はじめに
こちらは、【番外編小説】「エメラルドグリーンを忘れた日」の続編の短編小説です。
前作だけでなく、下記の作品を知っていないと、お話が全然わからない内容で、荒花ぬぬ作品マニア向けの作品です。
↓二章くらいまで知ってると大丈夫
そして「エメラルドグリーンを忘れた日2」はこちらのゲームの関連作品です。ネタバレ無しで読みたい方はそのまま本編へお読みください。予め内容を知っておきたい方は、「こちら」の部分をクリックしてください。
暗い物語で、残酷で鬱々しい表現を含みます。苦手な方はお気を付けください。
作品をお読みになる前に以下の注意事項を必ずご確認ください)
本編
閑静な住宅街にあるマンション。住み慣れた僕の家。見慣れた、嗅ぎなれた僕の部屋。しかし。寝室の扉を開けると、今ここに、いるはずのない男性の姿が見えた。
彼は椅子に座っており、目を開けたまま眠っている。脚には鎖が巻かれており、自由を奪われている。二週間近くも監禁されている彼は、体力よりも気力を奪われている様子だ。顔を近付けても、視線が交わることも、目を覚ますこともなかった。小さな窓に、月が溶けている。べったりとした長い髪に、月光を落としている。
彼はここにいる。僕の手のひらの上にいる。今なら君を、どんな風にもできる。現実を教えてもいいし、夢を見せても良い。愛することも、壊すこともできる。
日常の壁紙を張り替えたような気分だ。僕は一線を越えてしまった。元の日常には二度と戻れないだろう。それでも、後悔はしていない。後悔?僕が何をしたというんだ。現実は、いつも重たい。
夕方、彼のために作り、食べさせたオムライスには、魔法薬を入れていた。魔法薬には深い深い睡眠効果がある。効果を発揮させるためには、血液を混ぜる必要があるから、作るのは少し面倒だ。副作用で記憶が曖昧になることもあるが、食べたものの体力はしっかり回復する。昨日も一昨日も、毎日同じものを食べさせて、彼を眠らせて、彼の寝顔を見つめていた。見つめながら迷っていた。
僕は今日も、ベッドサイドテーブルの引き出しを開ける。禍々しい鉄製の武器を取り出し、引き金に指をかけて……彼に、かささぎに向けた。
「かささぎ……。全部君のせいだよ。」
一年前、僕たちは恋人同士だった。同じ孤児院で育った僕と君は、まるで兄と弟だった。夏の日、ひまわり畑。お揃いの麦わら帽子をかぶって、手を繋いで、花びらを集めて遊んだ。忘れられない、甘い香りがした。
(「僕たちにはママはいないかな。けれど、かささぎには僕がいるよ。このひまわりが太陽を見つめているみたいに、僕はいつもかささぎを見守っているよ。僕はかささぎのお兄ちゃん。ずっとずっと守ってあげるからね。」)
弟のかささぎは僕に憧れていた。その憧れはいつしか恋心に変わり…かささぎは僕を求めた。恋焦がれる少女のような瞳で僕を見つめるかささぎを、僕は受け入れて抱きしめた。愛していると、君だけが好きだと、唇を重ねた。……だけどその関係はあっさりと終わってしまった。僕が色んな女性と夜遊びして、浮気をしたから、フラれたんだ。
別れてからも、かささぎは一途に僕を愛していた。もう会わない、連絡するなという言葉の裏側にある本心は、明白だった。そんなかささぎに、「会いたい」と連絡した。監禁されるとも知らずに、尾を引いている寂しさと恋心に流されて、僕の前に再び姿を現してしまった、バカで可哀そうなかささぎ。
引き金に触れている指が震えている。……やっぱり、できない。こんなこと、僕にはできない。今日もできない。きっと明日もできない。銃を降ろし、手で顔を覆って、座り込んだ。僕も君も、消してしまいたい。その気持ちに嘘はないのに、一日、また一日と過ぎていく。警察に見つかってしまう。早くしないと、早く決めないと。でも、迷いは晴れない。涙は止まらない。
かささぎはここにいる。僕の手のひらの上にいる。今なら君を、どんな風にもできる。現実を教えてもいいし、夢を見せても良い。愛することも、壊すこともできる。
でも、でも。
僕自身がどうしたいのかがわからない。決められない。
かささぎは僕の呪縛だ。消えてほしい。全て打ち明けてしまいたい。いや、忘れたい、僕のことも忘れてほしい。……そう思う自分と、思っていない自分がいる。かささぎだけでも幸せになってほしいと、僕が守ってあげなきゃと思っている自分もいる。
自分の気持ちに素直になりたいのに、どちらが呪いなのか、どちらを選べば楽になれるのか、わからない。わからないから、どうすることもできない。
心も体も痛くて重たい。ゆっくり立ち上がり、銃を引き出しに片付けた。
「かささぎ……。」
一歩ずつ近付いて、向かい合って、眠るかささぎの頬にそっと触れた。優しく撫でると、体の温もりを感じた。次に頭を撫でて、それから両手で抱き寄せた。心臓の鼓動が伝わってくる。それから、そっと唇にキスをした。
「かささぎ。かささぎは、僕には重すぎるんだ……。」
薄暗い部屋で、寒気を感じながら、つぶやいた。
女の子たちと夜遊びして実感した。…僕と向き合いたいと、受け入れたいと、真剣に関わりたいと思っていたのは、結局、子どものころから一緒にいるかささぎだけだった。
遊び相手の女の子たちは幸せそうにみえた。お互いに、体と心の上澄みしか知らない関係だったけれど、楽しそうに笑うから、悩みなんてなさそうだと思った。人生を楽しんでいるようにみえた。僕もそんな風にみられていたのだろうか。そんな他人に、僕の傷だらけの内面や過去を打ち明けたり、相談する意味があるのか。話す勇気も出なかった。だから、何度体を重ねても、遊びのその先には進めなかった。
かささぎだけだった……でも、かささぎではだめなんだ。
なにも知らないまま生きるのって、幸せなことなんだと思う。そう思うからこそ、かささぎに、僕の過去を教えてしまうのは怖いと思う。今更、僕を救って欲しいなんて、やっぱり、やっぱり言えないし、言いたいのか、言いたくないのか、言うべきなのかもわからない。幸せになりたいのか、幸せになってほしいのか、それさえもわからない。
かささぎは僕の心を温めてはくれない。
忘れさせてはくれない。
夜遊びをやめられなかったのは、薄っぺらい関係でも、無いよりはマシだと思ってしまったからだ。唇を重ねている瞬間だけは、寂しさが薄まっていた、心が満たされていた。
別の引き出しには魔法薬入りの小瓶を隠している。引き出しを開けて、小瓶を乱暴に取り出した。中には複数個、エメラルドグリーン色の魔法の宝石が入っている。塊を取り出して、口に入れた。手首の包帯を外せば、血は直ぐににじみ出てくる。効果はすぐに現れて、瞼が重くなってくる。心がぐるぐる、まわりはじめる。
「ママ。見てないで、助けに来てよ。早く来てくれないと、僕、もっと悪い子になっちゃうよ。」
魔法薬も銃も、裏社会に行って手に入れた。あんなところ、二度と行きたくないと思った。
裏社会の一軒家。「あいつ」は銃や様々な魔法薬を、庭に埋めて隠していた…‥そのことを覚えていたから、盗りに向かったんだ。掘ってみると、目的の物はすぐに見つけられた。裏社会に侵入する道順も、脱出する道順も迷わなかった……心に焼き付いていたから。
後悔するのも、夜に泣くのも、自分を作ることにも、疲れちゃったんだよ。
ママに会いたい。
あいたい。あいたい。
…会いたかったと言われたい。
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(20年と少し前、僕が5歳のころ。)
裏社会の一軒家。アンティーク風の家具に囲まれた書斎。狭くはないけれど、複数人で生活するのは、少し窮屈に感じる。お父さんが帰ってくるまでに、部屋の掃除を終わらせてしまわなくちゃ、また怒られてしまう。
ベビーベッドで、すやすやと眠っている小さな「あの子」の寝顔を見てから、窓を開ける。ほつれた袖をめくりあげて、服が汚れるのも気にせずに、本棚のほこりを落としていく。子ども用の小さなホウキをとりだして、掃き掃除をはじめる。
僕よりも少しだけ背が低いもう一人の「あの子」は、カーペットの真ん中にちょこんと座っており、一生懸命働く僕を退屈そうに、じっと見つめている。エメラルドグリーンの宝石のような、ひび割れたガラス玉のような、大きな瞳。可愛いから、お父さんに溺愛されていて、リボン型のヘッドドレスと、お人形のようなドレスのような、高価で美しい服を着せられている。
「そこにいたら邪魔だよ。君が汚れたり、怪我したら、大変なことになるんだからね。僕が追い出されちゃったらどうするの?」
「……。」
「もう!じゃま!」
僕はその子の腕を強引に引っ張って、無理やり立たせ、背中を強く押した。バランスを崩したその子は部屋の隅っこに転がった。悲しそうに体を起こして、俯いたまま座り込んだ。
「ごめん……。」
ハッとして、僕はすぐに謝った。昨日お父さんに言われた言葉が忘れられなくて、つい、意地悪なことをしてしまった。
僕は棚から着せ替え人形を持って来て、その子に手渡した。楽しそうに遊び始めたその子を見て、安心した。フリルが可愛い服、僕も着てみたいな…僕には似合わないか。羨ましそうに見つめる僕の様子に気が付いたのか、その子はヘッドドレスを外して、僕に差し出した。
「優しいね、でもいらない。」
僕は首を横に振った。僕はなんだか切なくなって、たまらなくなって、その子の服にシワが寄るのも気にせずに、抱きしめた。温もりを感じて、少しだけ安心した。
……お父さんの言葉が、心に消えない傷跡を残している。僕の心は、その痛みに泣いていた。
その子は「泣かないで」と微笑み、抱きしめ返してくれた。
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お父さん「よく聞いて。
正直、俺はいつ死んでもおかしくない状況だ。だが、まだ死にたくない、死ぬわけにはいかない……。
綾小路研究所の働き心地や待遇、住み心地はよかったが、あのまま研究を続けて、人間の能力を一時的に向上させる、特別な薬品…魔法薬を、何種類完成させても、俺の成果や存在は隠されてしまっていただろう。
俺の能力も魂も人生も、ナツカの手のひらの上にあった。花咲くことなく、養分として消費されることが悔しかった。
俺は有能なナツカを尊敬していたし、それでもいいと、逆らえないと思い込んでいたが……ある時、気が付いてしまった。ナツカは「ただの人間」だってことに。
俺は違う。俺には神から与えられた特殊能力「霊能力」がある。俺が本気を出せば、この星を支配することもできるはずだ。だから俺は、「愛し合っていた研究員の彼女」と一緒に研究所を抜け出し、ナツカたちを裏切ったんだ。
俺は霊媒師の探偵として働いているが……死者と向き合い続けていると、死は日に日に身近なものとなっていくんだ。近付いてくる、いつも背後にいる。時には霊の不幸や後悔、恨みを直接ぶつけられ、俺の心や体にのしかかることもある。それはどこからか似た不幸を呼び寄せ、死との縁をまた深めていく。
俺は死者の声を聴くことも、過去や記憶を盗み見ることもできる。死者だけでなく、生者の魂にも干渉できる。情報収集は簡単。魂を壊すことも、呪うことも簡単だ。この力のおかげで探偵として暗躍し、仕事ができている。そして、この星のカラクリやナツカの思惑も、全て、知ることができた。
だが俺は……ナツカの能力や正体も知ってしまった。あいつはただの人間なんかじゃなかった。俺が何とかできるような単純な人間じゃない、ナツカは残酷で強欲な、恐ろしい存在だった。
裏切った?違う、俺は泳がされていただけだった。俺だけじゃない、あいつらも同じだ。
俺はナツカのことを知りすぎた。ナツカのことだけじゃない……俺は裏社会を知りすぎた。好きにやりすぎた。彼らの秘密の領域にまで、足を踏み入れてしまった。
ナツカと敵対しているときめきやロウソクと、戦うつもりはなかったのに。関わりたくもなかったのに、あいつらの過去や情報、秘密も知ってしまった。しかも、知ってしまったことを、知られてしまった。あいつらのやり方はナツカとは違うから、俺を見逃したり、泳がしたりはしないだろう……きっと直ぐに消しに来る。
いくら後悔してももう遅い。結局は、俺は好奇心、欲望には勝てなかった。この状況を、恨めしく思う。それでも、これまでの自分の行動を考えてみれば、必然であったのではないかとも思う。
悔しいから……俺が殺された時には、敵の魂を呪ってやるつもりだ。深い眠りに落ち、悪夢を見続ける、寂しい寂しい呪いの餌食にしてやる。許さない、許さない!ああ、あぁ……俺は何をやってるんだ。加虐心を膨らませて、喪失感や恐怖心を誤魔化して……はぁ。俺はなにを、なにをやってるんだ。はぁ。」
「お、お父さんはしんだりしない。だいじょうぶ、お父さんもお母さんも強いもん。」
「あはは、はぁ…はははッ、……………ごめんね。彼女はもう、帰ってこないんだ。ずっと二人で研究して働いて、暮らしてきた、愛し合って生きてきたのに……。霊能力は強いが、俺自身は弱かった。何も守れない、何も手に入れられない。俺は最愛の彼女すら、守れなかった。次は俺の番ってこと。」
「どういうこと?もう会えないの……?」
「……もういいんだ、気にするな。ああそうだ。お前は本当の母親のことを覚えているか?」
「覚えてないけど、おひさまの匂いがした気がする。」
「ああ、それが本当の愛なんだよ。お前のママは生まれたばかりのお前をつれて、裏社会の夜道をさまよっていた。俺たちは倒れていたママを見つけて、この家で看病したが、不治の病で一晩ももたず、どうしようもなかった。ママは俺たちにお前を託して、天国へと去ったんだ。
いいかい?お前にはママがついている。ママはお前を愛している。
いつかママが、お前を抱きしめるために、死後の世界から迎えに来てくれるはずだよ。
だから、大丈夫。なにも怖がるな。
お前は、鴉のような鋭い目をしている。生まれつきの強い子なんだ。
意地悪で、よく喋るし、な?強い子だろ?
本当に強い子。強い子。強い子。だから、どんなに辛いことがあっても、あの子たちは、お前が守ってあげるんだよ。
生まれたばかりのあの子と、宝物のあの子を。守ってあげなきゃいけないんだよ。
魂をかけて、守るんだ。
「あの子」は僕と愛する彼女(元研究員)の間に生まれた、大切な大切な息子。僕の霊能力をそっくりそのまま受け継いでいる魔法の子だ。もうひとりの「あの子」は、可憐で理想的な容姿をしている宝物。同じ歳頃の幼子よりも、話すのが苦手で、感情を表現するのも苦手で、乱れがなく落ち着いている。綾小路研究所で大切に整えて、育てて、研究してきた。大切な実験対象だった……美しいあの子だけは置いていけなかったんだ。
俺は子どもたちを愛している。彼女もあの子たちのことが大好きだったんだ……、だから……お願いだ。もう、頼れるのはお前しかいないんだ。
守って、守って、幸せにしてあげて。」
その後お父さんはお手製の魔法薬や武器の隠し場所を教えてくれた。話を聞きながら僕は、困惑していた。この気持ちは何だろうって。……。嬉しいのか悲しいのかも分からない、空気が抜けた風船のように、ふわふわとした感覚。
僕はぼんやりとしながら「わかった。」とつぶやいた。
部屋を見渡す。昨日と変わらない。でも、僕の中では何かが変わった、そんな気がする。
可憐なあの子は、本物の人形のように椅子に座らされていた。全然動かないのが不思議だったけれど、あの魔法薬で、目を開けたまま眠らされていたのか。あの子も僕と同じ気持ちなのだろうか、それとも、違うのだろうか。
……僕は、生まれたばかりのあの子が、すやすや眠っているベビーベッドのところへ行き、覗き込んだ。その子も変わらずそこにいた。
「……。絵本読んであげる。」
僕は絵本が好き。友だちと星空をみたり、ひまわり畑を探検する物語は楽しいし憧れるし、心が動かされるような体験ができるから。君も好きでしょ?
絵本を読みきかせながら……僕はいつの間にか、眠っていた。
夢をみた。ママに、愛していると言ってもらえる夢。絵本を読んでもらう夢……。
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部屋の掃除が終わると同時に、お父さんが家に帰ってきた。お父さんは「ただいま」と、あの子たちの顔を見てから、カバンを置いた。コートを脱いで、あくびをしながらソファに座ろうとしたその時。
バンッと破裂音が響いた。そして、ガチャッと玄関ドアが開かれた。銃で玄関の鍵を壊して、土足で入ってきたのは、……背の高い、知らない男の人だった。
その姿を見た瞬間、お父さんは悲鳴をあげた。お父さんは、足元で人形遊びをしていたあの子を鷲掴みにして、抱きかかえた。あの子が大切にしていた人形は床に落ちた。
ベッドで眠っていたあの子は、お父さんの悲鳴を聞いて、目を覚まし、泣き始めた。お父さんは手を伸ばしたが遠く……僕に「必ず戻るから、あの子を守れ」と震える声で言い残し、窓から夜道へ出て、走り去った。
僕はベッドに駆け寄ってよじ登り、抱きあげた。お父さんを追いかけようと思ったが、足がもつれて転んでしまった。
怪しい男の人はユラユラゆっくりと近付いてきた。僕はその子を抱きしめながら、震えながら縮こまった。男の人は銃をコートの裏側に隠して、腰を下ろした。
……僕は顔をあげた。「慌てなくていい」と、目を細めている男の人は、お父さんに似ている気がした。だから、怖い人には見えなかった。僕はその子を落ち着かせた。やっと泣き止んだ、でも不安そう。
「ここから逃げろ。だが、一般人が…ましてや子どもが、裏社会を脱出するのは簡単な事ではない。道順を知らないまま、通行証も持たずに闇雲に逃げ出そうとしても、命を落とすだけだ。」
男の人は、ポケットからカードを数枚取り出して……僕の小さな手のひらの上に一枚のせた。
「このカードを見せれば、大抵の奴らは道を開けるだろう。このカードには目に見えない力がある。誰もが逆らいたくない、関わりたくないと思うような権力や情報が宿っている。裏社会の通行証のようなものだ。裏には地図も書いてある。国の外…表社会まで行くことができれば、安全に保護されるだろう。
俺の言っている意味がわかるか?」
僕はうなずき、それを受け取った。
「一緒に行ってくれないの?このカード、おじさんが作ったのでしょ?外に出たいんじゃないの?」
「俺が作ったものだが、自分のために作ったものではない。……。とにかく、俺は出るつもりはない。ふたりで行け。」
男の人は立ち上がり、背を向けて、玄関の方へと歩いて行った。「ジュエット……どこに行ったんだ。探さなければ……。」と独り言を零した。
「海だと思う。お父さん、海で絵を描くのが好きだったから。」
男の人は「………そうかい」とぶっきらぼうにつぶやいた。
男の人は立ち去り、後ろ姿はすぐに暗闇に溶けた。
僕はその子を抱えて家を出て、走り出した。
…助けなきゃ。
僕が、守らなきゃ。
大丈夫、君には僕がいる。
ひまわりが太陽を見つめているみたいに、
僕はいつも君を見守っていたいと思ってる。
ずっとずっと…
守ってあげるからね。
かささぎ。
【END】