星のはなびら一章【夢から覚めて現実を受け入れる】

【夢から覚めて現実を受け入れる】

胸に手を当てて考える。オレの素直な気持ちって何だろう。

ささめきに一緒に生きようと言えたらよかった…でもオレは言えなかった…だから、そんな強くて優しい言葉を心から言える自分に変わりたい。夢と妄想に耽って寂しがり屋の獣のままでいるのは楽だ…楽だけど流されていては、また自分を、誰かを苦しめることになるだろうな。

ささめきのことを思うなら、変わりたいなら、現実に帰らなきゃ。もうささめきはいない、その現実と罪を受け入れたい。決意したら心が軽くなった…もっと素直になればいいんだ、心の底から素直に…。

きっとオレは今、病院で眠っているのだろう。無理心中をはかった…傍から見ればそんな風に見えるだろうか? だけど夢から覚める方法が思いつかない…もちろん頬をつねっても駄目だった。自分の腕にフォークで小さな傷をつけてみたことがあったけど、痛みもあまり感じず、血も出なかったな。

(結構多めにのんだからな…睡眠薬)

その程度の痛みでは瞼は持ち上がらないのだろう。この夢から覚めるのは、簡単なことではないのかもしれない。考えて考えてオレは黙り込んだ。

「オレ、妄想癖があるんだ。睡眠薬を飲むと、夢と現実が曖昧になって気持ちがいいんだ。オレは今夢を見てる。警察がオレを見つけるまでの間、オレを起こすまでの間…変なおばけと友達ごっこする夢を見てる…愛した人と会えない、そういう夢を見てるんだ」

「友達「ごっこ」…?」

「うん、本気になんてなれないよ。オレの世界はささめきだけ」

…不安になってふうががキッチンまで来る。泣きそうな顔をしている。

「寂しいこと言うなよ…おれ、ごっこ遊びなんてしてない!」

「…、はぁ…オレ、変なこと言っちゃった?ごめんふうが、忘れてくれる?」

「え?う、うん…ゆずは、どうしたんだ?悩み事か?」

「そう、悩み事。ふうがには悪いけど、オレ、この夢から覚めたいって思ってるんだ、この霊界から出たい」

「まだ夢とか変なこと言ってるのかよ、おれもこの霊界も夢じゃないぞ!頑張っても出られないって言ってるだろ、永遠におれと一緒」

辺りを軽く見渡すとシンクに包丁が見えた。あれで胸を突き刺してみたら、痛いかな…夢から覚められるかな。オレはふうがを押しのけて、それに手を伸ばし、握った。

ここは夢の中…ためらいなく突き刺した。あまりの痛みに、苦しさに、涙も涎も溢れてきて、初めて聞くような自分の声が絞り出た。

「ゆずは???ゆずは!!!」

ふうがは動揺し、オレの名前を叫びながら、激痛で倒れ込む体を支えた。

「…はぁ、はぁ…えっ?」

傷口から溢れ出てきたのは赤い液体ではなく、大量のバラの花びらだった。舞い上がる赤い花びら。こんなにも痛くて苦しいのに、まだ意識ははっきりとしていて夢から覚める気配はない。

まだ足りないんだ、もっと体を傷つけなきゃ。体を切って痛めつけることには慣れている…。より深く突き刺そうとした時、ふうがはオレの握りしめている包丁を乱暴に抜き取って、霊力で消した。

「絶対動いちゃだめだぞ!!!」

傷口を必死に抑えながら、溢れ出て舞う花びらを片手で集めている。

「ゆずはの馬鹿!この花びらには、ゆずはの自我とか記憶とか…つまり心が宿ってる。空っぽになったら、壊れちまうぞ!」

「は、離せよ…どうして止めるんだよ…」

「どうしてって、それはゆずはが友達だからだ。【素直な気持ちで、心から信じあえる友達になりたい】からだ。おれはゆずはと友達ごっこなんてしたくないからな!!!」

ふうがの瞳が、言葉が震えていた。オレの不要な特技が見透かす。ふうがは今、自然に【嘘】をついた。

本心じゃない、偽物の言葉。オレが気が付かなかっただけで、ふうがはこれまでも嘘をついたことがあったのだろうか。でも、こんなにもくっきりとした嘘をつく存在だなんて思ってもいなかった。

ふうが、オレと本気で友達になりたいとは思えてないの?何か、隠していたりするの?…突然、ふうがに人間らしさを感じた。オレの心、夢、妄想から切り離された独立した心を感じた。オレは何か、大きな勘違いをしているのかもしれない。

「くそぉ、片手じゃ間に合わねぇ!ゆずは、自分で傷口を抑えてろ!いいな?おれがなんとかして花びらを集めて、体ん中にもどしてやるから…」

虫取り網を作り出し、飛び回って花びらを集め始めるふうが。オレは…

↓物語が分岐します。ひとつ選んでお進みください↓

夢から覚めるために傷口をおさえない

ふうがの言う通り、傷口をおさえる

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