ゆずはとふうが、さくら、オキ、ユニタスは、宇宙船を完成させて、早速、時空のトンネルに浮かべてみた。安定して飛んでいることを確認し、全員で入口から、乗り込んだ。
ゆずはは乗る直前に振り返り、霊魔法を使って、霊界を小さな宝石の中に入れて、指輪の形にして身につけた。これで霊界を持ち運べる。いつでも取り出せる。
ゆずは「ねぇ…こ…これ、オレとふうがの結婚指輪ってことにしようよ///」
ふうが「いいぞ。それなら、おれの指輪も欲しい!」
ゆずはは指輪をふたつ作り、ふうがの指にはめた。それぞれの指輪についている宝石には、霊界が半分ずつ入っている。
宇宙船の外は時空のトンネル特有の嵐が吹き荒れているが、宇宙船の中(室内)はとても静かで快適だ。ふかふかの椅子に座り、シートベルトを締めた。
さくら「やっと帰れる…。早くからすに会いてぇよ」
オキ「ことお君に会いたい。きっとあと少しだね。」
ユニタス「タコダイオウも社長も、皆が僕たちを待っていますよ。ふふ。」
ふうが「ユニタス、星についたら一緒に遊ぼうな。
よーし、おれが運転するぞ!」
ふうがはひし形の帽子をかぶり直した。やる気満々の様子だ。
ハンドルを握ったふうがの足に、ゆずはが泣きながらしがみついた。ゆずはの顔は汗と涙でぐちゃぐちゃだ。
ゆずは「1500年くらい閉じこもってたのに、いきなり外に出るなんてやっぱりむりだよぉ、やぁぁ、ぅ、ひっぐ、ぁぁあ…ぁぁ…あぶ…ぇ」
さくら「また泣いてるのかよ!だ、大丈夫だって、ゆずは先輩。」
ゆずは「ふうがに何かあったら…オレ…ひっぐ、ぁぁあ…ぁぁ…」
さくらはゆずはをふうがから引き離し、椅子に座らせて、シートベルトを締めさせた。
さくら「いい指輪じゃねぇか♪この指輪とふうがさんを信じろよ」
指輪を褒められて、ゆずはは泣き止み、幸せそうにニヤニヤし始めた。
ゆずは「そう?う、うん…そうだね、オレ、ふうがと結婚したんだ♡」
さくら「俺もからすとお揃いの指輪、つけたいな…。」
オキ「僕もつけてみたいな。」
ふうが「ゆずは、元気になったか?
さぁ、いくぞ!出発だ〜!」
ふうがはボタンを押し、レバーを引いて、ハンドルを動かし、宇宙船を発進させた。宇宙船は、オキたちが苦しい思いをして飛んだあの時空のトンネルを、スイスイと進んでいく。
しかし…
ガクンッ!!!と大きく揺れた。
そして、さくらの目の前に、銀色の刃がシュッと現れた。
天井から薙刀のようなものが突き刺さって、飛び出てきたのだ。ぎりぎり当たらなかったさくらは、冷や汗をかいた。
さくら「ギャッ〜!!」
みんな慌ててシートベルトを外して立ち上がり、椅子の下に隠れた。
オキ「宇宙船の上に、敵が乗っているのかな?天井、丈夫に作ったのにね。」
グサッグサッと天井からは繰り返し刃が飛び出ている。
ユニタス「モグラ叩きのつもりでしょうか…」
さくら「誰だよ、まさかイフじゃねぇよな?イフは魔法が得意だろうし、こんなやり方しないよな?…皆、心配するなよ、大丈夫だ。宇宙船には、色んな機能を搭載しただろ。追い払ってやろうぜ!」
さくらが隙を見て、操縦席にいるふうがの元に駆け寄った。
さくら「確かふうがさんが、敵撃退機能を設計していたよな。外にいる敵を追い払うのに役立ちそうな機能を教えてくれ。やっちまおう!」
ふうが「ああ、まかせろ!色々な機能があるぞ。
宇宙船ごとめちゃくちゃ速いスピードで回転させる機能。
宇宙船の上に飛び乗って来た敵をピンポイントで狙って、マシンガンでめちゃくちゃに撃ちまくる機能。
宇宙船の外にめちゃくちゃ臭いにおいを発する機能。とか!」
さくら「とりあえず全部使っとこうぜ!」
ふうがはみっつのボタンを同時押しした。ピッ!
その瞬間、宇宙船が高速回転しはじめた。
遠心力がぐるんぐるん。皆は壁に叩きつけられて、もみくちゃになった。
ゆずは「うわぁぁぁ!!!!」
ユニタス「痛たたァァッ!!!!」
宇宙船の外側にマシンガンが出現し、敵を狙って撃ちまくる。霊魔法を込めて作った攻撃力抜群の弾がばらまかれて、宇宙船の壁に複数の穴が空いた。弾丸は宇宙船内部にもいくつか入ってきて、オキの鼻先を掠めた。
オキ「ヒャッ!!」
穴からは、めちゃくちゃ臭いにおいも入ってくる。
さくら「ウッ、なんだこのにおい…!?誰かオナラしたのか!?!?」
ユニタス「ロボットとオバケはオナラしませんよッ」
さくら「お、俺じゃねぇよ!」
敵を追い払うための機能のはずなのに…設計ミスだ。オキとユニタスは、我慢できず、嗅覚をオフにした。
さくら「くっせぇ!!アッアッ、あっ、くさい、あアアア!!!」
ふうが「ぁっ、っ……」(ゲロロロロロロ)
ゆずは「はあはあッ、ヤバすぎる…1500年間でいちばんつらいよ…」
ゆずはは歯を食いしばって操縦席に手を伸ばして、なんとかストップボタンを押した。
宇宙船は止まった。しかし天井には大きな穴がいくつもあいている。敵が侵入してくるのは、時間の問題だろう。
ゆずはは霊魔法で穴を塞ぐために、手を伸ばしたが…強い吐き気に襲われて、気を失ってしまった。
ゆずはは、においに敏感で特に酔いやすい体質だった。霊界の化身の知られざる弱点。酔い止めは必須だった。
ふうが「皆、大丈夫か!起きろー!」
オキとユニタスも、高速回転した影響で気を失っていた。今起きているのは、ふうがとさくらだけだ。
さくら「やべぇッ。こんなにくさいのに、敵、まだ宇宙船の上にいるみたいだ!」
天井の穴が攻撃されて、広げられて…その穴からドサッと何かが落ちてきた。敵が入ってきたのだ。
さくら「誰だこいつ!?」
ふうが「こいつ…
イフだ!!!
顔も、服装も、霊界に来た時と同じものだ、間違いない。
多分、ゆずはとおれが時空のトンネルに出たから、見失う前に捕まえに来たんだッ!」
しかしイフも目をぐるぐる回しており力尽きている。数秒後、ピクリと動いて、目を覚ましてしまった。持っていた薙刀を杖代わりにして体を支えて、ゆっくりと立ち上がる。
さくら「ど、どうすんだよ」
ふうが「…。」
ふうがは何か作戦を思いついたようで、ゆずはの服を掴んでひっぱりながら、こっそりと、イフの背中側に移動した。(さくら達はイフの正面側にいる。)
イフ「ゲホッ、オェ…うっぷ、こんな、俗悪な機能を搭載したのは誰ですか。本当に悪趣味ですね。はぁ。
…ふふふ、それにしても本当に馬鹿な子。
霊界の中にいれば安全だったのに、わざわざ時空のトンネルに出てくるなんて。
この宇宙船を破壊してしまえば、ゆずはもふうがも時空のトンネルに投げ出されて消滅する。
…ああよかった。アナタたちの頭が悪くてよかった。おかげで、心配事がひとつ減りましたよ。」
イフが右手をかかげると、宇宙船に火がついて、少しずつ燃え始めた。このままでは、宇宙船は崩れて、おちてしまう。
さくら「ぅう…水をぶちまける機能を搭載していたのに、操縦席に手が届かねぇ。どうしようもねぇのか?」
ふうがはイフの顔をじっと見つめながら、ケロッとした表情で、話しはじめた。
ふうが「なぁ、イフ。」
イフ「ふうが、言いたいことがあるのですか?ゆずはの腰巾着のアナタには、どうせ何もできませんよ。遺言にも興味がないので、話しかけないでください。」
さくら(…最悪な奴だな)
ふうが「イフ、あの臭かったやつはなんだよ?」
イフ「何って…アナタが作った、悪趣味な攻撃でしょう?」
ふうが「違うぞ。そんな変な攻撃しねぇよ。あれはイフのにおいだろ?」
イフ「はぁ?」
イフは呆れた顔をしたが、ふうががあまりにも真剣な表情で…ピュアな瞳で…じっと見つめてくるので、少しだけ不安になってしまった。
最近は、毎日仕事のことばかり考えて過ごしていた。他のことを考える余裕なんてなかった。秘書のカチョーロチロムがいなくなってからは特に忙しくて、シャワーも浴びず、メイクも落とさず、眠りにつく夜も多かった。
カチョーロチロムの体は常に清潔だった。カチョーロチロムは食事をとる必要も風呂に入る必要もない、特別な体をしており、いつも花のような香りを身にまとっていた。
イフの体は丈夫だが、人間に似た仕組みをしている。汗もかく。カチョーロチロムとは違う…。そのことを、長い間、忘れていた様な気がする。
最後にシャワーを浴びたのはいつだったか…最後にこの服を洗ったのはいつだったか…。思い出せない。
…もしかして、ワタクシはくさいのだろうか。
金魚八のメンバーも感じていたのだろうか。しかし、恐ろしいリーダーに対して、においを指摘するなんて…難しいだろう。ワタクシは「スメハラ」をして、組織の仕事効率を下げていたのだろうか。
イフは自分の体をクンクン嗅いで確認したが、自分ではわからない。
なんとなく落ちこんで、シュンとした。
その隙をついて、ふうがは被っていたひし形の帽子を操縦席に投げた。抜群のコントロール力で、帽子はとあるスイッチをポチッと押した。1000年以上、ゆずはとキャッチボールをして遊んでいたことが、役に立った。
ふうがが狙って押したそのスイッチは、宇宙船をパカッと真っ二つにして、切り離すという機能をONにするものだった。
宇宙船は真っ二つに割れて、さくら・オキ・ユニタスと、ふうが・ゆずは・イフは離れ離れになった。
その衝撃で、イフは転んで、椅子に頭をぶつけた。目をぐるぐるまわして気を失っている。
それぞれの機体は、燃えながら、違う方向に進んでおり、ゆっくりと距離を開けていく。
壁がひとつなくなったことで、時空のトンネルの嵐が宇宙船の中にも入ってきた。 しかし、残りの壁のおかげで、身を隠していれば問題なく、体が投げ出される心配はなかった。
操縦席は、さくらたちが乗っている宇宙船にある。ふうがが乗っている宇宙船は操縦不能だ。
ふうががさくらに向かって叫んだ。
ふうが「さくら!何とか操縦して、星に帰るんだ!おれたちは大丈夫。イフを何とかして、ぜったい会いに行くから!約束!」
さくら「わかった、マジで何とかしろよ、待ってるから!」
さくらは走り出し、炎をかき分けて操縦席にしがみついた。ふうがが乗っている方の機体は、時空のトンネルの嵐に流されて、もう見えない。
心を燃やして、ハンドルを握る。
さくら「負けるな、進め!すすんでくれ!!」
さくらが叫ぶと、オキとユニタスも目を覚ました。
重いハンドルを、三人で力を合わせて動かした。
真っ二つになって燃えている、ボロボロの宇宙船は、三人の願いと、星から届いた願いを帯びて、時空のトンネルの流れに逆らい、入口へと進んでいく。
オキ「お願い…!」
ユニタス「あと少し、頑張れ!」
そして、ついに時空のトンネルの入口にたどり着いた。
七色の輝きに包まれて、宇宙船は青色の不死の星の空と宇宙の間の空間に投げ出された。
燃え盛る宇宙船は流星のように輝きながら、地上へ向かって急降下する。
炎の影響で誤作動を起こし、勝手に操縦席のボタンが押されて、様々な機能が作動しはじめた。
高速回転。くさいにおい。マシンガン。
爆音攻撃。毒ガス。火炎放射。爆弾投下。シャボン玉。大量の水。
ライトアップされ、ミュージックもスタート!
もう、操縦どころではない〜!!
ーーー
操縦不能の宇宙船の中、目を覚ましたイフは疲れた様子で立ち上がった。ふうがはゆずはをちらりと見たか、気を失ったままだった。
イフ「クッ、頭が痛い」
イフは痛そうにしながら、自分の頭を触った。手のひらに青色の血がべったりとついたのを見て、「最悪だ」とため息をついた。
ふうが「なぁ、イフ。おれの勘違いだったぞ。お前は全然くさくないから安心しろよ。正直に言うと、お前は結構いいにおいだ。」
ブチ切れたイフは薙刀を掴み、ふうがに襲いかかった。ふうがはそれを避けて、ゆずはを抱きかかえて駆け抜けて、時空のトンネルに生身で飛び降りた。
イフ「…ふん。やっと消えてくれましたか。」
それを見たイフは体の周りに球体のバリアを張り、金魚八本部がある宇宙へと帰って行った。
ふうが「…よし、大成功!」
…ふうがは飛び降りたと見せかけて、宇宙船の裏側に片手で捕まって、張り付いていた。
しかし、時空のトンネルの勢いは想像以上で、指が滑り、離れてしまいそうになる。炎に炙られながら、ふうがは必死にゆずはの名前を呼んだ。ゆずはは起きない。
ふうがは霊力で、K-時空逆転マシーンを作ることにした。背負った状態でポンッと出現させる。しかし、ふうがの力では、完全に同じものは作れなかった。スイッチを入れたが、弱々しい炎しか出なかった。
ふうが「これじゃ、威力が足りない、時空のトンネルは飛べない。」
ふうがは思い切って、自分の膝から下を切り落とした。霊力でオキと同じ脚を作り出して装着し、足からもジェットの炎を吹き出した。
その瞬間、手が滑って、ふうがはゆずはを抱えたまま、時空のトンネルに投げ出された。
ふうがは霊力で自分の腰を改造して、脚をあと二本追加した。ユニタスと同じ仕組みの脚だ。
マントも、ひとまわり大きなK-時空逆転マシーンに変形させた。体のサイズの何倍も大きな、ジェットの炎が吹き出した。
バランスをとりながら、一生懸命飛び続ける。トンネルの入口はまだ遠い、10メートル以上は離れているようにみえる。
数メートル近付いた…しかし、嵐に揉まれて、元の位置に戻されてしまう。それでも諦めずに飛び続ける。
ふうが「おれの霊力じゃ、エネルギー不足なんだ…!」
強い重力が、ふうがとゆずはを出口へと連れていこうと、吹き荒れている。
激しく打ち付けられている様な感覚。体の表面が痛い。感じたことの無いスピードで体力が削られていく。
ふうがは右手でゆずはをしっかり抱えたまま、口で指輪を外した。ぷッと吐き出し、背中のマシーンに入れた。
K-時空逆転マシーンの小さなレバーに手をかけた。グッと力を入れて動かし、最大パワーで動かした。
ー霊界の半分を使うー
燃えて、燃えて。ひまわりの花びらがキラキラ輝きながら吹き出した。
その力のおかげで、ふうがは安定して飛ぶことが出来るようになった。怖いはずなのに、わくわくして、なぜだか笑ってしまう。
ふうが「霊界は広いし、半分くらい使っても大丈夫だろ!ゆずはは嫌だろうけど、寝てるのが悪いんだ。
ゆずはのことは大好きだけど、おれは、正直…新しい友だちのことも大事にしてみたいと思ってる。
おれが顔見せにいかないと、さくらとオキ、ユニタスが心配するだろ?それは嫌だ。約束したから。
おれはもう
おれだけのおれ
ゆずはだけのおれじゃないんだ。
…だから、飛んでやる!!」