【星のはなびら2~対決☆タコタコタコ星~】最終話(14話)・前編

さくらはほっとした様子で、からすの腕に抱きついた。

さくら「罰ゲームさせられそうになった時とか、ことおがやられちまった時は最悪な気分だったけど、今はなんだか嬉しい。ゆずは先輩はまだ来ねぇみたいだし…、美味いものでも食おうぜ。腹減った。」

さくま「むむからテレパシーが届いたぞ。寿司と天ぷらが美味しいとな。とおこと仲が良くなったから、今からふたりでショッピングモールに遊びに行くらしい。我も何か食べたい」

ささめき「そうね。私たちもお寿司食べましょうよ。…ね?からすさん。」

からす「…。」

ささめき「どうしたの?不安そうな顔して。」

からす「…実は、わたしはまだ、安心できてないんだ。」

さくら「からす、心配事があるのか?聞くぜ、どうしたんだよ」

からす「…これから行われる、わたしたちの宇宙の運命を決める金魚八の会議。その結果を聞くまでは、ほっとできない。別世界に避難している青色の星の住民たちを元に戻す気分にもなれない…。お腹はペコペコだが、食欲もわかない。」

さくら「そのことか。大丈夫だと思うぜ?イフとクロサキの様子は生中継されていたんだ。イフがむむと戦って完敗しているところも全部な。威厳も信用もなくなっちまっただろうし、クロサキなら大丈夫だろ、この宇宙を守ってくれる。」

からす「そうだな。ありがとう。信じて待つことにするかぁ。でも、青色の星の住民たちを元の状態に戻すのは、会議が終わってからにしような。心配で、わたしのメンタルがぐちゃぐちゃになっちゃうからな。」

さくら「おっけー!そうしようぜ♪」

さくら、からす、ささめき、むむ、ユニタスは気分転換にお寿司を食べに出かけることにした。(外出中にゆずはが来たとしても、霊魔法で知らせてくれるだろうから安心だ)。

しかし青色の星には誰もいない…もちろんお店はどこも空いていないので、緑色の発明の星に出かけることにした。シャットダウンしたタコダイオウを天国の部屋に残して、皆は飛び立ち、復活した緑色の星の街を散策し始めた。

さくら「ことおの星とは思えないくらい、静かで上品な雰囲気だな。住民も大きな扇子を持っていたり、ドレス着てたり着物を着てたり…。なんか、空気に金粉混ざってる感じがしねえ?」

ささめき「金粉…?さくらの言いたいことはわかるわよ、この星、洗練されてるわね。まるで絵画の中にいるみたい。」

ユニタス「タコタコタコ星は魔法使いが多くてファンシーな印象がありますが、緑色の星も個性的ですね。整理整頓されているといいますか。コンピューターを巧みに操る、ことおさんらしい知性を感じます。元に戻って良かったですね。」

さくま「ユニタス。少し気になったのだが、我らの青色の星はどんな印象なんだ?」

ユニタス「え?…が、街灯が少なかったり、落書きが多かったり、排気ガスが漂っていたり。ネオン、コンクリート、血痕、埃。全体的にごちゃごちゃとしていますかね…。魔法陣使いが少ないところが面白いと思います。自然や建物も多く、良いところではありますが、正直、危険な印象ですね。レッドデビル☆カンパニーの社員も怖がって、青色の星の近くには行きたがりませんよ。」

さくま「や、やっぱりそうか…。警察が頑張ってはいるが、現世にはまだまだ危険な地域があるし、天国の端の方なんて最悪だ。未知の悪霊のたまり場になっていて、立ち入った瞬間恐ろしい戦いがはじまりそうな雰囲気だ。我とさくらが過去に色々荒らした結果とも言えるが…、マトモになった緑色の星の風が吹きこんで、少しはトゲがなくなると良いな。」

ユニタス「僕はタコタコタコ星の方が危険だと思っていますけどね。可愛い姿の、暴れん坊魔法使いが多いので…例えば社長みたいな?」

さくま「くっくっく、今度タコタコタコ星にも行ってみるか。興味が湧いた。」

からすはずっと、何かを考えている。

回転寿司屋さんに入り、案内されたテーブル席に座る。さくらは早速、テーブルに設置されている注文パネルを操作している。

さくら「食べたいもの注文しようぜ、俺はとりあえずコーラと大トロ!」

注文画面ピッピッ

さくま「ささめきはいつも通り甘エビか?」

ささめき「よく分かってるじゃない♪お願いね。」

ユニタス「う〜ん、僕はイカとタコで!」

ささめき「あ、あんた…イカとタコ食べていいの?やめておきなさいよ。」

ユニタス「え??なぜ???」

注文画面ピッピッ

からす「わたしはたまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまごたまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご…それから、たっまっご〜。」

注文画面ピッピッピッピッピッピッピッピッ…

みんなで美味しくお寿司をたべる。からすは大量のたまごをもぐもぐ食べながらも、やはり何かを考え続けており、ぼーっとしていた。

からすはイフと金魚八のことを考えていた。

からす(イフは強がっていただけで、実際は魔法を使うのはあまり得意ではなかった。むむちゃんにも、さくまちゃんにも、イカパチ君にもクロサキ君にも、ブレイブ☆タコキス君にも、勝てないような…不器用なボスに見えた。

しかし、イフの力はその程度ではないはずだ。

イフは時空のトンネルを自由に移動することができるんだ。クロサキ君にもできない、難しいことだ。

イフはふうが君の記憶を書き換えたんだ。さくまちゃんにもできない、難しいことだ。

イフは星の化身のとおこちゃんを遠い宇宙に連れ去ったんだ。自分の星から出られないはずの星の化身を引っ張り出したんだ。

つまり、宇宙のルールを打ち破る力を持っているんだ。

イフは、金魚八は…他の宇宙を消してしまうこともあるのだろう?どうやって?その力は何なんだ?魔法ではない、別の力なのか?

金魚八は優秀な魔法使いが集って、宇宙を支配している強くて恐ろしい組織だ。だが、何のために宇宙を支配しようとしているのだろう。イフからは熱意を感じるが、イフが頼っている幹部のクロサキ君からは、目的や支配欲は感じられない。とても不思議だ。

…きっとイフは隠しているんだ。

強い力と

本当の目的を。

イフは話していた。「アルコンスィエルの時のように、上手くやれないものかと期待しておりましたが、今回は不適任でしたか。能力が不足していたのですね。深海の力は未知のもの。簡単には対抗できないということは、わかっておりました。残念ですが、この仕事はワタクシが引き継ぎます。」と。

イフはお母さんと、わたしのこの力「深海の力」のことを知っている。もしもイフも深海の力を扱えると仮定すると、宇宙を消してしまえることも納得できるが…、深海の力を悪用するなら、とっくの昔に全宇宙を支配して、全てを思い通りに操れるのでは?とも思う。だから、その可能性は低いだろう。

それに、冷酷なイフには深海の力は操れないと思う。深海の力には魔力と技術が必要だが、何より重要なのは、愛情だと思うから。深海の力は、自分や大切な人の、愛や希望、願いに寄り添って、奇跡を起こす力なんだ。…イフは、平和や愛を嫌っている。

わたしはこの力を自分の意思で使っているが、力の起源や仕組みについては未知だ。イフも深海の力については未知だと言っていたが、わたしが知らないことを知っている可能性は高いだろう。深海の力について、「簡単には対抗できないということはわかっていた」と言っていたし。

…恐らく、イフは深海の力によく似ている特別な力を隠し持っている。その力は、人の心や記憶を支配する恐ろしい力なのだろう。その力で、模索しているんだ。

やはり、やはり、嫌な予感がする!!)

からすはたまご寿司を全て口に詰め込んで、「ゆっくりしてはいられない。行くぞ〜ッ!」と立ち上がった。

さくら「行くってどこに?」

からす「コンピューター屋さんだ!」

さくら「こ、コンピューター屋さん?」

からす「ことおくんの星なら、たくさん売っているだろう?今すぐ、コンピューターを買いに行くぞ。」

さくら「コンピューターなんか買ってどうするんだよ。こ、コンピューターは高いんだ。俺のお給料じゃ買えねぇよ!さ、さくまが魔法で作ってくれるみたいだぜ。な?」

さくま「あ、ああ、いくらでも作ってやる。我のコンピューターが嫌だと言うのなら、ユニタスが用意してくれるだろう。な?」

ユニタス「ええ。社長に相談すれば、レッドデビル☆カンパニーの高性能コンピューターをプレゼントしてもらえると思いますよ。」

からす「嫌だ嫌だ、自分で選びたい。わたし専用のコンピューターがほしいんだ!だってわたしは今日からプログラマーなんだ♪」

ささめき「まさか、からすさん。ハッキングして、金魚八の会議の様子を見ようとしてるの?」

からす「だめか?」

ささめき「…。面白そうじゃない♪」

そして、皆は家電量販店にやってきた。ウキウキ気分でコンピューターを選ぶからすを、さくらは心配そうに見つめている。

からす「このコンピューターにしようかなぁ」

さくら(じゅ、10万円もする…!)

からす「こっちのもかっこいいなぁ」

さくら(15万円もする…!)

からす「よーし、これにする!」

さくら(さんじゅーまんえーん!)

宇宙と財布を天秤にかけて、絶望しているさくらを見て、ユニタスは心配そうにしている。ささめきが呆れた様子で、からすの袖を引っ張った。

ささめき「からすさん、コンピューターのことを何もわかっていないわね。ノートパソコン?ディスプレイ?デスクトップ?どれも同じよ。無くてもいいのよ。コンピューターの性能は全て、コンピューターを操作するための、入力デバイスで決まるのよ。私が教えてあげるわ。」

ささめきは適当な嘘を話しながら、からすをマウスの販売コーナーに連れていった。

からす「そうなのか?知らなかった。じゃあ、この中からひとつ選ぶことにしよう〜♪どのマウスにしようかな。」

さくらはささめきに感謝して、からすと一緒にマウスを選びはじめた。

さくま「いやいやいや!!まさか、マウスだけ買うつもりか?マウスだけ持っていても何も出来ないだろう…!?」

ユニタス「せめてタブレットやスマートフォンを…!!」

ささめき「シッ!黙ってなさい。これでいいのよ。青色の星のマウスは特別なの。私に任せて。」

からすは乗り物を運転するのは得意だが、フィーリングに頼ってばかりで、デジタル機器そのものには興味がなく、仕組みをよくわかっていなかった。ことおが時空のトンネル内の様子を確認するために魔法コンピューターを操作していた様子を思い出し、ことおの真似をすれば、自分も簡単に金魚八の様子を確認できると思っているのだ。

1000円のマウスを買ってもらい、からすは上機嫌だった。青色の星に帰ってきたからすは、早速マウスで遊びはじめた。カチカチ…。

からす(ことお君は、星の力や魔法を使っていたし、わたしも少しだけ力を使おう。きっと、不自然ではないはずだ。)

からすは深海の力をマウスに込めた。カチカチッと押すと、何も無い空間に青色のディスプレイが浮かび上がった。

ユニタス(え~!?!?!?)

からす「このディスプレイに金魚八の様子を映し出すから、みていてくれ。わたしたちの宇宙の運命を決める会議なんだ、しっかり確認しよう!」

からすがカチカチッとクリックすると、金魚八 本部の様子が映し出された。

金魚八本部では恒例の朝礼が行われようとしていた。組織に所属する生き物たち(1000名ほど)が同じ白い服を着て、部屋に集まり、整列している。包帯を巻いたイフが、辛そうにしながら舞台に上がった。舞台にはクロサキとかえるたちもいる。緊張感漂う空気の中、イフはゆっくりと話しはじめた。

ディスプレイにはその様子を様々な角度から眺めている様子が映っており、話し声もはっきりと聞こえてきた。 

さくま「く、クロサキの記憶の中にあった風景と全く同じ。これは金魚八本部に違いない…!なんということだ。」

ユニタス「こ、こんなの観ちゃって大丈夫なんですか!?」

金魚八セキュリティチームは、コンピューターや電子回路や魔法について、宇宙規模の、深くて高度な技術的な知識をもつ、精鋭ばかりだった。導入しているファイアーウォールは、不正に接続を試みた生き物の脳に直接シグナルを送信し、物理的に破壊する特別仕様だった。しかし、からすが今行っている「盗み見」は深海の力による「透視」で、電子回路や魔法に一切接触しない特別な方法だった。

つまり、誰も、何も、感知することはできないのだ。

さくら「やっぱり良いマウスを使うと違うんだな。画質がきれいだな〜。」

ささめき(恐ろしいことをしているわね…。きらめき兄さんにも見せてあげたいわ。)

ーーー

ーー

イフ「ワタクシたちの力は、全ての生き物が幸せに生きられる、理想のセカイをつくるためにあります。この仕事は誇り高きものなのです。今日も誠心誠意、セカイの民のために尽力するように。

それでは会議をはじめます。

深海の宇宙を消すのか消さないのか、これから決定いたします。クロサキ、よろしくお願いします。」

クロサキ「お疲れ様、幹部のクロサキだ。ここから先は俺が説明するぜ。

俺は深海の宇宙を消すのは大反対だ。消せば何とかなると思ってるなら、バカすぎるぜ。金魚八を脅かす力を持つ宇宙だからこそ、こいつらと和解して、協力し合っていくのがいいと思う。ビビってないで、交渉しろよな。

深海の宇宙を消して一番強い宇宙になるか、深海の宇宙の力を手に入れて一番強い宇宙になるか…。最強なのは後者だろ?でも、協力しても足でまといになるのなら、ゴメンだよな。俺たちは深海の宇宙の実力を、価値を、確かめなければならなかった。

イフは全力でこの宇宙を消すために働く、俺は全力で宇宙を守ろうとするために働く。魔法では測定できないような本気の力をぶつけ合って、実力を確かめる…口しか動かさない会議より、体も動かす会議の方が、説得力があって面白い。その様子は金魚八で生中継していたけど、皆、もちろん観てくれたよな?

これから深海の宇宙の運命を、皆で決めるぜ☆

この件について、質問や意見がある方は挙手してくれ。」

リーダーであるイフに、逆らえる生き物なんて存在しない。イフがいるからこそ、セカイの平和が保たれていると…みんなが信じ、頼っているのが現実だった。イフに嫌われたくない、必要とされたい、セカイの中心で生きていたい、居場所が欲しい、選ばれた存在、特別な存在でありたい。金魚八は孤独を集めて成り立っていた。

しかし金魚八のメンバーたちはイフに対して、大きな不信感を抱いていた。

イフは深海の宇宙の魔法使いに、手も足も出ず、敗北していた。イフは自分の弱さを隠して、偉そうにしていただけだったのだ。

もう誰も、イフのことを怖いと思っていなかった。

金魚八のメンバーA「はい。クロサキ様。クロサキ様はイフ様がこんなにも弱かったということを知っていたのですか?」

金魚八のメンバーB「優秀なカチョーロチロム様を手放し、ゆずはに逃げられ、とおこにも逃げられ…失敗ばかりで尻拭いもできない。イフ様は金魚八のリーダーに適していない。クロサキ様こそ、リーダーに相応しいのでは?」

金魚八のメンバーC「金魚八は深海の宇宙と協力するべきに決まっている!深海の宇宙の魔法使いたちは非常に優秀だ。」

金魚八のメンバーD「そもそも深海の宇宙は金魚八よりも強いんだ。消すことなんて、はじめから不可能だと思う。イフ様よりも、かえるの方が優秀だな…。」

クロサキはひとりひとりの質問や意見に、丁寧に答えていく。一通り話し終えて、ついに多数決をする時間になった。

クロサキ「俺はリーダーにはなるつもりはねぇよ。…じゃあ、決めよう。深海の宇宙を消した方がいいと思っているやつ〜?」

誰ひとり手をあげない。

クロサキ「深海の宇宙と協力した方がいいと思っているやつ〜?」

組織の全員が手を挙げた。

クロサキ「決定〜!と、いうわけだ、イフ。俺は深海の宇宙に戻るぜ。」 

イフ「ありえない。全員が協力するべきと判断するなんて…。」

ーー

ーーー

会議の様子を見ていたからすたちは、ほっと安心した。

さくら「協力って言われてもピンとこねぇけどな。」

からす「でも、戦わなくてもいいってことだろう。本当に良かった。」

さくま「クロサキは仕事をするのが上手いな。ずる賢い♪」

ささめき「…イフ、プライドが傷付いているのでしょうね、相当悔しそう。ほら、見て、顔をおおって、泣きそうになってる。」

さくら「流石にちょっと可哀想だな…。」

ーーー

ーー

イフ「くっ……(泣」

クロサキ「い、イフ、泣くなよ!泣くくらいなら、正直に、きちんと話せ。俺も知らなかったんだ…イフがあんなにも魔法下手だったなんて。どうして、むむ達にやられちまったんだよ。」

クロサキに背中を押されたイフは舞台の上で、ゆっくり、ゆっくりと話しはじめた。

イフ「…はぁ、無念です。

ワタクシはこれまで金魚八を設立したリーダーとして必死に働いてきました。

様々な宇宙から、金魚八を脅かす可能性がある特別な生き物を集めて、指揮してきました。

しかしワタクシの魔法能力は、人並みかそれ以下。金魚八のどの宇宙にも負けない強さは、ワタクシではなくあなた方組織のメンバーに任せていたのです。

…しかし、強さとは魔法や力比べに勝つことだけではありません。戦いに勝つか負けるかは、関係ないのです。

重要なのは特別であること。アナタ方は「特別」の意味をなにもわかっていなかった。泣きたくなるほど、残念なことです。

アナタたちもワタクシと同じ、セカイの中心で、宇宙と生き物の幸せを管理する、特別な存在でした。高度な魔法と未来技術を扱い、人間の感情や過去、未来、魂の本質を知り尽くすことができる、選ばれし存在でした。アナタたちはもう…ワタクシとは違い、その輝きを失ってしまいました。

忘れてしまいましたか?ワタクシたちは、支配者なのです。下位の宇宙に住む人間を愛することはできません。人間の幸せも絶望も、すべてがワタクシたちの手のひらの上にある。…あったのに、アナタ方はその特別性を、自ら手放してしまった。

…深海の宇宙と協力すると、全員の意見が一致したようですが。協力するということは人間と対等な関係となるということです。地位や力量を同じ程度であると認めて、心を許すということ。それはもう、どこにでもいる人間と同じ。

人間には、コメットを支配することはできません。コメットは人間を愛していましたが、それは…人間がか弱い存在、守らなければならない存在であると思っていたからです。コメットと話し合い、協力することはできません。人間は既に、コメットというゆりかごの上で息をしているのです。その常識を打ち破らなければ、コメットを食い止めることはできないのです。

特別な存在は、温情に頼らないものなのです。協力しない、寄り添うこともない、寂しさを埋めようともしない。求めない、愛さない、頼らない…!ワタクシは二度と「求められたい」という夢を見ない。愛されなくても、必要とされなくてもいい、全て壊す、壊す壊す、壊す、壊す、壊す…そうして人間であることをやめると決意しているのです。

コメットを支配することができるのは…、宇宙規模の魔法を操る天才で、悪逆非道な生き物です。ワタクシに忠誠を誓い、ワタクシという罪人に精神と技術を捧げる、人柱だけなのですよ。

それこそが特別な存在なのです。

あなた方は優秀な生き物でしたが、金魚八に選ばれた特別な存在ではなくなりました。

ワタクシについて来られないのならば、

さようなら。」

イフの背後に巨大なディスプレイが現れた。

ディスプレイには、金魚八 本部の様子が映し出されている。

恒例の朝礼が行われようとしていた。組織に所属する生き物たち(1000名ほど)が同じ白い服を着て、部屋に集まり、整列している。

ディスプレイに映る「もうひとつの金魚八」

深海の宇宙と、クロサキが所属する金魚八の様子は、もうひとつの金魚八に生中継されていたのだ。

イフ「ディスプレイに映っている生き物たちは、アナタ方とは違い、ワタクシの真の力に気が付き、そして忠誠を誓った特別な存在です。深海の宇宙の運命を任せられる、選ばれし組織員です。

金魚八はいつの時代も八チームあるのです。

「金魚八 グループ壱」から「グループ七」

そしてその中で、ワタクシの真の力とこのセカイの理に気がついた精鋭だけを集めた

「真金魚八」(しんきんぎょばち)

ワタクシは全グループのリーダーだったのです。

あなた方、グループ壱のメンバーは全員、失格。全員が見抜けなかったグループははじめてですよ。本当に呆れてしまいますね。

…それでは、まずは答え合わせをしましょうか。その後、深海の宇宙を運命を決定するための会議をはじめましょう。

真金魚八幹部の「砂夜らんちゅう(さや らんちゅう)」。説明をよろしくお願いします。

彼らにも理解できるように、わかりやすく、丁寧に。」

ディスプレイの向こうの真金魚八の舞台に、「砂夜らんちゅう(さや らんちゅう)」とよばれた、お魚のような男性が上がった。長いまつ毛、可愛らしい顔つき。柔らかい紅色の髪がぴょんぴょん跳ねている。

カメラが調整されて、砂夜らんちゅうの胸上がアップで映し出された。

砂夜らんちゅう「やぁ、はじめまして、グループ壱の皆さん。僕のことは、「さやらん」と呼んで。今起きていることを説明するよ。

ぜんぶぜんぶ、おしえてあげるから安心してね。

まずは金魚八の役割を話そう。

金魚八の役割は、「宇宙を司る魔法使い コメット」さんが記憶や自我を取り戻さないように、封印し続けることだ。封印し続けて、セカイを守っているんだ。コメットさんはそっちの宇宙の一室に閉じ込められているよね?僕たちも、他の金魚八のグループも一緒に見張ってるよ。

コメットさんが生まれ持っている深海の力は全能の魔法。深海の力に似た力を持つ生き物はいるけれど、真の力を扱えるのはコメットさんだけ。その力は指先ひとつで、過去も未来も物質も感情も…全宇宙の何もかもを思い通りに変えてしまえる。奇跡そのもの。

昔のコメットさんは、その力で、セカイ(全宇宙)を作り変えようとしていた。コメットさんは夢見ていたのは…ひとつひとつの生き物の人生が守られる、のどかなセカイだった。

…かつてのセカイは、現実を好きなように作り変えるのは普通のことで、自分自身以外の存在を使い捨てることも当たり前のことだった。魔法や他の力を使えば、他の生き物の心を作り替えたり操ったり、歴史や現実を変えたりすることも簡単にできた。宇宙や生き物を複製することもできた。同じ宇宙をもうひとつ増やすのは…皆が時間の宝石と呼んでいる魔法技術を使えばいいよね。誰にでもできたんだ。

自分が幸せになれる宇宙を求めて、コピーして、消去して、何度もやり直して、引っ越しするのが普通だった。自分自身以外の存在の悲しみは気にする必要はないと考えられていた。…その生き物もセカイのどこかでは、他人を、歴史を、もう一人の自分を、切り捨てているのだから。

コメットさんはセカイにたったひとりしかいない存在だった。複製することができない不思議な存在だったんだ。コメットさんは、コピーされた宇宙の端っこにいる生き物も含めて、ひとつひとつの魂を別個体として尊重していた。

コメットさんは、宇宙に取り残されたり、心や過去を書き換えられたりして悲しむ生き物に寄り添い続けていた。悲しむ生き物たちの声を無視できなかった。…ー僕たちも生きているんだ。意思があるんだ。僕たちは主人公ではないかもしれないけれど、この宇宙で幸せになりたいんだ。この宇宙で出会った大切なものを守りたい。変わりたくない。どうか救ってほしいー…コメットさんの心は揺れ動いた。

セカイにいる全ての生き物が主人公で、それぞれに人生と物語がある。ひとつひとつの想いを守るべきだ。…それがコメットさんが信じた正義だった。

宇宙や星や魂がほろびてしまうのは悲しいことだ。コメットさんなら、簡単に生き返らせることもできた。でもコメットさんはいつも、自然と流れ着く運命を受け入れていた。一瞬で病気や怪我を治すことだけが回復魔法じゃないと考えていたからだ。失ってしまった大事なもの、大事な人、悲しい気持ちも十人十色。コメットさんは、他の生き物を信じ、ひとつひとつを主人公として扱い、セカイの運命を委ねていた。

……例えるなら、「ブレイブ☆タコキス」のように、コメットさんは強くて優しい魔法使いを、まっすぐな心で、目指していたんだね。

いつのまにかコメットさんは、皆から尊敬されている、セカイのリーダーのような存在になっていた。不老不死のコメットさんの価値観は、長い時をかけてセカイに広まり、いつのまにか皆が、自分や他人を主人公だと思うようになったんだ。

だけどコメットさんは、とある出来事をきっかけに、心が暗転してしまったんだ。セカイを司る魔法使いは、セカイの破滅を願うようになってしまったんだ。

……例えるなら、「マシロ」さんのように。悪の心に目覚めてしまった。

最終的にコメットさんは自分で自分の心を壊して、消してしまった。自分がセカイを司る魔法使いであったことも、深海の力の存在も、人格も、正義の心も…何もかもを忘れて失ってしまった。

コメットさんが心を取り戻してしまったら、大変なことになる。

コメットさんはセカイそのものを暗転させたいと願っていたから。

コメットさんが心を取り戻してしまった瞬間が、このセカイの最期だ。その場面を見据えている金魚八は、一番遠い未来にある存在にあるといえる。セカイの終わりを阻止するのが金魚八の役割。わかったかな。

続いて、イフさんの話をしようかな。イフさんは金魚八のリーダーだけど、一番強いからリーダーをやってるわけじゃない。……結構強いけどね?でも、意外とおっちょこちょいでしょ?実はコメットさんの心が暗転してしまったのは、イフさんのせいなんだ。だからこそイフさんは最前線で、一生懸命頑張ってるんだよ。イフさんが弱いとか、リーダーに向いてないとか、あんまり言っちゃだめだよ。わかったかな?

コメットさんの心が暗転してしまった経緯について話そうか。

大昔。コメットさんは仲間と、セカイの様々な生き物の声を聞いてまわる旅をしていた。心優しく真面目なコメットさんはいつも腰を低くして、生きものに寄り添い、ひとつひとつの生きものの心を包み込んでいた。コメットさんといつも一緒に旅をしていた仲間は、場所や時代によって入れ替わったり、増えたり減ったりしていたけど、特に仲が良くていつも一緒にいたのは…。

魔法くじらのアルコンスィエル

アルコンスィエルのパートナーで怪異のコウゲイ

アルコンスィエルとコウゲイの子どもで、武の達人のイフクーン。イフクーンは、今ここにいる、金魚八のリーダーのイフさんのことだよ。

そして、平凡な魔法使い イフだ。ここにいるイフさんとは別人ね。

アルコンスィエルさんは、コメットさんから魔法を教わっていた。魔法クジラは豊富な魔力を扱える種族なんだ。勤勉で心優しいアルコンスィエルさんは、深海の力の一部を使えるようになった。アルコンスィエルさんが扱う深海の力の源は愛情なんだ。それがないと、乏しく弱いままで、良い使い方はできないんだよ。アルコンスィエルさんって、すごいよね。

一緒に旅をしていたイフクーンさん(現 金魚八のイフ)は魔法嫌いだったんだ。

お母さんやコメットさんは立派な魔法使いだけど、そうじゃない魔法使いもたくさんいた。安全な場所に隠れたまま遠距離攻撃しかしない魔法使いや、数か月努力すればなんとかなりそうな夢を魔法を使って一瞬で叶えてしまうサボり気味の魔法使い……一緒にされたくないと思ったんだ。「クロサキ」君にそっくりだよね。それで、イフクーンさんは体と武器を鍛えて、武の達人を目指したんだ。

お父さんのコウゲイさんは寿命が短い生き物だったけれど、死んでしまっても、アルコンスィエルさんがいる限りどこからかやって来て、もう一度巡りあい、何度も何度も好きだと伝える、不思議なおばけだった。コウゲイさんには生命を超える、神秘的な力があったんだ。

……イフさんは平凡な魔法使いだった。気さくな性格で優しかった。イフさんはコメットさんに対しても、いつもさっぱりした態度で接していた。コメットさんはそんなイフさんに恋をしていたんだ。

でもイフさんは、武を極めようと努力するイフクーンさん(現 金魚八のイフ)に憧れて、恋をしていた。

でもイフクーンさんは、セカイを司るコメットさんに恋をしていた。

三角関係になってしまって…それに気がついた、イフさんとイフクーンさんは、大喧嘩してしまったんだ。

イフさんは、もしコメットさんに告白されても振るつもりだと言った。イフクーンさんと付き合いたいからね。イフクーンさんはそのことを恐れた。「セカイを司る魔法使いを振って、自分を選ぼうとするなんて、信じられない。コメットに恨まれてしまうかもしれない。コメットはセカイを司る偉大な魔法使いなのに。」ってね。イフクーンさんは、コメットさんの、生まれ付きの特別性や恐ろしさや偉大さに惹かれていたんだ。

イフさんにとってのコメットは、セカイを司る存在というよりも、胡散臭いけど優しい仲間のひとり……くらいの認識だった。

意見と恋心をぶつけ合い、

戦い

そして、取り乱したイフクーンさんは

イフさんの命を奪ってしまったんだ。

イフさんは…人間は、想像以上に弱かったんだ。

それが全てのはじまりだった。

コメットさんと仲間たちは深く深く悲しんだ。コメットさんはイフさんのお墓をたてて、そこに種を植えて、座り込んでしまった。その種から芽が出て、大木になっても……コメットさんはその場所から動こうとしなかった。

その様子を見て、イフクーンさんの心は暗転してしまった。今ならコメットさんの心と体を自分のものにできるかもしれない。セカイを支配できるかもしれない…と野望を抱いた。失うものなんてないから、どうしても愛されてみたいと思ったんだ。

イフクーンさんはコメットさんを更に悲しませて、弱らせるために、イフさんになりきって意地悪をすることにした。イフと名乗り、イフさんの顔によく似た仮面を付けて、同じ服装で、同じ声で、コメットさんに「愛してる」と言ったんだ。イフさんに愛されることを夢見ていたコメットさんは、「イフ、戻ってきてくれたんだ。愛してる。」と返してしまった……そしてふたりは、歪な恋人関係になってしまった。

悲しみに溺れていたコメットさんは、イフクーン…いや、イフさんに支配されてしまったんだ。

イフさんは「愛してる」と伝えながら、コメットさんを思い通りにするために、魔法の杖の切っ先を向けて毎日脅すようになった。攻撃するようになった。魔力がなくなったら、杖ごと振り下ろして体に突き刺した。誰にも止められなかった。コメットさんは「ボクは大丈夫」って微笑んだ…されるがまま、辛そうに、悲しそうに微笑んでいた。

誰にも止められなかったのには、理由があった。その頃、イフさんは「特別な技」を使えるようになった…その力があまりに強かったからだ。お母さんの豊富な魔力、お父さんの神秘的な力を受け継いでいたイフさんは、特別な力…「暗黒の力」に目覚めたんだ。アルコンスィエルさんもコウゲイさんもその力に敵わず、どうすることもできなかった。

暗黒の力を使った、イフさんだけが扱える秘密の技。それは、体だけでなく人間の心を砕く、パンチ攻撃だ。優しい性格も、勇気も、諦めない強さも、打ち砕き、絶望を植え付けるその攻撃は、コメットさんにもよく効いた。

何度も心を砕かれて、何度も心が壊されて…自我を失って…その度にコメットさんは、深海の力で自分の心を取り戻した。でもまた砕かれて…壊されて…その繰り返し。コメットさんは泣き続けていた。

暗黒の力で心が砕かれると、砕かれた生き物の心と魔力が飛び散るんだ。漆黒のガラス片に似たその破片を、僕たちは「絶望の破片」と呼んでいる。使い捨ての深海の力のようなものさ。コメットさんの魔力や深海の力が宿る、強力な絶望の破片をイフさんは集めていた。

深海の力は愛の力で奇跡を起こすけれど、絶望の破片はその名の通り、様々な絶望的な運命を実現させることが出来る…でも万能ではない。絶望した本人の魔力や感情の大きさによって、強い絶望の破片、弱い絶望の破片……色々あるからね。使ったら消えてしまうし、どれくらい強いかどうかは、使ってみないとわからない。

もっと強力な絶望の破片が欲しい。もっともっとコメットさんと宇宙を支配したいと望んで、力に溺れたイフさんは、秘密結社「金魚八」を立ち上げた。

コメットさんが深海の力を使って、何度も心を取り戻し、諦めようとしなかったのは、育てている宇宙がふたつあったからだった。その宇宙をイフに奪われてしまうことを恐れていたんだ。

それは「大空の宇宙」と、今は「深海の宇宙」と呼ばれている宇宙だ。

コメットさんが最初に作ったのは「深海の宇宙」。この宇宙には、星の化身と星の力という特別な仕組みがある。星の化身には星を守るという使命がある。そして星の化身は、宇宙をコピーしても複製されることがない、セカイにたったひとつの存在でもある。ちなみに、僕もこの宇宙出身なんだ。大昔の星の化身だったってわけ。

セカイを司る魔法使いとして、宇宙を守る使命を持って生まれたコメットさんは、心のどこかでいつも孤独を感じていた。自分自身とよく似た境遇の生き物と話してみたいと思ったからこそ、コメットさんは星の化身という存在を生み出したんだ。コメットさんは深海の宇宙を「友人」のように思っていた。

「大空の宇宙」は深海の宇宙を観察した後に生み出された宇宙で、生き物全員が星の力を扱える仕組みだった。宇宙の生き物全員が宇宙をコピーしても複製されることがない、セカイにたったひとつの存在、星の化身だったんだ。

イフさんはコメットさんの心を完全に砕き、全てを手に入れるために、コメットさんから手に入れた絶望の欠片を使って、大空の宇宙をほろぼしてしまった。大空の宇宙の幼い王子「カチョーロチロム」さんの心を暗黒の力で砕いて記憶や人格をリセットし、自分の秘書にした。

心をリセットされたカチョーロチロムさんの姿をみたコメットさんはショックを受けた。少しずつ壊れて、失って、歪んで…ついに諦めてしまった。自分で自分の心を砕き、壊してしまおうと決意した。

コメットさんの心はその時、完全に暗転してしまったんだ。

コメットさんは心を壊してしまう前に、イフさんにとある言葉を言いのこした。それは恐ろしい言葉だった。

コメット「イフ、ボクが記憶を取り戻したら、このセカイを何度も壊すよ。キミが一番不幸になる結末を、何度も繰り返してやろう。だから、このヒミツを守り抜くんだ。

イフは本当に可哀想で馬鹿な子だね。

未来は決まっているのに。一生懸命、抗って。欲しがって。

…深海の力には、絶対に敵わないんだよ。」

コメットさんは、イフさんに対する怒り、憎しみ、恨み…そんな恐ろしい感情を爆発させるのを、ずっと我慢していた。最後まで、優しいセカイのリーダーでありたかったから、隠し続けていた。でも、心が暗転して、恐ろしい感情をむき出しにしちゃったんだ。

そして、コメットさんは記憶を手放してしまった。セカイを司る魔法使いであったことも、恋人だったイフさんの存在も、何もかもを忘れてしまった。

イフさんはコメットさんを狭い建物に閉じ込めて、封印した。コメットさんの心が暗転してしまった経緯はそんな感じ。わかったかな?

次は、コメットさんの話しているヒミツと、深海の力について、教えてあげるよ。

ヒミツとは……?コメットさんがイフさんを恨んでいることとか、記憶を取り戻したらこのセカイを何度も壊すつもりだってこととか、深海の力のこととか…今、僕が話したこと全部だ!!

イフさんは怖がりで口が軽いから、コメットさんを閉じ込めた後、自分のお母さんとお父さんに、絶対他の誰かには話してはいけないよ!と念を押しながら、ヒミツを打ち明けちゃった。懺悔したんだ。

でもお母さんとお父さんは強かった。イフさんにこんな風に話した。

アルコンスィエル「…あなたは間違っている。それはあなた自身が一番分かっていることだろう?コメット先生やセカイ中の生きもののためにも、そのヒミツを公表しなさい。そして、金魚八を解散しなさい。そうすれば、最悪の事態は防ぐことができる…わたしはそう思う。」

コウゲイ「公表すればあなたは、罪人となるだろう。それでも勇気を出すんだ、それが罪を償うということだから。悲しい思いをした生きものに寄り添い、反省し、心を入れ替えて尽くすのだ。どんなことがあっても、僕とアルコンスィエルは君のそばにいる、運命を祈り続けるから。」

お母さんとお父さんはセカイに対して、罪を打ち上げて反省しなさいと諭したんだ。罪とは、喧嘩してイフさんの命を奪ったこと、金魚八を結成してコメットさんの心と体を傷つけたこと、…これまでの行い、全部だ。でもイフさんは言い返した。

イフ「このヒミツを世界に公表する?ワタクシに人柱になれと?最悪の事態を防ぐことができるなんて言えるのは、アナタ方が何もわかっていないからだ。…コメットを〇ろし、宇宙を支配するしかない。その方法を見つけるしかないんだ。多くの者を犠牲にすることになっても、ヒミツを隠し通さなければ、生きものは明日を見失ってしまう。ヒミツを明かし、許しを乞う…それで軽くなるのはワタクシの罪悪感だけ。アナタたちは何もわかっていない…同情なんて、いらない。」

アルコンスィエル「先生を支配するなんて、無理だろう!ヒミツはいつか暴かれる。逃げずに、向き合うしかないだろう!」

コウゲイ「人柱だなんて…。ぁあ…。」

アルコンスィエル「…どうすることも出来ないなら、同情くらいはさせてくれよ。わたしたちはあなたを、愛しているのに。あんなことをしてしまっても…あなたはわたしたちの子どもなんだ。」

結局イフさんはお父さんとお母さんと分かり合えなかった。セカイを守るための良い作戦も思いつかなかった。

そして……。

イフ「…こんなこと、ワタクシも望んでいない。愛していると言うならば、アルコンスィエル、ワタクシに深海の力をわたしなさい。」

アルコンスィエル「…すまないが、これだけはわたせない。深海の力には魔力と技術が必要だが、何より重要なのは、愛情なんだ。それがないと、乏しく弱いままで、良い使い方はできない。

星の民のため、星のため、宇宙のため。セカイのため。そんな大きなものよりも、たったひとつのいのちを守りたいと願うような、ひたむきな愛と勇気が、奇跡の力を生み出すんだ。

今のあなたには扱えない。…きっと、今のわたしも、扱えない。」

暗黒の力から自分の心と体を守るため、思い出と深海の力を守るため、…アルコンスィエルさんとコウゲイさんは、深海の宇宙に逃亡した。イフさんは追わなかった。

アルコンスィエルさんは、コウゲイさんとの愛を確かめ合い、深海の力で藍色の家族の星の化身に変身した。しかし、アルコンスィエルさんはコウゲイさんは、黒色の戦闘の星との戦いに敗れて消滅してしまった。深海の力の使い手は消えてしまった。

イフさんは口が軽いんだよね。コメットさんはイフさんに、ヒミツを守り抜くんだって言ってたのにね。僕にも話しちゃったし、多くの人に気が付かれちゃった。ヒミツを知った生き物は消されるか、真金魚八の一員になるよ。

コメットさんが記憶を取り戻してこのことを認識したら、想像できないくらい恐ろしいことになるだろうね。

だから、秘密を知っちゃった真金魚八の僕たちはセカイを統制し、頑張らないといけないんだ。わかったかな?」

話し疲れたのか、さやらん(砂夜らんちゅう)は、ペットボトルの蓋を開けた。

ディスプレイには、さやらんが美味しそうに水を飲んでいる様子が映っている。

さやらん「水分ほきゅ〜☆」

金魚八グループ壱のメンバーも、クロサキも、困惑している。

イフ「さやらん、ありがとうございました。クロサキ、理解できましたか?」

クロサキ「は?メモ取りながら聞いてたけど、難しすぎてわけわかんねぇよ…。」

イフ「そうでしょね。」

クロサキ「イフが、命をうばったり弄んだりするやべぇ奴だってことしかわからなかったぜ。」

イフ「否定はしませんが、デスゲーム主催者だった貴様には言われたくない。」

イフはちらりと、ディスプレイを…さやらんを見た。

さやらん「え!イフさん、どうして僕を見るんだい?僕の説明、下手だった?いっぱい話す練習して、頑張ったんだけどなぁ…。」

まいったなぁ〜と言いながら、困った顔をしているさやを見て、イフはくすくす笑っている。

イフ「自信を持ちなさい。アナタの説明は非常にわかりやすく、正確でした。クロサキはさやらんと違って、言うことを聞きませんし、ワタクシだけで八つのグループを管理するのは、疲れますし、現実的に難しい。幹部のさやらんは金魚八の柱と呼べる存在です。」

クロサキ「金魚八の幹部は何人いるんだ?」

イフ「クロサキとさやらんのふたりです。」

クロサキ「なんだよ、結局二人しかいないのかよ。」

さやらん「それは仕方ないよ。金魚八の幹部や秘書、用心棒をやりたがる生き物なんていないからね。任命されても、逃げたりしんでしまったりして、いなくなるし。金魚八はいつの時代も人手不足なのさ。僕とクロサキさんは、セカイに誇れる、変人なんだよ。僕はクロサキさんはセカイイチの変人だと思ってるよ。」

クロサキ「へ、変人…??俺が……!?」

イフ「最近は特に忙しくて、ワタクシも失敗続きで…はぁ。真金魚八がある宇宙に帰る暇もなく……さやらんに任せきりでした。特に霊魔法という独自の力を扱うゆずはと、何故か深海の力に似た力を持っているからすの存在が鬱陶しいんですよね。

しかし、ゆずはにもからすにもコメットにも、人間と同じ心があります。それがあの子たちの弱点。絶望の破片があれば、全てを支配できるのです。簡単に。そう……簡単に。

魔法?武術?そんなものはもう古い。ワタクシだけが扱える暗黒の力と絶望の破片こそが最強。

そのことに自力で気が付くことができた優秀な組織のメンバーを、真金魚八に引き抜くために、ワタクシはいつも暗黒の力と絶望の破片の存在、自分の正体を秘密にして振舞っていました。

ワタクシは武の達人ですが、筋肉を使って本気で戦うと暗黒の力が発動してしまうので、隠していたのです。それに、暗黒の力を見せびらかすと、簡単にヒミツを知られてしまいますからね。

それでは、深海の宇宙の運命を決定するための会議をはじめましょうか。グループ壱はこれから解体するので…、ディスプレイ越しに、真金魚八の方々と話し合うことにいたしましょう。

ワタクシの考えは……まずは、ワタクシの暗黒の力で、金魚八グループ壱のメンバー全員の心を砕きます。強力な絶望の破片をいくつも手に入れることが出来るでしょう。

手に入れた絶望の破片を使い、忌々しい深海の宇宙を消します。

深海の宇宙には、ゆずはやからす、マシロやブレイブ☆タコキス等の強い力を持つ魔法使いがいますが、彼は愛や勇気を信じている…脆くて弱い心がを持っている。暗黒の力がよく効くでしょう。絶望を植え付けて、心を砕き、彼らの絶望の破片も回収しましょう。ふふふ、楽しみですね。」

クロサキ「俺たちとマシロたちをみな〇ろしして、絶望の破片とかいう魔法アイテムに変換するってことかよッ!?」

さやらん「お水おいし〜☆」

水を飲み終えたさやらんは、「おーい、これ、捨てておいて〜」と、部下を呼んだ。空っぽになったペットボトルを部下に手渡す。部下は見切れており、手だけがディスプレイに映っていた。

さやらん「よーし!それじゃあ、続きを話すね。」

イフ「つ、続き……?」

さやらん「え?うん。

深海の力の使い手は、実はまだ残っている。

深海の宇宙の「からす」さんだ。

深海の力は貴重で最強だから、真金魚八は、からすさんの力を手に入れるために、秘密裏に話し合いを進めていた。からすさんの力は、コメットさんを封印、対抗するための、そして戦い、支配するための、強力な武器になるはずだよね。

僕たち真金魚八は、暗黒の力でからすさんの心を砕き、彼の絶望の破片を手に入れようと考えた。深海の力を宿す、特別な絶望の破片が欲しかった。皆が時間の宝石と呼んでいる魔法技術で、宇宙をこっそり複製し、からすさんを何人も増やして、深海の力を宿す強力な絶望の破片を沢山集めようと計画した。

からすさんを複製することはなんとかできたよ。でも僕たちは大失敗してしまったんだ。

からすさんは心も体も弱すぎたんだ。戦おうともしないから、〇ろされたり、じばくしてしまったり、宇宙に溶けてしまったりして、暗黒の力を使う前に勝手にしんでしまうんだ。結局観察していたからすさんのコピーは、皆しんでしまった。(コピーではない本物の)深海の宇宙の、からすさんしか生き残らなかった。

からすさんが生き残ったのは「さくら」さんという星の化身と恋に落ちたからだ。でも星の化身はコピーできないし、その状況を再現することは不可能だった。そんなことを会議している間に、からすさんが星の化身になってしまって…計画は完全に失敗ということになった。

からすさんは、アルコンスィエルさんが星の化身になってから生まれた、アルコンスィエルさんとコウゲイさんの子どもだ。アルコンスィエルさんの能力を全て受け継いでいる。厄介な存在だ。

今のからすさんは強「敵」なんだ。からすさんの深海の力を力を手に入れることは諦めて、僕たちの邪魔をされる前に早く消してしまった方がいい。存在を消去するんだ。

深海の宇宙はこれから、カチョーロチロムさんの心を砕いた時に落ちた絶望の破片を使って、消去する。大切に保管していたんだ。優しい優しいカチョーロチロムさんだけど、自分自身の過去の悲しみと絶望が、宇宙をひとつ消してしまうのさ。恋人も失ってしまうだろうね。最高のシチュエーションだよね。

金魚八グループ壱は解体するけど、メンバーの絶望の破片は回収しなくていい。深海の宇宙にいるマシロとかゆずはたちの絶望の破片も、わざわざ回収しなくてもいいよ。

……弱くて使い物にならないとわかっているからね。

面倒なことはしなくていいんだ。

僕たち真金魚八は、強力な絶望の破片を効率よく回収し続ける方法を発見し、実現することができたからね。

僕たちこそが最強さ☆」

さやらんは「まさか、実現できちゃうなんてな〜♪真金魚八さいこ〜♪」と、楽しそうに笑っている。

イフ「は、はぁ!?!?か、からすが、ワタクシの弟だと言いたいのですか!?そんな、はずは……。はぁ。理解できません。暗黒の力を扱えるのはワタクシだけ。ワタクシ無しで絶望の破片を手に入れることは不可能でしょう??」

さやらん「信じられないなら、見せてあげるよ。僕たち、真金魚八の力をね。

そこから、よ〜く、見ておいてね。からすさんも、見ていてね。

さぁ、はじめよう!解体のはじまりだ!

セカイはさやらん率いる、真金魚八が手に入れて、支配する!!

やれ!!!

さやらんは先程ペットボトルを手渡した部下の背中を叩いた。部下が動いた…その瞬間、ディスプレイに、大きなヒビが入った。ブルースクリーンになり、エラーが表示されて、もう向こう側の様子は確認出来なくなった。

ヒビの隙間からは、邪悪なオーラが漏れている。

部下がディスプレイの向こう側から、こちら側にやってこようとしているようだ。何発も攻撃され、ディスプレイは今にも粉々に砕けてしまいそうだった。

驚いたイフはクロサキの方を見て叫んだ。

イフ「に、に、逃げろ、クロサキッ!」

クロサキ「逃げるって、どこに逃げるんだよ!」

イフ「な、何とかしろ、あの攻撃は暗黒の力そのもの……!」

クロサキはかえるたちを肩に乗せて舞台から降りて、組織のメンバーたちに紛れて、身を隠した。

ついにディスプレイが破壊された。

クロサキは驚き、冷や汗をかきながら振り返ってその様子を見た。ディスプレイの向こうから現れたのは、もうひとりのイフだった。イフの額には、漆黒の、ガラス片のようなものが埋め込まれている。

クロサキ「イフがふたり〜!?あ、あれが絶望の破片かよ!!」

額に絶望の破片を宿したイフ…絶望のイフ…は、イフに襲いかかった。絶望のイフは拳で、イフの胸を貫いた。倒されたイフは、顔面をボコボコに殴られている。

イフが殴られるたびに、血液のように、邪悪なオーラが飛び散った、バリッ、ミシッ、…と、ガラスがヒビ割れる時のような、音が響いた。それはイフの心が砕ける音だった。

金魚八は大混乱。皆、別の宇宙へ逃げようとしたが、なぜか魔力が不安定になっており、時空のトンネルにワープできない。

絶望のイフは、地面を攻撃し、衝撃波を発生させた。その衝撃波は暗黒の力そのものだった。その攻撃に吹っ飛ばされた組織のメンバーは、壁に叩きつけられて血を流した。暗黒の力に心が砕かれて、涙がこぼれた。涙は硬化し、絶望の破片に変化して、ポロポロと地面に落ちた。絶望のイフは満足そうにしている。

誰も逃げることなどできない。

クロサキ「ヤバいヤバい、俺が金魚八にかえるを連れてきたせいだ!魔力が不安定になってるんだ!」

クロサキと一緒に金魚八で働きたいと思っていたかえるたちは、肩の上で、申し訳なさそうにしている。 

絶望のイフが、イフの髪を掴んで皆にみせつけながら、ゆっくりと立ち上がった。イフはもう意識がない…イフの目から涙のように、いくつもの絶望の破片がポロポロとこぼれ落ちていた。それを見たクロサキはギョッとして、イフのところへと走った。

クロサキ「い、イフ!!皆どうすんだよッ、このままだと俺たちのリーダーが、マジでやられちまうぜ!?」

絶望のイフの攻撃をうけると、心が砕かれてしまうかもしれない。それでもクロサキは、イフを助けるために走り出した。

クロサキ(何やってんだ…俺!勝てるわけねぇだろ!いつもやられてばかりの、悪くてダサいボスなんか捨てて、自分の身を守れよ!

で、でもボスを見捨てて逃げようとする幹部の方が、もっともっと、だせぇよな。

……それにこの状況。マシロなら、絶対、ノリノリで立ち向かうよな!?)

クロサキは絶望のイフに飛びかかった。その時、突然辺りが静かになった。空間が静止した。流れ落ちたたくさんの絶望の破片が、皆の体の中に、心の中に戻っていく。暗黒の力は浄化されて、皆、勇気と希望を取り戻していく。倒れていた組織のメンバーたちは起き上がり、立ち上がった。 皆を救ったのは、からすの深海の力だった。

しかし大ケガをしているイフだけは、まだ眠っているままだ。クロサキは振り払われたが、かえるたちが隙を見つけて絶望のイフを蹴り飛ばした。クロサキは素早く起き上がり、イフを抱えて走り出した。かえるたちはクロサキに追いつき、肩の上に飛びった。

絶望のイフ「ふふふ、クロサキ。悪あがきはよしなさい。」

絶望のイフは、ポケットに入れていた絶望の破片を掲げた。破片は消滅し、暗黒の力が解き放たれた。深海の力は打ち消され、静止していた空間が再び動きはじめた。絶望のイフはもう一度、衝撃波で攻撃しようとしている。地面に拳を振り降ろそうとしたその瞬間。

絶望のイフ以外の生き物が、姿を消した。イフもクロサキも、組織のメンバーも。

絶望のイフ「チッ、邪魔しないでください、からす。どんなことをしても、ワタクシと、真金魚八は止められませんよ。

ワタクシとさやらん率いる真金魚八は、金魚八がある宇宙を複製し、ワタクシを複製し、ワタクシから絶望の破片を集めることにしたのです。ワタクシの絶望の破片はとても強力で、使い心地も良い。ふふふ、既に数え切れないほど回収していますよ。

額に絶望の破片を埋め込むと、心が暗転して、パワーが増すんです。ワタクシはあと百人くらいいます。全員使い捨て。何人倒されても構いません!

ああ、この方法は天才的だ!もう、この方法しか考えられない。ワタクシは、自分の身をセカイに捧げて、犠牲にして、コメットとセカイを支配するのです。

ああ、ああ、心が軽い。なんて気持ちがいいのでしょう…♡

コメットのことがずっとずっと怖かった。コメットに愛されないことが、ずっとずっと苦しかった。苦しむコメットが可愛らしいと思い、興奮してしまう自分が、気持ち悪くて仕方なかった。

何度も時間が戻ればいいのにと、やり直したいと願った。あの時イフを〇さなければ、こんなことにはならなかったと、後悔しつづけていた。

あはは、ははは、今は何も感じない。

あははははは

はははは……

はは……

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【14話 最終話・後編に続く】

… … … …

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