星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~ 四章「とじこめて、あいびぃ!」

恋心が暴走する!生死を超え、世界を手に入れ宇宙を跨ぐ…ヤンデレ男子たちが主役のダークファンタジー小説(全九章。)

はじめに

残酷な表現等を含みます。作品をお読みになる前に以下の注意事項を必ずご確認ください

星のはなびら四章「とじこめて、あいびぃ!」

星を守る使命を持つ特別な存在、星の化身「さくら」。面倒くさがり屋で退屈なさくらは、アルバイトを楽しみながら自由気ままな毎日を送っていた。バイト帰りのさくらを連れ去ったのは、星をほろぼしに来た侵略者の「からす」。使命と許されない恋心を天秤にかけて…彼のこと、信じきれる?(さくら×からす×さくら)

本編

桜が咲き始める季節。優しい風が頬をかすめる。カチカチ…小さく感じる時計の音。時間の音。当たり前に過ぎていく今日。

まわる、青色の星…

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とある男が一躍人気モデルとなり活躍している頃…

とある堕天使が愛を込めた復讐を準備している頃

とある女子高生が花屋へ通い、赤色のバラを買っている頃…

これはあの事件が起こる、少し前のお話。この星を司る守り神「星の化身」と、この星が宿す力を奪いに来た「星の侵略者」のお話。

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俺の名前は「さくら(咲薇)」

星の脈動を感じる。俺の心臓はこの青い星と共有している。俺は星の化身として生まれた。

星の化身は、ひとつの星に、必ずひとり存在している…星と共に生まれ、その星にルールを宿し、守り、生命と世界を維持する使命を持つ、たった1人の秘密の存在。

守り人(まもりびと)様、なんて呼ばれていたりもする。

守り人は、その星に宿る強いエネルギー…「力」を操ることができる。力の大きさは星が生まれた時に決まる。つまり、運。力の使い道も星によって違う。守り人は強くて幸せな星を作りたいと思っているけれど、その価値観も、正しいと思っていることも様々だ。

…守り人はみんな、生まれながらの使命を受け入れ、全てを背負って働いている。

守り人の体や心が死を自覚すれば、その星は滅んでしまう。だから、必死に守り、生きている。

…つまり、守り人である俺がやる気なくなってしまったら、

この星はおしまいってこと♪

この星がいつ終わるか?どうなるか?なんて俺の気分次第なんだ。先に謝っとくな、ごめんな!!!俺、こういう適当な性格だからさ…マジで守り人とか向いてねぇの。

強くて幸せな星作りについて考えて、試行錯誤していた頃もあったけど…なんかさ、色々面倒くさくなっちまったんだ!!

でも、戦うのは割と好き♪ 別の星から時々来るんだ、「星の侵略者」がな。そいつらの目的は俺。守り人を倒せば、その星の「力」を奪えて、自分の星に持ち帰ることができるんだ。守り人は基本的には星の外には出られねぇから、直々に戦いにくることはねぇけど。

俺の星は生まれつき超強いから、侵略なんてする必要ねぇんだよ、…とにかく何もやりたくねぇんだ!

守り人辞めてぇ!何も考えたくねぇ!遊んで楽に生きてたい〜!!

それなのに、面倒くせぇことばかり起こる!!

誰だよ、俺の地獄に勝手に穴開けて、霊界つくったやつ!!!まぁいいか、俺の生活に支障はないし…放置放置♪俺は放任主義なんだ。

天国に住んでる悪魔だって、放置して好きなことさせてるしな。あいつは俺のオモチャ…元々他の星から来た侵略者だったけど、使えそうだから、生かして傍においてるんだ。力でねじ伏せて、言うことを聞かせてる。

悪魔、結構面白いことするんだぜ?500年前はひとつの国をめちゃくちゃにしちまったんだ!あはは、面白ぇ、ヤベェ、恋愛ドラマ観てるみたい!…いつも俺を楽しませてくれるから、退屈しのぎにはなるぜ!

俺はとにかく暇なんだ!ずっと暇で退屈なんだ!やることもねぇし…あるけど、やりたくねぇことは、やりたくねぇの!人間のモノマネして、楽しいこと探してる。美味いもの食って、寝て、気持ちいい夜遊びして。

俺は基本的には天国で暮らしてるんだけど、最近は現世でフルタイムのバイトはじめたんだ!履歴書の書き方なんてわかんねぇから、店長に必死で頭下げた。超楽しいのに、金まで貰える。時間がゆっくり流れる天国と、時間が早く流れる地獄、現世を上手く行き来すれば、休憩時間長くとられるし最高♪笑

あははは、好き勝手やってやるぜ♪

今日もバイト先の花屋に向かう。通勤時間は5秒くらい…透明の羽で羽ばたいて、天国から降りてくるだけ。

「さくら君、おはよう。今日は早いね」

「おはようございます♪ゆずは先輩!」

ゆずは先輩は、アパートから自転車を漕いできてる。汗をハンカチで拭いている。店に入り、休憩室の先にある更衣室でエプロンをつけ、着替えはじめる。

「さくら君、薇(ぜんまい)食べたことある?暖かくなってきたし…春の味覚、お浸しとかおいしいよね」

「なんすか、それ?」

「自分の名前に使われてる植物なのに知らないの?そうだ、今度オレの家で食べてみる?オレ、料理は得意じゃないけど、調べておくよ」

俺の名前「咲薇」…「薔薇」に使われている漢字でかっこいいからこれにしたのに、…お浸しにしちまうのか?美味いならいいけど。

「花言葉もあるんだよ、子孫の守護とか秘めたる若さとか…。よし、今日もお仕事がんばろうか。今日大きい花束の予約入ってるの覚えてる?…オレ、それ作るから、開店準備任せてもいい?」

「は〜い」

ゆずは先輩。俺がバイト始めたときから、色々教えてくれてる、仕事熱心な優しい先輩。時々ネガティブモードになって、休憩室で泣いてたりもするけど。

ゆずは先輩の家で一緒に映画見たり、チューハイ飲んだりする時もあるし、結構仲良しなんだぜ。

ゆずは先輩は、お客さんのイメージ通りの花束を作るのが得意だ。1本1本の花を螺旋状に組む指さばきと、花選び、色使いのセンスは正直尊敬している。俺?俺はまだ、花束なんて作れねぇよ。難しいもん。

お昼は一緒にカップ麺食って…。定時になって、ゆずは先輩に「帰って大丈夫だよ」と言われたら、俺は素直に「はーい、お疲れ様でっす〜」とか言って、着替えて荷物まとめて先に帰る。

色んな仕事に挑戦したけど続けられなくて、やっと自分に合った仕事を見つけられたというゆずは先輩。無理をすると体調壊しちまう体質らしくて、正社員になるお誘いは、とりあえずは断ったらしい。

ゆずは先輩は自分のことを不器用でダメな人間なんて言うけれど、俺は普通に尊敬してる。学歴とか職歴とか?今、楽しけりゃ関係ねぇじゃん。

ゆずは先輩がネガティブモードの時は、そっと、好きな花の話をするのが正解。ぱぁっと明るくなってお喋りになる。もっと胸を張ればいいのになぁ〜♪

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ひとりぼっちの帰り道。紫色の混じった夕焼け。橙色に照らされる雲が浮かぶお気に入りの景色。

今日は給料日!コンビニによってから天国に帰ろうか。唐揚げ食いてぇしなぁ〜♪

少しだけ肌寒い…そんな事を思いながら、コンビニへの道を歩く。でこぼこしたアスファルト、慣れた歩道。

ーその時ー

キキーッ!!突然、俺の後ろに止まった真っ黒のでかい車。

あ?…なんだ??

振り返った瞬間。運転席から降りてきた長身の男に強い力で口を塞がれた。そのまま強引に後部座席に押し込められ、汚い座席の下に体を押し付けられる。あっという間に手錠と目隠しをされる。

「きっしょ、離れろ!!!」

叫んでいると革紐のついた猿轡を噛まされた。

「んぅー!?!?」

俺は、唐揚げ食って帰りたいだけなんだって!!

発車音。どこかへと揺られて行く。唐揚げは遠のいていく…。まぁ、狙われたのが俺で、ゆずは先輩じゃなくてよかったか…?不幸中の幸い?

幸いじゃねぇよ、知るか。うるせぇ。俺を誰だと思っているんだ!

がぁああ!!!

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荷物みたいに車から降ろされる。俺の159cmの小柄な体は、易々と持ち上げられ運ばれていく…。扉を開ける音?が聞こえた…建物に入ったのか?…やっと拘束が解かれた。恐る恐る、瞼を持ち上げる。ま、眩しい…おかえり、視界。

(うっわ…マジで…?)

目の前には銀色に光る鉄格子。太ももの、冷たく硬い感触。どうやら俺は、部屋の中、丁度いい大きさの檻に閉じ込められているようだった。バイト帰りの青年をペット扱いする、やべぇヘンタイに、連れ去られちまったのかよ…。

檻の外、目の前には俺を連れてきた背の高い男が立っている。180cm以上はあるか?…真っ黒のロングコート。真っ黒の髪、前髪は顔を覆い隠す程に長い。

ゆっくり近づいてくるその男。ガシャン…腰を下ろし、柵を握り、無言で俺を見つめてくる。揺れる前髪の隙間から時々見える宝石のような紺色の瞳…荒い息遣い、顔を赤くして、瞬きもせずに俺を見つめている。

(絶対ヘンタイじゃん!)

男は大きな溜息をつき、それからボソボソと何か話しはじめた。

ンンッ…格別な匂いだな〜ッ!!桜色の髪も、銀色の瞳も、近くで見ると想像以上に可愛いなぁ〜♪お花屋さんでアルバイトしているだなんて、フェアリー味も深い♡人をだめにするクッションみたいに、いや、それ以上に、わたしを駄目にしちゃう尊い存在なんだぁ♡さ・く・ら・く・ん♡」

「…お前何言ってんの?ストーカー?いいから、こっから出せって…あんまり俺の事、刺激しない方がいいよマジで。てか、俺の名前も知ってるの?」

「ぁあん!!!喋ったッ!!!///…待って…くれッ、ごほごほッ」

男は胸を抑えて、檻にもたれ掛かるようにうずくまる。咳がとまった後も、体を小刻みに震わせて何かを呟いている。

「こんなの付き合ってらんねぇ。目的あんの?言わねぇととりあえず大声だして暴れるけど…?」

「ッ、待て、ストップ、ストップだ!!さくら君の尊みが深すぎて、わたしの感情が置いていかれているだけなんだ。だから、追いつくまで待ってくれ!!はぁはぁ、それまでは、何もしないから!!本当ダッ、見るだけだから…はぁはぁ、その後全部うちあけるからぁ」

「それまではって何だよ…まぁいいや、じゃあ5分な。5分たったら洗いざらい話せよ」

「至福の5分ぅん♡ああ、この目に焼き付けないと…何もしないから、安心してネ♡」

「…きもいなぁ」

この男も鉄格子も見たくなくて、会話もしたくねぇし…俺はそっと瞼を閉じる。仕事の疲れもあってかウトウトし…いつの間にか寝てしまっていた。

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ふと顔を上げると、また鉄格子と男が見えて、少しウケた。やっぱりコレ、現実なのかよ!

「ケツ痛てぇ…起こせよ。5分っつったろ」

「…ゴメンナサイでも無理さくら君可愛いんだもん♡推しがいるオタクってこういう気持ちなんだなぁ〜ゴホッゴホッ…」

ヨダレを垂らして、俺から目を離さない男…こいつ、何者なんだ?ドヘンタイ?ストーカー?まさか、侵略者だったり??

男は「わたしのことを教えてあげよう」と言って、立ち上がった。突然の素早い動作に若干引く俺。

「わたしは…黒い星の守り人から命令され、この青い星にやってきた「星の侵略者」だッ!

わたしの仕事はこの星の守り人、つまりさくら君を殺してこの星の力を持ち帰ること。

…でも、こんなにも可憐なさくら君に痛いことなんてできないよなぁ。そもそもわたしは戦うことは苦手なんだ。

無理無理、大切にしたい♡だって好きになっちゃったんだもん♡」

…超キモい侵略者。じわじわと頭に血が上る。退屈しのぎになるかなって、そんな理由で唐揚げ諦めて、大人しく捕まってやったんだ。でも蓋を開けてみれば、俺は舐められちまってるみたいじゃん?「青い星の守り人」としてさ!

へへ、面白くなってきたじゃねぇか。

仕方ねぇなあ、正しい振る舞いと、立場ってものを、きっちりハッキリわからせてやるか。

「見てろよ、生ぬる侵略者!!」

「ウワ、さ、さくら君!?」

俺は両手で鉄格子を掴む。この硬さ…ただの鉄じゃない…別の星の「特別な力」が込められて作られているようだ。

…知ったことかよ。俺は強い守り人なんだ。

ガキンッ!!!

両手に力を込め、割り箸を折るような気持ちでその棒をぐにゃりと折り曲げた。俺は「力」だけは宇宙一名乗ってもいいんじゃねぇかってくらいに湧いて出てくる…侵略者に負けたりなんかしない。守り人としての力には自信があるんだよ!

隙間から外へ飛び出す。瞬時に男に体当たりし、フローリングへ押し倒した。

「…俺がこの星を何年維持しているか、知らない訳じゃねぇだろ?運だけでここまで来てるわけねぇからな。

今まで来た侵略者をどうしてきたか知ってるか?雑魚は皆、痛めつけて殺してきたんだ。

天国にいる悪魔みてぇに、オモチャ扱いして生かしてるやつもいるけど。誰も俺には逆らえねぇし、俺には、使い捨てを道具をいちいち覚えていられるほどの記憶力もねぇ。

わかる?俺は守り人なんて向いてねぇクズだ。

俺に踊らされているこの星の人間や、侵略者の現実(ドラマ)でも見ながら、適当に遊びながら、適当に星まわしてんだよ。

お前が侵略者の自覚があるのなら、そして俺が守り人だってわかってるなら…それ相応の覚悟をした方がいいぜ?先に手を出したのはそっちだろ?

お前、キモイけど強そうだし…俺の新しいオモチャにしてやろうかな〜♪」

「オモチャッ!?」

「…ああ、そうだ」

「わたし、さくら君のオモチャになるのかぁ…嬉しいなぁ〜、何をすればいいんだ?」

「…はぁ?他の侵略者は皆焦って命乞いするのに。まぁ、そうか、俺のこと好きになったとか言ってたっけ?笑。流石にこのパターンは初めてかな。

おもしれぇ!!じゃあオモチャらしくオモチャ箱(檻)の中に入ってみろよ。今度は、俺の力で鍵かけてやるからさ」

男は滴るほどの汗をかいている。長い前髪が、顔に張り付いて湿っている。動揺しているんだろ?強がらなくてもわかるって。

「まさかこの檻に、わたしが入ることになるなんてな…すごいぞぉ♡はぁはぁ…

…い、いや、興奮しているのか?

「黙って入れって」

男は身を屈め、柵の隙間から檻の中へと入った。俺は柵の隙間を閉じ、檻に力を宿して男を閉じ込めた。

ガチャン…

「変なやつ。なぁ、お前、名前なんて言うの?」

「わたしの名前が気になっちゃったのか?…ふふ♡わたしは「x-&(えっくすあんど)エクスキューショナー0052’7(ぜろぜろごーにーせぶん)」だぞ♡

「x-&チーム52番」という隊に所属する戦士の「7(せぶん)」という意味なんだ!せぶん君とか、せぶちゃんとか好きに呼んでくれ!」

「えく、あんどえく…?。何言ってるのかわかんねぇ…めんどくせぇ!!お前真っ黒だし、「からす」でいい?笑」

「からす!?アア…ごほっごほ…ァ/////推しから名前もらっちゃった♡それ、本名にする!好きに呼んでくれ〜ッ♡」

俺は当たりを軽く見渡した。白い壁側に俺の荷物と俺を拘束していた道具が無造作に置かれているのを見つける。それを手に取って、ぶっきらぼうに言う。

「からす、柵から両手出せ。お前にこれをつけて遊ぶんだ」

からすは素直に、俺よりも一回りは大きいその両手を出した。俺は柵を噛ませるようにしてその手首に手錠をかける。それから猿轡も見せると、からすは少しだけ焦った表情をみせた。

「それも付けるのか…わかった。なんだかえっちだなぁ…ふふ…」

素直に口を開けたからす。こいつ、やっぱりおもしれぇ!俺が好きって理由だけで、何でも言う事を聞くなんて、マジのオモチャじゃん!!

「おいおいなんだ、照れてんのか。もっとでかく開けねぇとつけられねぇだろ。俺の言うことが聞けねぇってか?」

それを聞いたからすは、自由を奪われたその拳を握り、ぐっと顔を上げた。目をとじ、口をより大きく開ける。間抜け面…部屋の明かりに照らされ、口内がてらてらと光る。手を止めて、それを見てしまう俺。「あぇ?」と、からすが首を傾げた。

こいつ、侵略者のくせに俺のことが好きなんだよな…。

開けっ放しの口の端から涎が垂れ、服に落ちる。のぼせて赤くなった頬…。 

… …

「ぁ…ぅ…さ…さくら君?」

疑問と共に、からすの瞼がそっと持ち上がった。

露になる…長いまつ毛と大きな瞳

長い前髪の奥に隠されていた

サファイアブルーの瞳

揺れる瞳は反射し、宝石のように輝いた。星の様に瞬くサイネリア、光の加減によりトルマリンが混ざり、時々バイオレットに照らされる。

なんだ?これ

胸が締め付けられ、自分の鼓動を意識してしまう熱い感覚…。俺の知らない感情があおられる、どこからか情欲が湧いてくる。

綺麗で、眩しくて、目が離せなかった。

俺は思わず、猿轡を掴む手を柵の間に滑り込ませ、からすを力強く引き寄せる。顔を近づける。至近距離。驚いているからす…。

我慢できなくて…柵の隙間から、噛み付くようにその唇を奪った。

からすの体がビクリとはねる。手錠がカシャン…と鉄の音を鳴らす。

柵越しに指を絡ませ、衝動的な気持ちにまかせて、何度も重ね直す…息が漏れる。舌を滑り込ませれば、ぬめりとした感触に流されていく。頬の裏、前歯の裏、舌の裏。強引にその口内を舐めまわす。物足らずに捕まえた舌を吸っては軽く噛む。

(…お、俺、なにやってるんだ???)

突き放すように、唇を離す。そして大慌てでからすに、無理矢理猿轡を咥えさせた。きつく、きつく締める。猿轡の隙間から溢れるように涎がぽたぽたと落ちる…羞恥心からか、からすは顔を背けるように俯いた。

「き、キモ、よろこんでんじゃねーよ!!!ああそうか、お前陰キャだもんな、はじめてチューして興奮したのかよ!!」

からすは手錠を柵にぶつけている、何か言いたげな様子だ。真っ赤に染まった頬と耳を見て、俺は不思議な高揚感に満たされていた。

…。

…今思えば

どうしてからすを閉じ込めたりなんかしたんだろう。

俺のことが好きで、何でも言うことをきくから?使えそうだったから?

…それだけ?本当に?

わかってる、気付いてる。あの時確かに俺の心は動かされたんだ。

恋心?俺の知らない、興味もない、そんな感情が染み込んだ、からすの瞳が真っ直ぐに俺を見ていたから。俺はおかしくなっちまったんだ。

恋やら愛やらめんどくせぇ、気持ちいいことだけしてれば楽しいじゃん?全部退屈しのぎ…そう、ずっと、思っていたのに。

俺は触れてしまったんだ。

檻の中の汗だくのからすからは、花の蜜みたいな香りがした…そんな気がした。

俺のこの気持ち。なんて言えばいい?なんてあらわせばいい?

まさか…「初恋」とか、そういうの?

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からすを檻の中に残して、広くない部屋を彷徨く。生活感はほとんど無いけど、窓側にサボテンが置かれていた。植木鉢には油性ペンで「ともだち」と書かれている。これ、バイト先の花屋で売ってたやつじゃん…からす、買いに来てたのか?部屋の隅には布団が無造作に敷かれていた。

(やっぱからすはここに住んでいるのか…?)

部屋は檻が置いてあるここだけで、ひとつだけか…あそこが玄関ね。キッチン、お風呂、トイレはある。洋式トイレの後ろに俺の荷物…リュックが隠されているのを見つけた。…こんな所に隠すなよ、きったねぇ!汚い成分をはらい落とす気持ちで、床との接地面をばしばしと叩いておく。

それから灯りを消して、外に出た。もうすっかり暗くなっている。生暖かい夜風…今日も星一つ見えない都会の空。ここはアパートの一室だったようで、俺が乗せられた黒い車が停まっているのも見える。見渡すと、その景色には見覚えがあった。

…ここ、ゆずは先輩のアパートの近くじゃねぇか!

ゆずは先輩の家に遊びにいったとき、中学生が観るんじゃねえの?っていうトキメキ溢れた恋愛映画を観た思い出が蘇ってきた。ゆずは先輩が持ってきた映画だったけど、ちょっと意外だった。いつも「恋愛なんて悩み事が増えるだけだよ」なんて言ってたし。映画に見入って、涙を流していた先輩の姿が印象に残っている。…ちょっと面白かったな。

からすの家は花屋から、そんなに遠くはなかったんだな。「遠いところに連れてこられた」と思わせて、不安を煽る為に遠回りしていただけかよ。でも、考えてみれば、そりゃそうか。

ターゲットである俺は基本的には天国をフラフラして生活している。天国という世界には、部外者は簡単に入ることはできない。

しかも天国はビビるくらい広い。

天国は死者が幸せに暮らせるように、色んな時代や国を再現して設計、増築し続けている夢のテーマパークみたいな場所なんだ。超楽しいぜ♪

自分の姿も自由に変えられるし、飽きたら転生…リセットして、現世に生まれなおせる。現世で頑張って生きてきたやつのためのご褒美って感じ♪俺が作った世界だけど、管理するのは面倒くさいから放置気味だし、人探しには向いてない。

ちなみに地獄は…1人になりたいやつが、落ち着いて過ごすための個室が広がる世界だ。死者の世界(天国と地獄)は好きに行き来できる仕組み。

…だけど俺は職場にだけは、決まった時間に必ずやってくる。だから、その近くに住んでいた方が監視しやすくていい、という訳なんだろう。俺が働いている様子をどこかから眺めていたのだろうな、気持ちわりぃなぁ。

(…そういや今日は唐揚げ食い損ねたし、退勤してから何も食ってねぇな)

星の化身である俺は人間の体じゃねぇし、食わないから死ぬってこともないけれど、美味いからって理由で毎日食っていたら、自然と腹が減るようになっちまったんだ…。食欲ってやつ?今や毎日3大欲求満たしていないとイライラしてくる…。

この近くには、ショッピングモールがあるはずだ。食い物でも買いに行こうかな。歩いて15分とか20分とかそれくらいだろ。リュックの中の財布を確認すると5000円札が入っていた。

(そういやからすは飯食うのかな…)

歩いている途中、そんなことを考えていた。

俺はからすをどうしたいんだ…。あのままずっと閉じ込めて、退屈しのぎに遊んでやるか?

…いや、退屈しのぎって言葉には収められねぇな。

だってこんなに心が浮かれる、掻き立てられる感情があったなんて、知らなかった。ああそうだ、どこまで俺の言うことを聞くことが出来るのか試してやってもいいな。反抗したら?お仕置だ!

ワクワクする。からすはもう、俺のものなんだ。

きもいし変だけど、俺を欲しがる面白いやつ。

…早くその、煌めく瞳をまた見たい。

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