星のはなびら三章「人形と、純白のチューリップ」

朝。国中に響く王様の声で目を覚ましました。適当に身支度を整え、外へ飛び出します。これから犯罪者の排除が行われるのでしょう…僕は悲鳴や歓声や奇声…色んな色をした声が入りまじる人の山をかき分けその中央、断頭台のそばへと進みました。

王様の姿をもっと近くで見るために。

途中…耳に入ってくる国民たちのヒソヒソ話。

(処刑される彼は本当に犯罪者なのか?ただ、城に手紙を送っただけなんだろう?)

(王は人の命を指先で楽しんでいるのよ)

(悪魔のようだ)

(次の彼は兵士だったらしい、訓練をサボったことが理由だそうだ)

(この国のルールなんて全て王の気分次第だ)

(しっ、お前声が大きいぞ)

…ありす…!!ありす!!

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「死を、その目に焼きつけるが良い!!我に従え、我こそがこの国が誇る強さの真髄である!!!」

王様の命令に合わせて、断頭台の刃が落ちます。力強く語る王様…しかし僕は気が付きました。きっと僕だけが気が付きました。王様の、ありすの瞳が揺れている、震えていることに。ありすを見すぎていたからでしょうか…ふと目が合ってしまったようなそんな気がしました。僕は直ぐに俯きました。

(ありす。もしかして苦しいのですか?)

僕は背を向け、家へ帰るために歩きだしました。

(今夜もありすに会いに行きますよ。明日も、明後日も、ずっと、ずっと…)

途中でパンを買い、食べながらとぼとぼと歩いていると路地裏の方から何やら声が聞こえてきました。気になった僕はそっと、近づき、耳をすませます。

(…武器も計画も申し分ない…準備は整った。あとはタイミングを待つだけだ。この国は私たちの手によって変わる、私達は英雄になるんだ)

(必ずこの国を変えられる…歴史に残る大反乱をおこせる)

(いくら能力があっても王も人間なんだ、必ず生きたまま捕らえて…

…。

僕はその場をあとにします。反乱を起こそうとする人がいることなんて、もう1人の王様はとっくに知っているのでしょう。…だからこそ、いくら待ってもそのタイミングは来ないのですよ。

恐らく、もう1人の王様が反乱を起こさせるような隙を、タイミングを作らないように計算し、ありすを動かし、国中を見張り、先手をうち、牽制しているのでしょう。もう1人の王様は、本当に頭がいいのでしょうね…。

そんな王様なんです…ありすの小さな道具が壊れた理由も、ありすの様子が変わっていることも、僕の存在も、ありすとの関係も、全てを知っているに違いありません。

しかし、なぜか僕は今日も捕らえられることはないようです。美味しいパンを食べて、生きています。僕は泳がされているのでしょうか、何かに利用されているのでしょうか、それとも別の理由が…?

僕は、ありすを救うためにも、もう1人の王様に会わなければいけませんね…。今晩、ありすに話して、あのベッドの下の秘密の部屋へ行かせてもらいましょう。

僕はそう、決意しました。

…立ち入れば殺されるかも知れません。

ただ、これは僕の直感ですが、2人目の王様は僕が来るのを待っている…そんな気がするのです。

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昼間は国中を散策して時間を潰します。和菓子屋さんでお団子を食べてみたりもしましたが、やっぱりパンが1番美味しいですね。だって、ありすと食べた思い出の味なのですから。食べると、昨夜のことも鮮明に思い出せて、幸せになれます。

はぁ、色々なパンを食べていると、お金がなくなってしまいました。お父さんが遺したお金は少なかったですし、仕方ありませんね。

誰かに縛られたくないので、絶対に働きたくはないですし…、そうだ!友達を作って、買ってもらえばいいのです♪僕はパン屋さんの店員さんに声をかけます。

「綺麗なお姉さんこんにちは!このパン屋さんのパンは世界一美味しいですよねぇ♪」

可愛くおねだりする作戦です。ふふ…僕は狡い人なんです。

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友達を沢山作って、両手いっぱいに抱えたパン。でも僕はお父さんの息子さんと同じ顔ですし、目立ち過ぎるのはよくないですね…今は双子の弟の設定で誤魔化していますが、不安です…。

そこで、先程、残っていたお金を全て使って、フード付きのローブを買っちゃいました。因みに色は灰色です。鼠にお似合いのカラーですね、ふふ。ありすのベッドのカーテンの布で例えると…100回くらい踏み付けてしわくちゃにしてから薄く引き伸ばした様なペラペラ仕様ですが無いよりはましです。これでもっと自由に散策できます。

僕はその日、日が落ちるまで国中を駆け回り、遊びました。

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月明かり。冷たい風。硬い城壁。ありすの寝室の窓にぶらさがりながら、今夜の僕は中に入るのを躊躇っていました。

(今日は明らかにおかしかったですね…警備をしている兵士が1人もいなかったのです!嫌な予感がします…悪いことが起きないことだけを願いたいですね)

迷っても仕方ありません。ありすに会いたい気持ちを抑えることはどうせ出来ないのですから。

僕は窓を開け、足をかけて、中へ入りました。

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「…待っていたぞ、悪魔の力を宿す鼠め」

「えっ…」

今日のありすはしっかり操られたままのようでした。つまり、今僕に話しているのは…2人目の王様、支配者。

「わははは、その灰色のローブは傑作だな。毎度部屋に土足で入る、馬鹿な鼠にお似合いだ」

「…これ、結構気に入っているのですよ。…正直、ださいとは思っていますけど」

「……名はみどりといったか?我はお前の覚悟と真意を問いたいのだ。

安心しろ、我はお前のことを全て知っている。悪魔に魂を与えられた人形であることも、その鞄の中の道具に悪魔の力が宿っていることも、あやつり人形を勝手に動かして戯れていることも、全てをな。

思いのままに話すが良い。ただ、嘘や、くだらない返答を寄越すなら…この場で斬り捨てる」

王様は背中におさめていた金色の剣を抜き、僕に向けました。

「…覚悟と真意ですか。つまり、正直な気持ちを話せばいいのですよね?

そうですねぇ…僕は暗殺者でしたし、今ありすと会っていることも全部含めて、僕の存在はあなたやこの国の邪魔であるという自覚はありますよ?

でも僕にはこの国を守りたい気持ちや、正しいことをしたいといった気持ちはないので…反省はできないのです。そんな余裕もないのです。

恋心にまかせて、何も考えずに突き進んでいるのです。

おさえきれないのです。

ありすのことが好きなのです。

ありすのことが好きという気持ちが、僕を止めないのです。…きっとありすも僕のことが好きですよ。

大好きだから大切にしたい…ありすを救うと一方的に約束した、その気持ちに嘘をつきたくないのです。

押し通したい、叶えたい、その覚悟だけはこの胸の中にずっとあって、自信があるのです。

僕はこれからも後悔のないように、ありすのために、好きに行動します。

…さぁ僕を斬り捨てますか?」

「へらへらペラペラとよく喋る男だな…まあ良い。さぁ地下へ来い。1人でな。」

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