星のはなびら五章「天国と霊界の化身」

二話

ーささめきと天国の話ー

この星の仕組みは俺(さくら)が作った。新しい魂は現世で生まれる。現世での一生を終えると、死後の世界で目覚めて、もっと自由で、新しい生活を送ることが出来る。

死後の世界は、2つ作ってある…天国と地獄だ。行く先は好きに選べるし、途中で引越しすることもできる。

…天国は幸せになるための場所…

霊体で過ごす新しい人生。天国を自由に飛び回るためには羽が必要で、羽付きの霊をこの星では天使と呼ぶ。

端っこなんてない、広い世界。色んな時代の色んな場所がある、色んなやつがいる、自由で楽しい世界。好きな物食べたり、好きな仕事をしたり…やり直したいことをやり直せて、やりたいことをやりたいようにできる。どんな奴にもどこかには落ち着く居場所があるだろっ?て感じ。寿命はないから、飽きるまで満喫しろ!ってこと。

面倒なことをしようとするやつ、邪魔なやつは、守り人様が直々につまみ出してやるけどな!ここは俺の星だ、ばーか!

手続きすれば、嫌な記憶を消したり、姿形を変えられたりもするし、飽きたら転生…心をリセットして、現世に生まれ直すこともできる。

…地獄は自分を見つめ直すための個室…

基本的には天国に行きたくないやつがくる。今は幸せになりたくないやつ、1人になりたいやつ。地獄は、人によって違う景色をうつす個室なんだ。

ささめきは、俺(さくら)がこの星の問題を解決する為の情報(ゆずは、ゆうぎ、しんげつ…事件の情報)を集めるための重要人物だった。俺は話をするために、広い死後の世界を探し回っていた。

地獄で見つけたささめきは拗ねたように、退屈そうに、座り込んでいた。

俺が近づくと静かに顔を上げた。青い髪、赤いギラギラとした瞳が揺れる。

「やっと私を見つけたのね。星の守り人さん?私から直接、ゆうぎの情報を聞こうとするだなんて、随分趣味が悪いのね。ふふ…それとも、人間の気持ちがわからない、神サマだから、仕方がないのかしら?」

「…。ささめき、すまねぇ。お前に頼るしかなかったんだ」

「そんな顔しないでよ、力不足な神様にちょっかいかけてみたかっただけ。

ゆうぎは、私が死ぬ直前に、色々教えてくれたわよ。自分の目的も、きらめき兄さんが霊界に閉じ込められていることも、ゆらめき兄さんを殺すつもりであることも、ね。

ここに来てから気がついた…ゆうぎはわざと残酷な現実について話したの。私が死後の世界に行った後、孤独に後悔して、自分の弱さに悩み続けて、泣き続けるように…ね。それも彼の復讐計画のひとつだった。

兄さんに会えなくて、悲しいわ。また会える、だなんて、心のどこかで期待してたから。

だけど、私、あいつの思い通りにはならない。

だって私は、立ち止まって悩めるような良い人じゃない。強い人じゃない。そんな風になりたいわ、だけどなれない…いつだって自分のことで精一杯で、自分のことが大好きな悪人なのよ」

「…ひねくれたこと言ってねぇで、ささめきも天国にいこうぜ。羽、つけてやるからさ。楽しいことやろうぜ」

「はぁ、楽しいことって何よ…私、退屈なことが1番嫌いなの。天国には私を退屈させない、刺激的なことがあるっていうの?

私、自分を変えてみたい。兄さんを守られる自分になりたかった…今更、守りたいものなんてないけれど。せめて私だけは、変わってみたい。

そうだ…、ねぇ守り人さん

私の情報を何に使うつもり?きっと、楽しいことに使うのでしょう?あなたの仕事に、私も混ぜてよ」

「はぁ?弱そうなやつに、危険なことはさせられねぇよ」

「弱そう?あなた、見る目がないわね。簡単に騙せちゃいそうで、おまぬけって感じ。もっと私をよく見なさいよ。

私、1度会った人間のことは忘れない。あなた、現世でゆずは君とアルバイトしていたでしょ?名前はたしか、さくら…名札をつけていたから、知っているわ。

…私はあなたより何倍も賢い。きっと、力になれるわよ」

「別に親しくもなかったのに、よく覚えてるな!?星の化身の仕事を手伝いたい奴なんていたことねぇし…まぁいいけど。侵略者が来ることもあるし、結構危険だぜ?…それくらい、賢いお前ならわかってるか。でも、俺、お前みたいに気が強い女はあんまり得意じゃねぇな〜笑」

「次にお前だなんて呼び方したら、お仕置するわよ。知ってるでしょ?私の名前は捧希(ささめき)」

天使となったささめきは、天国で「この星にはない特別な力を持つ天使達」をまとめるリーダーとなった(いや、いつの間にかなっていた)。魔法に似た、特別な力を持つ天使達は、元々は別の星から来た戦士…侵略者だった奴が殆ど。

戦意を失い、そして帰る場所を無くした侵略者達。俺はそいつらのことは追い出したり始末せずに、天国で暮らせる天使にしてやることにしたんだ。

(普通の天使は現世には降りられないぜ?俺のように特別な羽でもあれば話は別だけど、天使が勝手に羽をちぎって堕ちれば体が朽ちて消えてしまう)

しっかり者のささめき…特別な力を持つ天使達の力を上手く組み合わせてより強力に育てたり。俺の世界を見渡す能力をいかして、現世や死後の世界の情報を集めてまとめたり…。俺の相棒として、真面目に協力してくれている。(もしかして、俺より星の守り人に向いてる…?) 

死後の世界の霊や天使からの信頼も厚い。

そして、俺はささめきに自分の力を分けることにした。現世や地獄に自由に行くことが出来る、特別な羽に変えてやったんだ。

俺が血を流しすぎたら、この星の空の色は真っ赤に変わる。そんなこと、起こったことねぇけど…俺がピンチのとき、天国の奴らをまとめたり、駆けつけて貰えるように。

…ささめきのこと、結構頼りにしてるんだ。

そんなささめきはいつも俺をからかってくる。ほんと、気の強ぇ女。

「守り人さん、私が一緒に働くようになってよかったわね」

「あ?なんだって?俺をまたバカにして…構って欲しいのかよ」

「バカにしてなんかないわよ。守り人なんて役目、力が強いだけのあなたには荷が重すぎたのよ。だって1人じゃ遊び半分で適当に星をまわすか、中途半端に真面目にやるかのどっちかしか出来なかったみたいじゃない。ふたりで、いや、皆でやれば…守り人さんもちょっとは気が楽になったかなぁって思って♪天使達も、この星も大喜びね♪」

「なーんの話をしてんだ?笑」

…あと一人特別な羽を持つ奴がいる。

悪魔だ。

今はささめきに懐いていて、俺には石を投げてくる…。あいつ、俺のオモチャだったくせに、今では「自称・ささめきの部下」。最初はささめきと、睨み合っていたけれど、今じゃ親友みたいに仲がいい。

悪魔は今は「さくま」と名乗っている。(悪魔って名前も、自分で名乗っていたくせにな…)

「我はもう天使の立場だというのに、名前は悪魔ってからかわれるのは嫌だ…」なんて言って。名前の頭文字は俺じゃなく、ささめきの「さ」らしい。好きすぎるだろ。

彼女は多彩な特別な力をもっているし、再生(治癒)能力も持っている。俺にはないからな…俺は傷付いたら、しばらく寝ないと治らねぇ。体が外れたら気合いでくっつけなきゃならねぇし…。

天国の入口にある大きな門の目の前。俺たちのいつものたまり場。ささめきとさくまは時々俺を指さして、顔を近づけて、こそこそ話していたりする。

「おい、ささめき、さくま…何笑ってんだ。あ、まさか俺の記憶覗いて遊んでるんじゃねぇだろうな!!!」

ほんと、くだらねぇことするなって。プライバシーって言葉、知らねぇの?

「くくく、我は高貴なる守り人様に対してその様な失礼でつまらないことはしないぞ…。

あの侵略者を…また泣かせて…地獄の空間で…苺をな…

「そうよ、守り人さんのプライベートなんて興味無いわよ。

…え、苺を?ぺろぺろ?やだぁ引いちゃう…

「勝手に見ておいて、引くなって!!」

…だけど、「悪のために使っていた技術」や「大きな野心」を裏返して天国で発揮し、星を守ることを素直に楽しんでいる彼女達はどこか輝いて見える。

少し離れたところから見ていた、「天国の門番」が柔らかい笑顔で声をかけてくる。大剣を背負った、まつ毛の長い男。

「…苺の食べさせ合いっこも、ぺろぺろも悪いことじゃないと思うよ。恋人らしくて素敵。でもさくらは、恋人のことはもっと大切にするべきだよ」

「う、うるせぇ!」

「天国の門番」…侵略者をぶっ飛ばせるくらい強い。

だけど彼は変な奴で、天国に来たときから、ずっと入口、門の前から動かねぇ…中に入ろうとしねぇんだ。

入口に座り込んでいる男がいたら皆不審がるだろ?だから最初はそいつに天国の面白い話をしたりして、何とか中に入って貰えるよう説得しようとしてた。それでも、動かねぇ…名前しか教えてくれねぇし、自分の話は一切しねぇ…。地獄に行きたい訳ではないみたいだし…。俺は悩んだ。

しかもさくま(当時の悪魔)がそいつのことを何故か警戒してビビっていて、強引に聞き出そうとしても「我は何も知らない!!!」の一点張りだった。

俺も色々考えたけど、この星の長い歴史と山のような情報…人の顔なんていちいち覚えてねぇし。

でもある日、天国に帰ったら、そいつが天国を襲いにやって来た侵略者を取り押さえていたんだ…変な奴のくせに、勇気と強い力を隠していた。

自分の身を守ることができる力があるのなら、入口にいたままでもいいかって俺も諦めて、そいつはもう「天国の門番」ってことにしたんだ…。それっぽい服着せて大剣背負わせたら、まぁ、誰も不審がらないし。

…初めは誰かを待っているのかなぁなんて思っていたけれど、もう時間が止まったみたいに何百年もそこにいる。

門番にハマっちまったのか?まぁ、気が済むまでやればいいさ。

さくまはそいつのことを知ってるんだけどなぁ(俺は思い出せねぇけど)…ささめきには全部話して教えてるくせに、俺には教えてくれねぇ!!!

ささめきが来てからは、さくまは俺を舐めるようになって、ほとんど話さなかった門番もよく喋るようになって…何となく雰囲気が明るくなった気がする。…俺もな。

…天国の入口。ささめきが門番となにやら話しているのが見えた。

「門番さん、これ天国で買った苺のジャムと食パン!すごく美味しくて、天国で流行ってるんだって。ここで皆で食べましょ。甘いもの、嫌いじゃなかったわよね?」

さくまは相変わらず門番のことは少し怖いようでささめきの後ろに隠れ、気まずそうに距離を置いている。門番はあまり気にはしていないようだ。門番はささめきの持つジャムの入った瓶と、ホカホカの食パンをみて、目を輝かせた。

「ありす、苺のジャムもパンも大好き。ささめき、さくま、いつもありがとう。さくらもおいでよ、一緒に食べよう!」

「はいはい…今行く」

…天国の話は一旦これでおしまい…

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