恋心が暴走する!生死を超え、世界を手に入れ宇宙を跨ぐ…ヤンデレ男子たちが主役のダークファンタジー小説(全九章。)
はじめに
残酷な表現等を含みます。作品をお読みになる前に以下の注意事項を必ずご確認ください
星のはなびら七章前編「守り人、また明日」
星が消滅する瞬間は、星全体が輝き舞い広がるらしい。一度見た者は忘れることのできない、美しくも儚い、宇宙で一番綺麗なその光景を、とある戦士は「星のはなびら」のようだと言った。からすが抱える寂しさと秘密。「この宇宙で、この星で、さくら君と生きたいんだ」
本編
夜空を見上げれば沢山の星がみえる。その輝きのひとつひとつに、「星の化身」が存在している。星と共に生まれ、星を守る使命を持つ、たった一人の存在…地平線を心臓と繋いでいる彼ら彼女らは、自分の星からは出ることはできない。
星の化身は生まれつき「宇宙の力」を体に宿しており、力の大きさも使い方も様々だ。星を守る仕組みも、幸せな人生を守る仕組みも、理想も、星の化身次第で、それぞれの色がある。赤、青、黄…星の色は、星の化身の思念を象徴している。
戦うため。守るため。理想の「力」と「幸せ」を求めて、他の星を侵略する星も多く存在する。自分の星の「戦士」を、他の星へ向かわせるのだ。星の化身の「命」「意思」を壊し、星の所有権や力を奪い、自分の星に持ち帰る。力の奪い合いは今も、宇宙のどこかで行われている。
星の化身の命の糸が切れてしまえば、星は崩壊し消滅する。星に住む人々の魂も、星の化身が築いた世界も、巻き込まれれば全てが消えてしまう。透けて、透けて、透明になって…意識も、恐怖もないままに、無の水槽の中へと溶けていく。
星が消滅する瞬間は、星全体が輝き舞い広がるらしい。一度見た者は忘れることのできない、美しくも儚い、宇宙で一番綺麗なその光景を、とある戦士は「星のはなびら」のようだと言った。
どの星の化身も、最期に見るのは星のはなびら。
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…さくらと悪魔(さくま)が出会う少し前のお話…
宇宙に浮かんでいた、とある星が消滅した。
「黄色の世界の星」と呼ばれていた星だった。
黄色の星の化身の男は、希望する「星の民(たみ)」(星に住む人々のこと)ひとりひとりに「異世界」をプレゼントしていた。分け与えた世界はあくまで、今いる世界(正しい時間が流れている真実の世界)のコピーではあったが、異世界では、時間を都合よく操ったり、好きにできる仕組みで、幸せな夢を見続けられるように設計されていたらしい。それが黄色の化身の力の使い方、幸せの作り方だった。
しかし、黄色の星は「黒色の戦闘の星」に目を付けられ攻められてしまった。黒色の星からやってきた一人の女戦士は、あっという間に黄色の星の化身を見つけて、大けがをさせ、追い詰めた。黄色の星の民は、ほとんどが異世界転生していたため、人口が少なく、戦える者がいなかった。臆病な黄色の星の化身は、必死に命乞いをしていた。
「頼むよ、殺さないでくれよ!」
「黒色の戦闘の星」は、ひとつでも多くの星を侵略するために、強力な戦士を育てていた。黒色の星の化身は冷徹な女だった。彼女は、志願した星の民を戦士として直々に訓練し、鍛えていた。知識や魔法、戦闘技術などの特別な技術をもつ戦士は、特に活躍していた。戦い、力を集めるのは、守るためだった。
星の民は戦士たちに守られて、安心して暮らすことができる…それが黒色の星の化身の力の使い方、幸せの作り方だった。
女戦士は黄色の星の化身の命乞いをあざけり笑った。
女戦士は特別な技術、「記憶を見る力」を持っていた。その魔法で、黄色の星の化身の力も、星の仕組みも、思考も、全てお見通しだった。黄色の星の化身が、隙を見て異世界に逃げようとしていることには気が付いていた。
しかし、彼女は油断してしまった。自分を過信し、強さに酔っている彼女はいつも最後の最後にミスをする。
「くくく…黄色の星の化身、我の姿が可愛らしいから、油断をしたか?もっと、もっと戦(おのの)くが良い!!我は宇宙を蹂躙する悪魔!!悪魔の力を舐めるなよ」
気が付くと目の前にいた黄色の星の化身はいなくなっていた。隙を見て、残った力を振り絞り、異世界に逃げたのだ。黄色の星の化身は今頃、攻められることも崩壊することもない夢の世界で、人生の続きを楽しんでいるのだろう。
黄色の星のはなびらが舞い散る景色の中、侵略者の女は唇をかんだ。消えゆく黄色の光に手を伸ばすと、三つの欠片を掴み取ることができた。それはひし形の黄色の宝石だった。星の化身の力の一部が宿った結晶…。瞬く星屑のように輝いている。しかし、それは黄色の星の化身の力の「残骸」に過ぎなかった。幸せな異世界に行くことができるとは限らない、歪で危険な力が宿っている様子だった。
「くそ…こんな物が欲しいわけではなかったのに。まぁいい、これは宇宙に残った「黄色の世界の星」の唯一の力だ。適当に「時間の宝石」なんて名付けて星へ持ち帰ろう。ぁあ、調子に乗りすぎた。守り人様に何と言い訳をするか。また悪魔のまねごとをして隙を突かれたのか!と怒られてしまう。まぁ、その通りなのだが。手ぶらで帰るわけではない、…この宝石を持ち帰りさえすれば、怒られずに済むだろう」
女戦士はそうつぶやき、パチンと指を鳴らした。するとどこからか彼女の宇宙船が飛んできた。大きな黒い翼があしらわれた一人乗りの宇宙船。操縦席へと座り、彼女は「黒色の戦闘の星」へと帰って行ったのだった…。
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…現在・とある星のショッピングモール…
「お疲れっす~!!」
あーあ面倒くさかった、今日のバイトもこれで終わり。退勤し、ショッピングモールの従業員専用の裏口から出る。桜の木が見える。おちてくる花びらが髪やら肩について鬱陶しい。パッパッと払い落とす。売れ残りの唐揚げパン(唐揚げをパンで挟んでいる惣菜パン、超うめぇ)が入った白いビニール袋を揺らしながら俺(さくら)は透明の翼を広げた。
花売る仕事はやめたんだ。ちが、無責任とかいうなよ?クビになったわけでもねぇから!ゆずは先輩と会った後、閉店したんだ、仕方ねぇだろ。詳しい事情はわかんねぇけど、俺のせいじゃねぇから!
今はゆずは先輩が住んでた家の近く(からすが拠点にしていた家の近くでもあるな)のショッピングモールの中にあるパン屋でバイトしてる。生地こねるの楽しいぜ!俺、パン職人向いてるかもしれねぇ!時々力を入れすぎて、机ごと破壊しちまうけど…。
そうはいっても、いつまでもこの町にいられるわけじゃねぇ。俺、星の化身じゃん?素性を詳しく調べられたり、怪しまれたりしたら面倒だろ。気に入ってるから、見た目も変えたくねぇし。これまでも適当にふらふらと、遊び場所とバイト先は変えてきてるんだ。
現世の時間の流れでいうと、ささめきと出会ってからもう10年は経っている。あと10年くらいは、粘れねぇかな~、だってこの町楽しいし。気が合う、おもしれぇ友達もいるし。
歩いているとズボンのポケットからコロッと何かが落ち、転がった。
「あ…やべ」
俺は慌てて落ちた二つの「時間の宝石」を拾い、ポケットに入れた。…。大事な物だから、いつも持ち歩いてる(ポケットに入れっぱなし)。
現世の地上をすり抜けて、地獄の入り口、門の前にたどり着く。相変わらず暑いし、湿った様な淀んだ空気。恐らく地獄という世界を、星の奥深くに作りすぎたせいだ。…この感覚は、多分、俺にしかわからねぇ。扇風機とか空気清浄機とか置いてみても全然効かねぇ。芳香剤もぶら下げているのにな。色も気味わりぃから、青色のペンキとか塗って、もっと落ち着けるようにしてぇんだけど、めんどくせぇから結局手を付けていない。
俺がもっと器用だったら、星の化身の力を使って、魔法みたいに、一瞬で模様替えできるのか?もっと効率の良い力の使い方があることはわかってるけど、余裕がないっていうか、練習するのもめんどくせぇっていうか。とにかく、めんどくせぇんだ。
ゆずは先輩に力を半分渡しちまったけど、力はまだまだ余ってる。それでも、いざってときのために無駄遣いはしたくねぇ。そもそも時間がねぇ…最近はパンのレシピを考えるのに忙しいからな♪
今夜もからすに会いに行く。ひび割れた岩壁の先にある、俺とからすの秘密の世界へ、入り込む。浮つく感覚。
「さーくら君!待っていたぞ!!」
俺が入った瞬間、からすに抱きかかえられ、部屋の奥へと連れていかれる。何年たっても、からすはからす、俺は俺、変わらねぇ。
「さ〜くらくん、今日も可愛いなぁ♡良・い・に・お・い、だなー!!はぁ、ムラムラしちゃうぞ//」
「ムラムラすんなよ、まずは晩飯だ!今日も唐揚げパンだ」
「14日連続唐揚げパンー!!??さくら君、ハマっちゃってるー?」
「へへッ、このパン、俺が作ったんだぜ~美味いだろ!でも、今日も売れ残っちまったんだ。レシピ見直して、もっと工夫して、人気商品になるように頑張らねぇとな!」
「さくら君は頑張り屋さんだなぁ♪(さくら君が頑張っているのなら、あと3日くらいは、唐揚げパンでもいいかな…果物が食べたいなぁ…タンポポでもいいよ)」
今日も元気そうでよかった。からすは俺を抱えたまま布団に転がった。わしゃわしゃと頭を豪快に撫でられる。からすが、げほげほ咳をし始めると、俺は起き上がってその背中を撫でてやった。
「からす、大丈夫か?」
「さくら君は、やさしいなぁ~♡」
からすに組み込まれた爆弾。これを作った星の化身は、力の使い方が上手くて、頭が良くて、すっげぇ嫌な奴なんだろうなぁ。俺には作れねぇし、思いつかねぇよ、こんなの。
からすを助けたい、ここから出してやりたい。俺はささめき達に、からすの秘密と自分の気持ちを全部話した。解除する方法は10年たった今もわからないままだけど、皆が俺とからすを信じてくれて、力を貸してくれるのは心強い。
からすが家で育てていたサボテン、新しい観葉植物(ぷにぷにした多肉植物)や可愛い植木鉢…からすが欲しいと言った物は全部ここへ持ってきているけれど、からすは毎日暇そうだ。からすはずっとこのままでもいいと笑ってくれるけれど。俺は…嫌だって思ってる。
唐揚げパンが入った袋を、手を伸ばしてテーブルの上に投げ置いた。からすに聞く。
「ムラムラするなら、…飯食う前に、一回だけやる?」
「さくら君、やるって…何をだ???うーん、教えてくれないとわからないなぁ♡」
「からかうんじゃねぇよ!!」
「あっはっは~♡冗談だ!わかっているぞ♡さくら君えっちで可愛い~!まぁ、わたしの方がえっちだが♡」
からすを抱きしめる。からすは「甘えん坊さんだなぁ」何て言いながら、ぎゅっと抱きしめ返してくれる。
一番強く愛を実感できる瞬間。宝石なんかよりずっときれいなサファイアブルーの瞳。もう二度と失わせやしない。絶対守るから、もっと幸せにしてやるから。離さないから。
俺のからす、俺だけのからす。
からす。からす。からす。
体を起こして、からすに多いかぶさるように布団に手をついて、その瞳と火照った頬、乱れた髪を見下ろした。じっと目が合う。からすは、口元に手をやり、身をよじらせ、いたずらな笑みをうかべた。
「で、さくら君、今晩はどっちの気分なんだ?抱くか、抱かれるか…」
「は、はぁ?大人しく抱かれてろって!!」汗
「どうしようかなぁ~、わたしはどっちも楽しまなきゃ満足できない、えっちな男だからな~♡」
「俺が決める!!」
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「結局抱かれちゃって、涙目になってフワフワになってるさくら君、可愛かったなぁ~♡さくら君もわたしと同じ、どっちも楽しまなきゃ満足できない、えっちな男なんだもんな~♡」
「か、からすも同じだろ、いや、からすの方が可愛かったから!!」
「つまり、ふたりとも可愛いってことだな♡さぁ、ご飯の時間だ♪ペッコペコ♪」
ほかほかに温まった体。二人身を寄せ合って唐揚げパンをほおばる。
「やっぱ唐揚げうめぇな。マヨネーズもうめぇ」
「おいしいなぁ、もぐもぐもぐもぐもぐぐぐぐぐ!!!!!」
「からす、慌てて食わなくてもまだ3つ残ってるだろ」
「いや…さくら君が隣にいると、幸せとおいしさが倍増するから、止まらなくなるんだ♡もぐもぐがッ、止まらないッ///パンもさくら君もおいしいから、夢中になっちゃうよぉ、はぁん♡おかわり!!」
「よくわかんねぇけど、幸せでうめぇならよかった」
「ありがとうさくら君!あ、…お口にマヨネーズがついているぞ」
ふいに口元をなめられ、軽いキスされる。先ほどのぬくもりやらを思い出して、顔が体が熱くなって…思わず顔をそむけると、「耳まっかっかだぞ~!!!」と、からすのテンションがぐんぐん上がった。俺も「からかうなっ」とか言いながら、笑い返す。
泳がせた視線。口をもぐもぐ動かしながら、ふとからすが育てている?サボテンや観葉植物達が目に入った。
「…あれ?」
そのうちの小さな植物(アイビー)が気になった。少し…しおれているように見える。何故か心がもやもやした。俺の思考が停止する。パンを口に詰め込んで、もやもやのピントを合わせていく。
「からす、あの植物…枯れてきてねぇか?
…なんか、もやもやする。
う~ん、俺が作ったこの空間は、時間が進むのがものすごく遅いんだ。それで、からすの時限爆弾が爆発しねぇようにしてるんだ。だから、物の状態はほとんど変化しないはずなのに…俺が手を加えてもいないのに…勝手に枯れちまうなんて、おかしくねぇ?
こんな話、からすにしてもわからねぇか。この星の仕組みを理解できるのは、俺だけだし。この10年こんなことなかったんだ、気が付かなかっただけかも知れねぇけど…とにかく調べねぇと…。うーん…。
「…わたしならわかるぞ。さくら君が考えていること、むふふん」
「は?からす、何言ってんだ?」
「あのトモダチ(植物)が枯れそうな原因は、わたしの歌声が気に入らなかったからだ。退屈な時に歌っているのだが、うーん、音痴だからか?トモダチの魂が、もぅききたくないと愚痴っている。だから、現世に連れだしてやれば、元気を取り戻すと思うぞ。
状態が変わるのは、魂が宿っているから、心があるから、生きているからなんだ。世界がどんな仕組みをしていようと、魂を持つものには関係ない。いつかは終わりがきて消滅する、寿命がある、いつだって流れる運命とともにある。魂は、星の化身が作ったものじゃない…宇宙が作り、それぞれの星に配っているものだ。だから、思い通りにするのは難しいんだ。
この爆弾には魂も意思もないから、世界と同じ速さで時を刻んでいる、…だから、爆発しないんだろうなぁ、ゲホゲホ…。
爆弾だけでなく、わたしの時間もこの世界と一緒にゆーっくりと進むのなら、エネルギー不足にもならないし、トイレに行きたくもならないし、咳も出ないだろう?こうやって話すのも、ゆーーっくりになってしまうだろう?変化することは、生きている証なんだ」
からすは自慢気に、瞳を輝かせた。
「からす、どうしてそんなことがわかるんだ?まるで、植物の感情とか、魂とか、見えないものが見えてるみたいだ…星の化身の俺と似た力があるのか!?」
「この瞳は、色んなものを見ることができるんだ。わたしは、星の化身大好きだったから、知識もあるし♡今はさくら君に一筋だけどな♡」
「…まさか俺の星の仕組みも知ってるのか?」
「知ってるぞ。どうしてそんな、不安そうな顔をするんだ?
答え合わせ、してみるか♪
さくら君の星は「青色の不死の星」と呼ばれている。
侵略しなくても、元から宇宙一といわれるほどの力を持つ、強星!
死を迎えると、死後の世界へ転生し、人生の続きを自由に楽しめる星だ。
しかし実際は、この宇宙に死後の世界なんて存在しない。
命はひとつだけ。魂を失えば、この宇宙からは消えてしまう…そういう決まり事がある。
さくら君はそれをわかっている。それでも死後の世界に憧れて、この星に、独自の「仕組み」を作った。大きな力を持つさくら君だからこそ叶えられる、強引な手段だ。
さくら君は、1000年以上前に、この星に「現世」と死後の世界「天国」「地獄」を作った。
人々は現世で目覚め、一度目の人生を過ごす。そして、死を迎える感覚を得た時、消滅する前にさくら君の力によって魂が保護され、別世界(天国、地獄)に転送される仕組みになっている。
つまり、さくら君は、この星の数えきれないほどの魂が消えないように守り、維持し続けて、現世と死後の世界を循環させているんだ。
魂は、星の化身が作ったものじゃない、この宇宙が作り、それぞれの星に配っているものだから…思い通りにするのは、難しいはず。だけど、力持ちのさくら君には関係ないんだな、面白いなぁ~!」
「からすは何でもわかっちまう、見透かしちまうんだな…そうだ、その仕組みは俺が作ったんだ。
広大な死後の世界…それが俺の力の使い方、幸せの作り方だ。
俺は神じゃねぇから、把握しきれてねぇし、管理しきれてねぇし、穴だらけだし、間違えてばっかりだ。だから、自信はゼロ。俺のせいで何人も死んじまったし、こんな適当な星、他にねぇんじゃねぇの?へへ、まぁ、使命から逃げるよりはマシだろ!
俺は力だけは湧いて出てくるほどにあるから、それについては問題ねぇ。まぁ無限の力ってわけじゃねぇから、限りはあるけど。力が足りなくなったらどうするかは、そのとき考えるぜ。
てか、勝手に不死の星とか呼ぶなよな。今度侵略者が来たら「黄金の最強&伝説の星」にしろってボコボコにして脅してやる」
きっと誰もが、ここは死後の世界がある珍しい星なんだと思っているんだろう。実際は俺の力で、本当の死を隠して誤魔化しているだけだ。嘘をついているみたいで、ほんの少しだけ、罪悪感がある。だから、星の仕組みの話は今まで誰にも話したことはなかった。俺の力で、さくま達にもバレない様にしているんだ。
からすは瞳に宿る力を使って、直接この星を観察して気が付いたのだろう。驚いたけど…同じ視点で星を見られること、秘密を共有できることは、嬉しいと思った。星の化身、守り人としての重たい荷物を一つおろせたような、そんな気持ち。
からすと何年も一緒にいるけど、まだまだ知らないことだらけで、毎日新しい発見がある。秘密だらけ…今は、そういうからすのことも好きだ。
けれど、なんだか、もやもやする…この心の陰りは何だろう。さっきの植物の話、からすの言葉、何かが引っかかる。
…さくまや特殊な力を持つ天使達(元侵略者)のことを考えてみた。あいつらは俺が死後の世界として作った世界「天国」で過ごしている。
他の星からやってきたあいつらに、この星の仕組みをあてはめるのは難しいんだ…俺の今の力、技術じゃ、俺の星の魂を維持し、循環させるので精一杯なんだよな。だから、外から来たあいつらは、生まれ変わったりできないし、寿命が来たり死んでしまったら…宇宙の運命に沿って消えてしまうんだ。
そうだ、からすも同じなんだ。
「変化することは、生きている証」…からすの、その言葉が、心に引っかかっているんだ。
からすとずっとずっと、1000年後、10000年後も一緒にいられると思っていた。忘れていた、安心していた。
「なぁ、からす…」
俺の泣きそうな顔を見て、からすは困った顔をした。
「突然うるうるして、どうしちゃったんだ?さくら君…」
「なぁ、からすは…いや、なんでもない」
怖くて聞けない。あと何年からすといられるかなんて、怖くて聞けるわけがない。唇を震わして、下を向いた俺。からすは俺の頭に手を置いて、そっと話し出した。
「わたしの体を心配してくれているのか?心配いらないぞ。わたしは「黒色の戦闘の星」と呼ばれる星で育ったが、生まれた星は別にあるんだ。その星はもう消えてしまったが、その星の民は、すっごく丈夫な体を持っていたんだ。その中でも、お母さんがくれたわたしの体は特別で、いっちばん頑丈なんだ!この爆弾も、苦しさはあるが、魂を削るようなものでもない。わたしは簡単には死なない!結構長生きな種族だしな~♪」
「結構…ってどれくらいだよ!!」
勢いで聞いちまった…。
「100年くらいだな!」
「ひぁ、ひゃ、は、ひ、ひゃくねん!?馬鹿なこと言うんじゃねぇ、お前今何歳(いくつ)だよ!?」
「馬鹿とかお前とかいうなら話さない…」
「教えろって、俺の心がもたねぇから!早く!!」
「んー、わからない。もう数えてないからな。いくつに見える?♪」
「そういうのはいいから!真面目にこたえろ!!」
「まぁ、多分…50歳くらいかな!いや、40くらいかもしれない…。まだまだ若いぞー!
…さくら君!?」
「そんな、ぅ、ぁ、うぁああああああああああああああああ!!!!!」
馬鹿みたいに涙があふれて、俺は声を上げて泣いた。泣かないでくれ、さくら君、さくら君。からすの声が、遠くに聞こえる。
わかっているはずだった。
星の化身の俺と侵略者のからすの間には、きっといろんな見えない壁があることも、いくら引き延ばしてゆっくりゆっくり進めても時間は無限ではないことも、永遠にからすといることは難しいことも、わかっているはずだった。
でも、俺が勝手に想像していたものはもっと、遠いところにあるものだったから。
俺は耐えきれなくなって、「話を聞いてくれ。待ってくれ!さくらくー―――ん!!!」というからすの叫びを振り切って、その世界から逃げるように飛び出し、天国へと帰った。
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「話を聞いてくれ。待ってくれ!さくらくー―――ん!!!」
そう叫んだわたし(からす)の声も、伸ばした手も振り払われ、さくら君は行ってしまった。こんな話がしたかったんじゃない、こんな気持ちにさせたかったんじゃない。伝えたい言葉があったのに。
…待つことしかできないな。だけど、さくら君なら、戻ってきてくれるはずだ。
…
…
なぁさくら君
青色の不死の星の化身
死ぬのは怖いか?
わたしは、怖くない。仕方がないと思っている。
だけど、痛いのは嫌だし、寂しいのはもっと嫌だ。死ぬより嫌だ。
だから、それさえなければ。
誰かに愛してもらえるのならば。
この宇宙の何もかもが、どうでもいいと、仕方がないと思えてしまうんだ。
この宇宙の秘密なんて、現実なんて、知れば知るほど悲しくなるだけだった。しかし見えてしまう、知ってしまう、わたしにはわかってしまう。手が届いてしまう。きっと生きている意味なんてないんだ。そんな風に思わされてしまう。
だから、何度も思った。この瞳を壊してしまいたいと。わたしを指さす人を壊してしまいたいと。×してしまいたいと。でも、できなかった。何度決意しても、誰かが止めてしまうんだ。…止めて、くれるんだ。だからこれまで、一度も手を汚さずに生きてこられた。
わたしの心が、もっと強ければよかったのに。これも、仕方のないことか。
生まれた意味と使命をもつ存在を羨ましく思って、手に入れられないものを欲しがって、目の前にあるものだけ感じて、快楽に泣きつくことが習慣になっていた。
どうしようもないわたしを、幸せ者にしてくれたのは、さくら君だった。
広い宇宙。星の化身は口を揃えて言っていた。
青色の不死の星の化身は、「力任せの臆病者」だと。
わたしはそうは思わない、思わないけれど…さくら君なら、わたしの生きづらさをわかってくれると、受け止めてくれると思っている。
懐かしい声を、言葉を思い出した…
「星の民のため、星のため、宇宙のため。
その前にたった一人を幸せにしてみなさい」
とまらない涙を袖で拭った。わたしはいつもさくら君を不安にさせてしまうな。ずびび…鼻水もとまらなくてティッシュを探した。その時、足元に何かおちているのを見つけた。さくら君が落としていったものだろう。拾い上げる。
…それは、ひし形の黄色の宝石だった。
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天国の入り口に着く、門番は座り込んで眠っている。そっと門をくぐる…実体のない不安と恐怖に手も足も震えていた。夜のにおい。誰もいない。大きな木へと歩く…幹にもたれて、座り込んで項垂れた。
孤独に浸り、思い返す、過去のこと、俺(さくら)のこと…。
もうどれくらい前になるか、はっきりとはわからない。少なくとも3000年は前のこと。俺は生まれ、星の化身としての使命を自覚し、星の民が幸せに生を全うできる星にしたいと思った。
ただ、俺は「幸せ」がどんな形をしているのかもわからなくて、…いや、何もわからなくて、なんとなくの理想像すらも思いつかなかったんだ。
侵略者を倒しているうちに、俺の星は他の星よりも力があることが分かった。だから、俺にできることはたくさんあるはずだった。
「幸せ」とは何かを知りたい、そのためにはきっと星の民のことを知らなければいけない。そう思って俺は、人間と同じ姿に変身し、人知れずまぎれたんだ。
他の星の化身は自分の存在を「神」や「世界の王」として、星の民に祈られていたり、力を分け与えたりしているなんて話も聞いたことがあったけれど。
星をまわしているだけで精一杯の俺のことだ、権力まで転がせるわけがないと思って、俺は自分の立場を星の民には「秘密」にすることにした。
仕事したり遊んだり寝たり恋したり、星の民…人間はいつも忙しい。人間のまねをして観察しているうちに俺は「幸せ」とは何かを、少しずつ感じとっていった。それは人によっても、時と場合によっても違っていた。結局俺にはわからねぇし手に負えねぇ、答えも出せねぇことだったんだ。
全員を幸せにする方法なんて思いつかねぇよ。俺はそんなに器用じゃねぇ。
昨日も今日も次の日もどこかで涙を流している奴がいる。悲しみながら死んでく、消えていく魂がある。知るかよ、もう勝手に生きとけ、死んどけ。
それに…俺がいなくても、幸せなことくらいひとつやふたつあるだろ?
じゃあいいじゃねぇか。
諦めたんだ、割り切ったんだ、俺は星の化身なんて向いていないんだって。もう適当でいいやって。楽しくすごせたらいいじゃん!人間として遊びに暮れて、1000年以上も時間をつぶした。だけど、人のふりして長年過ごすうちに人間の「心」を少しずつ感じとることができるようになっていった。
みんな違う形をした心を持っている。お前も、お前も、お前も…きっと何か「奥の奥に隠している感情」がある…けれど心は見えない、わからない。そういうものなんだよな。
誰かのために何かのために、心や命を削って頑張っている。甘味と苦みを同時に感じる、目に見えない本心が複雑に絡まっているように感じる世界で、笑っている。
なんでお前ら、笑っていられるの?…なんで、そんなに強いの?
知れば知るほど、自信と楽しい気持ちを無くした。
色んな奴から「お前は人の心がわからないやつ」だと言われて、嫌な気持ちになった。その言葉にはどんな感情が、意味が、込められているのだろう…考えれば考えるほどに悔しくなった。
俺は酷い奴だ。人間になんてなれないよ。考えて、考えすぎて、…俺は人間のふりをしていることが辛くなった。
自分のことだけで精一杯、苦しくて、くるしくて。
俺は、ひとり、自分だけの世界に閉じこもった。侵略者や人間を見下して、何もかもがつまらないと思うようになった。弱い奴を傷つけて、戦って命を奪って、自分の強さを確かめて安心して、孤独をごまかした。誰にも話せなくて、一人の夜は大粒の涙をこぼして泣いた。
だけどその涙と寂しさが、俺が怯えていた人間の心…「奥の奥に隠している感情」と似ているんじゃないかと気が付いた。
強いんじゃない。きっと強がってるんだ。俺も、お前らも。
×して泣いて、×にたいって泣いて。命が何個あっても足りねぇよな。だって厳しいもん。忙しいもん。俺みたいなクズもいるし。
得意なこと、向いてること、続けられること、好きなこと、やりたいこと、叶えたいこと…そういうの、ひとつくらいはあるはずなのに。いや、もっともっとあるはずなのに。選べねぇ、戻れねぇ、探せねぇ。生きる時代も、出会う人も、経験も。
星の化身をやめられたら、もうちょっと気楽になれる気がするのになぁ…そうでもないかもしれないけど、試してみてぇって思う。俺はどうしようもねぇけど、俺ならこの星を変えられる。気に入らないって思う奴は沢山いるだろうけど、俺はやってみたいって思うから。
だから俺はこの星に、死後の世界を、人生の続きを作ることにした。
何度でもやり直せて、試しきれないほど選択できる、幸せを探せる、チャンスがある、そんな星にしてやるさ。そして俺はこの星の仕組みを思いつき、1000年かけて作ったんだ。
この星が、魂が宿り続ける不死の星になっても、俺がクズで孤独なことは変わらねぇ。結局自分を変えることはできなかったけど、ほんの少しだけ、楽になれた気はしていた。
悪魔(さくま)と出会って、二人でずっと孤独を誤魔化しながら過ごしてきた。さくまは「黒色の戦闘の星」から決死の覚悟でやってきた侵略者だった。
話によると、別の星を侵略して手に入れた貴重な力が宿った宝石を、宇宙船の操縦ミスで俺の星に落っことしてしまったらしい。手ぶらで帰ったさくまは星の化身に叱られ、俺の星の侵略と宝石の回収を指示されたそうだ。それをやりきるまで帰ってくるなと、強く言われて。(ちなみにその宝石が俺がいつも持ち歩いている「時間の宝石」)
さくまは俺の言うことは何でも聞いた。俺はさくまの、俺への憧れと好意を玩具にしていた。からすと出会って、恋心を知って気が付くことができた。俺は、最低な男だった。今、さくまが俺から離れてささめきと楽しそうに話している姿を見ると、少しだけ安心する。
あの頃は、門番の笑顔なんて見たことがなかったな。いつも俺を睨みつけていたけれど、時々「優しい人に出会えたら、きっとさくらも優しくなれるよ」と、声をかけてくれていた。
さくまとであって、門番と出会って、ささめきとからすと出会って、俺は「安心」を知ったんだ。
自分のことは好きになれねぇけど、優しい人にはなりたい…なんて思うようになったんだ。からすとならなれるって。そう、思っていたのに。また、「違う」ことに心を揺さぶられて、泣いている。
からすがいなくなるなんて、怖い。それでも俺は星の化身をやめられない。ずっとずっと、一人で生きていかなきゃいけないんだ。
柔らかくなった心が痛い。せめて、俺もからすと歳をとりたい。
「普通になりたい、人間になりたい」
この星を背負って、人生を、魂を背負って、背負い続けて。
ただ重くて苦しいだけだ。
その時。木の反対側から明るい女の声がした。
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「人間になりたいなんて、変なこと言うじゃん、さくら君。大丈夫?」
ささめきの声ではない、聞き覚えのある声。俺はわざとらしく大きなため息をついた。
「今は一人にしてくれ、むむ。お前、俺より空気が読めないんだな」
木からひょこりと顔を出したのは、むむ(夢向)という、500年くらい前に異星から来た女。
俺より少し小さな背、背中くらいまであるピンク色の髪。少したれ目で、キラキラした瞳。普段は現世で暮らしていて、何十年に一回くらいのペースで天国に飛んできて、話しかけてくる。
こいつは俺の持つ「時間の宝石」を狙ってやってきた、「橙(だいだい)色の自由の星」の戦士だ。
500年くらい前。俺は女天使に時間の宝石を盗まれ、無くしてしまった。そして、女天使は現世へ降りて堕天し、その宝石は見知らぬ男の手に渡ってしまった。(堕天なんてこの星の仕組みの不備みたいなものだし、そもそもできないように整備しておけばよかった、と思うこともあるけど、広大な天国に空いた無数の穴を、ふさいでまわるとか無理じゃん…?堕天は星の仕組みに背く選択、そういう選択もあるんだって、ポジティブに考えようぜ…はぁ)
男は、宝石を使い、未知で歪な異世界へと姿を消した。俺じゃ、止められなかったんだ。
多分、あの男を幸せにできたのは、むむだけだった。
むむは、宝石を盗るために、あの男に近づいた。チャンスはいくらでもあったはずなのにな…どうして盗らなかったのだろう。
どうして。むむはどうして、あの城で、死んだふりをしたのだろう。むむは優秀な戦士だった。炎なんて振り払って、扉を壊して脱出できたはずなのに。どうして戦えなかったのだろう。
そう尋ねると、むむは「人間じゃない自分を、知られる勇気がでなかったから」といった。「今ならわかる、きっと彼なら、あたしを恐れず愛してくれた。彼は勇気を出してあの部屋まで駆け付けてきてくれたのに、あたしはその気持ちから逃げてしまったんだ。…今は、違う世界であたしより大事な人と出会って、幸せに暮らせてるといいなって。そう思うことしかできない」。…むむは、いつも笑顔で、あっさりとした態度をしている。俺のことも責めない。だけど、500年たった今も、彼女はこの星に残り続けている。
「空気が読めないなんて、ひどいなぁ。さくら君、悲しそうな顔してるから、話、聞いてあげようかと思って来たのに♪」
「嘘つけ。俺の心配なんかしたことないだろ」
「うん、ないかも。だってさくら君、意地悪だし。今日は話したいことがあってきたんだ。あたし、橙の星に帰ることにしたんだ。最後のあいさつしにきたってわけ」
「最後?この宝石、諦めたのかよ。それとも俺と戦う気になったのか?」
「うん、諦めた。あたしの魔法じゃ、さくら君には勝てないし、戦うつもりもないよ」
俺はかすれた声で、ポケットにいれている宝石を取り出そうとする。幸い、夜の暗闇が俺の泣きはらしただせぇ顔は隠してくれている。多分。
「やっべぇ、一個しかねぇ!!…落としたのか?」
「普通無くさないでしょ。あたし知ーらない!」
「まぁいいか」
「よくないよ!なーんにもわかってないんだ、時間の宝石の価値。あたしの星だけじゃない…いろんな星の化身が欲しがってる貴重なものなのに、持ち主のさくら君が無駄に強いから誰も手も出せない。正直、豚に真珠って感じ」
「喧嘩売ってるなら買うぜ?」
「もぉ、冗談だよ。でもその宝石の扱いには気を付けた方がいいよ。…さくら君、どうしていろんな星の化身がその宝石を欲しがってるか、知ってる?」
「きらきらしてて綺麗だからか?高く売れるとか?」
「適当に答えないでよ…その宝石を使うと、星の化身をやめられるからだよ」
「はぁ?」
「その宝石を残した黄色の星の化身は、侵略者に追い詰められて、異世界へと逃亡した。宝石には彼の「星の化身なんてやめて逃げ出したい、自分だけは助かりたい」っていう執念が宿ってる。だから、その宝石を星の化身が使うと、「永遠に滅亡しない自分の星で、自由になれる」効果が発揮されるんだって。
願望と幻想が詰まった、意のままに操れる夢の星にいけちゃうの。もちろん実際の星は、星の化身が異世界に行ってしまった時点で消滅するけどね」
「な、なんでそんなこと知ってるんだよ」
「あたしの星…橙の星の化身の彼が熱心に研究してるからだよ。彼、星の化身を辞めたがっているんだ。
でも、彼は狂おしいくらいに優しい人。今まで何度も自分の身を犠牲にして、長年星を守ってきた。小さな星だし住んでいる人も100人ほどしかいない、宇宙で一番力を持っていないと言われる星を守りつづけてくれていた。だから、彼の体はもうボロボロで…。星の皆は、星が消えてでも…彼を助けてあげたい、楽にしてあげたいと思っている。
あたしは一番強い戦士だから、皆からお願いされたの。宝石を盗ってくるように。…すごく期待されてるんだ。命をかけて、さくら君と戦うべきだってわかってる。
でも、悲しいよね。言えないけど…あたしは、彼にはボロボロになって息絶えるまで星の化身でいてほしいって思ってる。あたしは、星や皆を消滅させるためじゃなく、生かすために戦いたいから。
…その宝石には簡単に星を消してしまえる力がある。
だから、さくら君が使わないなら、その宝石を宇宙から消してもらえたら助かるかも」
「…考えとく」
迷いと甘い誘惑。これを使えば、星の化身をやめられるかもしれねぇの?俺は頭をぶんぶん降って、一瞬だけ芽生えたよくない思考を振り払った。
「こんな宝石、俺には必要ねぇよ。宇宙から消してやる」
「ほんと…?嬉しいな」
「どうすれば消せるんだ?粉々にすればいいのか?」
「実はひびを入れたり、粉々にしても、宿っている力を消しきれるわけじゃないんだ。一般人には難しいことだけど、特別な力を持った人なら、復元できかもしれないんだ…。その宝石を完全に消すには、使うしかないよ」
「うーん、武器として使うか…?残酷じゃね?俺はしたくない」
「欲しい人にあげるのはどうかな。その宝石には、永遠に死ぬことができない偽物の世界を作り出す危険な力が宿ってる。強い気持ちでうまく使いこなせば、誰かと一緒にその世界にいくこともできる…らしいよ。つまり、永遠に一緒にいられる運命が約束されるんだ。失敗すれば、それぞれ違う世界に飛ばされて二度と会えなくなる可能性もあるとは思うけど。自分たちだけの新しい宇宙(せかい)を作りだす力…相応しい人、いないかな」
「そんな奴いねぇよ…正気で永遠に生きるだなんて、簡単なことじゃねぇんだ。むむだって、わかってるだろ、その宝石は孤独を作り出す。バカには幸せな石に見えるだろうけど、ろくでもねぇ拷問器具にしかなんねぇんだよ」
「…うん。そうだね。でも、彼は…ほたる君はバカじゃないよ。その宝石の力が似合う人ではないかもしれないけど」
「…あ、ごめん」
「気にしないで、大丈夫だから。あたしは大丈夫」
「どうした?」
むむは何でもない、と目を細めて、笑った。そして「もう行くね。ばいばい、さくら君」と、背中を向けて歩き出した。むむの宇宙船が、風と共にふわりと出現する。だけど、むむは何かを思い出したかのように立ち止まり、振り返った。ピンク色の髪が夜の風に吹かれて揺れている…。
「あのね…あたし、さっき、星をひとつ侵略してきたんだ。言うつもりなかったんだけど、気が変わった。さくら君には、伝えておこうかなって。
ごめんね、あたしの正体は宇宙を股にかける侵略者。心は乙女だけど、優しくなんてなれない。逃げて、逃げ続けて、逃げた先で…自分勝手に戦うことしかできない」
むむは空中に手をかざし、黒色にきらめく光の結晶…「星の化身の力」を、自慢気に見せた。見せた後、すぐに胸にしまった。
「むむ、それ…どこの星のだよ…」
「「黒色の戦闘の星」のものだよ。あたし、やるでしょ?」
(さくまの生まれ育った星…からすの育った…星!?)
「どうやって…どうして、その星を滅ぼしたんだよ!!」
「理由なんてないよ、戦いたかっただけ。あたし、自信はあるけど、…黒色の星の戦士と星の化身に勝てるとは思ってなかった。正直負けてしまいたかったんだ…でも、勝てちゃったんだ。じゃあ、仕方ないよね。
ところで、さくら君、エクスキューショナー0052’7っていう黒色の星の戦士、知ってる?」
「えく、あんどえく…?知らねぇな」
「何年も前に、さくら君の星に来たはずだよ。時限爆弾を体に埋め込ませて、侵略を仕掛けてきた戦士だよ。…さくら君が彼を、どうやって倒したのかはわからないけど」
(か、からすのことか!?そんな名前だったっけ…)
「…彼は宇宙から嫌われてる。彼は生まれつき特別な力を持っていて、この宇宙を知っているから」
「はぁ?何言ってんだ…?」
「黒色の星の化身は親代わりだったみたい。黒色の星の化身は彼の理解者になりたい、育てたいと思いながらも、その力を誰よりも恐れていた。言うことを聞かない彼に対して、焦りと不安が増してしまって…強い言葉と手段で、脅した。侵略しなければ、強制的に大爆発する爆弾を彼に宿したんだ。
彼に埋め込まれていた爆弾は、黒色の星の化身が仕掛けた本物だけれど、爆発させるための力(スイッチ)は星の化身が握っていたみたい。黒色の化身は、はじめから爆発させるつもりなんてなかった、「時限」爆弾じゃなかったんだ。
その爆弾はこれまで侵略してきた星の化身の力、特殊な力を持つ戦士たちの力を合わせて開発していた試作品だったみたい。爆発すれば、星一つなんて、簡単に吹き飛ばせるだろうね。想像もできないよ。
黒色の星の化身は、彼が戻ってくると信じていた。自分を頼り、泣いて助けを求めてくることを、確信していた。だけど…彼は星へ戻ることもなく、爆発したことも観測されず、更に彼を追跡していた信号も途絶えた。行方不明になった。
みんな、さくら君が、彼を倒したと思ってるよ。刺激を与えて爆発させてしまわないように気を付けて、慎重に、正確に×したんだって思ってるよ。
あたしは…この星に長くいるし、さくら君にそんな技術はないってわかってた。
あたしはその情報を黒色の星を侵略するために利用した。黒色の星の化身にこう言ったんだ。
「あたしは時間の宝石を持っている戦士。真実を教えてあげる。あたしは爆弾を抱えた彼を誘惑し、彼に宝石を握らせた。侵略することにおびえていた彼は、責任から逃れるために、その宝石で新たな宇宙へと飛んだ。あたしの目的は、危険な爆弾と、危険な存在を排除することだった。きっと彼は孤独な宇宙で、誰にも手を差し伸べてもらえないまま、永遠に泣き続けている。彼が泣いているのは、全部、君のせいだよ」…っていう嘘をついたんだ。
罪悪感に飲み込まれ、戦意を失った黒色の星の化身は、あたしなんかに負けた。
彼の力ばかりに気を取られて、一人の子供として、優しく抱きしめてあげられなかった。そのことを後悔して、黒色の星の化身は何年も悩み続けていたんだ」
「むむ、てめぇ最低だ!宝石を使う話を利用するなんて…心を痛めていたんじゃなかったのかよ、侵略者として開き直ったつもりかよ!!そんなやり方、橙の星の奴らは喜ばないんじゃねぇってことくらい、わかってるだろ!?」
俺はむむの肩を強い力で掴んだ。爪が食い込んで、むむは表情を歪めた。ごめん、とつぶやいて一歩下がる…。
「うざい、うるさい。あたしだって、あたしだって苦しいんだよ!!!あんな星に生まれなければ、こんなに寂しい思いをしなくてすんだ。ほたる君とも出会わなかった、誰も傷つけずにすんだ!あたしは強くない、守ることも守られることも、全部怖い。だから、幸せも、未来も、すり抜けていく…生まれつき強いさくら君にはわかんないよね。わかんなくていいよ…」
わからないけど。わかりたいとは思ってる。そうつぶやくとむむは、少しだけ驚いていた。いつも自分勝手な俺がそんな風に言うとは、思わなかったのだろう。
「強いんじゃない、強がってるんだ、俺も。むむと話して、自分の気持ちを確かめられた。俺、むむみたいな奴の力になりたくて、この星を不死の星にしたんだと思う。俺、逃げない、星の化身として、がんばりたい。遅くない、まだ…大丈夫…」
「ふーん。…さくら君は星の化身としてのプライドがあるよね、意外と真面目なところもあるっていうか〜…。はぁ…でも、気を付けた方がいいよ。さくら君が守ろうとしている彼は、からす君は、この宇宙の特別な存在だよ。それに、彼の体の中にある強力な爆弾は、色んな星の化身が探していて、狙ってるんだ。さくら君、ちゃんと、覚悟、できてる?」
「…狙ってる、どうしてだよ!?くそ…ていうか、むむ、からすのこと知ってたのかよ」
「あたし、この星のことは結構詳しいから。…まぁ、盗み聞きしただけだけど。狙われている理由は簡単だよ。強力な武器だからね。あたしが手に入れた黒色の星の化身の力には…その爆弾の起爆スイッチも含まれている」
「…その力、渡せよ!!むむの気分次第で、爆発させられるってことだろ!?むむがやられて、その力が知らねぇ奴の手に渡ったら…もっと面倒なことになる!!」
「あげないよ。ごめんね…、あたし、もっと強がっていたいから。ふふ、あたしを×して奪う?」
俺は翼をピンと張り、地面を蹴った。拳を固く握り、むむに飛び掛かり… …やめた。むむはピクリとも動かず、汗まみれの俺を眺めていた。
「くっそぉ!!!…もういい、さっさと帰れよ、へたれ女!!!」
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何が本当で何が嘘なんだ…惑わされてはいけない。ノリで戦っても…きっと後悔するだけだ、俺は間違えてない、多分。
闇の中、一人残された俺…、ドクドクと締め付けられる胸、苦しい。心の中はからすへの想い、不安、心配でいっぱいだった。故郷がなくなった…んなこと知ったら、からすは悲しむに違いない。
俺に、からすを…守り切れるのか?
からすは、この瞬間も、死と隣り合わせなんだ。酷いよな、そんなかわいそうなこと、言うなよ、するなよ。からすは武器じゃない。俺の恋人なんだ。
寂しがり屋で不真面目で、食いしん坊でセッ○スが好きで、なんか面白い奴。素直で可愛いし、背が高くてかっこいい。透き通った水みたいに、綺麗で、優しい存在。俺の夢、そのものなんだよ。
大丈夫。俺が、守る。
からすと恋をしている、この瞬間を、抱きしめて。
きっとこれは、俺にしかできないことだから。
今すぐ、会いたい。
…ふと人の気配がした。顔を上げると、さくまがいた。いつからそこにいたのか…。
「すまない、守り人様、陰から聞いていた。「黒色の戦闘の星」が散ってしまった…のか。寂しい話だな」
「さくま…」
「我は侵略者として何度も星が消滅する光景を見てきたが…それがきれいだとは思ったことはない。いつだって、寂しいものだ。
くくく…なんて情けない顔をしているんだ。髪も乱れて…そんな疲れ切った悲愴な顔でからすに会いに行くつもりか?…もっと胸を張れば良い」
「ああ、ありがとう」
「…先ほど立ち上がった時にコレを落としたぞ。くれてやる」
さくまは手のひらを広げて黄色の宝石を見せてきた。
「時間の宝石じゃねぇか!俺また落としたのかよ…マジでヤベェな…いっこ見つからねぇし。むむの奴、処分するには使うしかねぇっていってたけど…責任はとりたくねぇし、そうすっかな、ささめきに相談するか」
さくまからそれを受け取り、俺は顔を袖でごしごしと拭いた。軽く髪を整えてから、背を向けて歩き出す。ふと立ち止まる…なんとなく気になったことを聞いてみる。
「さくまはその宝石のこと、よく知ってるだろ。俺が持ってること、嫌じゃねぇの?」
「それは、守り人様が石を自分自身に使う可能性を心配しないのか、ということか?くくく…面白い。くくく…ひひ…うふふ」
「まったく…なにが面白れぇんだ」
俺はお腹を抱えて笑いを押し込めているさくまを置いて、翼を広げて飛び去った…。早くからすに会いに行かねぇと!!
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…本当に面白い守り人様だ。
我(さくま)は面白くて、馬鹿らしくて、守り人様が去った後のその場所に、木の近くに転がっていた小石をいくつか投げた。
「青色の不死の星の化身、…力任せの臆病者。
死を誰よりも恐れている守り人様が、不死の宝石の力を使う可能性?…あるわけがないだろうが。
弱い奴には手を出して、強い奴には手を出さない。クズでバカ、偉そう、間抜け、大嫌いだ、あんな奴。
だが、この星を離れる気にはなれない。案外、居心地が良いんだ。ささめきは綺麗で、強くて、優しいし…可愛いし…今では、この星に人情味さえ感じている。
この星は、力任せで臆病だ、だが、弱くはない。我らは自分が不器用であることを知っているから。罪を自覚しているから。それでも、根を張って、この星で生き続けているんだ。
くく、我は気に入ったぞ。尊敬できる、素晴らしい星じゃないか。
…我はとっくに、この星と魂を共にする覚悟はできている。
だから、これからも、生きて、生きて、生き続けようじゃないか、守り人様。
お前への想いは、とっくに冷めてしまったがな。
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俺(さくら)は猛スピードで地獄へと降り、からすのいる世界につながる岩壁のひび割れに足をかけた。寂しい気持ちさえ忘れていた。勢いで中に転がり込む。バランスを崩した体は一回り大きなぬくもりに受け止められ、包まれた。
「おかえり、さくら君!!!大丈夫か?」
「からす…」
「こんなにお目目真っ赤にして。いっぱい泣いちゃったんだな、寂しいをさせたな、ごめんな、さくら君…でも、戻ってきてくれて嬉しいぞッ♡」
俺はからすが変わらずそこにいたことに安心して、からすが変わらない笑顔を向けてくれたことに安心して。また溢れてきた涙を隠すように、からすの胸の中に顔を押し付けた。
「さくら君…なでなでしてあげるぞぉ!!ほ~らこうされると安心するだろう?
なでなで…なでなで…ふふん///ゲホゲホっ、ずびびッ!」
「もう、大丈夫。…ありがとう」
そっとからすから離れる。大好きの気持ちが溢れる、愛おしくて仕方がない。
「さくら君が元気になってよかった、あ、そういえばこれ、時間の宝石だろう?部屋出ていくときに落としていたぞ」
「ここで落としたのか…見つかってよかったぜ」
受け取り、ポケットにしまう。ポケットの中の二つの石をにぎにぎしながら、少しの間…頭をぐるぐる巡らせる。黒色の星がなくなったことを、伝えなきゃな。嘘や隠し事はしたくねぇし、抱えてたらしんどいし。
「その、俺、からすに言わないといけないことがあって…。すごく辛いこと…」
「ほぉ〜?すごく辛いこと、か」
からすはんーと考えるようなポーズをとった。それから、少し目を細めて…少し大人びた瞳で俺を見つめて。
「無理して言わなくてもいいぞ。さくら君の顔色と、経験と、直感でわかるからな。黒色の戦闘の星がなくなった、そういうことだろう?」
「…うん、そう」
「わたしのことは心配しなくて大丈夫だ。人と星を弔うさくら君の優しさは、きっと、黒色の星に届いているだろうから」
からすはそう呟きながら布団に転がり、俺達はもぞもぞと二人並んで横になった。
「からすってさ…時々、俺の知らないからすになるよな。話し方とか、表情とか。出会って10年経つのにな。知らないことが、まだまだ、たくさんあるんだ。いや、からすのことだけじゃねぇ…俺なんか、生まれて3000年以上も経つのに、この星のことなんてなんにもわかってねぇし、宇宙のことなんて、もっともっとわかんねぇ。でも、悪い気分じゃねぇ、…嬉しいんだ。これからいろんなこと、知って、触れていけるのかなって、想像できるからな。もし宇宙の先まで見えちまったら…知っちまったら…、自分がどこにいるのかわかんなくなって、迷子になっちまいそうだしな」
「大丈夫だ、さくら君。さくら君にはわたしがいる、わたしにはさくら君がいる…だから、迷子になんてならないと思うぞ♪さくら君には心配ばかりかけているな…隠し事をしたいわけではないのだがなぁ、わたしはさくら君に、自分のことを話せていないのかもしれないな。例えば…わたしの、過去の話、とか?」
「からすの過去?」
からすは少し震えた小さな声で言った。
「普段は楽しくない話はしたくないと思っている、…寂しくなるからな。だが、さくら君となら、どんな気持ちも温め合える、だから、話してみたいんだ。聞いてくれるか?」
「もちろん、聞くぜ」
「ありがとう。
わたしは生まれつき、特別な力を持っていた。言葉で表現するには難しい、深海のような力だ。
力ばかりが注目されて、わたしを見てもらえない、恐れられて、ひとりぼっちで…寂しかった。だから、戦いに利用されてでも、誰かに必要とされたいと思って、わたしは戦士になったんだ。
だが、わたしは戦えないんだ。暴力も暴言も、大嫌いなんだ。わたしは、力を持て余している臆病者だと言われていた。
それでも、戦えなくても、わたしは侵略者だった。わたしが赴いた星は全て、もう、この宇宙に存在しないから。振り返ってみれば…わたしは降り立った星、全てを、散らしてきているんだ。
それは、星を去った後、別の戦士が星を滅ぼしてしまったから…という理由には違いないが…そのできごとも、きっと、わたしの力と無関係ではないんだ。わたしは、星の運命に影響を及ぼしてしまう…宇宙の漣(さざなみ)のような存在なんだ。
見慣れた星が散る景色…失う気持ちを何度も経験した。心の奥まで染みた寂しさは、簡単に溶かせるものではない。寂しさや現実を誤魔化すように、考えず、学ばず、逃げて、惰性で生きていた。結局、わたしなんていないほうが良いと考えて、何もかもがどうでもよくなって、人を巻き込んでこの爆弾を、爆発してしまおうだなんて考えてしまったんだ。…真実は、知らない振りをして。
わたしに寂しがり屋の心を思い出させてくれたのはさくら君だ。あなたはわたしにとってかけがえのない存在なんだ。
わたしは本当は…怖いんだ。幸せが怖いんだ。
わたしは、ここにいてはいけないんだ。わたしの存在は、きっとさくら君とこの星を散らしてしまう。今この瞬間も、真後ろにあるんだ、残酷な未来と絶望が。
見たくない…この星が散る光景だけは、見たくないんだ。申し訳なくて、怖くて、たまらないんだ。
それなのに…それでも…さくら君といたいんだ
この宇宙で、この星で、さくら君と生きたいんだ
すまない、きっとわたしは我が儘なんだ
わたしなんて
わたしなんか
きっとこの宇宙にいないほうが… …
「からす!!」
俺はからすの頬を両手で覆い、しっかり向き合った。サファイアブルーの瞳から溢れる涙を、親指で拭ってやった。
「何寂しいことを言ってんだ…からすには俺がついてるだろ!
生まれつきの力?降りた星全部を散らしてきた侵略者?気にすんなよ、からすのせいじゃねぇよ。
この星で俺と生きたい気持ちがあるなら、それだけで十分だろ!
俺を甘く見るなよ、俺は…この星の守り人、
星の化身なんだからな
この星を背負って、人生を魂を背負って、背負い続けて、この星を守り続けていくんだ!!!
からすが何だろうが何しようが、些細なこと、そんな爆弾だって俺が何とかしてやるし!適当に、俺に任せておけって!だから、からすは堂々と、この星の一員として俺に甘えていたらいいんだ!
俺のそばにいるだけでいいんだ
ここにいていいんだよ、俺が守ってやるから」
「さくら君
ありがとう」
見えない不安に溺れそうになっていたからす。俺の手を握って安心したように、ふにゃりと笑った。涙をにじませた瞳は部屋の明かりを反射して、いつもよりもさらに輝きを増していた。
「さくら君、わたしのお母さんは「藍色(あいいろ)の家族の星」の化身だったんだぞ」
「からす、星の化身の子どもなのか!?そんな話、きいたことねぇ!」
「ふふ。魂は宇宙が作り、それぞれの星に配っているものだが、わたしの魂はきっと、この宇宙が創ったものではないのだろうな。藍色の星は、黒色の戦闘の星に滅ぼされて、忘れられてしまったんだ」
「よりによって黒色の星かよ…」
「お母さんはわたしに、残った星の化身の力を全部食べさせて、宇宙に投げて逃がしたんだ。幼かったわたしは何が起こったのかわからなかった。
だが、遠く遠くに離れていく…透明の輝きが舞い広がる景色を見て、胸がいっぱいになって溢れそうになった。その光景を心からきれいだと思った。
まるで、星のはなびらのようだと思ったんだ。
それから宇宙でふよふよ迷子になって、宇宙で隕石とか食べながらサバイバルしていた。そしてたまたま、黒色の星にたどり着いて拾われたんだ。
「星の民のため、星のため、宇宙のため。その前にたった一人を幸せにしてみなさい」…いつもお母さんに、言われていた。さくら君と出会って、その言葉の意味が、少しだけわかった気がする。
これからも勇気を貸してくれ、さくら君
お互い未来を怖がる必要なんてない。わたしたちはもっともっと優しく、そして強くなれる。誰にもまねできない絆で結ばれる。胸を張れる、その力でわたしたちとこの星を守っていくこともできる!
ぉお、ときめきがすごいぞ…幸せキュート…これはラブとラブが合わさったラブ///!むふふん///さくら君、もっとわたしに愛を教えてくれぇ〜♡ゲホッ、ゲホ…」
両手を広げたからす。俺はその胸に迷いなく飛び込んだ。
「サイコーだな!からすが元気になってよかったぜ。話してくれてありがとな。へへッ、唐揚げパンは冷めてもうめぇから、続き食って…食い終わったら、もう一回、シようぜ♪」
「さくら君…するって…何をだ?何をどうしたいんだ?詳しく教えてくれないと、わからないな~♪♡」
「わかってるくせに、からかうんじゃねぇよ!!セッ○スに決まってるだろ!!」
「あ、普通に言うんだ!」
その日は朝までからすと過ごした。恋が誇らしい。
胸いっぱいの幸せを感じて…俺は星の化身に生まれてよかったと、心から思ったんだ。
END(後編へ続く)