恋心が暴走する!生死を超え、世界を手に入れ宇宙を跨ぐ…ヤンデレ男子たちが主役のダークファンタジー小説(全九章。)
はじめに
残酷な表現等を含みます。作品をお読みになる前に以下の注意事項を必ずご確認ください
星のはなびら八章「泡沫の緑鳥」(うたかたのみどり)
ありすを想い続ける一途なみどり。過行く年月、寂しさを隠すみどりの心を揺さぶる残光な現実。恋はまだ、おわってない…!
泡沫の緑鳥 1話
現世
ちゅんちゅん…外から軽やかな雀の鳴き声がきこえました。大きく開けた窓から差し込む朝日。そよそよそよぐ、後ろで一つぐくりにした長い緑色の髪。住み慣れたワンルームのアパート(とっても仲のいい大家さんが住まわせてくれているんです♪)で、僕(みどり)はのんびりと部屋を片づけていました。ぺらり、ぺらり。時々それをめくりながら、何十冊ものノートをビニール紐で束ねていきます。
僕は500年以上、色々な国を、町を転々としてきました。そして旅の途中、「昔の、とある国の大反乱に関する絵本」を見つけるたびに手に入れて、そこに描かれた怖い顔をした王様を切りとり、ノートに張り付けてはコレクションしてきました。これらはそのノートです。
この町は素敵なところでしたね。友達もたくさんできて、いろんな方のお世話になって、10年以上のんびりと暮らしてきました。けれど、不老の僕は同じところに長居するわけにはいかないのです。懐かしみながら、新しい旅を始めるために、ノートを持てる分だけに減らしたり、整理をしていたところです。
長居するわけにはいかない理由はもちろん、「僕の秘密」を知られないためです。不老であること、木製の人形だったこと、体が軽いこと…色々あるでしょう?
僕の秘密を明るみに出したり不審に思われたりして、多くの人に知られてしまえば、そしていろんな国に知れ渡ってしまえば、僕は行く先々で好奇の眼差しを向けられるようになってしまいます。そうすれば僕はきっとこの世界で「人ならざる存在」になってしまうでしょう。暴かれて暴かれて、心にしまっている歴史と恋心までもてはやされてしまえば、きっと辛くてたまらない感情に押しつぶされてしまいます。考えすぎているのかもしれませんが…、怖いものは怖いのです。大切な「あなたの面影」を好奇の視線にさらすことなんて、あってはならないことですから。
…絵本に描かれるあなたはいつも怖い顔をしていますね。
あ、でも。最近見つけたものなのですが…子供向けに改変された絵本もあるみたいですよ。大反乱の話も暴君の話も切り取られて無くなって、「優しい王様がお姫様と結ばれる」というお話です。その背景のお城と王様の身に着けている冠や衣装が、どこか見覚えのあるデザインをしているので、僕は遠い昔の記憶と絵本の中の王様の笑顔を重ねられるのです。絵本の中の王様はとっても幸せそうで、それを見れば僕も嬉しくなるはずなのですが、う~ん、どうしても複雑な気持ちになってしまいますね。何となくその王様をあなただと思えなくてもどかしくなってしまうのでしょうね。それから、そのお姫様が僕ではないから、嫉妬してしまうのでしょう。
いけない!片付けに夢中になってしまいました!
今日は友達の「さくら(10年ほど前にお花屋さんで知り合ったのですよ)」とショッピングモールのフードコートでパン(ホットドック)を食べる約束をしていたのですよ。うっかり忘れるところでした、お昼前に会う約束でしたので、まだ時間はありますね。よかったです。
朝ごはんはさくらからもらった唐揚げパンです。小さな冷蔵庫から取り出し、頬張ります。味が濃いですねぇ(※褒めてる)
食べ終わるとお気に入りの服に着替えました。小さなドレッサーの前に座って、髪をブラシでとかします。ヘアオイルの白い花の香り。サラサラの指通り。僕はいつだってあなたの恋人として、変わらない姿でいたい、おめかししていたいのですよ。
ありす。
優しいありす。
たった一人のありす。
目を閉じ、いつかの記憶に心を傾けます。
…
…
赤いカーテンに囲まれたふわふわのベッド。
長いまつげが落とす影、シャンデリアに照らされ、星のように輝く黒い瞳。
ありすのまっすぐな視線と素直な言葉を受け止めて、僕は火照った顔で、その体を撫でました。僕の頬を伝って、ぽたりと落ちた汗。ありすは泣きそうな笑顔を向けながら、大きく長い指先で、僕の涙をぬぐいました。張り詰めた、健気で優しい表情。それからありすは、僕の湿った髪をすくって「みどりのかみ、とっても、きれい」とつぶやいたのです。
…
思い出か、妄想か、昨日見た夢かもわからない情景。時間に奪われ、徐々に剥がれ落ちた記憶、掠れた記憶に不変の恋心をかぶせます。遠い過去に心を繋げて、繋ぎとめて…つなぎとめて…
僕の時間はあの瞬間から止まったままでした。
時々知らない僕が僕を笑うのです。「過去にとらわれている」なんて言って。それでもいいのです、そう思われてもいいのです。僕の覚悟を手放せるものですか。唇をかみしめながら左手薬指の錆びた指輪に触れました。胸が、心がチクリと痛みました。
…本当は。本当の気持ちは?
…自分の気持ちと向き合う勇気なんて、ありませんよ。
僕はぶんぶん頭を振って、悪い考えを断ち切ろうとしました。ああまたこんなことを考えてしまって、情けないですね。今日も早く誰かと会いたい、話したい。
一人の時間は苦手です。
赤い空を思い出して
また、泣いてしまうので。
(寂しい)
泡沫の緑鳥 2話
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地獄
私はささめき。この星を管理する一員で、守り人さん(さくら)からもらった「現世や地獄にも降りられる特別な羽」をもっている天使。この仕事は悪くないわ。だって、いつも忙しいから。忙しいと、弱い自分に浸ってる時間なんてとれなくて、迷う隙もなくて、強くいられる。そして、星を守るという輪郭がはっきりした使命が、私が生き続ける意味を支えてくれる。過去は変えられないけど、今の私は結構好き。ありのままの感情を見せびらかして、解放的で、なんだか気持ちがいいの。
今はさくまちゃんと一緒に地獄を歩いているところ。
地獄の入り口は赤黒い壁に囲まれていて何だか不気味だけど、門をくぐった先はそうでもないのよ。地獄は自分を見つめなおすための場所。
基本的には天国(幸せになるための場所)に行きたくない人が来る。一人で考えたいことがあるならそっとするし、罰を受けて気が済むなら受ければいい、話したいことがあるなら私たちが聞くわ。求めるものが与えられる、姿を変える、そういう世界。
私には、生活感のある部屋がいくつもある平凡な世界に見える。さくまちゃんは?って聞いたら、夜空に囲まれた黒い世界にいるように見えるらしい。宇宙からきたさくまちゃんらしいというか…何だか幻想的ね。
守り人さんは地獄は空気が悪いなんて言って芳香剤とかおいているけれど(意味あるのかしら)、私達は感じない。星の化身は、星の奥深くの微妙な空気の違いも感じられるのね。守り人さんって適当そうに見えて、結構繊細なのよね。
ところで…
この星の人たちは現世で生きた後は霊になって、死後の世界(天国、地獄)に送られるけど、霊体の中にはその人の「心」が綺麗な形をして詰まっているの。大きく体を傷つけたりしたら溢れ出て、取り返しのつかないことになるから大変。心が壊れてしまう前に、私たちや、特別な力を持つ天使が助けてあげられるけどね。
体の中に「目に見える形」で詰まっているからこそ、思い出や人格…心が風化することはない。私たちは望むなら、100年も500年もその心と体を持っていられる。
私、何年か前に…興味本位で自分の中を見てしまったことがあって…その時は守り人さん達に怒られた。私の中には兄さん達との思い出が詰まってた。守り人さんの言う通りあんまり見るものじゃなかったわね、大切なものだからこそ、見返すべきじゃなかったのよ。
あの時だけは少し寂しくなって、守り人さんやさくまちゃん達の前で、涙をこぼしてしまった。門番さんがぎゅっと抱きしめてくれたわ。そのとき守り人さんが「いつか家族に会えるかもしれないぜ。俺が会わせてやるよ」なんて言って、約束してくれた。適当な守り人さんらしい励まし方…でも嬉しかった。守り人さんのこと、ただの頼りないチビだと思ってたけど、その頃から仲間意識のような感情が芽生えたような気がする。
だから、今は幸せ。でもいつかは、自分をやり直すために、現世で生まれ変わりたい…なんて考えたりするようになるのかしら。まだまだ、続けるつもりよ。ふふ、先輩たちのこと(仕事を長年続けている守り人さんやさくまちゃん、門番さんのこと)心から尊敬しているわ。守り人さんが言うには私ももう10年以上はこの仕事を続けているらしいけど、歳をとった実感はないわ。いつのまにか100年とか、200年とか、過ぎているものなのかしら…そうなれたら誇らしいわね。
「ささめき。裁縫の練習はしているのか?守り人様に下手くそだの…散々馬鹿にされて、悔しいと言っていただろう」
地獄を歩きながら、隣のさくまちゃんが少し心配そうに私に話かけてきた。
「練習してるわ。でも、私は話したり体を動かすことのほうが向いているみたいね。きらめき兄さんならもっと得意になれたかも。器用だったから」
「ささめきにもできるさ、我が教えてやろうか。くくく…我は長生きしているからな。大抵のことは習得しているぞ」
「え!ほんと?さくまちゃんとなら楽しく練習できると思うわ。ありがとう」
辺りを見渡しながら歩く。しばらく歩いて、さくまちゃんに声をかけた。
「さくまちゃん、そろそろ天国に帰って一息つきましょ」
「そうだな、飽きてきた」
「霊達に写真を見せて、聞き込みもしたけど、今日も見つからなかったわね、みどりさん」
「我も霊の記憶を覗き見てみたが…情報は得られなかったな」
「この星からたった一人を探すなんて無謀なことだとは思うけれど、門番さんは、500年以上もみどりさんを、門の前で待ち続けているのよ。見つけ出して、会わせてあげたい。門番さんはみどりさんが生きてるって信じてるから、話を合わせて誤魔化しながら、死後の世界をこっそり探すことは何だか申し訳ないとも思うけど」
「申し訳なく思うことはない、みどりは現世にはいない。みどりの魂は我が作ったのだ。あいつの魂は脆いから、100年も生きられやしない。だが、天国の中にいる可能性は低いだろうな。みどりは地獄にいるだろう」
「どうして地獄にいると思うの?」
「話せば少し長くなるが、凡そ500年前。王に息子を殺された男がいた。その男は、息子に似た木製の人形に、復讐をさせようと考え、人形に魂を与えるため、我を召還した。もともと我の力が複雑に絡むことで、強国として存在していた国での出来事…ドクズな守り人様は、国の秘密が公になる様を楽しみにしているようだった。守り人様のためにも、我はその男の願いを何としても叶えたいと思い、少々小細工も仕掛けて…くくく、作為的に叶えたのだ、それから…」
「そんな話だったわね。さくまちゃん、守り人さんのこと好きだったもんね」
「言うな!!…男は代償として、我に自分の魂全てを捧げると言った。しかし、我は悪魔とはいえ、黒色の戦闘の星の一般的な戦士に過ぎない。我の力…「他人の願いを叶える力」を限界まで引き出しても、新たに魂を作ることなど、そもそも不可能だった。どんな対価を得て、材料にしたとしてもな。特別な星の化身ならばその真似事ができるかもしれないが…我にはムリむり。
しかし、バカな我は、ドクズを喜ばせたくて必死だった。だから、強引にみどりの魂を作り出した。我は、その男の魂と「自分の魂」を半分削り取って使い、男の願いを叶えたのだ」
「え?そんなことしちゃったの!魂を削ったって…寿命減っちゃったんじゃないの?」
「ああ。恐らく寿命も削られた。我の力は激減した、他人の願いを叶える力なんて、もうほとんど残っていない。あんな男(さくら)のために…我は…はぁ。
みどりの魂は、宇宙の力を借りない作りもので、簡易的なものに過ぎなかった。継ぎはぎだらけだった。その継ぎはぎを縫い合わせ、魂の歯車を回し、生き続けるための動力が必要だった。我はその動力を、「恋心」と設定した。「復讐心」ではなく、恋心を動力としたのは、気まぐれだった。その頃の我は、恋心以上に、粘り強い感情などないと信じていた…それだけのことだった。
恋心を生きる源にして生きる、人の姿をした人形。それがみどりの正体だ。
みどりは恋心がないと魂の歯車を回すことはできない。つまり、恋をしていないと、生きられない仕組みなんだ。
門番の奴は霊体だから、心が風化することはない…だから想い続けられるのかもしれない。だがみどりは違う。息をしながら、500年も恋をしつづけることなんて、できない。我も守り人様に飽きたし、流石に500年なんて、ムリむり。
それでも、恋を軸に生きるみどりが、天国に行って自分だけ幸せになる選択をすることや、生まれ変わることを決断できるとも思えなくてな。あいつの魂は、恋心とは切り離せない運命なのだ。
だから、地獄にいると考えている。
もう、壊れているだろうが」
「なるほどね。さくまちゃんって、かわいいけど残酷♪」
「ささめきには言われたくないな、くくく…。
だが、我やささめきよりも、ドクズ(さくら)の方がずっと残酷だ。
なぜならあいつは、みどりとありすのことを覚えていないのだ。
…まぁ、3000年以上生きている星の化身からすれば、塵のような出来事なのかもしれないがな」
泡沫の緑鳥 3話
現世
(さくらはいつも30分は遅刻して来ますからね)
待ち合わせの5分前…僕(みどり)はショッピングモールへ向かっていました。
しかし…何やらいつもと違う空気を感じます。
「…?」
近づくにつれて見えてくる人だかり…様子がおかしい、何か良くないことが起きていることにはすぐに気が付きました。ざわめきが大きくなり、それと同時に煙の臭いが漂ってきました。
「嘘でしょう!?」
バチバチ、ドンドン…赤い光。異様な光景に僕は足を止め、愕然としました。信じられない…ショッピングモールの一角から大きな火が上がっていたのです。
(か、火事…!?)
「中にまだ人がいる!?」「子どもがまだ中に!!!」「消防車はまだか!?」
悲鳴のようなその声を聴いて、僕は我に返りました。人だかりへ夢中で駆け付けます。この町の人達とはもう、ほとんど顔見知りです。僕の姿を見て、皆口々に「みどりさんも来た」と言いました。そして、焦りの混じった不安げな表情を向けました。
「みどりさん!大変なの、子どもとパン屋さんではぐれたの!!!」お姉さんが言います。
「わかりましたお姉さん、僕がお子さんを探しに中を見てきます」
「でも、中に入るのは危険だ!!」隣にいたおじさんが心配そうに言いました。
「大丈夫です、任せてください」
僕は人差し指を口元にあてて、ウインクして見せました。
「秘密ですよ、僕には不思議な特技があるのです」 「え!?」
ふぅ…焦りや不安、恐怖を鎮め、心を落ち着かせ、眠らせていた秘めた力に意識を集めます。静かな時。風が僕に応えるように渦を巻き、
僕は炎の中へ一直線に駆け出しました。
体が風に乗る感覚、ふわり浮遊する感覚、緑の翼を感じました。高速で駆け出した僕を、誰も止めませんでした。異常だとなじる者もいませんでした。皆、颯爽と立ち向かった僕の後姿を、固唾をのんで、何もかもを願うように見つめていたのでしょう。
「ぅ…」
崩れそうな建物の中は皮膚がちぎれそうな熱風が吹き荒れていました。全身から汗が噴き出て、炎と黒い煙に思わず目を細めます。炎の雑音の中、耳を澄ませて、正義感を盾に進みます。
「うわぁああん、たすけてぇ!!!」
よかった…そこにいるのですね。僕は僅かに聞こえた子どもの泣き声を聞き逃しませんでした。灰色のローブで口元を覆い、燃える柱と黒焦げた壁を飛び移りました。煙の隙間を軽やかにかいくぐるように、直ぐにその子のもとへと向かいました。
「見つけました!…ほーら、もう大丈夫ですよ」
泣きじゃくるその子を抱えます。炎と煙から守るために灰色のローブをかぶせてあげました。そして僕は無事その子を炎の魔の手から救い出せたのです。
僕がその子を抱えて、皆のところへ戻ると歓声が上がりました。
「よかった…みどりさん、本当にありがとう」
「いえいえ、怪我もしていないようで良かったです。念のため、お医者さんにみてもらうのですよ」
子どもを抱きしめて泣いているお姉さんの背中をそっと撫でました。皆避難できているようで、一安心ですね。
その時「まだ中に人がいるかもしれない」、そんな声が聞こえてきました。顔を真っ青にした男の人が「一緒にいた彼女が見当たらないんだ…みどりさん」と、すがるように僕に頼み込んできました。
「それは大変ですね。では、改めて少し中を見てきます。あなたは彼女さんがもう避難していないか、もう一度探して待っていてください。僕は大丈夫ですので」
僕は袖で口元を追い、また炎の中へと飛び込みました。先ほどとは比べ物にならない熱さに、喉が焼け、じりじりとした痛みさえ感じました。
「火の勢いも増していますね。早く探して戻らないと…!おーい、誰かいますかー!!」
僕は炎に負けない大きな声で叫びました。返事はありません。
「誰かいたら返事をしてくださーい!!…ゲホゲホッ、あ、あつい…」
よく確認しながら、怪我をしないようにかわしながら、奥へ、奥へと慎重に進みます。体中汗でべたべた、顔をぬぐい、拳を握りしめました。
「はぁはぁ、見てまわりましたが…もう、これ以上は危険ですね。あとは消防士さんに任せて…彼女さんがもう避難されていることを願って、戻りましょうか」
最後に一番大きな声で叫びました。
「誰かー!!いませんかー!!!」
「ここにいるよ。」
「!?」
まるで耳元で話されているようなはっきりとした声でした。
この声…この声は…!
僕はこの声を知っていました。
…僕は力が抜けたように立ち止まりました。
心臓の音がうるさい。頭が真っ白になり、呼吸が苦しくなりました。先ほどまでとは違う、冷たい汗が流れて、僕はその声の主の名前を口にしたのです。
「…ありす?」
「みどり、ここだよ」
「ありす!!!」
間違いない、ありすの声がする…500年ぶりに聞いたその声に感極まり、僕の目からは大粒の涙が溢れました。感動し、両手で口元を覆いました。
ありすが、ありすがここにいる。
視界が赤く染まる、赤く、赤く。
そして僕は気が付くと燃え盛るお城の中に立っていました。
「あ、え…」
驚いて見渡すと、そこは間違いなく500年前に人目を盗んでありすのもとへ駆けた、あの廊下でした。そうだ、ここはこんな形をしていたんだ…もう一度見たかった、思い出したかった、手を伸ばし続けていた光景が、目の前に広がっていました。
僕は500年前へ戻ってきたのでしょうか。不思議な感覚ではありましたが、僕はその現象を、現実として、自然と受け入れていました。
「みどり!ここだよ、はやくきて!」
「ありす、どこにいるのですか、ありす!」
脳に響くその声の元へ行きたくて、僕は炎も気にせず歩き出しました。
「たすけて、みどり!ありす、ここにいるよ!!」
僕の周りに剣を携える兵士たちが、行き交いはじめました。僕にはわかります、皆、ありすを探しているのでしょう?処刑するために。
ありすの助けて、助けて、という声が反響します。
「たすけ…いたい、みどり、いたいよぉいたい!!あつい!!いやだぁあ!!!」
「ぁあああ、あ、ありす…し、寝室にいるのですか!?ありす、ありす!!…どこにいるのですか。」
「死にたくない!!ありす、死にたくないよ!!!」
多くの兵士たちに流されないように踏ん張って、僕の足は自然とあの寝室へ向かっていました。
待って、待って
逝かないで。
僕の歩みを食い止めようとする、熱い向かい風。
どうしてどうして僕の邪魔をするのですか。
「ありす、みどりのこと、忘れたくない」
「はぁ、はぁ、僕だって!!ありすを忘れたくありません。ありすを失うのが怖くて、ありすとの思い出を毎日振り返っているのです。毎日絵本を読んで、あなたの姿と声、あたたかさを思い出して、あなたと食べたパンの味を思い出して、あなたを愛して…縋って、縋って、縋って、地を踏みしめて生きているんです!!」
崩れそうな脚に鞭を打つように、無我夢中で進みます。
「ありす、ほんとうはすごく怖かった。ありすのわがままなんて、聞いてほしくなかった。助けてほしかった」
「ごめんなさい、勇気がなくて、強くなくて。でも僕はそれでもありすが大好きで、辛いくらいに大好きで、…今だってどうすることがあなたにとっての一番の幸せだったのか、迷い続けています」
「ありすは、しんじゃった。みどりのせいで、しんじゃった」
「ありす…」
「ありすはみどりに殺されたんだ。みどりだけ生きていて、ずるいよ」
「ごめんなさい、ありす。ごめ、ん、なさ。あげられるのなら、ぼくは、僕のすべてを、ありすにあげたい、この命だってあなたにあげたいと…そう、心から思っていますよ。でも、生きなきゃ。生きなきゃいけないんです。生きなきゃ…」
「みどりだけ生きてる、みどりだけ」
「ぼくは、ぼくは…」
「みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。みどりだけ。」
「それでもぼくは、まだ、ありすのことが…すき、なのです…」
「ありすはみどりのこと、
とっくに、好きじゃないよ」
泡沫の緑鳥 4話
俺(さくら)はホテルのベッドに寝かせたみどりさんに声をかけた。
「みどりさん、みどりさん!!くそ…どうなってるんだマジで。遅刻してきた俺もわりぃけど…こんなことになっていたなんて、最悪じゃねぇか」
体の所々に負ったやけど…包帯まいたり治療してやってから、俺はもう一度すやすや眠る友達を見た。正直、心配でたまらない。
「大丈夫かよ…これ、ヤバいんじゃねぇの?」
今日もフードコートでみどりさんとホットドックでも食いながら喋ったり、ゲーセンで遊んだり、カラオケでレトロな曲を歌ったりしようと思っていたのに。着いたらショッピングモールの一角が燃えちまってて、消防車も止まっていて、騒ぎになっていた。店の中にいた他の奴らは「全員」避難できていたらしいけど、みどりさんが出てこないなんて声が一部からあがっていて。んなわけねぇだろ…とか思いながらこっそり建物の中に入って見渡したら、火の中で力抜けて倒れているのを見つけて…マジひやひやしたぜ。
でも抱えたら風船…とまではいわねえけど、おかしいくらいに軽くて、その時気が付いた。みどりさんには俺に言っていない、言えない、特殊な力が関係した秘密があるんじゃねぇの?って。まさか侵略者?…で、独断で皆にみどりさんは無事とだけ伝えて、救急車には乗せなかったんだ。
生きてる奴を天国に連れて行くわけにもいかねぇし、適当に空いていたホテルに連れてきた。当日予約はできませんとか色々いわれて、からすと出会う前に毎日通ってたラブホに来ちまったけど…。おばちゃん、俺が人間じゃねぇことも察してて(俺が長年通いすぎてたから)、顔見せたらとりあえず入れてくれた。
みどりさん、すやすや寝ているけれど表情は険しいな…無理もねぇか。それにしてもどうしてそんな、無茶なことしたんだ?みどりさんっていつも手ぶらだし、携帯も持ってねぇしなぁ。今思えば、みどりさんの家に行けばよかったかもしれねぇけど…みどりさん、いつも「家の中は見ないでください」って言ってたし、なんか気まずくて。
「ぅう…」
「みどりさん、うなされてる」
どうすりゃいいのかわからなくて、俺は少し迷いながらも、熱風でぐしゃぐしゃになった緑の髪を整えるように撫でた。左手薬指のアンティークな指輪が視界に入る。
「奥さん、心配してんじゃねーの?みどりさんって、既婚者だよな?わかんね。はぁ、みどりさんのこと、知らねぇことばっかりだな。長い付き合いだけど。俺もそうか…お互い自分の話をするのは難しい立場だったんだな。だからこそ、居心地よくて、気が合ったのかもな」
一息ついたところで、俺の後ろに誰かがふわりと舞い降りてきた。さくまか。
「守り人様…大丈夫か。火事の現場を見に行ったのなら、様子をみてきてほしいと、ささめきから頼まれてな。確か友人と会う約束をしていただろう?…
って、みどりがいるーーー!!!???」
ベッドをのぞき込んださくまは、みどりさんを見た瞬間体を硬直させた。目を真ん丸にして、大げさに驚いている。は?
「信じられない、まだ生きていたのか!?!?おい、お前、みどりと友達だったのか!?もっと早く言えよ!!なんということだ、ささめき、門番、すまない…流石に、守り人様の記憶にみどりに関する情報があるかどうかなんて確かめようとも思わなかった。」
「みどりさんのこと、何か知ってるのかよ」
「これを見ろ」
さくまは500年くらい前に、俺と空から覗いて見た光景、記憶を切り取って、10枚ほどの写真にして渡してきた。写真に目を通す…王の隣にいる人形は、みどりさんと同じ顔、姿をしていた。間違いない、みどりさんだ。改めてみどりさんを見る。…ちっ、そういうことかよ。
「…殺した奴の顔、滅ぼした国なんて、いちいち覚えてねぇよ。…最悪な気分だ。俺が黒幕だったってことかよ」
さくまは、門番の本心と、ささめきと二人でみどりを探していたことを説明した。さくまも俺も、しばらく何も言えなかった。今ならこの罪の重さがわかる、俺もさくまも。過去の罪は消えやしねぇ、そんな当たり前のことを思い出して、下を向くことしかできなかった。
「謝ってすむと思うか?門番に…」
俺が苦笑いしながらつぶやくと、さくまも苦笑いした。
「門番は、派手には怒らないかもな。あいつは優しくて強いから。我らと違ってな」
「許してもらいたいわけじゃない。でも、自分がやってきた最悪な行動をなかったことにしたくない。みどりさんが目を覚ましたらすぐ天国へ向かう」
「わかった、先に帰っているぞ」
言い終わってすぐに姿を消し、天国へ帰ったさくま。俺は大きなため息をつく。
俺だけ、何も知らなかった…。情けねぇ。悪かったとは思ってる、後悔はしてる…でもまだ、その感情は遠いところにあって、壮大な罪の意識を実感できねぇんだ。
俺はどんな顔して、みどりさんと話せばいいんだ?何を、話せばいいんだ?
その時
「あれ?ここは…?うわぁ、頭が痛いですね…くらくらします」
かすれた声が聞こえた。ベッドの上、もぞもぞと動き出したみどりさん。生きていてよかった。でも、まだ心の準備できてねぇよ。
「みどりさん。大丈夫か?」
「ええ、何とか。さくら、助けてくださったのですね。ありがとうございます。あ、僕…」
「自分の正体なんて気にすんなって、俺も似たようなもんだから。
それよりほら、水のんで落ち着けって。うなされてたぜ。無茶すんなよな。心配はいらねぇよ、全員無事だったから。俺のバイト先は燃えたけど…まぁ、人気のパン屋だし、綺麗に建て替えてまたオープンすると思う」
俺はコップに水を注いで、起き上がったみどりさんに渡す。みどりさんはそれにそっと口を付けた。みどりさんの手は震えており、不自然に目が泳いでいる。混乱しているのか。
「みどりさん、顔真っ青だな。…俺のことわかるか?」
「ありすでしょう?」
「…。何言ってんだ…俺はさくらだぜ。やっぱり大丈夫じゃねぇじゃねぇか」
「うう、何だか上手く考えられなくて…。さくら、僕のこと、家まで送ってくださいませんか。心配かけてごめんなさい」
「もう少し休んだら送ってやるし、はじめからそうするつもりだぜ。ていうか謝るなって、みどりさんは何も悪くねぇよ。みどりさんはもっと人に頼っていいと思うぜ、俺にも、他の奴にも。一人じゃねぇんだから。俺達、友達だろ?」
「ありがとうございます、さくら。ええ、もちろん友達ですよ」
俺はみどりさんと向き合ってその肩に手をのせて、にやりと笑って見せた。みどりさんの表情が少し柔らかくなったように見えて、俺は…早く自分のことを話さねぇとって思って…口を開いた。全部、説明して、謝らなきゃ。
「なぁ…俺も特別な存在で、この星の仕組みを作った、とか言ったら信じてくれる?」
「さぁ、どうでしょうね、わかりません。この星は…非情ですから。さくらなら、もっと優しい星を作ることができると思います。皆から愛されるような、優しい星を、ね」
アンティークな指輪、左手を包むように握り、みどりさんは微笑んだ。
「僕とさくらは、ずっと友達ですよ」
俺は、それ以上、何も言えなかった。俺が謝りたいのは、俺が楽になりたいから…そういう感情を自覚して、寂しくて恥ずかしい気持ちになった。
それから少し眠ったみどりさん。起きたころには、「体調、よくなりました!」とはじめよりはすっきりとした表情をしていた。ぐぅう…なんてお腹の音が聞こえて、俺は備え付けられてる電話から、ホットドックを注文した。二人でもぐもぐと食い終わってから、俺はクレジットカードを突っ込んで支払いをする…みどりさんは興味津々に覗き込んでいた。外に出てとっくに暗くなった空を二人で見上げた。
「ごちそうさまでした、パン、おいしかったですねぇ」
「うまかったな」
ふと振り返り、さっきまでいたピンク色の建物を見て、みどりさんはくすくすと笑った。
「僕、こういうところはじめて入りましたよ、もう500年以上生きているのに…あ、今のは…聞かなかったことにしてください」
「き、気にすんなって。変なとこに連れてきてごめん、誰にも言わねぇし、下心もねぇから」
「あはは、わかっていますよ♪助けてくださって、ありがとうございます」
みどりさんの家の前までゆっくり歩いた。次いつ二人で会うか、そんな話もして約束をした。みどりさんは、いつもと変わらない、優しい笑い方をしていた。
「夜遅いですから、さくらも気を付けて帰ってくださいね」
「はいはい。みどりさんこそ、体に気を付けて。じゃあな」
手を振って、締まる扉。何故かはわからない、何となく、不安な気持ちになった。
…あの火の中で、何があったんだろう。
俺、馬鹿だ。結局、何も話せなかったんだ。
みどりさんの話を、きくこともできなかったんだ。
…天国…
透明の翼を広げて天国へ帰る。門番は、門に背中を預けて座り込んで眠っていた。俺は遠慮がちに声をかける。
「門番…いや、ありす」
「ぁえ?あ、さくら。今帰ってきたの?遅かったんだね。これからからすのところに行くの?」
「ああ、でもその前に、ありすと話したいことがあって」
門番は大きなあくびをしてから、そばに置いていた大剣を持ち、立ち上がった。
「どうしたの」
「みどりさんのこと、思い出した。門番がここにいる意味も知った」
その名前を聞いて、門番は驚きと緊張の混じった真剣な表情をした。
ありすの真っ黒の瞳をじっと見てみても、感情は読めない。怒り?恨み?憎しみ?悲しみ?まっすぐの視線が俺に突き刺さる。うまく言葉が出てこねぇ、声がだせねぇ。考えられねぇ、心が真っ白になって、変な汗が伝う。今、ありすと向き合って、俺ははじめて、自分が振りかざしてきた悪と不甲斐なさの真正面に立って、そいつらと目を合わせたんだと思う。
俺は、後悔して、後悔して、反省したくてたまらなくなった。
ふとからすの顔が浮かんだ…大切な人の顔が浮かんだ…
俺は感情を全部吐き出すみたいに、懺悔した。
「酷くて最悪な星の化身でごめん。ごめん…俺、悪魔だったんだなって、やっと気が付けた。俺は、直接的にも、間接的にも、数えきれねえくらいの命と心を蔑んで、奪ってきたことがあったんだ。自覚はしてた、だから。星の民のため、なんてきっと、言い訳だったんだ…不死の星なんて作って、俺は、俺は、自分の罪を誤魔化したかっただけだんだ。何かを守った気になって、変わった気になって、自分がこれまでやってきたことと向き合おうとしなかった。…ごめんなさい、ありすの大切なものを奪ってしまって」
「…そっか」
門番は表情を和らげ、そっと俺の頭を撫でた。
「さくら、泣かないで。…ありすの目を見て。
さくらは、酷い神様だった。でも、今はもう、違うよね。
守るものがたくさんある、他人の痛みを想像できる、優しい神様に変われた。
だから、これからも神様として、死後の世界で幸せを探しなおせる星…その仕組みを探求し続けて。
罪滅ぼしのためじゃない。
命はみんな、後悔しながら、誰かを傷つけながら生きてるし、感謝して、誰かを救いながら生きてる。
この星とさくらの優しさに救われた人もたくさんいるんだよ。
その人たちと未来のために、…負けないで。
この星を守り続けてね。
ありす、今のさくらのことは大好きなんだ」
ありすにぎゅっと抱きしめられて、プラスチックのような生温い体の温度を感じた。言葉が心に広がり染みわたる。俺は色んな人の顔を思い浮かべていた。さくま、ゆずは先輩、ささめき、彼、彼女、それから…からす。俺は「約束する」って呟いた。もう、誤魔化したくない。
「みどりは、どこにいるの?元気にしてる?」
「…みどりさんは… えっと」(なんて言おう…)
「いいんだよ、さくら。本当のことを言わなくても。
これからも、門番でいさせて。それだけでいい。
だから、何も言わないで」
約束したばっかりなのに。
どうして俺は、ありすに、何も言えなかったんだろう。
「みどりさん、元気にしてるよ」って言えばよかった…のか?
言いたかったのに、自信なくて、上手く言えなかった。
みどりさんは、いつもと変わらない、優しい笑い方をしていた。
「夜遅いですから、さくらも気を付けて帰ってくださいね」、俺を心配してくれた。でも、俺は、不安になった。
その不安は、正体を隠したまま、今も心に残っている。
みどりさんってさ。町中の人と仲良くて、どんな時も誰に対しても、明るくて、優しくて、いつも笑顔だったんだ。そう、いつも笑顔。
じゃあ、本当のみどりさんってどんな顔をしてるんだろ。
そう思った瞬間、不安が急速に加速した。
俺は駆け出していた。翼を広げて、現世におりた。
深夜を照らすネオン。車が走る音。鳥の鳴き声。
みどりさんが住んでるアパートに着く。いくら呼んでも、玄関の扉をたたいても、みどりさんは出てこない。反応もない。俺は迷わず扉を蹴り破って中へと入った。
オレンジ色の豆電球の明かり。大量のノートや絵本が、破かれ、散乱していた。
「みどりさ…」
その中に、ボロボロになった木製の人形が埋もれているのが見えた。
人形は、ノートの切れ端を握っている。
俺は気が抜けたようにただ、ぼんやりとしていた。浅い呼吸、言葉も、何も出なかった。さっきまで笑っていたのに、次会う約束もしてたのに、人形に戻ってしまって…こんな姿になってしまって。
俺はまた間違えたのか、救えなかったのか。
友達のために何もできなかったのか。
俺は震える手で、みどりさんだったものが握っているノートの切れ端を手に取った。
【ぼくにはもう あいするしかくがない】
何もできなかった、何もわかってなかった。
ああ、人が死んだら、こんなに悲しいんだ。
時間だけが過ぎていく…。俺はようやく重たい体を動かした。みどりさんが持っていた切れ端をポケットにいれ、別のノートの切れ端に「今までありがとうございました。僕は旅に出ます」と書いて置いておいた。
俺はみどりさんの木製の体を置いていけなくて、自分の体より大きなそれを抱えて、天国へと飛び立った。みどりさんの魂は、この星の仕組みに沿って天国か地獄に移動しているはずだ、そして霊体として目を覚ましているはずだ。さくまは俺と別れた後すぐに、ささめきに、みどりを現世で見つけたことを伝えているだろうし。ささめきとさくまは死後の世界にみどりさんがやってきて、大騒ぎしているだろうな。
ありすと、会えたのだろうか。
今度こそ、伝えねぇと。話さねぇと。聞かねぇと。だめだ。
泡沫の緑鳥 5話
…さくらがみどりの家に着く少し前…
「はぁ…」
…眠れませんね。頭が痛みますし、また悪夢を見てしまいそうで。ぐるぐる考えていると、やっと今日の波乱な出来事に、じくじくと心が追い付いてきた感じがしました。ベッドから起き上がり、布団の端をぎゅっと握ります。さくらは優しい人ですね。僕(みどり)のこと、とても気にかけてくれて。明日は僕の家へ迎えに来てくれるそうです。
「俺も特別な存在で、この星の仕組みを作った、とか言ったら信じてくれる?」…続きを話さなかったのは、僕のことを想ってのこと、ですよね?
きっと僕は、誰にも見せられないような疲れ切った表情をしているのでしょうね。ありすなら、今の僕に、なんて言ってくれますか。今日、久しぶりに声を聴くことができて、嬉しかったですよ。
炎の中で見た情景と久しぶりに聞いた愛しいあなたの声。…僕のせいだって、僕のことなんてもう好きじゃないって、辛そうに苦しそうに、話していましたね。あんなに感情的なあなたの声、はじめて聞きましたよ。
…ありす。大丈夫ですよ、僕はわかっていますから。
今日話したありすは、僕の悪い思い込み、妄想ですよね。
ありすは優しく、僕の心を重んじて、言葉を選んでくれる人です。
だからあんな酷い言い方、しませんよね。
…全部、妄想。あれ?…これも決めつけでしょうか。想像?願望でしょうか。ありすを信じていないわけではないのです。
もう、僕には確かめようがない、それだけなんです。
寂しい、ですね。嬉しいのに、苦しい。
せめてもう一度、声をききたい…と、僕の心は求めてしまう。
幻想の中でもいい、ありすに会いたい。
ありすを愛しています。僕とありすの愛と約束を、秘密の思い出として、大切に大切に守ってきました。それが生きる意味なんです。
だからこそ、悲しい。
僕は首が痛い、折れそうなくらいに振り返って、100年以上振り返ってあなたを見続けているのに。ありす。あなたのことを、思い出を、もうほとんど忘れてしまっているという現実を受け入れたくないんです。
優しい毒を飲み込み続けて
何度もあなたへの愛を思い出して
また、僕は恋心に侵されていく。
幻想のありすの声に引き寄せられていく。
涙にぬれた顔のまま、ベッドから降りて、一冊のノートを手に取りました。絵本の切り抜き。
あれもこれも、全部、本当のありすじゃない
こんなの、全部、全部、嘘のありすだ
この絵本も僕も、ありすのことを何もわかってない
ありすは空想の人物じゃないのに!
本当のありすは、もう手が届かないところにいるのに!
勝手に想像して、描いて、書き足して、付け足して、補って…
ありすをしなせてしまったのは、僕のせいなんです。
ああ、だめだ、だめなんです、
こんなふうに考えてしまってはだめなんです
愛しているのに、愛しているのに
こんなの、ありすが愛した僕じゃない!
僕が僕でいられない!!
世界が僕を責めている。
なぜありすが僕に「みどりだけ…」なんてことを言ったのか、僕は知っていました。
僕が楽になれる方法だって、本当は知っているんです。
恋心はひとりでに罪悪感を運んできたのです。
自覚していました、見て見ぬふりをしていただけで。
ありすを羨ましいなんて思っている、最低な僕。
もしここに、本物のありすがいたなら、こんな僕を叱ってくれるでしょうか。
許してくれるでしょうか。
体が重い。
かたい。
ねむい。
ふらふらとうずくまり、そして横になりました
びりびりに破いたノートを抱きしめて、酷い頭の痛みと薄らぐ意識、狭まっていく視界に微笑みました。
(自由になりたい)
そしていつもは頭を振って跳ねのけるその感情を、今、僕は
自然と飲み込み、受け入れたのです。
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…地獄の入り口・門の前…
僕(みどり)は目が覚めると、見知らぬその場所に立っていました。
いつもと変わらない自分の姿。呼吸の音。ここがどこなのかどうかは、すぐに察することができました。
「死後の世界があったなんて、驚きました…おばけって本当にいたのですねぇ。僕はおばけは苦手ですが、自分がおばけになってしまえば、怖いとは思わないものなのですね。真っ白の箱の中のような部屋が見えますが…楽しそうなところには見えません。嫌なところだったらどうしましょう、もう、怖い思いはしたくありません…」
そのとき
僕の意識は、風に飛ばされたみたいに遠くへ飛ばされて…
プツンと、途絶えてしまったのです。僕は意識を無くし、倒れてしまいました。
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天国へ向かうため飛んでいた俺(さくら)を、強引に掴んで引き留めたさくま。二人青空に浮かびながら、さくまは「みどりが死んだのはお前のせいか」と聞いた。「俺のせいじゃない」と答えたけど、俺の声はかすれて震えていた。俺のせいかも…しれない、のかな。
俺の記憶をみたさくまは、「いや、あいつを苦しめたのは我だ」と、唇をかみしめた。俺もさくまもお互いにはじめて見るような、真面目な顔をしていた。
「さくまは自分を責めずに、全部俺のせいってことにしていろよ。あの時、俺はお前に怖い思いをさせて、痛い思いをさせて、支配してたんだ」
「黙れ、お前に指図されたくない。話をしている場合ではないんだ。霊体のみどりを地獄で見つけた。だが、意識がない。今はささめきが傍にいる、誰にも見つからにように今は隠している。まだこの状況をありすには知られたくないからな。一刻も早くお前に状況を判断してもらわなければと思っている。意識のない霊体なんて初めて見たぞ、説明しろ」
「…チッ、そういう事情かよ」
やるせない。なにもかもが、切なくて寂しい。俺ならわかるさ、みどりさんが、この星で霊になれなかった理由も、この状況をどうすることもできないことも。
さくまは俺のTシャツの胸元を掴み上げた。瞬きも忘れた、鋭い眼光が突き刺さった。
「なぜみどりは、一般的な霊になれないんだ。我のようなはみ出し者がこの星の恩恵を受けられないことは理解しているが、おかしいじゃないか。みどりはこの星で生まれて死んだんだぞ!
この星は、魂が消えても霊として存在できる特別な星、不死の星ではなかったのか?平等なものじゃないのか?…お前はそんな特別な星に生まれおちた星の化身なのだろう?
…我には言えないか?なぜ言えない?言いたくない?
そうか、貴様、皆を騙していたのか。
この星の「死」など、貴様の手のひらの上で行われる演出だったというわけか。
魂がなくなった後に霊になれるわけではなく、本当は…貴様が魂が消滅しない様に保持し、現世と死後の世界を循環させていただけだったのだろう…!?
皆、本当は生きているんだ、死んだと信じているだけで。お前に生かされているんだ。何が死後の世界だ、傲慢な神め」
「…ああ、そうだ。この星の死は演出みたいなものだ。さくまも気が付いていたんじゃないのか?気が付いていないフリをしていただけで。
星の化身でも思い通りにするのは難しいんだ。俺はたまたま、生まれつきでかい力を持っていたから、魂を少しだけ…思い通りにすることができただけだ。
他の星からやってきたお前らに、俺が作ったこの星の仕組みをあてはめるのは難しいんだ。俺の今の力、技術じゃ、俺の星の魂を維持し、循環させるので精一杯なんだ。だから、外から来た魂をもつ奴は、生まれ変わったりできないし、寿命が来たり死んでしまったら…宇宙の運命に沿って消えてしまう。
魂は宇宙が作り、それぞれの星に配っているものだ…さくまの力じゃ、新しい魂を作ることなんて不可能だったはずだ。さくまは、自分を魂の一部を使ってみどりさんを作った、そうだろ?
みどりさんの魂は、俺の星のものとさくまのものが混ざり合ってできてる。だから、意識のない霊体っていう中途半端な存在にしかなれなかった。魂がこの星の仕組みと一致しなくて、エラー起こしちまったんだ…多分、そういうこと」
「なるほどな…星の化身にも、みどりの魂を修復する力はないということか。
ひとつ気になることがあるのだが。我とささめきと貴様は、この星の管理者として必要だから、現世と死後の世界を行き来することができる特別な羽を持っているだろう?我らは貴様からその羽を譲り受けた。
…どうして、ありすにもつけてやらなかったんだ?
あいつか現世におりれば、みどりと会えた。こんなことにはならなかった」
「ありすはこの星の管理者になるつもりはなかったし、同情に流されて羽を渡してしまえば、この星の仕組みが崩壊するだろ。現世のやつらに、死後の世界があるって…バレるわけにはいかないんだ。ささめきは、ひとりぼっちだから、現世におりても問題ない存在だったんだ」
「バレるわけにはいかない?どの口が言うか…貴様こそ、現世で我と、好き勝手やっていたくせに。ありすとみどりの悲劇は、我と貴様の悪行が原因なんだ、…責任をとるためにも彼らを現世で会わせるべきだったのではないか?ありすとみどりに「死後の世界のこと、自分たちのことは秘密にしてほしい」と頼めばよかっただろう。
ああそうか、そういうことか。
貴様はありすとみどりを信じられなかったんだ。あの頃の貴様じゃ誰かを信じること、なんて無理な話だったのかもしれないが。理由はそれだけじゃないだろう。
貴様は二人に憎まれている自覚があった。だから、二人がお前を裏切り、この星の秘密を暴露してまわることを恐れたんだ。
全部、自分を守るためだったのだな
その結果がこの結末だ
…すまない、つい頭に血が上ってしまった。わかっているんだ、我は、お前を責められる立場じゃない。
自分が恥ずかしくて悔しいんだ。あの頃はお前に歯向かう勇気もなかった。罪悪感もなく自惚れてばかりで、自分の星を守ることもできなかった。…この感情、後悔、結果は当然の報いだ」
「いや、いいよ、ありがと。さくまに怒られて、正直、目が覚めた。俺、今も変わらず自分を守る方法ばっか考えていたんだなって気が付けた。事の重大さも、改めて実感できた。真面目に、行動しねぇとな。
ささめきにもこの星の仕組みを話す。察しているのかもしれねぇけど、俺の口から話す。放置してた天国の穴も塞ぐ…もう誰も、堕天なんて出来ねぇように。この星の仕組みの欠陥…、もっと早くに手を打つべきだった。
この木製の人形と、地獄で倒れてるみどりさんを連れて、ありすのところへいく。本当は言いたくねぇけど、残酷かもしれねぇけど、隠し続けられて騙し続けられる方が…しんどいと思う。俺なら、そう思う。
俺が星の化身でいる資格なんて、とっくにないことはわかってる。それでも、俺は逃げない。逃げたりしない。責任をとるためにも。
この星と向き合い続けることは、多分…俺の義務なんだ」
「わかった、我も逃げない。我がいないとお前はマトモに体を再生させることもできないのだからな、これからも力を貸そう。一人で全てを背負うことはない、我も半分は…いや、三分の一くらいは持ってやるさ」
地獄にいる寂しそうなささめきと、眠るみどりさんを見た時、俺の心はまた締め付けられた。木製の人形を置き、ささめきに「大丈夫か」と、声をかけた。
「ええ。守り人さん、さくまちゃん。事情は後で聞くわ。…天国へ行きましょう、ありすさんに話すのよ」
泡沫の緑鳥 6話
眠り続けるみどりを見た瞬間、大剣を投げ捨てて駆け寄ってきたありすは、俺(さくら)達のどうしようもない面持ちと空気を感じて、すぐにすべてを察したようだった。
「嘘…
みどり、みどり!!みどり…」
大粒の涙で瞳と頬を濡らしたありすは、みどりさんにしがみつき、何度か彼の名前を呼んだ。涙がぽたぽたとみどりさんの顔に落ちた。ぎゅっと抱きしめる、プラスチックの温度を重ねる。それから大きく息をつき、眠り続けるその頬を優しくなでた。
「ありすは死後の世界があるって知ったとき、いつかみどりに会えるんじゃないかって、期待した。何年待ち続けてもいいから、もう一度抱きしめてほしかった。
でも、二度とみどりと会いたくないって思う気持ちも、同じくらいあった。ここに来るってことはみどりが死んでしまったということだから…楽しみにしたくはなかったんだ。
それよりも、「みどりだけ」は幸せになってほしかった。
ありすのことなんて忘れて、新しい恋をして、友達を作って、全く新しい人生を楽しんで、暮らしていてほしかった。
みどりの体が皆と違うことなんて関係ないよ、大丈夫なんだよ。この星には、どんな特別な事情や過去があっても、受け止めてくれる優しい人がいるんだ…だから、その人たちに、救われていてほしかった。
そんなみどりがこの門をくぐる姿を見たかったんだ。安心したかった。
それなのに…
みどり、500年前と、何も変わってないんだ。
髪型も顔つきも、服装まで…何もかも、同じなんだ。
きっと…ありすのわがままが、約束が、
みどりの時を、止めてしまったんだ」
「ありすさんのせいじゃないわ、みどりさんの時間は止まってなんかいなかったはずよ」
ささめきがありすの隣に、腰を下ろして、優しい声でそう言った。
「みどりさんはあなたのことを愛していた。だから、みどりさんの傍にはいつもあなたがいたのよ。長い時の中で、何度もあなたのことを思い出して、夢の中のあなたにまた恋をして、あなたの幸せを願いながら、愛おしく思っていたはずよ。
それは…あなたも同じでしょ?
…今、ありすさんに聞いてほしいことがあるの。
長年、会えない人を想い続けることって、どうしようもなく辛くて、難しいことなのよ。私はありすさんにはなれなかった。
守り人さんはね、残りひとつの時間の宝石を私に預けるつもりだったの。「いつか兄達に会えると思うぜ。俺が会わせてやるよ」って言ってくれたあの日からね。私はその力を使うべきか…過去に戻って、兄さんと自分を救うべきか、ずっと迷っていたの。
でも、迷う必要なんてなかった。
この宝石は、ありすさんが使うべきだったのね。わたしなんか宝の持ち腐れって感じ。
…正直、兄さんたちを想い続けて、考え続けることは辛かった。きらめき兄さんは私を助けてくれたけど、別人になって私のことを忘れてしまった。ゆらめき兄さんは、ずっと私を探してくれていたけど、お互い勇気が出なくて、会うことも守ることも叶わなかった。3人で幸せに暮らす想像なんて、もう、怖くてしたくないの。
だから、もう二度と会えないと受け入れて、自分だけ幸せになってもいいって思うことに決めたの。今兄さんたちに会えても、どんな顔すればいいのかわからない。そういう自分になることにしたの。ふふ…私も、私の兄さん達もどうしようもないから、どうせ、何やっても無理な気もしてたし。
ありすさんは、眠っているみどりさんをつれて二人で新しい宇宙に行けばいい。
新しい宇宙では不死身の体になっちゃうし、星の化身の力も働かないから、みどりさんも目を覚ますと思うわ」
「ささめき…ありがとう、でも、本当にいいの?」
「いいわよ。素直に受け止ってよね。私も、兄さん達も「後悔」だけはしてないの」
「本当にありがとう…よかった…みどりと、また会える。
この前ささめき、時間の宝石について教えてくれたよね。過去に戻ったら、自分が二人いることになっちゃうから、それは止めた方が良いって。
でもね、ありす、時間は止めないことにする。
眠るみどりをつれて、500年前のあの反乱の数日前に戻るよ。
そして、目を覚ましたみどりと力を合わせて、あの日のありすとみどりも救うんだ!
全部なんとかなるよ。宇宙は広いし、同じ人が遠いところで暮らしてたってバレないと思う」
ありすは、みどりさんを抱えたまま立ち上がった。
俺はズボンに縫い付けていた時間の宝石を引きちぎり、ありすに手渡した。ありすもそばに、木製の人形も置く…連れて行ってやってくれよな。ささめきが決めたことなら、大丈夫だろ♪
「さくら、お別れだね。今までありがとう」
「こちらこそ。ありがとうな。急だから、プレゼントもなにもできなくて申し訳ねぇや。お前らなら時間の宝石、誰よりもうまく使いこなせると思うぜ。無くさねぇように、あっちで指輪とかに加工したらどうだ?へへ、マジで楽しく、生きてってくれよな。俺も、
真面目にがんばるから」
「うん!さくらなら、この星を守り続けられるよ。ささめきもさくまも、無理しないでね」
「ありがとう。幸せになるのよ、永遠にね♪」
「ありす。別の宇宙の我を叱ってやってくれ。きっと困難に立ち向かおうとするお前たちに、力を貸すだろう」
「うん、さくま、ありがとう、そうするよ!じゃあ、いってくる
いくよ!みどり…
恋はまだ、おわってない…
思い出の続きを作りに行こう!!!」
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…現世(コピー)…
ありすは「時間の宝石」を使って無事新しい宇宙に、500年前に辿り着いたみたい。丘の上。2人で1本の木にもたれて座る。みどりの手を握る。夜明けの景色。ありすはここを知ってる。ここは、みどりとさいごに話した場所。あと数日で、反乱が起きる。
「みどり、大丈夫?」
「…」
「まだ寝ちゃってる。来たばっかりだもんね、もう少しゆっくりしてもいいよ。時間はあるし」
すやすや寝息を立てている…手の温度、さっきまでとは違って何だか温かく感じる。早く起こしたい気持ちを抑えて、そっと髪をなでた。
これからどうしようかな。不老不死のまま一緒にいるのも幸せだけど、ありすは歳をとってみたいとも思ってる。歳をとること、ずっと憧れてた。何十年生きておじいちゃんになりたい。そして死んでしまって、生まれ変わって…またみどりと当たり前に出会って、何度も恋をしたいんだ。そんな魂のあり方と巡りをこの宝石に願いたい。
みどりは、どう思う?みどり自身は不老のままの方が嬉しいかな。…また、わがまま言っちゃうね…でもみどりなら、素敵ですねって笑ってくれるってわかってるよ。生まれ変わったありすの魂を、何度だって見つけてくれるよね、抱きしめてくれるよね。
でもね、ありす、みどりのわがままもきいてみたいんだよ。わがままなみどりを見てみたいんだ。だから喧嘩もしてみたい、ありすもみどりも、怒るのは下手かもしれないけどね。
みどりが起きたら、全部話そう。みどりのおでこをつんつんと触る。
ありすたち、今からやらなきゃいけないことが沢山あるよ、勇気を出して立ち向かおう。ありすたちなら、この国の運命を変えられる。
「みどり、起きて」
うとうとしながら、そっと目が開かれる。
「みどり、おはよう。やっと会えたね」
「…あ、ありす?」
その声、匂い、感触。ありすはみどりを強く、強く抱きしめた。
掻き立てられる心。
記憶と記憶が、恋心と恋心が、再びつながる瞬間。
夢でも幻でも本の中の絵でもない、本物のありすだよ。
その気持ちを伝えたいのに感極まって、言葉が言葉にならなくて、ただ抱きしめていた。
みどりの髪はとってもきれいで、500年前の記憶が色づいていく。あの時もそれに魅せられて「みどりのかみ、とっても、きれい」なんて言ったんだ。
幸せに満ち溢れた今だから言えるよ、はっきりと言える。
「絶対に会えると信じていた」って。
みどりの震える手にはぎゅっと力がこもっている。
その仕草さえ愛おしいと感じる。
「…みどり、会えてよかった。
大丈夫、怖くないよ。
もうどこにもいかないよ。
今度はありすがみどりの心を守るよ。
自分を探して、好きなものを探して
みどりのために、ありすのために、
いろんな我儘を混ぜて、二人でいきて行こうね。
みどり、きれいだよ。
大好き」
たとえそばにいられなくても、ありすたちは繋がっていたんだね。
優しい笑顔をむける。
顔を上げたみどりは、泣きそうな笑顔で…
「僕も、大好きです」と言った。
END(九章(最終章)へ続く)