【星のはなびら2~対決☆タコタコタコ星~】最終話(15話)・中編①

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少し前の メイド喫茶での出来事

ほめと、ちわた、まちる

コック早乙女、たんぽぽ

ちえる店長、ぴぴよん、モジ

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ほめと達はカチョロの周りに集まって、ディスプレイ(クロサキとマシロによるデスゲームの様子)を観ていた。

さくらとオキ、ユニタスが帰ってきて、マシロとクロサキは改心し、デスゲームは終了した。クロサキが魔法の手鏡を使ってイフと話し合った後、生中継は終了した。

ほめと「終わったみたいだね。はぁ〜、超怖かった。でも、本当に良かったね。皆助かったみたいだし、悪いやつは改心したし。」

ちわた「タコパチさんも社長も、超カッコイイなぁ。感動しちゃったから、オレ、レッドデビル☆カンパニーに復職することにする。もっと強力な魔法の掘削機を開発したいし、やり残した仕事がいっぱいあるし!社長と話したい。サインくれるかなぁ。」

レッドデビル☆カンパニー社員のちわたは、侵略や戦い、デスゲームという状況に慣れているため、大きな恐怖は感じていない様子だ。まちるは、ちわたの手のひらをニギニギ握って、応援している。

ぴぴよん「も〜さいあく、タコタコタコ星ってホントに物騒!私、デスゲームの生中継観るの、人生で三回目だよ?えーん、怖かった〜」

モジ「…ぐすっ(泣)…早く家に帰りたい。」

ちえる店長「モジ君、ピピヨン、大丈夫大丈夫。もう怖いことは起きないよ。皆、そろそろお家に帰りな♪。家族が心配して待ってると思うよ。早く顔見せて、安心させてあげなよ。」

コック早乙女はまだ不安そうにしていた。コック早乙女とたんぽぽは、怖い生中継を観ないようにして、ずっとカチョロのマントの中に隠れていたのだ。ふたりは心配そうにマントから出てきた。

コック早乙女「カチョロさん、もう安全なんですか?」

たんぽぽ「お家に帰って、ご飯食べたいよ。」

カチョロは何も言わずに座り込んで、下を向いて、じっとしている。考え事をしている様に見えるが…優しいたんぽぽはすぐに気が付いた。

たんぽぽ「カチョロさん、震えてる、怖いの?」

たんぽぽはカチョロをよしよしと撫でた。

ほめと「えっ、カチョロ、大丈夫?……そうだよな、そりゃ怖いよな。タコタコタコ星にずっと住んでるオレたちは、こういう状況に慣れっこだけど、カチョロは最近来たんだもん。怖いに決まってる。

カチョロ、大丈夫。オレとカチョロは、その……恋人だろ?

だから、えっと…カチョロは、オレが守る!!

ほめとはカチョロの、四本ある手を、順番に握った。しかし、カチョロの手は震えているままだ。

ほめと「ホントだって、マジだから!オレが守るから!オレ、カチョロのこと、好きだから……!だから、頼ってほしいっていうか…!」

モジはほめとの少し不器用な愛の告白を見て、「かっこいい」と、瞳をキラキラさせている。ちわたは「ひゅ〜♪」と口笛を吹いた。

カチョロは、顔がついている仮面をくるりと回した。カチョロの瞳から、涙がポロポロとこぼれた。

カチョロは、ほめとの手のひらを撫でながら泣いていた。

ほめと「カチョロ……。」

その様子を見た皆も「大丈夫だよ」と声をかけて、カチョロの隣に座った。

ほめと「ちえる店長、もう少しだけ、ここにいてもいい?」

ちえる店長「もちろんだよ、いくらでも、ゆっくりしていくといい。家族に無事だって連絡するんだよ。モジ君とピピヨンは、いつでも退勤していいからね。とにかく皆、無理しないで。」

モジ「今、家族に連絡しました。僕も、もう少しここにいたいです。」

ピピヨン「私もここにいるよ。」

ちえる店長「うんうん。」

……カチョロが、何かつぶやいた。一番近くにいるほめとにしか聞こえないくらいの、小さな小さな声で。

ほめと「……?」

カチョロ「ごめんね ごめんね

僕は弱い生き物

守りたい 守れない 怖い 怖い

イフが怖い。 」

ほめと(イフって、クロサキっていう奴と手鏡で喋ってたボスっぽい奴……?)

ほめと「カチョロは弱くないよ。自分のことを弱いって思っちゃうのは、優しい証拠なんだよ。ホントに大丈夫だって、オレが守るから!」

カチョロ「…。」

ほめと「……オレ、やっぱり頼りないかぁ。

ごめんな、恋人を泣き止ませることもできないなんて、オレ、悔しいよ。頼ってもらえる彼氏になるには、どうすればいいんだよ〜!

やっぱり筋肉が足りないのかな?う〜ぅ!」

カチョロ「ち、違うよ!頼りないなんて 思わないよ…!」

その様子を見たコック早乙女は、たんぽぽに小声で話しはじめた。とても真剣な様子だ。

コック早乙女「たんぽぽサマたんぽぽサマ、カチョロさんは、モジさんがやっていたのと同じ、ツンデレをしているのかもしれませんね…。ツンが強すぎるのかもしれません。」

たんぽぽ「素直じゃないってこと??」

ちわた「なるほど!カチョロ、甘えたり、頼ったりするのに慣れていないタイプなのかも。」

コック早乙女「ええ。力になりたいので、わたくし、おふたりに声をかけてみます。」

コック早乙女はカチョロとほめとに声をかけた。

コック早乙女「カチョロさんッ、早くデレないと!!」

カチョロ「???」

ほめと「???」 

その時、強烈な閃光が走った。

地面がガタンッと大きく揺れた。炎が窓ガラスを割って入り込んで、店の半分を吹き飛ばした。爆発音。皆吹き飛ばされた。

何者かが、メイド喫茶に魔法爆弾を投下したのだ。

ちわたとまちるは空を飛び、体勢を立て直した。ちわたは高速移動して、壁に叩きつけられる前に、ほめとを受け止めて守った。

ほめと「い、痛ってぇ〜」

ちわた「なんだなんだ〜!?」

ちえる店長は、持ち歩いている折りたたみ式の魔法の傘を広げて、ふわりと浮いて、体勢を立て直した。そこにピピヨンが飛んできて、ちえる店長はなんとか受け止めた。

ちえる店長「モジ君は!?大丈夫!?」

モジ「だ、大丈夫です、ここにいます!」

モジはまちるに助けられていた。まちるはモジを抱えてふわふわ飛んでいる。

モジ「助けてくれてありがとう」

たんぽぽの大きな声が聞こえた。

たんぽぽ「コック早乙女さん、コック早乙女さん、大丈夫?痛いの?起きてよ!」

たんぽぽを庇ったコック早乙女は壁に叩きつけられてしまっていた。床に倒れたまま、ぐったりとしていて返事をしない。皆がその様子を見て、顔色を青く変えた時、コック早乙女はパチリと目を覚まして、コック帽を被り直しながら元気に起き上がった。

コック早乙女「平気ですよ。この衣装は、衝撃を吸収する特別製の防具なんです。わたくしの防御力は五つ星でございます。」

たんぽぽ「よかったぁ。コック早乙女さん、すっごくつよいんだね!」

ほめと「あれ?カチョロは!?」

ほめとはカチョロがいないことに気がついて、慌てて探した。

カチョロは倒れていた…。仮面と角は力を無くして、床に転がっていた。ボロボロのマントは萎れており、端の方がジリジリと燃えていた。カチョロは魔法爆弾の爆風に巻き込まれてしまったのだ。

ほめとは慌てて駆け寄ったが、カチョロは苦しそうな表情で、ウンウンと唸りながら眠っていた。

ほめと「ち、ちわた、回復魔法を!早く!頼むよ!」

ちわた「わかってる……あ、あれ?うまくできない!この魔法爆弾、なんかヘンだ。オレの回復魔法が効かないなんて…!」

ほめと「そんな……カチョロ、しっかりしてよ!」

ちわたが敵の気配を察知して、穴が空いた天井を…夜空を見上げた。怪しい宇宙船が浮かんでいる。

ちわたの頬に、赤色の光…レーザポインター…がチラついた。長距離射撃魔法武器「暗黒溶(あんこくとく)」が狙いを定めているのだ。

ちわた「わわ!スナイパーがいる。皆、気をつけろ〜!」

赤色の光は、カチョロの方へと動いた…。

ちわた「ほめと、狙われてるのはカチョロだ。な、何とかして皆で逃げなきゃ、このままだとボコボコにされるって〜ッ。」

ほめと「ちわた、いつもみたいに戦えないの?」

ちわた「無理だ、無理無理。さっきの魔法爆弾、変な魔法で作られてるみたいで、回復魔法が効かないんだ。レッドデビル☆カンパニーよりも、すっごくすっごく強いってことだ!新入社員のオレが、ひとりでなんとかできる相手じゃないよ。ああもう、どうしよう、どうしよう!」

ほめと「く〜ぅ」

コック早乙女はコック帽を床に叩きつけた。モジはコック早乙女が怒っているのだと思った。…が、違ったようで。

コック帽は宇宙船へと姿を変えた。

コック早乙女「皆サマ、乗ってください!わたくしの宇宙船「金魚八(きんぎょばち)」です。狭いですが、全員乗れるはずですから。さあ、逃げましょう!」 

ほめとは泣きそうな顔をしながら、大きくて重いカチョロを持ち上げようと頑張っている。コック早乙女はほめとの元へと駆けつけて、片手でひょいっとカチョロを持ち上げた。

コック早乙女「ほら、早く乗って!」 

全員宇宙船に乗り込んで、発進した瞬間、

メイド喫茶は魔法爆弾で大爆発した。

窓からその様子を見たモジは、声を上げて泣こうとしたが、ちえる店長が「も、モジ君、大丈夫!!」と、安心させた。ちえる店長はモジに、ブレスレットをみせた。

ちえる店長「私の店はこの魔法のブレスレットに収納できる、持ち運び式のものなんだ。宇宙船に乗り込んだ時に収納したから、お店は無事だよ。パーツは沢山あるから、壊れたところも直ぐに直せる。」

ぴぴよん「と、とにかく、大丈夫ってことだよね?もうやだぁ、一体何が起きてるの〜?」

モジ「…ぼ、僕も、こんなのはじめてだよ。はぁ、地面がどんどん離れて行く。……あ、雲だ、手が届きそう。」

モジとぴぴよんは、窓を覗き込みながら、目をうるうるさせている。

ほめと「カチョロ!しんじゃったりしないでくれよ、絶対!」

カチョロ「…?」 

ほめとに何度も呼びかけられ、カチョロは目を覚ました。回復魔法で体の傷を治してから「ここはどこ?」と見渡した。宇宙船の中は狭く、灰色一色。コンクリートの壁に囲まれている様な無機質なデザインで、埃まみれで薄暗かった。(コック早乙女のセンスはあまり良くなかった。)

カチョロ「まさか、牢屋……?」

ほめと「ち、違うよ、コック早乙女さんの、金魚八っていう名前の宇宙船だよ!」

操縦席ではちわたとコック早乙女が必死に操縦している。

ちわた「コック早乙女さん、もっとスピードでないのかよ!これじゃ、あの変な宇宙船に追いつかれるって〜!」

コック早乙女「ああどうしましょう…安物なので、遅いんですよ。わたくしの料理店の売り上げは雀の涙。高性能な宇宙船は、手が届かなかったのです。無理にスピードを出そうとすると、壊れてしまうかもしれません。」

カチョロは窓から外の様子を確認した。夜空を切り裂くスピードで、追ってきているのは、金魚八 イフ(イフクーン)専用の宇宙船だった。 イフの宇宙船はどんどん近づいてくる、迫ってくる。

ちわた「どんどん迫ってきてるよ、何とか距離をかせがないと、ぶつかったらおしまいだ。この宇宙船、戦闘機能はあるのか?」

コック早乙女「あるわけないでしょ!わたくしは星から星へと旅する料理人なんです、戦うだなんて考えたこともありません。こんな時、師匠ならどうしますかね……ああもう、わかりませんッ。あ、そうだ。クラクションを鳴らしてみます?逃げていくかもしれませんよ。」

プップー!プップー!プップー!

プップー!プップー!プップー!

プップー!プップー!プップー!

イフは逃げるどころか、イライラして、コック早乙女の宇宙船に、長距離射撃魔法武器「暗黒溶(あんこくとく)」の魔法光線を、撃ち放った。

バン!バン!バン!全ての攻撃が、宇宙船に命中した……が、コック早乙女の宇宙船の外装は「鏡」で出来ていたため、跳ね返って無傷だった。

ちわた「キセキ的にノーダメージ!コック早乙女さんの防御力ヤバいな!」

コック早乙女「ええ、防御力は五つ星ですから。料理の腕前も。」

カチョロ(ぅう…、そんな。嘘だ 嘘だ。イフが僕を連れ戻しに来たんだ。

イフの秘密は秘書の僕だけが知っていた。イフは恐ろしい力を隠し持っていた。暗黒の力と絶望の破片。逆らえば、宇宙ごとほろぼされてしまうかもしれない。

怖いよ、怖い

怖い

怖い

やっぱり僕は弱いんだ

自由にもなれないんだ

生きることも、愛することも、許されないんだ

もう、嫌だ、嫌だ

大切な灯火が消えてしまうのを見るのは嫌だ

涙をみるのは嫌だ

こんなにも悲しいのに、見ていることしかできないなんて

怖くて、どうしても、なにもできないなんて

そんな自分が 嫌だ 嫌だ)

もう、どうすることもできないと思い、声をしのばせて泣くカチョロ…ほめとは手を握り続けていた。

ほめと「カチョロ、宇宙船から出ようとしたらだめだからね。何があっても、ここにいてよ。」

カチョロ「…どういうことかな?」

ほめと「カチョロって超優しいから、…その…なんて言うか、遠いところに行っちゃいそうな気がして、心配になっただけ。」

カチョロ「……そんな勇気もないよ。」

ほめと「も〜!カチョロ、さっきからずっと、ひとりぼっちみたいな顔してる。オレのこと、オレ達のこと、信じてよ。オレたち好き好き同士だろ、たまには弱いところ見せてくれたっていいじゃん!」

カチョロ「……ほ、ほめと君。で、でもね、。……でも。でも。」

ほめと「オレのこと、好き?」

カチョロ「好き、だよ?」 

ほめと「うん、良かった。

なんだよ、あの宇宙船。マジでムカつくよな、オレのカチョロを怖がらせて、ケガさせるなんて…ぜったい許さない。追いかけてくるなよな。

よーし、オレがお仕置してやるもんね!

ほめとは宇宙船の天井の天井扉を開けて、顔を出した。そして、ぴょんっと、宇宙船の外に出て行ってしまった。

カチョロはびっくりして追いかけようとしたが……ほめとの「宇宙船から出ようとしたらだめだからね。何があっても、ここにいてよ。」という言葉を思い出し、迷い、ためらった。

ちわた「オレもいく!まちるちゃんもカモン!、一緒にやろう。カチョロはモジさん達のそばにいてやってくれ!」 

ほめとに続いて、ちわたとまちるも外に出て行く。

カチョロ「えっ、えっ…わ、わ、わかった。わかったよ。できることを、やってみるよ。」

カチョロはたんぽぽ達の近くに座った。たんぽぽは嬉しそうにカチョロと手をつないだ。

たんぽぽ「安心する!」

カチョロ「うん、大丈夫 大丈夫 だよ。」

ちえる店長「心強いよ、ありがとうね。カチョロさん。」

ぴぴよん「モジ君、窓から外の様子が見えるよ。一緒に、まちるちゃんたちを応援しようよ♪」

モジ「うん。僕とぴぴよんさんは魔法は全然できないしなぁ…応援を頑張ろうっと。」

ぴぴよん「え〜?でも私達はメイドだから、美味しくなる魔法はかけられるじゃん♪立派な魔法使いだよ。」

モジ「そっか!ふふ。」

たんぽぽ「ほめと先輩、大丈夫かなぁ〜。どんな魔法を使えるのかな?生クリームを泡立てたり、チョコレートを溶かしたりする魔法を使ってるところしか見たことないけど……。」

カチョロ(……僕も、とても心配。)

宇宙船は雲を切り裂くスピードで進んでいる。ほめと、ちわた、まちるは不安定な足場と強風に負けずに、宇宙船の上に立っていた。イフの宇宙船は、頑張れば飛び移れそうな距離まで迫っていた。

ほめと「お前もでてこーい!もしかして、オレたちのことが怖いのかか?やーい、弱虫〜!」

ちわた「おっ、出てきた。」

イフ(イフクーン)も宇宙船の外へと出てきた。挑発されて怒っている様子だ。長距離射撃魔法武器「暗黒溶(あんこくとく)を持っている。

ちわた「あいつ、おでこに変な黒色の宝石がついてる。よくわかんないけど、多分強敵だ!」

…敵の正体は絶望のイフだった。真金魚八のさやらんが、カチョロを捕まえるために、絶望のイフをひとり派遣していたのだ。カチョロを捕まえた後は、額に絶望の破片を埋め込んで、心を暗転させようと計画していた。

絶望のイフは暗黒溶をちわたに向けて、迷うことなく撃ち放った。

瞬きさえ許さないスピードで、星を切り裂く魔法光線が迫ってくる。

ちわたは迷わず足元を攻撃した。まちるは剥がれて浮き上がった宇宙船の外装…鏡…を魔法で操り、盾に変化させた。ちわたはその盾で、攻撃を一直線に跳ね返した。

しかし、絶望のイフにはお見通しだった。絶望のイフはポケットから魔法の手鏡を取り出した。そして、攻撃を跳ね返してきた。ちわたも素早い動きでそれを跳ね返した。ちわたと絶望のイフは、テニスをするように、魔法光線をラリーしている。

ちわた「まちるちゃん。あいつの宇宙に飛び移ろうぜ!」

まちるはうなずき、魔法で空中にハート型の足場を浮かべた。ちわたは魔法光線を何度も打ち返しながら、足場を飛び移り、絶望のイフとの距離を縮めていく。

そしてついに、ちわたとまちるは絶望のイフの宇宙船に飛び移った。

ちわたは懐からタコ型のステッキを取り出した。(タコ型のステッキはレッドデビル☆カンパニーの貸し出し品だ。タコ型の魔法道具はタコタコタコ星で大流行している。ステッキを使うと、魔法をコントロールしやすくなるといわれているが、その効果は薄く、殴る用の鈍器として使われることが多い。)

ちわたは絶望のイフにステッキを振り下ろした。絶望のイフは暗黒溶でその攻撃を受け止めて、弾き返した。武器がぶつかり合って火花が散った。それでもちわたは何度も何度もステッキを振り下ろした。カキンカキン、ガッ、カキンッ、カキン!絶望のイフは暗黒溶を刀のように扱い、弾く。弾く。

ちわたのスピードはどんどん速くなっていく。目で追えなくないくらいの速さと勢いで、暗黒溶にステッキを振り下ろし、傷をつけていく。

ちわたは暗黒溶を真っ二つにして、壊してしまおうと考えていた。武器が壊れた瞬間は誰だってびっくりする、きっと敵は油断する。

しかし、暗黒溶は想像以上に硬く、丈夫だった。それでもちわたの心は燃えていた。

……レッドデビル☆カンパニー社員(新人)のちわたの主な仕事は、魔法の掘削機の研究と開発だった。そのため、実戦経験はほとんどなかった。魔法の掘削機狙いの泥棒と戦ったことがあるくらいだ。しかし月に一度のタコダイオウによる「戦闘魔法☆ボコボコ研修」はとても厳しかったため、戦い方は自然と身に付いていた。

……ちわたはタコダイオウの実力と、仕事に対する向き合い方に怯えていた。仕事好きのタコダイオウはいつも寝ずに働き、星から星へと移動し続けて、戦い続けて、話し続けて……、研修の際には、「狙う場所、力の入れ加減に注意して、僕を本気で殴って壊してみてください」と、自らサンドバッグになって部下を教育することもあった。

タコダイオウはいつも真面目で落ち着いているのに、サンドバッグになるときはいつも「ヴッ、痛ッ、イタッ!く、苦しいッ、……しかし部下は確実に成長している!!痛ッ、ぐっ、やりがいを感じますね!!働くって最高ッ」と言いながら、体をビクンビクン♡させていた。(ちわたたち社員は知らないが、タコダイオウは星の化身&ロボットで、サンドバッグになることくらい、余裕のことだ。タコダイオウは真面目に研修をしているつもりだった。)

しかし、ちわたはドン引きして怯えてしまった。ちわたは不気味なタコダイオウと、将来のことを、ほめとに何度も相談した。ほめとは「もっとユルい会社に転職したら?」と背中を押した。色々あってちわたは転職を決意した。そして退職届を提出したのだ。

しかし、レッドデビル☆カンパニーという会社は一度入社すると退職できない。生活と健康をしぬまで支える会社なのだ。(労働基○法は社長のイカパチが決める。勝手に辞めたつもりになって出勤しなくなっても、お給料はしぬまで振り込まれ続ける(毎月150タコ万円)。半年に一回健康診断がうけられる(強制)。本人だけでなく、友だちや家族も一緒にうけられる。住むところが貰える。食べ放題の食堂がある。敵に捕まってごーもんを受けそうになった時は、本社に現在地が自動送信されるアプリもある。しにかけたら、自動で大爆発する機能付き。)

しかし、タコタコタコ星にはこんな噂がある。レッドデビル☆カンパニー社員は仕事を辞めたとしても、結局はみんな、もう一度レッドデビル☆カンパニーで仕事がしたくなって、帰ってくるという噂だ。……レッドデビル☆カンパニーは一度入社すると「ヤミツキ☆」になってしまうのだ!

人のために、星のために。魔法を練習し、心と体を動かして、どんどん強くなる自分。星から星へ駆け巡る、忙しくて新鮮な日々の繰り返し。命がけのその仕事は、スリル満点。そのスリルは中毒性抜群で気持ちがよく……意識せずともアドレナリンがドバドバになっているのだ。

(※ちなみに、誰よりもドバドバのヤミツキ☆になっているのは、タコダイオウである。社長に振りまわされてしんどい、もう辞めたいと思っても、ヤミツキ☆だから辞められない。本人はレッドデビル☆カンパニーのヤミツキ☆になっていることを、あまり自覚できていないため、色々と苦労している。)

ちわたはこの瞬間、アドレナリンがドバドバになっていた。

その時暗黒溶に、ヒビが入った。

ちわた(今だ……!!)

絶望のイフに手が届きそうな距離まで近付いた瞬間、ちわたはタコ型のステッキをイフに向けた。まちるはちわたの魔力を増幅するサポート魔法をかけた。

ちわた「爆発魔法 ちわた☆ストーンをくらえ〜!」

まちる「やっちゃえ!」

しかし……。ちわたが魔法攻撃を仕掛けようとした時、絶望のイフはニヤリと笑って、拳を握りなおした。指の間からは、暗黒の力のオーラがじわじわと漏れ出ていた。絶望のイフは暗黒の力で、ちわたを殴ろうとしている。大きく振りかぶった、その時。

絶望のイフの体が、一秒だけ静止した。

誰かが「一瞬だけ体の動きを止める魔法」を使ったのだ。たった一秒…しかし、その一秒のおかげで、ちわたは攻撃を避けることができた。

ちわたとまちるは足場をジャンプして、コック早乙女の宇宙船の上に戻ってきた。

ちわた「危なかった〜、あいつのパンチをくらっていたら、人生終了してたかも。戦って勝てる相手じゃなかった。ほめと、ありがとう!」

一瞬だけ体の動きを止める魔法を使ったのはほめとだった。ほめとはやる気満々の様子だ。

ほめと「お前なんか怖くないもんね。オレの大事な恋人と友だちを攻撃したんだ、…謝っても許さないけど、謝れよ!」

絶望のイフは何も言わずに、ほめとに銃を向けて脅した。

ほめと「うわぁ!?」

ほめとは体を丸めて震えている。

ちわた「ほめと、あの魔法銃の攻撃は怖くないぜ。オレが跳ね返せるから大丈夫。でも戦ってもぜったい勝てない。だから、追い払う方法を考えよう。」

ほめと「おっけー!」

絶望のイフ「……恋人?ほめと?なるほど、アナタがカチョーロチロムが会いたがっていた、人間ですか。

ふふふ、絶望の破片を使う必要もなさそうだ…。アナタをころせば、カチョーロチロムの心は暗転し、自ずと屍になるでしょうから。セカイ中のどこに逃げても運命は変わらない。馬鹿で助かる。使いやすい生き物だ…。」 

ちわた「あいつ、超物騒なこと言ってるぜ…。ほめと、無理するなよ。マジで無理するなよ。あんなやつの言うことなんて聞くな!」

ほめと「なんて言ってるの??立ってるのが精一杯だし風が強いし、あいつが何話してるかなんて、全然聞こえないんだ。」

ちわた「あいつ、オレたちのことをバカだって言ってるんだ!」

ほめと「バカって言った方がバカなんだ!」

ほめとは胸元につけていた四葉のクローバーの形のブローチを取り外した。そのブローチは、お父さんとお母さんがくれたお守りだった。お守りには魔力が保存されている。お父さんとお母さんはほめとが子どもの頃から、ピンチのときはその魔力を使って逃げなさいと、ほめとに言い聞かせていた。

絶望のイフ「命を失うのは恐ろしいでしょう?カチョーロチロムを差し出しなさい。ワタクシに従えば、助かるかもしれませんよ。」

ちわた「ほめと!あいつ、カチョロを要求してる!」

ほめと「連れてこいってこと?ぜったい嫌だよな。」

絶望のイフ「逆らいますか?そうですか。では、消えなさい。あなたの命が終わる瞬間を、カチョーロチロムの海馬に焼き付けてしまいましょう。恋人の亡骸を抱くあの子の、絶望的な泣き顔を見るのが楽しみ。」

ほめと「ちわた、あいつ、何て言ってる?」

ちわた「〇ねバカうんちって言ってる!」

絶望のイフ(言ってねぇよッ。)

ほめとは絶望のイフを睨みつけた。

ほめと「……なんなんだよ。なにがしたいんだよ。

カチョロはお前を怖がって、泣いてるんだぞ。カチョロが怖がって泣くなんて…。カチョロが自信をなくして、あんな風に泣いている姿なんてはじめてみた。だから、オレ、びっくりしてるし、すごく悲しい。

…カチョロは難しい魔法もつかえるすごい奴なのに、全然調子に乗ってなくて、誰に対しても優しいんだ。いつも穏やかで、大人っぽくて、美人なんだ。オレ、そういうカチョロしか知らなかった。

でも、なんで泣いてるかは、すぐわかった。

おまえのせいだろ!

カチョロ、イフのことを怖がってた。イフってお前の名前だよな?

…イフ、カチョロをいじめていたんだろ!!!

カチョロが怒ったり言い返したりしないからって、ひどいことを言ったり、ひどいことをしたりしたんだろ!!

魔法って難しいんだよ。きっとカチョロは、見えないところでいっぱい努力していたんだよ。そんなことを、想像しようともせずに…、大人しいからって弱いって決めつけて見下す奴…オレ、そういう奴のこと、大っ嫌いなんだよ!

きっとカチョロは我慢してたんだ。言えなかった気持ちがいっぱいあるんだ。

だから、オレが、カチョロのかわりに言い返してやるもんね。」

ほめとの声は、宇宙船の中にいる、カチョロたちにも届いていた。

カチョロはほめとの言葉を聞いて、心がいっぱいになっていた。自分のかわりに、イフを怒ってくれる生き物がいるなんて。ほめとや仲間たちは…カチョロが思っていたよりも、ずっとずっと、強くて頼もしかった。

ほめとはブローチをぎゅっと握って力をこめた。魔力を輝かせて、自分の魔法を強化した。ほめとは絶望のイフに向けて、一瞬だけ体の動きを止める魔法を放った。

絶望のイフ「な、なんなんだあの魔法は!?……クッ、体が動かない……!」

ほめと「大成功!でも数秒しか止められないと思う。爆速で逃げよう!…あれ?」

宇宙船は速度を落とし、ゆっくりと静止した。絶望のイフの宇宙船には自動運転機能がついており、停止したためぶつからずに済んだ。二つの宇宙船はふわふわと空中に浮かんでいる。

ちわた「な、何やってるんだよ、コック早乙女さん!今なら逃げられるって!スピード出して〜!」

宇宙船の中からコック早乙女が、申し訳なさそうに出てきた。

コック早乙女「残念ですが、金魚八(コック早乙女の宇宙船の名前)が壊れてしまいました。やはり、重さとスピードに耐えられなかったみたいです。」

ほめと「何だって〜!?…あ!ヤバい、魔法解けちゃった。あいつ、また動き出しちゃうよ。」

絶望のイフ(き、金魚八…!?!?)

コック早乙女は宇宙船が壊れてしまったことが相当悲しいようで、絶望のイフのことは気にせず、話し続けている。

コック早乙女「本当に残念です。実はこの金魚八は二代目で、最近手に入れた物だったのです。新金魚八がこんなに早く、壊れてしまうなんて。困りました。ぅう…。」

絶望のイフ(真金魚八…!?)

コック早乙女「修理するのは難しいでしょうね。新金魚八の内部が爆発して、中枢が砕けてしまっているので。」

絶望のイフ(真金魚八の内部が爆発!?中枢が砕けた…!?まさか、さやらんの身に何かあったのか?)

コック早乙女「金魚八は解体することにします。まだ仕事ができそうな重要なパーツは取り出して、売って、お金に変えてしまいましょうかね…。

大丈夫です!わたくしは仕事人ですので。しっかり稼いで、三代目の金魚八なんて、簡単に手に入れてみせますよ。」

絶望のイフ(三代目の金魚八ってなんだ!?ワタクシの知らない金魚八があるのか…???)

コック早乙女「三代目の金魚八の名前は何にしましょうかね。金魚が好きなので、金魚の種類にちなんだ名前がいいですね。そうだ!元気に宇宙を飛び回って欲しいという願いを込めて…

「コメット」にしましょうかね。」

絶望のイフ「き、貴様、何者だ!!??」

絶望のイフは勘違いして想像を膨らませて、コック早乙女に恐怖を感じていた。慌てて魔法の手鏡を取り出し、さやらんと話そうとしたが、手鏡は壊れてしまっており、使えなかった。ちわたと戦ったときに、割れてしまったのだ。

絶望のイフは息を荒らげながら、魔法銃をコック早乙女に向けた。絶望のイフは「質問に応えろ!!」と叫んだ。

絶望のイフは「ウワァア〜」と叫びながら、焦る気持ちにまかせて、引き金を何度も引いた。コック早乙女に向けて暗黒溶が撃ち放たれた。空間を切り裂く魔法光線が何発も、何発も迫ってきたが……。

コック早乙女は「へっくちーッ!!」と大きなくしゃみをして、…攻撃はたまたま、一発も当たらなかった。

絶望のイフ「チッ、魔力と弾が切れた……。」

たんぽぽ「ねぇねぇ、宇宙船こわれちゃったの?」

たんぽぽ、ぴぴよん、ちえる店長も宇宙船の外に出てきた。

モジ「えっと、…皆、大丈夫?」

モジとカチョロも外に出てきた。カチョロは勇気を出し、皆をさがらせて、一番前に立った。

カチョロ「…、僕が知っているイフじゃない。」

絶望のイフの姿を見て、カチョロは驚いた。そして瞬時に理解した。金魚八と深海の宇宙で、何が起きているのかを。

カチョロ(額にあるのは絶望の破片。……まさか、イフは利用されていたの!?真金魚八はイフを、金魚八がある宇宙ごと複製して、絶望の破片を回収していた…?なんて、なんて、酷いことをするんだ……。イフはとても冷たいけれど、魂の灯火と感情をもっている生き物なのに。

絶望の破片のことを知っているのは、僕とイフと真金魚八の組織員、幹部のさやらんだけだったはず。そしてコメットさん……だけど、コメットさんはまだ目覚めてはいないだろうし、これはきっとさやらんの仕業。さやらんは魔法が得意で、嘘が得意。こんなこと、さやらんにしかできないよ。

僕は知ってる、……さやらんは……、イフを恨んでいた。

僕が落としたと言われている強力な絶望の破片を管理していたのはさやらんだったはず。さやらんの好きにさせたくないよ……。

今すぐ時空の流れを観察して、真実と状況を把握しよう。

時空のトンネルを自力で飛んで、宇宙を行き来できる魔法使いは限られている。真金魚八がある宇宙はきっと、さやらんが時空のトンネルの深層に隠してしまっているだろうし……誰かがさやらんの居場所を突き止めたとしても、僕がいなきゃ、たどり着けないかもしれない。

このままだと、大切な宇宙が壊されてしまうかもしれない。

悲しみに沈められてしまう前にいかなきゃ、とめなきゃ。

……おねがい、勇気をだして、僕。

ずっとずっと何も言えなかった。選ぶことも、行動することもできなかった。押し付けられて、否定されて、悔しくて、…それでもどうしようもなくて、悲しかったよね。

悲しみを我慢するのに慣れてしまっていたよね。いつも見ているだけ、謝るだけ、泣いているだけの自分。臆病な自分。…僕は自分のことを愛するのが苦手だった。勇気も、自信もなかったから。

でも、ほめと君はそんな僕のために、言い返してくれた。

僕はもう、ひとりじゃないよ。僕はもう、僕だけの僕じゃないんだよ。

僕の悲しみは、ほめと君たちの悲しみでもあるんだ。

悲しみを受け入れて、我慢してばかりでは何も変えられない。

ほめと君と仲間たちを愛している。人間を、生き物を、宇宙を愛している。

その気持ちと同じくらい、自分のことも愛して、行動してみたい。)

カチョロは立ち向かうことを決意した。カチョロはイフの瞳を見つめた。しかし絶望のイフはカチョロたちを無視して、宇宙船の中に戻って行った。

絶望のイフ(雑魚と遊んでいる時間はありません。早く真金魚八に帰って、さやらんの様子を確認しなければ…!ああもう、イライラする!)

絶望のイフの宇宙船は、絶望の破片で時空のトンネルへと瞬間移動して、輝いて消え去った。ほめとはガッツポーズした。

ほめと「よし!よくわかんないけど、あいつ、逃げていったぞ〜!」

ちわた「なんだか焦ってる感じだったけど、なんで逃げていったんだろ??」

たんぽぽ「きっと、お腹痛くなっちゃったんだよ。」

ちわた「あ〜なるほど、トイレに行ったのか。それなら納得。」

モジ(あんなに強くて怖そうな人も、慌ててトイレに行くことってあるんだな…。)

カチョロ「皆のおかげだよ、本当にありがとう。」

カチョロは壊れた宇宙船を撫でているコック早乙女に、話しかけた。

カチョロ「コック早乙女君。この宇宙船、えっと…き、金魚八を修理してもいいかな?僕の魔法で。」

コック早乙女「しゅ、修理出来るんですか!カチョロさん、ぜひお願いします!」

カチョロ「ありがとう。まかせてね。」

カチョロが宇宙船に魔法をかけると…宇宙船が大きく、広くなった。外装は何層も重ねられて強化され、黄金色に輝いた。内部にはアンティークなデザインの絨毯、ベッドやソファ、テーブル、おもちゃ箱が設置され、温かみのあるライトが全体を照らした。古いエンジンは、全宇宙の技術が使われている最新型に変えられた。もちろん操縦席もピッカピカだ。皆は口をぽかんと開けながら、カチョロの魔法を見ている。

カチョロ「修理できたよ。今までよりも、丈夫になって、スピードも出るようになったからね。宇宙船の中も修理したから、見ておいで。」

コック早乙女「わぁ〜!ありがとうございます!見てきます。」

コック早乙女たちはウキウキ気分で、宇宙船の中へと入った。

ほめと「これが…しゅ、修理?本物の修理ってすっげぇ〜!全然違うじゃん。高級ホテルみたいだ。」

ちわた「高級ホテル行ったことあるのかよ?」 

ほめと「ないよ!イメージだよ、イメージ!」

まちるは大きなベッドに飛び込んで、ゴロゴロしながら遊びはじめた。ちわたも布団にくるまった。

メイドさんたちはソファに座って、ポヨンポヨンでふかふかな感触を楽しんでいる。

たんぽぽ「コック早乙女さん、見てみておもちゃ箱があるよ。わ〜、ぬいぐるみだ〜。」

たんぽぽはおもちゃ箱の前に座って、ひよこのぬいぐるみを手に取った。ぬいぐるみを動かしながら、裏声でコック早乙女に話しかけた。

たんぽぽ「コック早乙女さん、こんにちは!ピヨピヨ」

コック早乙女も隣に座り、ニワトリのぬいぐるみを手に取って動かした。

コック早乙女「たんぽぽサマ、こんにちは!コケコッコー!」

楽しそうな皆の様子を眺めながら、カチョロはほめとにふたりきりで話したいことがあると、声をかけた。

ほめと「え、何?…じゃあ、宇宙船の外で話す?風強いけど。」

ほめとはカチョロと一緒に天井の窓を開けて、外に出た。カチョロはほめとが飛ばされないように、小さな肩を抱いた。

カチョロ「ありがとうね、ほめと君。」

ほめと「ふ、ふたりきりで話したいことって?……。ぅう。」

ほめとはカチョロのマントの端っこを握った、そして、フルフルと震えはじめた。先程まで元気そうにしていたほめとが、泣きそうになっている…どうして?カチョロはびっくりして、ほめとを泣きやませようと、強く強く抱きしめた。

ほめと「いたたたッ、カチョロ、待って!骨折れる!ぅ、ガッ!ウガッ、ぐっ」

カチョロ「!?、ごめんね。力を入れすぎてしまった。大丈夫?痛くない?」

ほめと「だ、大丈夫、もう痛くないよ。セーフ…。

ああもう、カ、カチョロ、何も言わなくていいよ。言わないでほしい!察してるから!オレは大丈夫!ぅう〜…。」

カチョロ「…ほめと君、どうしちゃったの?」

ほめと「だって〜!恋人とふたりきりで話すって…、別れ話ってことでしょ?きっと、オレ、今から振られちゃうんだ〜!悪いやつは逃げていったけど、オレは超弱かったし頼りなかったから…。カチョロをがっかりさせちゃったのかなって…。」

カチョロは体をいっぱい動かして、全力で否定した。

カチョロ「違うよ、違う!そんなこと、違うよ!

あのね、あのね。僕はずっとずっと、ほめと君のことを愛しているんだよ。ほめと君とお別れしたいなんて、何があっても思わないよ。僕は人間のことが大好きだよ。生き物を、宇宙を愛しているよ。でもね、ほめと君だけは、特別なんだ。特別な愛情を感じているんだ。この宇宙、この時間、今、目の前にいるほめと君のことが大好きなんだ。ほめと君じゃなきゃ、嫌なんだ。絶対、ぜったい、手放したくないよ。

大切に育てたいよ。同じ星の空気を吸って、生きていきたいよ。僕はね、」

言葉があふれて、話し続けるカチョロを見て…ほめとは泣きやんで、今度は笑いはじめた。

カチョロ「…ほ、ほめと君??」

ほめと「あはは。だってだって〜、こんなに早口で、いっぱい喋るカチョロを見たのははじめてだったから…。可愛いなぁって思って、なんだか嬉しくなっちゃったんだ。オレ、幸せだなぁって。…マジでごめん、変なこと言って。冷静に考えたら、別れ話なんかするわけないよな。オレたち好き好き同士なのに。」

カチョロ「そうだよ。びっくりしてしまったよ。」

ほめと「それで、話したいことって何?」

カチョロ「お礼を伝えたかったんだよ。ほめと君、僕を守ってくれてありがとう。勇敢で、心優しくて、かっこよかったよ。

ほめと君と出会えて、恋人になれて、僕は…新しい自分を見つけられた。少しだけ、強くなれた。自分のことを好きになれたんだ。ほめと君のおかげだよ。」

ほめとは照れくさそうに、こちらこそありがとうと笑った。カチョロはその様子を見て安心し、遠い宇宙を見つめた。

カチョロ「…ひとつ、お願いしたいことがあるんだ。」

ほめと「お願い?」

カチョロ「僕、これから、行かないといけないところがあるんだ。行きたいんだ。…僕の力を必要としている生き物がいるから。詳しいことは、今は話せないけど、僕がいない間、この宇宙船で、皆を守ってほしいんだ。」

ほめと「…それは…む、むり。遠いところに行っちゃうってことだろ?カチョロが帰って来なかったら、オレ…泣いちゃうよ。」

カチョロ「絶対に帰ってくるよ。絶対、絶対。約束するよ。ほめと君を置いていったりしないよ。」

ほめとはカチョロの瞳をみつめた。決意が伝わって、ほめとはカチョロを信じることにした。

ほめと「…よし、わかった。約束してくれるなら、信じる。何も聞かないよ。」

カチョロ「ありがとう、ほめと君。」

ほめと「…皆を守るって、オレは何をしたらいいの?」

カチョロ「タコタコタコ星から離れてほしいんだ。宇宙の端っこを目指す気持ちで。最高速度で、できるだけ遠くに…。大丈夫だよ。用事が終わったら迎えに行くから、一緒にタコタコタコ星に帰ろう。」

ほめと「…、マジ〜?タコタコタコ星ヤバいの!?…いいや、詳しいことは聞かない…、わかったよ!ちわたもオレも、たんぽぽも、星から出るのははじめてだけど、コック早乙女さんもいるし、宇宙船もパワーアップしたし、きっと大丈夫だよね。」

ほめとは四葉のクローバーの形のブローチをカチョロに手渡した。

ほめと「貸すよ。魔力が入ってるんだ。まだ少しだけ残ってると思うから、使ってね。タコタコタコ星と、オレらの家族を頼む!」

カチョロ「ありがとう。」

カチョロは四つの手を重ねて、大切そうに受け取った。

カチョロ「…そういえば、ほめと君。魔法が上手なんだね。魔法を使っているところは、見たことがなかったから、少しだけ驚いたよ。体の動きをとめる魔法を使えるなんて、すごいよ。他にどんな魔法を使えるの?」

ほめと「一瞬しか止められないけど、カチョロに褒めてもらえるなんて嬉しいなぁ。服を溶かす魔法も使える!」

カチョロ「ふ、服を…溶かす???」

ほめとは「しまった!」という顔をして、モゴモゴと誤魔化しはじめた。

カチョロ「いつ、何のために使う魔法なのかな?気になるよ…いったい、なぜ?」

ほめと「あ、えっと、その、へ、変なことに使おうなんて、思ってないよ!」

カチョロ「…意味がわからないよ。怒らないから、僕にもわかるように説明してくれるかな?お願い。」

ほめと「はぁ。も〜。…何年も前の話だけど。ちわたの家で、ちょっとセクシーな女の人が登場するマンガを読んで、遊んでたんだよ。女の人の動きを止めて、服を溶かしちゃうっていう…ストーリー?のやつ。彼女ができたら、そういう遊びできるのかなって、話して…ノリで、その魔法を試してみたんだ。ちわたは出来なかったけど、オレはちょっとだけ出来ちゃったんだ。…そんなこと、ちわたは忘れてるだろうけど。

オレはなんとなく、今も一人の時、勉強の合間とか、夜とかに、練習してるんだ。他人に使うつもりは1パーセントもないからね、個人的な趣味だからね!!

でも、ま、まさか実際に使うときが来ちゃうなんて思ってなかった。ちわたを助けられたから良かったけど…!ちわたには詳しいこと言わないでね。お父さんとお母さんにも言わないでね!恥ずかしいから。」

あの魔法には、ほめとの下心と、夜の妄想がいっぱい詰まっていたのだ。カチョロはう〜んと考えている。ほめとというひとりの人間の感情を理解しようと頑張っている。

カチョロ「…恋人にイタズラをする妄想をしたり、その魔法をひとりで練習したりして、性的に興奮する個人的な趣味があるということ??」

ほめと「はっきり言うなって〜!///…か、カチョロに使ったりはしないから、安心してほしい。これは、オレの心の中だけの魔法なんだ。はぁ、オレ、へんたいじゃないからなッ、忘れて〜!///は、は、裸見てみたいとか、思ったこともないもんね〜!」

顔を真っ赤にして誤魔化しているほめとを見て、カチョロはふふふ、と笑った。

カチョロ「見たいなら、見せてあげるのに

そう言って、カチョロはほめとに、ちゅっとお上品な投げキッスをした。

ほめと「!?///」

ふふふ、ふふふ、人間は発想力が豊かで可愛らしいね…と、クスクス笑いながら、宇宙船の中に戻っていくカチョロ。

カチョロは皆に「少し出かけてくるよ。僕が戻ってくるまでは、ほめと君と一緒に行動してほしいんだ。協力して、信じて、待っていてね。」と話している。ほめとも宇宙船の中に戻った。

ほめとはカチョロの後ろ姿を眺めながら…

ほめと(カチョロが投げキッスした!?、み、見たいなら、見せてあげる…ってなんだよ〜、恥ずかしいこと言うなよ〜!!///)

カチョロの恋の誘惑にドキドキしつづけていた!!!

 

【16話に続く

(本当にすみません……、最終話としてまとめて公開しようと思っていたのですが、文字数が一度に読み切れないくらい多くなってしまったため、最終回後編の前に、中編として何話か挟ませていただきます。もうしばらく、星のはなびらをお楽しみください頑張りまアッ!!!)】

… … … …

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