星のはなびら六章「憔悴のナルシサス」

小説「星のはなびら」全九章+番外編。「恋心が暴走する!生死を超え、世界を手に入れ宇宙を跨ぐ…ヤンデレ男子のボーイズラブな物語!」

はじめに

残酷な表現等を含みます。作品をお読みになる前に以下の注意事項を必ずご確認ください

星のはなびらはこちらから読めます、一章からよんでね

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星のはなびら六章「憔悴のナルシサス」

あらすじ

ありすが統べる王国で平凡にくらしている「ほたる」。真夜中に出会ったのは、優しい王子様「ルキソス」。寂しがり屋な王子様。こんなにも必死になって、ボクは何を守ろうとしているんだろう、なんて…。

全十話・約57000文字

※暗く心が沈むような表現が多くございます。苦手な方はお気を付けください。

本編

国中に響く王様(ありす)の声。

「今日は無礼講。国の民よ、我と共に今日という日を存分に楽しもう!」

大きな声でぼく「ほたる(星侘)」は目を覚ます。

お布団を蹴りあげ、飛び起きる。

そうだ…今日は…王様の…26歳の誕生祭だぁ!

お城の美味しいお料理も振る舞われるこの日を、ぼくは随分前から楽しみにしていた。それはもう、夜も眠られないくらいに…まぁそのせいで寝坊しちゃったんだけど。

ぼくったら何をしているのか…。

ちらりと時計を見るともうお昼になろうとしている。濡らす程度に顔を洗って、慌てて着替える。今日の為に買ったピンク色の三角帽子をかぶって、首にはお気に入りのペンダントをひっかけて、玄関の扉を開けた。

「うわぁ〜」

冷たい冬の風と一緒にお家の中にまで舞い込んできた紙吹雪。ぼくの雪みたいな白い髪がふわふわ乱れる。顔を上げると、沢山のお花や風船が飾られているのも見えた。国中の人がお城の元へと集まり、お料理やおやつを食べたりお話をして、特別な空気を楽しんでいるみたい…ぼくもそこへと向かう。

(王様どこかなぁ…。)

お城を見上げるとバルコニーに王様がたっていた。特別な日だからかな?高すぎない階のバルコニーに立っていて、王様の姿は普段よりも近く大きく見えた。ぼくは「すみません、すみません」と呟きながら、人をかきわけ少しずつお城へと近づいていく。

王様は子どものころから変わらずそこに立っているのに、権威を保ち続けている。誰にも逆らえない強さを振りかざし、揺るがない奇才な能力を発揮し続けている。そんな恐ろしい王様の手によって大切な人を失ったり傷つけられたり、自由を奪われたり…みんなが心に塞ぐことの出来ない穴を開けている様なこの国では、決して大きな声では言えないけれど、ぼくは密かに王様という存在に憧れていた。

立派なお城やお洋服、太陽に照らされ反射し輝く鋭い王冠、きっと毎日贅沢なお料理を食べているんだろうなぁなんて想像しては、ワクワクしてしまう。

決して届かない、踏み入ることは出来ない

陽の当たる存在に。

子どもの頃から家族も友達もいなくなって恋人だってできたこともない、いつもひとりぼっちのぼく(でも皆、いろんな事情があって一緒にはいられなくなったんだ、仕方ないよね…)

ぼーっとしていると、時々、眠っているの?なんて聞かれてしまったりする…別に、下を向いているだけなのに。繊細で不器用で、心配事や嫌なことがあるとずっとうじうじ気にしてしまう…。

(何も無いところで転んじゃうし、何年も前にお気に入りのお財布をどこかに落として無くしてしまったことだって後悔していて悲しいし)

ドラマチックなイベントに憧れているけれど、この控えめで素朴な生き方、変化のない毎日には慣れているし、自分らしい気はしている。でも年に一度の今日くらいは弾けてみたい…器用じゃないからちょっとだけね。

王様は6年前くらいから公開処刑や威圧的な演説をしなくなって、「ありすの誕生祭」を行ったりするようにもなったんだ。だから処刑なんてされないことを信じて、少しだけ目立つことをしちゃおうっと。

ぼくはバルコニーの王様に向かって大きく手を振ってみる…いや、気付かれるわけないし、気付いても何も無いだろうけど(皆は美味しいお料理に夢中…)。

その時、前を向いていた王様の首が傾いて…こちらを見た…見た?。それから王様は指先で自分の頭をちょんちょんと触れて見せた。何かと思って、ぼくも同じように自分の頭に手をやると…今日のために買った派手な三角帽子に触れた。(こんな帽子被っているのはぼくくらいだよ)

それを見た王様は口元に手をやり、くすくすと笑ってから軽く手を振った。

「…え!」

瞬間ぼくはお家へと走り出す。全力で帰宅!ベッドに飛び込み、真っ赤に火照った顔をまくらに埋める。三角帽子…目立つかなぁなんておもって買っちゃったけれど、こんなことになるなんて…やっぱり恥ずかしいよ、だって、まさか!王様に手を振り返されるなんて!

頭を指さしていた王様、この帽子のことをどんな風に思ったのかなぁ…。やっぱり慣れないことはするものじゃないよ。嫌な気はしないけどさぁ。

(えへへ…なんだか映画を観ているみたいな気分)

ぼくはにやにやしながら仰向けになって、首にかけていたペンダントを外し、部屋の明かりにかざして見た。これは子どもの頃、本当のお母さんがお別れの時に首にかけてくれた、魔法のペンダント。革紐の先に付いているのはひし形の黄色の宝石。瞬く星屑の様な宝石の裏には黒いハートマークが書いてある…お母さんが油性ペンで書いてくれたんだ。

これはぼくのお守り、宝物。

お城のお料理は食べられなかったけれど、誰かに話しかけられたら緊張しちゃうし、賑やかなのは得意じゃないし…まぁいいか。ペンダントをぎゅっと握りしめ、胸の高鳴りと安心感に包まれて眠りに落ちる。お昼寝…。

(起きたばっかりだったけど眠るのは気持ちいいから…仕方ないね)

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夢から現実に戻ってくる、ゆっくり瞼を持ち上げて、見慣れた天井をぼーっと眺める。ほわほわした頭、あくびをしながら伸びをする。

どんな夢を見ていたっけ、確か…どこかの国のかっこいい王子様がぼくの三角帽子を褒めてくれるような…そんな夢だった気がする。手を取って「素敵だね」なんて言われちゃったりして。ぼくの頭は面白くて恥ずかしいことを考えるんだなぁ。三角帽子、すっかりお気に入りになっちゃったみたい。

ところで今何時だろう。時計の針は3時を指している。

(おやつの時間かな)

大好きなお団子とおはぎが食べたいなぁ。買いに行こうかな、なんて思い立って。扉を開け外にでると…。

「夜!?う、うそぉ…夜の3時?うわわ、寒い…」

目に飛び込んできたのは数えきれない星が浮かぶ黒い空とまん丸の月。賑やかだったお昼間が嘘だったみたいに、すっかり静まり返っている。ぼくはまた睡眠で1日を使い切ってしまったの…?でも、眠るのは気持ちいいから…仕方ないね。朝と夜の間に挟まれている様な、変な時間に目が覚めちゃった。せっかくだから星空を見ながらお散歩でもしようかなぁ。そしたらまた眠くなるかも。

ぐぅうう〜(お腹の音)

そういや何も食べてなかった…!

一旦部屋に戻り、台所でおにぎりを握る。塩をまぶして海苔を巻いただけのシンプルなおにぎり。

「もぐもぐ…おいしいなぁ…パリパリの海苔…。お味噌汁も作って食べようかな。」

お腹を満たして、少しのんびりしてから手袋をつけ、マフラーをまいた。分厚いポンチョを着て、頭には三角帽子を乗せる。オイルランタンに火をつけて、仄かな明かりと一緒に外に出た。

空を見上げながら静かな夜道を歩く。朝と夜に挟まれた時間。遠くなっていくお城。煉瓦のお店やお家の窓の明かりはとっくに消えている。お気に入りの公園も、和菓子屋さんも、木でできたベンチも通り過ぎて離れていく。少しずつ自然の景色が増えていき、そして1番のお気に入りの場所、小さな泉のほとりにたどり着いた。

果物のなる木に囲まれたその泉は、ゆらゆらと月明かりを映している。水際には白色の水仙の花が沢山咲いている。

ふと頬に、冷たい綿の粒が舞い降りた。

「あ…雪だ、きれいで嬉しいなぁ」

ちらちらと降ってきた雪。お腹に入っているあたたかいお味噌汁と分厚いポンチョのおかげか、ちっとも寒さは感じない。そっと腰を下ろして、その穏やかな光景を楽しむ。

少しずつ降り積もる。適当にかき集めて、手のひらサイズの雪だるまを作りはじめた。

「お顔はないけど…、可愛いなぁ」

深夜のひとり遊び。完成した小さな雪だるまを隣に座らせて一緒に星空や、月明かりに照らされる雪、水仙を眺めていた。またうとうととしてくる。いけない、ここで眠ったら流石に風邪をひいちゃうな…。

その時、びゅぅうっと強い風が吹いた。

風に吹かれた三角帽子が後ろへ飛んでいく…。振り返るともう見えなかった。

「あーあ…バイバイ…。すごくお気に入りだったのに…ぅう…」

体が冷えたらいけないし、そろそろうちに帰って眠ろうかなぁと立ち上がる。おしりの土と雪を払っていると、突然後ろから…

透き通るような、凛々しい声が聞こえた。

「白い髪のお兄さん、落としたよ」

振り返ると1人の男の人がぼくの三角帽子を持ち、微笑んでいた。

ガラスのような艶やかな紫色の髪はお尻に届くくらいに長く、気品のあるいい香りを漂わせている。黒と白の左右で異なる色をした瞳、煌びやかな衣装…。まるで御伽噺にでてくる王子様のような特別な風貌。ただ、肩にかけた大きな鞄だけは、どこか生活感と現実味を帯びている。

そんな異彩な男の人の姿に、ぼくは目を丸くさせた。

「あれれ、キミのじゃなかったかな?この可愛らしい三角帽子は…」

「いや、あの、えっと、ぼくの帽子だよ。拾ってくれてありがとう」

「よかった、たまたま飛んできたところを拾ったんだ。どうぞ」

不思議な男の人はぼくの頭をぽんっと撫でてから、三角帽子を被せた。彼の流れるような仕草や特別なオーラに魅せられて、なんとなく緊張してしまう。だって…映画の中から出てきたみたい。

可笑しいくらいにかっこいい。

「似合っているよ、素敵だね」

「あ、ありがとう…」

「そんなに畏まらなくていいんだよ…なんて言ったって、こんな時間に知らない人に声掛けられたら誰だって怖いよね。ごめんね、ビックリさせちゃって。

ボクは旅人の「朔 ルキソス(さく るきそす)」。気軽に「ルキソス」と呼んでおくれ。この国には数日前にやって来たんだ。ふふ、怪しい人じゃないよ?入国の手続きもきちんとしている」

「大丈夫だよ。えっと、ルキソスさん…ぼくの名前はほたる。普段はお洋服屋さんを切り盛りしていて、服をデザインしたり、売っているよ」

「ほたるさんか、よろしくね。怖い王様がいる国だって聞いていたけれど、来てみればのどかな雰囲気もあるし、昨日はお祭りがあって想像以上に楽しかった」

「ぼくも楽しかった…昔はもっともっと怖い国だったけど、最近は少し穏やかになったんだ」

この国の厳しい入国審査を通ったなら、見た目は奇抜でも、怪しい人じゃないのか…な?ますます彼に興味が湧く。ルキソスさんはよろしく、と言いながらぼくの手を取った。

それから…膝まづいて…

ぼくの手の甲に軽くキスをした。

!?

瞬間、上気するぼくの顔…。

「わぁ、王子様みたい…かっこいいね!」

「ただの挨拶さ。でもありがとう、そんな風に素直に褒められると嬉しいな。でもほたるさんもボクと同じくらいかっこいいよ。ほら、顔を上げて、ボクの目を見てごらん。」

立ち上がったルキソスさんに優しく手を添えられ、顎をくいっと上げられる。言われるままに、されるがままに顔を上げる。

ぱぁっと、視界が広がったような気がした。黒と白の瞳、パッチリと目が合う、優しい微笑みが視界いっぱいに広がる。

「ピンク色の瞳、珍しいね。凄く綺麗だ」

ルキソスさんはウインクしてから添えていた手をおろし、にこにこしながら一歩後ろに下がった。キスされちゃうんじゃないか、なんてドキドキしたぼく…恥ずかしい。

「服を売っているんだよね…流石プロだ、センスがあると思ったんだよ。そのポンチョも凄く似合ってる」

「照れちゃうよ…。ぼく地味だし…そ、そんなにおしゃれじゃないのに。でもこのポンチョは自分用にデザインした服なんだ…嬉しいなぁ。ありがとう。ところでルキソスさんはこんな時間になにしてるの?ぼくはお散歩」

「ボクも似たような所かな。ひとり夜の静けさに浸ってみたり、雪景色を楽しもうかと思ってね…なんていうのは口実で、実は泊まるところが無くて適当に朝まで時間を潰していたのさ。今日は景色のいい宿に泊まりたいなと思って予約はしていたのだけれど、昼寝していたら寝坊をしてしまってね。約束の時間に30分遅れて着いたら、もう満室ですって怒られてしまったんだ…。こう見えて野宿も暇つぶしも慣れているから、朝になったらまた宿を探すつもりさ」

「寝坊かぁ。眠るのは気持ちいいから…仕方ないね。でも今日は雪もふっていて特別寒いよ?風邪ひいちゃうよぉ」

ぼくは少しだけ考える素振りをした…それから少しだけ期待を込めて、思い切って言う。

「…あの、ルキソスさん、もしいやじゃなかったら…今日はぼくのお家に泊まるのはどう…?」

「へぇ?そんな、いいのかい?…突然迷惑じゃないかな」

「ぼくは楽しいよ!景色は…窓から星空が見える程度だし、ちっぽけなお家だけど…お風呂もあるし、予備のお布団もあるからあたたかく寝られるよ。今日だけじゃなくて、好きなだけいても大丈夫だから!」

「本当に!?助かるよ、それならお言葉に甘えてお泊まりさせて貰おうかな」

「やったぁ」

王子様がお家に来る…小さくガッツポーズをする。

「やったぁ、だなんて嬉しいな…。ふふ、ほたるさんは優しくてお茶目で、可愛らしいひとなんだね。ありがとう、少しの間よろしく頼むよ」

「かわ…?そ、そんな…」

「勿論お礼はするからね、そうだな…お店の手伝いなんてどうかな?家事もするし、ボクのことは好きに使っておくれよ。見かけによらず器用だし、旅の経験をいかして色々できるよ」

ルキソスさんはそう言いながら大きな鞄のなかから数枚の葉書や栞を取り出して見せてくれた。知らない、見たことも無い、綺麗な景色が描かれている異国の旅のお土産。

「旅はした事ないのかい?」

「うん、この国から出たことないよ。だからすっごくわくわくする!」

「喜んでもらえて嬉しいよ」

ぼくもいつか見てみたい、行ってみたい…夢中になっているとルキソスさんは色々あるからお家でもっと見せてあげる、と笑った。

いつの間にか雪はやんでいる。ルキソスさんの新鮮でワクワクする旅の話を聞きながら、2人で家へと向かう。ドラマチックなイベント、そっと憧れていた非日常。静かに心が踊る。決して届かない、踏み入ることは出来ない、陽の当たる存在に。

雪道の足跡。泉のほとりに残された小さな雪だるまが、ぼくたちの後ろ姿を見送っていた。

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