【星のはなびら2~対決☆タコタコタコ星~】12話

おれ(ふうが)はゆずはに謝った。ゆずはは、はじめて見るくらいの、大粒の涙をポロポロと流しながら、「謝らなくていいよ」と言って、おれを抱きしめてくれた。

ゆずは「ふうが…帰ってきてくれて良かった、ありがとう。オレの方こそごめん、守ってあげられなくてごめん。これからは絶対に、心も体も離さないから。」

ふうが「ありがとう。ゆずはが大切に想ってくれているかぎり、おれはふうがという存在でいられるはずだから、おれもこれからは諦めないように頑張る。

ゆずははいつも、おれに、ここにいていいよって言ってくれるだろ?その優しい想いが届いたから、記憶を取り戻せたんだと思う…多分!

おれは永遠にゆずはの友だちだし、どんなときも隣にいたい。ゆずはもそう言ってくれるか?……。…。」

ゆずは「当たり前だよ、オレはどんなときも、ふうがを想ってる。

…ふうが、下を向いてどうしたの?」

ふうが「…実は、おれ、過去の記憶を取り戻したんだ。知らなかったことまで、全部思い出しちまったんだ。」

ゆずは「え!?本当に?」

ふうが「ああ。この霊界に来たときのことも、生きていたときのことも、しんでしまったときのことも。本当の家族のことも…ッ!…全部、押し寄せてくるんだ」

重くて痛い、辛い。こんな気持ちははじめてだった。おれの心は平静を失って、表情も涙も言葉も、ぐちゃぐちゃに乱れて、押さえられなくなった。

それでもおれは、この感情を理解したいと思った。今なら、理解できると思った。

…おれは間違えていたということを。

霊界と心の外にある、現実を。

受け止めたい、向き合いたいと思った。

ふうが「おれは今までずっと、他の人の宝もののことを考えたことが無かったんだなって、気が付いた。

ゆらめきや、ささめきの気持ちなんて、考えたことなかった。

おれをころしたあいつが、何者なのかもわからなかったし、あいつがおれのせいで失った宝もののことを、考えようともしなかった。

お母さんのことも、お父さんのこともわからないままだった。

おれはいつも自分のことばかり考えていた。誰の言葉も聞かなかった。それでいいと思っていた。

…だから。誰とも友だちになれなかったし、ずっと孤独だったんだ。家族を守ることも、罪を償うことも出来なかった。そんなおれだから、全部失った。

悲しいし…取り戻したい、何もかもを無かったことにしたいとは思うけど、許されたいとは思わない。こんな複雑な気持ち、知りたくなかった…でも、安心した。知らない方が怖かった。

イフは、ゆずはの心を折るために、おれの記憶に手を加えたんだと思う。意地悪なことをしたんだと思う。他にも色々考えていたのかもしれないけど。

…なぁ、ゆずは。ゆずはは、おれの気持ち、わかってくれるか?これからも、一緒にいてくれるか?手を貸してくれるか?」

ゆずははすごく驚いた顔をしていたけど、「大丈夫、わかるよ」と、おれの手を両手で強く握った。

ゆずは「わかるよ、オレもずっと、罪の意識と後悔を噛み締めて生きてきたから。でもオレたちはひとりじゃない。オレにはふうががいて、ふうがにはオレがいる。

オレはふうがに手を貸し続けるし、許すと伝え続けるし、どんなことがあっても受けとめる。一緒にいる。それが、おれとふうがの愛なんだ。

心を強く保って、自分を見失わないで。オレを見ていて。」

ふうが「おれは、ゆずはにも酷いことをしたんだ。大切なものを、横取りしたんだ。それでも…?」

ゆずは「1000年前から知ってるし。それでもオレは、ふうがを愛してる。守りつづけると決めたんだ。

…イフと会って怖い気持ちになって、ふうがと離れ離れになって寂しい気持ちになって、オレも、もっと強くなりたいと思ったんだ。霊魔法のことじゃなくて、自分自身と向き合わなきゃいけないと思った。

もっと、ふうがのことを信じられるようになりたいんだ。離れていても、信じつづけられるくらい、強い心で信じてみたい。だから、ふうがもオレに手を貸してほしい。これからも、ずっと」

ふうが「ゆずは、ありがとう。うん、おれたちは大丈夫だ」

感謝の気持ちを込めて、おれはゆずはを抱き寄せた。その後、振り返って、さくら達の方を見た。

ふうが「さくら、オキ、ユニタスもありがとうな!」

ゆずはも、さくらもオキも、ユニタスも、強くて優しい表情で、頷いてくれた。

オキが興奮を抑えきれない様子で駆け寄ってきた。

オキ「ふうが、僕の方こそ、ありがとうの気持ちでいっぱいなんだよ。やっと真相がわかったから!

僕は僕を作ってくれた星の化身のことお君の、妹…とおこという人を探しているんだ。とおこを取り戻すために、僕とことお君は破壊に明け暮れていた。

ふたりが教えてくれた情報は、大きな手がかりになった。

とおこは宇宙の外に攫われた。そして、未来予知する力を持っていた。

きっと、イフに…金魚八に攫われたんだ!」

おれは、イフと出会ったのは怖い経験だったけど、オキの力になれたのなら良かった!と笑った。

ーーー

おれ(ふうが)とゆずはの様子をみて、さくらも安心したみたいだ。「ふたりのこれからについては、心配しなくてよさそうだな。」と、背中を叩いてくれた。

さくら「ふうがさんが眠り続けているっていう問題は解決したな、良かったぜ。…新しい問題も見つかったけどな」

ユニタス「ふうがさんのことは心配いりませんよ。僕に名前をくれて、励ましてくれた、強くて優しい人ですし」

さくらは肘でユニタスをつついた。

さくら「新しい問題っていうのは、お前のことだよ。ユニタスだっけ?俺はお前のことが心配なんだ…大丈夫なのか?心配なこと、不安なことがあるなら、今のうちに話しておけよな。」

ふうが「ユニタスの名前はおれがつけたんだ。ユニタスにはおれがついてる、頼ってくれ!」

ユニタス「ありがとうございます、さくらさん、ふうがさん。タコタコタコ星のみなさまも、星の化身の力を持っているもう一人の僕も、きっと僕を受け入れてくれると思いますよ。個人的にはタコタコタコ星のレッドデビル☆カンパニーで働き続けたいという気持ちが強いので、今後についてはタコダイオウさんと社長に相談してみます。きっと大丈夫です」

オキ「僕も大丈夫だと思う。ロボットがひとつ増えても、皆、気にしないと思うよ。ふうがはこの霊界から出るつもりはないんでしょ?ユニタスのことは僕らに任せてよ」

ふうが「…で、でも…本当に大丈夫なのか?もしも、タコタコタコ星の星の化身が、自分のそっくりさんと一緒にいたくない!とか言って、ユニタスを星から追い出しちゃったらどうするんだ。その時はさくらの星に住めるのか?オキの星に住めるのか?

おれが名前つけたのに、ひとりぼっちになっちまったら悲しいよ。」

ユニタス「ふうがさん…」

ふうが「…元の宇宙に帰れるのかどうかも心配だ。帰れたとしても、おれには確かめようがないんだ。心配し続けることしか出来ないんだ。」

ユニタス「…」

少しの沈黙。揺れるひまわり畑。

今日の霊界は懐かしい空気で満ちている。1000年以上前、ゆずははおれに「雨」を見せてくれた。本物の雨にうたれて遊ぶはじめての体験は、今もキラキラと輝いている。そのことが忘れられない。その頃の景色にそっくりだ。

…今ならこの気持ちを話せる気がした。いつの間にか心に宿っていたこの気持ち。

新しい景色を見るために。強くなるために。ゆずはと、新しい一歩を踏み出したい。打ち明けたい。

おれは決意して、ゆずはに向き合って、考えていたことを話しはじめた。

ふうが「ゆずは。さくらやオキ、ユニタスが、宇宙から宇宙へ移動して、元の宇宙、元の時間に帰ることは、簡単じゃない。それにはゆずはの、霊魔法が必要不可欠なんだ。

ゆずはは、生身で時空のトンネルってところに出て、さくら達を助けたのか?」

ゆずは「おもちゃの電動キックボードを使ったんだ、壊れちゃったけどね」

ふうが「ゆずはがおれに作ってくれた、おもちゃの電動キックボードか。宇宙の外でも動かせたんだな。あれはおもちゃだったから、壊れちゃったんだと思うぞ。

ゆずはが本気を出せば、もっとすごいものが作れると思う。時空のトンネルの中を動きまわれる、宇宙船とか!」

ゆずは「宇宙船か。いいアイデアだね、作れる気がする!」

ふうが「でも、それを作った後、どうする…?そのことも話し合うべきだ。さくらたちに宇宙船をプレゼントして、見送ってそれでおしまいか?

もしも時空のトンネルの中で宇宙船が故障したり、敵に襲われたりしたらどうする?

イフが邪魔をしにくる可能性もあるぞ。

さくら達はイフや金魚八の存在を知っちゃっただろ。だから、イフが口封じのために、さくらたちの宇宙にやってきてもおかしくないんだ。それだけじゃない。さくら達の宇宙ごと消そうとするかもしれない。

…情報は、どんな状況も変えてしまえるような、命に関わるような、強い武器なんだ。金魚八はまさに、情報を武器にしている組織ともいえる。過去の情報を独り占めしようとしてるから。

さくらたちの力になるのなら、おれは最後まで責任を持ちたい。

だから…宇宙船には、おれとゆずはも乗り込むべきだ。

今のおれとゆずはなら、外に出られる。心も体も、整っている。今なら出来るはずだ。」

ゆずは「…外に出る!?そんなことできない!、ふうがを霊界の外に出すなんて、ここから出るなんて…オレはしたくない。ここはオレとふうがの永遠の楽園なんだ、ここから出れば、オレたちはまた不幸になる!オレはふうがを守りたい。」

ふうが「それでも!何もせず霊界にいたら、イフが来るだけだ。連れていかれて、霊界は消されちまうだけだ!そんなの、嫌だろ。

今、イフと戦ってもどうせ負ける。おれたちは行動しなきゃいけない。おれとゆずはと、思い出がつまった霊界を守るために。

霊界の空間を操れるゆずはなら、宇宙船に霊界ごと乗せることもできると思う。例えば、霊界を小さくして入れ物にいれて、持ち運ぶのはどうだろう。宇宙船を動く霊界みたいにしても面白いと思うぞ。

さくらたちを元の宇宙に送り届けた後も、おれとゆずはと霊界が乗った宇宙船は、旅を続ける。時空のトンネルを泳ぎ続ける。過去から未来へ、宇宙から宇宙へ。

イフも時空のトンネルを使っていると思うし、時空のトンネルを旅して、パトロールすることは、さくらたちの宇宙を守ることにも繋がると思う。

仲間のことを考えて行動してみたいんだ!やってみたいんだ!

なぁ、ゆずは…。」

ゆずは「…。うん、わかってる、大丈夫。…。さっき、話したばっかりだよな…オレはふうがに手を貸すし、どんなことがあっても受けとめるって。

強くなりたい、ふうがを信じたい。

しんじたい。

この気持ちは本物だから、言葉だけじゃなく、行動したい。オレも、行動…したいんだ!

……。

…。

…よし。オレにまかせて。

ふうがの作戦通りにやってみよう。かっこいい宇宙船を作って、旅に出よう!」

さくら「マジかよ、最高じゃねぇか!俺も手伝うぜッ」

オキ「皆でがんばろう!ことお君の発明品K(ことお)-時空逆転マシーンの構造も、参考になると思う。中身は空っぽになっちゃったけど、この発明品は時空のトンネルで作動したし、役に立ったんだ!」

ユニタス「僕とオキさんの体の構造もきっと役にたちますよ」

オキ「ユニタスは、僕よりも安定して飛んでいた気がする…僕とユニタスの体の仕組みに違いがあるのかも。それも調べようよ」

ーーー

元の宇宙に帰るため、新しい一歩を踏み出すため。さくらたちは力を合わせて、宇宙船を作りはじめた。

力をなくしてしまったオキも、自分を見つけたばかりのユニタスも…いつの間にか、心は前向きに燃えていた。不安は弾け飛んでいた。

皆で書き込み、床いっぱいに広がっていく設計図。もしも魔法が尽きてしまっても飛び続けられるように、大切なものを守る盾となれるように、耐久力にこだわった。

力を合わせて、重い部品を組み立てていく。

ひまわりの香り、朝日の香り。風がふいている。

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