【星のはなびら2~対決☆タコタコタコ星~】13話【次回で完結予定☆←勘違いでした。完結は次々回】

朝礼で「ゆずは」や「クロサキ」、「カチョロ」について説明し、「コメット」を閉じ込めている建物に取り付けている南京錠を交換したイフは、金魚八本部の自室に戻って来た。

やっとひとりになれた。イフは壁にもたれて、ずるずると座り込んだ。

イフ(少し疲れた)

疲れると、つい、あのことを思い出してしまう。

イフ(……アルコンスィエル。)

…母親と父親のことを、思い出してしまう。

イフ(アルコンスィエルの傷が癒えた日、夕焼け空の下、大木の下で。ワタクシはアナタと父親のコウゲイに、コメットの「あの言葉、ヒミツ」を全て打ち明けました。

しかしアルコンスィエルとコウゲイは、ワタクシとは違い、恐れなかった。

とても、とても強かった。

アルコンスィエル「…あなたは間違っている。それはあなた自身が一番分かっていることだろう?コメット先生やセカイ中の生きもののためにも、そのヒミツを公表しなさい。そして、金魚八を解散しなさい。

そうすれば、最悪の事態は防ぐことができる…わたしはそう思う。」

コウゲイ「公表すればあなたは、罪人となるだろう。それでも勇気を出すんだ、それが罪を償うということだから。悲しい思いをした生きものに寄り添い、反省し、心を入れ替えて尽くすのだ。どんなことがあっても、僕とアルコンスィエルは君のそばにいる、運命を祈り続けるから。」

イフ「このヒミツを世界に公表する?ワタクシに人柱になれと?最悪の事態を防ぐことができるなんて言えるのは、あなた方が何もわかっていないからだ。

…コメットをころし、宇宙を支配するしかない。その方法を見つけるしかないんだ。多くの者を犠牲にすることになっても、ヒミツを隠し通さなければ、生きものは明日を見失ってしまう。

ヒミツを明かし、許しを乞う…それで軽くなるのはワタクシの罪悪感だけ。アナタたちは何もわかっていない…同情なんて、いらない。」

アルコンスィエル「先生を支配するなんて、無理だろう!ヒミツはいつか暴かれる。逃げずに、向き合うしかないだろう!」

コウゲイ「人柱だなんて…。ぁあ…。」

アルコンスィエル「…どうすることも出来ないなら、同情くらいはさせてくれよ。わたしたちはあなたを、愛しているのに。あんなことをしてしまっても…あなたはわたしたちの子どもなんだ。」

風に吹かれて緑が揺れる。木漏れ日が、それぞれの涙を照らした。

イフ「…こんなこと、ワタクシも望んでいない。愛していると言うならば、アルコンスィエル、ワタクシに深海の力をわたしなさい。」

イフはアルコンスィエルとコウゲイを魔法の杖でなぎ払い、切っ先を向けた。アルコンスィエルはコウゲイを守るように、立ち塞がった。

アルコンスィエル「…すまないが、これだけはわたせない。深海の力には魔力と技術が必要だが、何より重要なのは、愛情なんだ。それがないと、乏しく弱いままで、良い使い方はできない。

星の民のため、星のため、宇宙のため。セカイのため。そんな大きなものよりも、たったひとつのいのちを守りたいと願うような、ひたむきな愛と勇気が、奇跡の力を生み出すんだ。

今のあなたには扱えない。

…きっと、今のわたしも、扱えない。」

アルコンスィエルは、体を横方向に滑らせるように動き、イフの魔法の杖を避けた。その動きを読んでいたイフは袖に隠していたナイフを三本投げた。

アルコンスィエルは二本避けたが、最後の一本は避けきれず、手のひらに突き刺さった。裂けた手のひらから、青色の血がどくどくと流れた。

アルコンスィエルはふらついて、うずくまった。顔をあげると、目の前に、イフの魔法の杖の切っ先があった。

コウゲイ「ア、アルコンスィエル!僕らじゃ勝てない…!」

イフ「アナタの魔力は瞳に宿っている。体を動かせば、その瞳ごと切り裂く。」

アルコンスィエル「…瞳を切り裂く程度のことでは、わたしの魔力、愛情は尽きないさ。しかし、言葉も想いも何ひとつ届かないな。…あなたと戦いたくはないのに。」

イフ「記憶を消して、遠い宇宙へと去りなさい。そうすれば、戦わずにすむ。」

アルコンスィエル「できない。力が惜しいからではないよ…あなたのことを忘れたくないからだ。わたしたちがあなたのことを忘れてしまえば、あなたはセカイを敵にまわしたまま、永遠に孤独になってしまう。

…わたしたちはこれから遠い宇宙へと旅立つことにする。追わないでくれ。

このバーミリオンとサファイアブルーの瞳は美しくて強いだけではない、誠実で心優しい魅力も秘めているんだ。わたしは振り返らない、この瞳で未来を見つめ続けるよ。見つめ続けた先にはきっと、あなたの居場所があるはずだから。奇跡を願って、わたしたちも生きるから。

いつか、この言葉の意味がわかる時がくるだろう。その時まで、さようなら。

ずっとずっと愛している。」

アルコンスィエルとコウゲイは去って行った。その後ろ姿をイフは、空っぽの心で見つめていた。

アルコンスィエルは深海の宇宙に降り立ち、「藍色の家族の星」の星の化身となった。

…まさかクロサキと黒色の戦闘の星が、アルコンスィエルとコウゲイを倒してしまうなんて思わなかった。思わなかった。思わなかったんだ。ありえないと思っていた。家族は消えてしまった。しかしそのおかげで、ワタクシの心は冷えきって、一欠片の迷いも無くなった。

これでよかった、これでよかったんだ。…ワタクシは何も間違えていない。

孤独は、心の安定剤だ。自由で、身軽で、心地良い。

…しかし、心配事は増えていくばかりだ。南京錠は壊れていなかったから良かったが。

ふうがの心を操作されたゆずはが、金魚八に復讐するためにやってくるかもしれない。

どうしよう。

クロサキが好奇心にまかせて、コメットを解放しようとするかもしれない。

どうしよう。

魔法が得意なカチョーロチロムの魂は、ワタクシを恨んでいるのだろうか。

どうしよう。

深海の宇宙に住む「からす」は何者なのだろう。からすはどうして、深海の力によく似た力を扱えると噂されているのだろう。ありえないことなのに。

どうしよう。

どうすればいい。

何もかもを消さなければ。支配しなければ。

そうするしかない。

ああ、どうしようどうしようどうしよう。

このままでは…。

イフ「このままではッ!!!」

怒りに任せて壁を殴りつけた時、扉が開いた。

イフ「…ッ!…、「とおこ」ですか。ノ…ノックをしなさい。」

優美なドレスを身にまとった女性が、長い裾を気にしながら部屋に入ってくる。イフのことは気にしていない様子だ。

とおこ「イフさん。あちらのお部屋にある大きなディスプレイで、クロサキさんの様子をみていましたのだけれど。お兄様のそっくりさんが登場しましたのよ。」

イフ「…とおこさんが、あんなものを観たのですか?その通り、あれはあなたの兄のことおではなく、そっくりさんです。あの星も、アナタの星ではない。

アナタの星は自然豊かで建物も多く、社会的なところなのでしょう?ことおも、自分の星を荒野にしたり、戦闘ロボットを作ったり他の星を侵略するような生きものではないのでしょう?

あんな下品なもの、観ない方がいい。」

とおこ「そうね…、映画は見慣れないから、少しだけ疲れてしまいましたわ。

お兄様は趣のある庭園で、お池を見ながら、ししおどしの音を聞くのが好きなの。

お部屋では、集めた陶磁器を眺めて、楽しんでおりましたわ。楽器を奏でるのもお上手ですのよ。

ああ、久しぶりにお兄様の三味線が聴きたくなりました…そろそろ緑色の発明の星に帰ろうかしら?」

イフ「もう少しここにいてください。楽器ならワタクシが弾きましょう。さぁ、こちらへ。」

とおこ「イフさんが楽器を…?」

イフはとおこを、小さな電子ピアノが置いてある隣の部屋に案内した。イスを持ってきて、座らせた。

イフ「最後にピアノを弾いたのはいつ頃だったか…思い出すことも難しい。」

どこからか楽譜を持ってきて、覚束無い様子でピアノを弾き始めたイフを見て、とおこは思わず微笑んだ。金魚八本部にたどたどしい音色が広がる。

とおこ「うふふ、素敵ね。お兄様のそっくりさんを観て、寂しくなりましたの…、でももう少しだけ、この「豪華客船 金魚八」の宇宙旅行を続けようかしら。

美しいドレスや美味しいお料理がたくさんありますし、ここでの生活は、心をくすぐられることばかりですわ。贅沢で、まるで、夢のよう」

とおこは扇子を取り出し、なめらかに扇いでいる。

イフはとおこの未来予知能力を恐れて、緑色の発明の星から金魚八に連れ去ったが…とおこの独特のお嬢様キャラと夢見がち能天気パワーに押されてしまい、嫌な思いをさせないように気を使ったり、金魚八のことを豪華客船だと説明して誤魔化したりしていた。

イフ「…未来の出来事を予知しましたか?」

とおこ「ええ、しましたわよ。昨夜、未来を予知する内容の夢をみました。でもねぇ…今日予知した内容は、特に不明瞭でしたわ。記憶も曖昧で…お伝えしてよいものか…。他人の夢の話ほどつまらないものはない、とも言いますでしょう?」

イフ「夢の話を共有すると関係が深まるとも言いますよ」

とおこ「…お優しいのね。

今朝は、イフさんが個性的な装いの男性と、握りこぶしでファイトをしている夢をみましたわ。皆さんお困りの様子でしたわよ。」

握りこぶしでファイト…?心配事がひとつ増えたイフは「用事を思い出しました」と言って立ち上がり、早歩きで部屋から出た。

窓から外を眺めて、人知れず大きなため息をついた。

イフ「…はぁ。誰かワタクシの用心棒になってくれませんかね」

理由はわからないが…誰も幹部になりたがらない。秘書にもなりたがらない。用心棒になりたがる者もいないだろう。立候補されても、自分の首を狙っていると疑ってしまう。

志のない、弱い者に任せるくらいなら…。

イフは部下を呼び止めて、「今すぐサンドバッグとグローブを用意しなさい。」と指示した。

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