【短編小説】ソクミタの影3

こちらは「ソクミタの影」「ソクミタの影2」の続編で、シリーズの完結編(多分)です!

【テーマ曲】ロウソクのキャラクターソングを公開しました☆

ロウソクがすごくかっこいい声でしゃべるぞ!みてね!!(●´ω`●)

過去作はこちら!

はじめに

【ソクミタの影・あらすじ】悪人が最後に愛したのは正義を貫く警察官。元ころし屋の悪人「ロウソク」と、警察官「ソクミタ」の物語。ロウソクはソクミタに片思いしていたが、悪の衝動を抑えきれずに殺めてしまう…。許されない過去と、変われない自分。悪が蔓延る国、「裏社会」を揺るがす、歪んだ恋の結末は…。

ソクミタの影は「星のはなびら」の番外編(短編小説)です。二章の関連作品で、前日譚です。荒花ぬぬ作品・星のはなびらを一切知らなくてもお読みいただける内容です。

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作品をお読みになる前に以下の注意事項を必ずご確認ください。異性同性間の恋愛表現、残酷な表現等を含みますので、自己責任でお読みください。

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心込めて作ったので、さいごまで読んでいただけると嬉しいです(●´ω`●)

本編「ソクミタの影3」(全六話/3ページ)

一話 綾小路家の秘密

半年くらい前のこと。

ロウソクは逮捕されたが、独房に入れられた直後に体調を崩し、倒れてしまった。意識を失ったまま数日が経ち、その後命を落としたことが報道された。

彼の言葉と真意は消えた。

もう、誰にも届くことはない。

ときめきとロウソクという柱を失ったことで、裏社会は衰退していく運命だ。

そして、その直後、もうひとつの柱が崩れた。

表と裏社会を牛耳っていた綾小路夏化(あやのこうじナツカ)とその一族が、炎に包まれてこの世から消えたのだ。

ーーー

ーー

綾小路一族は、巨大な企業をいくつも経営しており、この国の経済に大きな影響を与える企業グループとして知られていた。そのトップに君臨している人物こそが、綾小路 夏化(あやのこうじナツカ)だった。

ナツカは、信頼を集める華やかな経営者だったが、残酷な裏の顔があった。

ナツカは屋敷の別館に、若い人間を閉じ込めて特別な教育を施し、あんさつ者を育てていた。ナツカは罪のない人の命と、社会の裏と表の手網を握っていた。命を駆け引きし、国家ぐるみで行動し、生命と社会を牛耳っていたのだ。

ナツカは金銭欲、色欲、権力欲に取り憑かれた孤独な男だった。金の動きを見透かすことはできても、愛情は理解出来ず、女性達に裏切られ、捨てられ、置いていかれては悩んでいた。

しかし…ロウソクとときめきが出会う頃。ナツカもひとりの女性と運命的な出会いを果たして、過ごしていた。

ナツカが出会ったのは、花飾長柑(はなかざりちょうかん)。花飾長柑は、事実上の警察組織のトップだった。優しさと厳しさ、美しさを兼ね備えた彼女は、正義の化身と呼ばれる実力者だった。

しかし花飾長柑には人には言えない残酷な裏の顔があった。

彼女は若かりし頃から、ナツカに恋をしていた。テレビに映るナツカに憧れ、いつか彼と肩を並べたいと願い、彼を手に入れたいと願い…社会的な地位と権力、財産、美貌を求めて行動していたのだ。

ナツカの裏の仕事、暗黒の一面を知っても、彼女の夢は揺らがなかった。なぜか?それは、彼女自身も、既に欲望の悪魔に魂を売っていたからだ。

出世のために、金のために、権力のために、ナツカの心を手に入れるために…悪人と善人を手のひらの上で転がしていた。邪魔な者は裁き、使える者は吸収し、惑わせて惑わせて、故意に不幸を植え付けて…彼女は警察組織に私情を絡ませ、歪ませた。

彼女にとっての正義は、ナツカの存在、そのものだった。

とある悪人は「この小さな国は腐っている。俺のようなクズばかりが蔓延り、社会も秩序も崩壊している。潔白で真面目な警察官何てソクミタくらいだろう。」…と、呟いた。

花飾長柑とナツカは、秘密裏に結ばれた。誰も知らない社会の裏側で密会し、指輪を交換した。それぞれが支配していた世界と、愛を交わした。

ふたりはナツカの屋敷の中庭で、体をくっつけ、顔を近付けて話していた。中庭には立派な墓があった。その墓にはふたりの名前が刻まれていた。

花飾長柑「…なぁ、ナツカ。ときめきをどうするつもりだ?」

ナツカ「しばらく泳がせておこうかな」

花飾長柑「邪魔な奴だ。しかし、ナツカの言う通り、今は攻撃をやり過ごし、泳がせておくのが良いだろうな。ときめきは特別なことをしなくても勝手に消えていく気がする。私にはわかるんだ、彼女は私には勝てない。余裕がない女は、視野が狭いからな。ナツカには私という、秘密の毒蛇が巻きついている。ふふ…哀れな奴。」

ナツカ「邪魔?そうかな?あ、もしかして、…僕の元カノだから、嫉妬?ときめきとは何年も一緒に過ごしちゃったよ…。嫉妬してる花ちゃんを見られるなら、後悔する必要はないか」

花飾長柑「嫉妬、嫉妬、嫉妬、私は毎日嫉妬しているさ。私はナツカの過去も未来も、全てがほしい。お前の命も体も心も、私のものだ。本当はお前の五感を壊して、手足を縛って、閉じ込めてしまいたい。ああ、他の女には指一本、髪一本触れさせたくない。私だけを見ていろよ、どこにも行くな。逃げたらころすぞ」

ナツカ「どこにも行かないよ、だからころさないでね。ふたりで長生きしようねぇ〜♡」

花飾長柑「…よし、そろそろ仕事に戻る。ハルを頼んだぞ。」

花飾長柑はナツカの腕の中で眠っている幼い女の子…ハルの頭を撫でた。ハルはふたりが授かったいのちだ。

ナツカ「ハルはいつの日か、表と裏の社会を、欲しいものを、全て手に入れるんだ。誰よりも自由に生きるんだ。そのために、僕と花ちゃんの知識や能力は、全て教えてあげるつもり♪誰にも負けない密偵と暗さつ技術も、世論を動かす正義の心も、全てをね♪…僕はそのために、おじいちゃんになっても、働き続ける」

花飾長柑「そうだな、ふふ。おやすみ、ハル、ナツカ。安心して眠れよ。悪夢なんて存在しない、この星は私たちの手のひらの上にあるのだから。じゃあな♪」

やがてナツカと花飾長柑の関係は表社会でも発表され、ふたりは「理想の秀才夫婦」として祝福され、メディアを騒がせた。

誰も何も知らないまま。隠されたまま。星は変わらず、まわっていた。

ーーー

ーー

しかし、大きくなったハルは、ナツカと花飾長柑の残酷な秘密を疑問に感じた。両親が宿している、闇と光。悪と善。黒と白の心。

ハル(きっと私も悪として生きていくんだ。最強の悪人になって、口が裂けても言えないような大きな秘密を抱えたまま、幸せになる。支配者になる。それが自然な流れ。でも、このままでいいの…?)

(密偵を頑張るくらいなら、困っている人を助けることを頑張りたい)

(暗×を頑張るくらいなら、誰かを生かすことを頑張りたい)

(嘘の言葉で、皆の心を動かして、支配するなんて嫌)

(それが私の本当の気持ち)

(でも、どうすればいいのかな。正直な気持ちを打ち明けたら、ふたりは悲しむかな…。もしかしたら、ころされちゃうかな。)

(誰も信じられない。自分しか、信じられない。私って、ひとりぼっちなんだな。)

ハルは中庭で、そんなことを考えながら、ブランコをこいでいた。そんなハルのところへ、ハルと同じくらいの年頃の少年が近付いてきた。少年は、綾小路家の執事「ベーゼ」だった。

ベーゼ「ハルお嬢様、悲しい顔をして、どうしたのですか?…ほら、げんきだして。おいしいオレンジジュースをお持ちしましたよ。お父様とお母様がオレンジを沢山くれたので、ジュースにしたのです。ハルお嬢様に飲んでほしくて」

ハル「ベーゼ、ありがとう」

ベーゼはこの家で隔離されて育てられており、ナツカ達の闇を知らないたったひとりの存在だった。そして、ハルの友だちだった。真面目な執事は、こぼさないように注意しながら、コップにオレンジジュースを注いでいる。

ベーゼは大きなマスクをしている。恐ろしい顔、裂けた口を隠すために。ベーゼには秘密があった。人間ではない…口裂け男という怪異であるという秘密が。

うまれたばかりで行く宛もなく、さ迷っていたベーゼをナツカが連れ帰ってきたのだ。怪異の力を利用するために、優しい父親のフリをして。ベーゼはナツカと花飾長柑に懐いていた。

ハルはベーゼの素顔をこっそり見てしまったことがあり、ベーゼの秘密を知っていた。しかし、見なかったことにして、何も知らないふりをしていた。

ハル「おいしい!でも貰ったオレンジ、全部ジュースにしちゃったの?オレンジが余ってたら、そのままでも食べたいなぁ。丸かじりしたい!」

ベーゼ「すみません、余ったオレンジは俺が全て食べてしまいました」

ハル「あはは、ベーゼ、面白いね!食いしん坊♪」

ベーゼは恥ずかしそうに笑っていた。その後ふたりでブランコで遊んだ。それからベーゼは仕事をするために、屋敷の中へと戻って行った。

ーー

それから時が経ち、ハルは大人になった。

ある日の深夜。

気配を消して行動するのが得意なハルは、ナツカと花飾長柑の寝室の天井裏に隠れていた。眠れない夜は時々、好奇心にまかせて、ふたりの会話を盗み聞きして遊んでいた。

花飾長柑「ナツカ、あの化け物をどうするつもりだ。執事としては優秀だが、デカいし…あいつの正体が表沙汰になれば、面倒なことになると思うぞ。自由に行動させない方がいいんじゃないか?」

ナツカ「ベーゼのこと?あいつは今夜こ×すよ。はじめからそのつもりで捕まえて、育てていたし。丁度、今からベーゼを起こしにいこうと思っていたんだ。

僕が管理してる秘密の研究所、綾小路研究所(あやのこうじけんきゅうじょ)の研究員が言うには、あいつの内臓を使えば、人間の能力を一時的に向上させる、特別な薬品…魔法薬を作ることができるかもしれないらしいんだよ。ベーゼは十分育ったし、そろそろ収穫の時♪

綾小路研究所では怪異や悪霊について調べているんだ。未知の領域で、サンプルも少ない。捕まえるのも一苦労だ。でも、ベーゼは本物の怪異に間違いないから、期待出来ると思うよ」

花飾長柑「面白そうな実験だな。警察組織も、魔法薬や特殊能力を手に入れたいところだ。ハルには、ベーゼは留学するために旅立ったと説明しておくか。」

ナツカは懐に銃を隠し持っている。

ハルはふたりの会話を聞き終わる前に、ベーゼの部屋へと駆け出した。音をたてずに移動し、天井裏から部屋の中へと忍び込み、寝ているベーゼを叩き起した。ベーゼは寝ている時もマスクをしていた。

ハル「ベーゼ、起きて!やられちゃうよ!」

ベーゼ「むにゃむにゃ…ん?はるおじょーさま?むにゃむにゃ…すやすや」

ハル「起きてってば〜!」

部屋の外からコツコツと、足音が近づいてくる。ハルは決意し、廊下に出て、ナツカの前に立ちはだかった。

ハルもパジャマの下に銃を隠し持っていた。

ふたりは銃口を向けあった。ハルは引き金に指をかけた。

ナツカ「…は、ハル、こんなところで何をしているんだい。早く部屋に戻って。」

ハル「嫌だよ。ベーゼはわたさない。私はもう、逃げない、迷わない」

それから、本音と夢を込めた言葉をぶつけあったが、結局分かりあうことはできなかった。

ナツカ「続きは明日の朝に聞くよ。大丈夫、どんな話も、ゆっくり聞くから。僕の命ももう長くはないだろうし、ハルのためにできることは、どんなことでも協力したいと思ってる。

ハルにひとつでも多くのものをのこしたいんだ。そのために、仕事をさせてくれないか。

はぁ、早くサンプルを研究所に送りたいのに…研究員が待っているのに…。どうしようかな。」

ナツカは銃を向けていた手を降ろして、背を向けた。ハルはその背中に「大っ嫌い!」と泣いて叫んだ。

叫んだとき…勢いあまって、指に力が入ってしまった。乾いた破裂音。暴発。胴体を撃ち抜かれたナツカは地面に崩れ落ちた。

ハル「うそ、ぁあ…どうして、どうして!

違うよ。こんな、酷いことがしたかったわけじゃない。私は皆を助けたかったんだよ!

そうだよね、そうだといってよ、私。私は黒色じゃない…でも、きっと、白色にもなれないんだ。

怖いよ、心に灰色がまざって…こわれちゃうよ…。

ああ、…ダメだ、もうなにも出来ない。

全て終わらせよう。綾小路家はわたしがつれていく」

…ハルは屋敷のカラクリを操作し、扉の鍵を閉めて、火をつけた。何もかもが燃え盛る中、悲しみに暮れて、その場に立ち尽くしていた。

ハル(全て燃えてしまえばいい、皆も、私も…。悲しいよ、苦しいよ。)

その時、開かないはずの扉が蹴破られた。熱風が吹いて、火の粉が飛び散った。振り返ると、汗まみれのベーゼがいた。マスクをしているため、息をするのも苦しそうだ。

ベーゼ「ハルお嬢様、ここにいたんですね!大変です、火事です!逃げますので、俺についてきてください!

ああもう、わけわかんねぇ。スプリンクラーが作動してねぇのはどうしてだ?扉も壊さねぇと開かねぇんだ…。熱で溶けた影響か?オラオラッ

みんな避難出来てたらいいんですけど…とにかく逃げましょう。」

ベーゼはハルを無理やり抱えて、屋敷の外へと連れ出した。

ーそうして綾小路一族は炎の中に消えたー

ーハルとベーゼだけをのこしてー

ーー

ハルはベーゼと共に探偵としての活動をはじめた。重くて暗い秘密を背負っていても、みんなを助ける優しい人になりたい。頑張りたい。ハルは、そう決意したのだ。

ーー

二話 探偵と、ふたりの口裂け男

…探偵事務所(自宅・リビング)・今日の午前…

ハル「ベーゼ〜♪留守番と事務、それから…他の仕事全部!いつも通りお願いね♪じゃあ、いってきまーす!」

ハルは楽しそうに上着を羽織って、バイバイ♪とベーゼに手を振った。

ベーゼ「承知しました。ハルお嬢様、俺にまかせてくださいよ。ハルお嬢様のためなら、どんな仕事もやりますから。」

ハルを見送って部屋に戻り、ふとテーブルを見ると、ハルの財布とスマホとお弁当が置いてあった。

ベーゼはそれを掴み、「あっ、おい!忘れ物してますよ!」と、慌てて外に出たが、もうハルの姿は見当たらなかった。

ベーゼ「チッ、昼ごはん食えねぇなんて、心配だ。くそ、くそ、スマホまで忘れちまってるし、どうしたらいいんだ。走り回って探すか?俺は口裂け男だから、100メートルを数秒で走れるし…いや、それは目立つからやめておいた方がいいか」イライラ

ベーゼの大きな独り言が部屋に響く。リビングのソファで昼寝をしていたもう一人の男性が、「うるさいなぁ」と起き上がった。

彼の名前はポポタマス。数ヶ月前、ハルと仲良くなり、探偵仲間に加わった。三人はこの探偵事務所で一緒に暮らしている。

ポポタマスは少年だった頃。屋敷に忍びこんで遊んでいた時にハルと出会い、一度だけ話したことがあった。その時に一目惚れし、大人になっても一方的に恋をし続けている怪しい男性だ。ポポタマスは「もう一度会いにいきたいな」と思い、毎朝、毎晩、感傷に浸っていた。

ストーカー気質な彼はハルとベーゼの秘密についても知っていた。

探偵仕事も楽々とこなしてしまう器用な男だが、勝手にハル用のウェディングドレスを買ってくる。ポポタマスはハルを知り尽くして結婚するためだけに生きている…らしい。

ポポタマスはつけていたマスクをゴミ箱に放り投げて、新しいオシャレなマスクを取り出し、身につけた。実はポポタマスも、口裂け男なのだ。ちなみにポポタマスは怪異ではなく、口が裂けちゃって怖い顔をしているだけの人間だ。

ポポタマスとベーゼ、ふたりの口裂け男はハルを奪いあう恋のライバルだ。

しかしハルは探偵仕事に一生懸命で、ふたりを探偵仲間としてしか見ていない。

ハルは、ベーゼとポポタマスの顔を見ても、正体を知っても動じない。気にしない。どちらがかっこいいかということも考えない。

どちらかを彼氏にするつもりはない様子だ…。

ポポタマス「ハルちゃんが忘れ物したの?落ち着きなよ…はぁ。ベーゼは声が大きいからモテないんだよ。そろそろ自覚した方がいいと思うよ」

ベーゼ「うるせぇな、ソファに戻って一生寝てろ!!貴様のブサイクな顔を見ている暇なんかねぇんだよ」

ポポタマス「ベーゼの方がブサイクだよ!ばーかばーか!」

ベーゼ「ばーかばーか!」

ポポタマスは、ポケットからにんにくを取り出し、ベーゼに投げつけた。怪異の特性で、においの強いものが苦手なベーゼは、唸り声をあげた。怒ったベーゼは怪異の力で大きな鎌を出現させ、それをポポタマスに向けて脅した。

ポポタマス「怒ったもんね。そうだ!今夜、ハルちゃんとふたりで、ニンニク料理とシャンパンタワーでパーティしようっと♪探偵事務所をニンニクとお酒の香りで満たしてやる!」

ベーゼ「ふたりで!?抜けがけは禁止だって約束しただろうが!」

しばらく喧嘩した後、喧嘩をしている場合ではないと落ち着いて、話し合いをはじめた。今はハルに忘れ物を届ける方法を考えることの方が大切だ。

ポポタマスは「僕って頼りになるんだよ、ベーゼと違ってね」と、言いながら、スマホを操作し、怪しい地図アプリを開いた。

ポポタマス「ハルちゃん、バス停に向かってるみたい。でもまだバスには乗ってないね。コンビニに寄り道してるよ。僕の足だと間に合わなさそうだけど…ベーゼは怪異だし走るの早いから、今すぐ追いかけたら、手渡せるんじゃない?」

ベーゼ「それなら良かった。いや、待て。貴様、どうやってハルお嬢様の居場所を調べたんだ!?」

ポポタマス「ハルちゃんにこっそり発信機つけてるんだ。((小声)盗聴器とカメラもね)。ほら、早く行かないと間に合わないよ!!

…僕は探偵の仕事を適当に片付けておくよ。早く終わらせて、ポエム付きラブレター書こうっと♪今日はハルちゃんを何に例えようかな」

ベーゼ「ああ!?ああもう、覚えとけよ!!行ってくる(怒)」

ポポタマス「行ってらっしゃ〜い♪」

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三話 朝の香り、御約束山

ある日の早朝(半年以上前)

高齢の男性が、とある社(やしろ)に立ち寄った。背後にある大きな山「御約束山(おやくそくやま)」をご神体とする、静かな社だ。信仰深い彼は、家族の幸せを願ったり、日頃の感謝を伝えたりするために、毎朝の散歩の途中に、必ずこの場所に立ち寄る。

広くはないが、のどかな景色が目に優しい。鳥の鳴き声。歩くと、落ち葉が擦れる音が聴こえて癒された。木製のベンチに腰掛けて、一息つく。

そろそろ行こうかと立ち上がった時、ひとりの男性がやってきたので、声をかけた。

高齢の男性「おはよう。こんな朝早くに若い人が来るなんて、珍しい。散歩かい?」

やってきた男性の姿をよく見ると…、ネクタイを締めており、特別なデザインの制帽を被っていた。裏社会を調査する警察官だ。

高齢の男性「散歩じゃないよな…パトロールか。お疲れ様。」

警察官「おはようございます。はい、パトロールをしています。…散歩も兼ねて。それ、いい香りがして美味しそうですね、近くに売っているのですか?」

警察官は私が持っていた、「飴湯」が気になる様子だ。ここに来る前に自動販売機で購入したものだ。毎朝買って、飲んでいる。

高齢の男性「飴湯だよ。知ってる?生姜の香りがする甘い飲み物さ。二本あるから、一本あげるよ。そこの自動販売機で売ってるんだ。冷やしても美味しいよ」

警察官「ありがとうございます。いただきます」

警察官の男性は嬉しそうに受け取って、美味しそうに一気飲みした。幸せそうで、なんだか嬉しい。

高齢の男性「頑張ってね。えっと…」

警察官「わたしはソクミタといいます」

高齢の男性「ソクミタさんか。応援してるよ」

ソクミタは誇らしげに、帽子を被り直して微笑んだ。

ソクミタ「大きな仕事をする前は、必ずここに立ち寄るんです。あの山をみると、なんだか安心するので。ここはパワースポットとしても、人気があるそうですね。隠れた名所だと思ってます。ははは。

…ごちそうさまでした。では、わたしはこれで」

ソクミタは、正義感と決意を胸に、走り出した。今日も仕事を頑張ろう。

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