。花飾長柑も亡くなってしまったー

ニュースを見て知った。悪行が次々と解明されて、社会は大混乱していた。わたしは心配でたまらなくなり、じっとしていられず、職場にかけつけたが…

警察官A「戻ってきたか、ソクミタ。…さぁ捕らえろ!!」

銃を持った仲間たちに囲まれた。

警察官A「ソクミタは花飾長柑と警察組織を裏切り、ロウソクに力を貸そうとしている「悪人」だ。さぁ、人ならざる力とやらをみせてもらおうか。

ははは!お前も研究対象にぴったりだから、探していたんだよ!警察組織のために、魔法薬の材料となる…それがお前の運命だ!!」

ソクミタ「やめろ、くっ、逃げるしかない」

何とか逃げたが、自宅も見張られていて、帰るところなんてなかった。

全てを公表しようとも思ったが、警察組織に先回りされていて、わたしの…悪人の言葉なんて誰も聞いてくれなかった。

その後も研究所の中に入ろうと何度も挑戦したが、失敗してばかりだった。

綾小路研究所は、わたしを捕まえて口を塞ぎ、実験材料にするために、日に日にパワーアップしていた。警察組織が力を貸しているのか?

だが、わたしが邪魔をし続けていたおかげで、ロウソクは命を繋がれたまま放置され、眠りつづけていた。

花飾長柑の後任は決まっていないが、おそらくあいつ(警察官A)に決まるだろう…。

警察組織が人知を超えた力を手にすることは悪いことではない。だが、その力を得るために、非人道的な実験施設に協力し、命を犠牲にするなんて。わたしは認めない!

ひとりで警察組織と裏社会の情報を集めたが、追いつかない、…非力な自分。一ヶ月、二ヶ月、半年…月日だけが経つ。辛くてたまらなかった。

名刺やノートをよく調べると、ベーゼさん、ポポタマスさん、ハルさんの存在にたどり着いた。パスコードを知っているかもしれないと思って、すがるような思いで聞きに来たんだ。

嘘をついてすまない…。だが、はじめから本当のことを話しても、相手にしてもらえないと思ったんだ。

力を貸してほしい、ロウソクはまだ生きているんだ!!」

強い表情をしながらもソクミタは涙を浮かべていた。ハルはソクミタにハンカチを差し出した。

ハル「泣かないで。大丈夫!皆でがんばれば、なんとかなるよ。困っている人は放っておけない。私は探偵として、ソクミタさんに力を貸したい。

ポポ君もベーゼも協力してくれるよね?頼りにしてるよ」

ポポタマス「ハルちゃんに頼られるなんて、最高!ハルちゃんのためなら、どんなこともやるよ!」

ベーゼ「ハルお嬢様。俺にできることがあれば、どんなこともやりますので!」

ソクミタ「皆、ありがとう…。

わたしは不死身なんだ。だが、それだけだ。できる限りのことはするが、身体能力は人間と変わらない。わたしひとりの力では、どうにもならなかったんだ。」

ベーゼ「不死身って、ソクミタさんは何者なんだ?」

ソクミタ「わたしの正体は、御約束山(おやくそくやま)」。世の中の役に立ちたいと思って、人の姿をして、紛れて行動しているんだ。わたしに手を合わせる者たちの力になりたい、鎮座するだけではなく行動したいと思ったのがきっかけだった。

今はソクミタという名前だが、何百年も存在するのは不自然だ。ソクミタとして存在できるのは、あと70年くらいか。その後も別人として、もう一度人間になって生きたいと思っている。人間のことが好きだからな。

だが正直、怪異は怖い。顔が怖いやつが多いから…わたしはこう見えて、結構怖がりなんだ。だが怪異のことも好きだ、優しい者もたくさんいる。だから、気にしないでくれ」

ポポタマス「え?山が喋ってるってこと!?」

ソクミタ「少し違うが…まぁ、その認識でもいい」

ハル「御約束山のお社、いい所だよね♪初日の出を見にいったことがあるよ。」

ベーゼ「お祭りの時期は屋台もあって、輪投げをしたり綿菓子を買ったりして、楽しみましたよね。」

ソクミタは照れくさそうにしている。

ハル「どうやってロウソクさんを助けるかだよね…パスコードを調べるよりも、機械そのものを壊しちゃったほうが簡単だと思う。どうかな?」

ポポタマス「ベーゼなら、怪異パワーで壊せるだろうね。」

ベーゼ「壊せるとは思うが、俺は不死身じゃない。ソクミタさんと違って、銃弾をくらったらしんでしまうんだ。研究所の中でしぬなんて、最悪だ。」

ポポタマス「もしかして、ビビってる〜?」

ベーゼ「俺がしんだら、ハルお嬢様を、ポポという不審者から守れなくなるから心配しているだけだ!」

ソクミタ「…わたしの体でベーゼさんを守ろうか?不死身だから、盾にはなれる」

ハルが「それはダメだよ」とソクミタの腕を掴んだ。

ハル「自分の体を粗末に扱っちゃダメだよ。私は戦うのは得意なんだ。皆の力を合わせれば、きっと大丈夫。」

ソクミタ「…そうだな、ありがとう、ハルさん。自己犠牲は良くないよな」

ポポタマス「研究所に潜入して、ミニ爆弾を仕掛けて、爆発させて、混乱させるのはどう?研究員は逃げ出すし、色々壊れて研究も続けられなくなるだろうね。その隙にロウソクを助けるんだ。

それから研究所のコンピュータに接続して情報を盗もう!写真も撮ろう。警察組織と研究所の闇の繋がりを証明する証拠を集めるんだ。証拠はきっと、ソクミタさんの武器になる。

あとはソクミタさんが警察官としてこの事件を調査して、研究所なんて解体して、全員捕まえて改心させればいい♪

ソクミタさんを信じて待っている警察官もたくさんいるはず。まだ間に合うよ。」

ソクミタ「ありがとう…、わたしは諦めない。しかし、爆弾なんてどうやって仕掛けるんだ?情報を盗む方法も考えなければ。」

ハル「ポポ君に任せたら大丈夫だよ。

ポポ君、ミニ爆弾とドローン、持ってる?作れる?リモコンで操作して、研究所の中にドローンを飛ばして、爆弾を運んで仕掛けて、爆発させるんだ!

ポポ君がセキュリティカードを持っているから、研究室内に侵入するのは、難しくないはず!ドローンと爆弾を持ち込んじゃおう。その仕事は私がやりたい♪

ポポ君は外で待機して、リモコンを操作してね。

爆発して混乱している研究所にベーゼさんとソクミタさんが突入!ロウソクさんを救出して。

ポポ君は後から侵入して、コンピュータから証拠を回収してね。

作戦はこれで決まり♪じゃあ、準備して研究所に突入しよう!」

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