星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~ 三章「人形と、純白のチューリップ」

「作戦内容ですが、実はずっと前から考えていたのですよ。

2人同時に逃げたら、今晩のこの国の状況を把握出来なくなってしまうでしょう?少しでも情報を手にしてから逃げる方が安全です!

なので先にありすが僕が指定した場所に逃げてください。僕は今日一日の様子を伺ってから、直ぐにありすを追いかけます。

…良い作戦でしょう?」

僕はありすの手を取って、笑顔で、意気揚揚と話しました。ありすはそれを聞いて、こくんと頷きました。

「…ありがとう、みどり。やさしい」

「よかった…、一緒に逃げてくれるのですね!」

よかった。

よかった…

「…ねぇ、みどり」

ありすがそっと、僕の左胸に手を当てました。

僕のうるさい心臓の音。額に汗が滲みました。

「あ、ありす…?」

ありすは少し意地悪な笑顔で、首を傾げて、僕の顔をのぞきこみます。

そして浅い深呼吸をしてから、穏やかに、優しい声色で、話し出しました。

「…はじめて、あったとき、みどりのこと、うらやましいとおもった。

にんぎょう、だったのに、じゆうな、ひとに、なれたのだから。

でも、みどりは、ありすにもそれを、わけてくれた。

ありすの、心を、おしえてくれた。

ふたりで一緒にいるときは、ありすは…王さまでも、あやつり人形でもない、

ただのありすでいられたよ。

ありす、このまま2人で遠くに逃げてしまいたい…。

でもここはもう、ありすにとって一番遠いところなんだよ。

みどり、最初にいってた…

悪い王様であるあなたを殺すために魂を与えられ、人間になってここにやって来ましたって。

…だからわかってるから。 気付いてるから。

そんな、辛い嘘、つかないで。

ありすが生きていたら…

ありすを殺すためにつくられて、魂をもらったみどりは

人形にもどってしまうんでしょ?」

「………」

あぁ

ははは…

はは。はぁ。

…僕は嘘をつくのが、本当に下手ですね。ありすならそう言うと、心のどこかで、少しだけ…気がついていましたよ。

それにあなたに嘘をつくなんて、あまりにも苦しくて、おかしいくらいに、上手く笑えていなかったのです。

今も視界が滲んで、勝手に涙がぼとぼとと溢れてくるのです。

「ありす…僕、まだ嘘をついていたいのですよ。何を言っているのですか、そんなわけない、違うと言いたいんですよ。

僕にとってありすほど、かけがえのない、大切な存在は無いんです。

ありすが、捕えられる、死んでしまう?そんな、こと、考えたくもないんです。

でも、心が、体が、言うことを聞いてくれません。

ありすに嘘をつくなんて、僕には、できません…。

ごめんなさい、弱くて。ごめんなさい隠していて…ありすの言う通りです

僕の心は、魂は…ありすが生きていたら、消えてしまう」

ありすは泣き崩れた僕を抱きしめました。そして僕の肩に顔をうずめて、その服に涙を滲ませました。

「謝らないで。みどりはありすのことを救うって覚悟してここまで連れてきてくれたんだよ。

だからこそ、ありすはありすがどうしたいか、自分の心に尋ねて、考えることができたんだよ。

だから、ありすのこたえを…ありすの我儘をきいて。

ありすはね…

これから、

お城にもどってこの国の王様になるよ

「そんな!そんな我儘、聞けるわけないでしょう!?嫌です、絶対に嫌です。お城に戻るつもりなら、僕も行きます、あなたの為に戦います」

「ごめんね、わかってる。のこされる方が辛いこと。みどりのため…じゃないかも。…ないよね。でもこれが、みどりにもらったこの心で導き出した、ありすの覚悟、ありすの意思、ありすの…我儘なんだよ。

それにこの世界にはありすの逃げられるところなんてない、立ち向かうところしかない。それが運命。でもちっとも怖くないよ。

みどりだけはありすを知ってくれている、味方でいてくれる、愛してくれる。それが、ありすの自由と幸せの全てなんだよ。

…だからみどりは自由な人になって羽ばたいて。

ありすの心を救うって覚悟してくれたみどりなら、ありすのこの心を、大切にしてくれるでしょ?叶えて…くれるでしょ?」

そしてありすはローブを脱ぎ、僕の肩にかけました。

「…ぁ…あぁ…」

重たい…

ペラペラのローブが

こんなにも重たい。

僕は初めて「ありす」と出会った日から…こうなることを、心のどこかでわかっていたのだと思います。いや、わかっていました。僕達は一緒にはいられない運命だったのです…。

それでも

国に囚われ、生まれながらの使命に囚われた人形を見て自分と重ね、愛してしまったのです。初めての欲、溢れ出す気持ちのままに進み、彼を独り占めしたいと思ってしまったのです。

そんな矛盾した心を、覚悟を背負い、何も無いところへと突き進む僕はきっと…この国の誰よりも一生懸命に、狂っていたのでしょう。

僕は僕に尋ねます。

…僕が一番守りたかったものはなんですか?と。

僕の心?そんなはずありません。僕ははじめから自分の心や魂なんて…どうなったってよかったのです。

僕が守りたかったものは淡く透き通ったありすの心です。ありすは今、自分の命よりも心を…僕が触れて動かしたその心と、現実を、受け入れて欲しいと願っています。

きっとありすの感情は僕と似ているのでしょう。

(自分の魂を犠牲にしてでも、あなたを守りたい)

そのありすの我儘を、飲み込みたくないと願うこと…それは、きっと僕の我儘なのです。

ありすの我儘と僕の我儘。…僕には選べませんでした。

この状況で自分の我儘を押し通すなんてことはできませんでした。

なぜなら、僕が守りたかったものは…!最初から、決まっていたのです。

…。

…。

ただ、感情をおさえこんで。

僕はありすの力強い瞳を見つめて、言葉を振り絞りました。

「何があっても誰がなんと言おうと、僕だけはありすの味方です。

だから…忘れないでいてください。

ありすはありすであることを。

そして僕のことを。

僕もありすのことを忘れません。何十年、何百年たっても。

しあわせでした、…心から愛しています」

「ありすもみどりを愛してる。ありがとう、心をくれて。

ありすもみどりと出会って、一緒にいられて

言葉にできないくらい、しあわせだったよ。

みどり、…もう一つだけお願い、いい?」

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僕は最速で駆けました。誰にも見えないほどの速さで。体がいつもより軽い、とても軽い、そう思いました。

(これがあなたの望みなら…)

世界で1番愛する人をかかえて、木をかき分け、飛び移り、群衆を飛び越え、お城へと向かいました。王様が消えて混乱しているお城…僕はあなたをその中に…寝室へそっと送り届けました。

別れ際、あの窓で合わせるだけの軽くて甘いキスをしました。

それが、さいごでした。

ありすは僕に永遠を教えてくれました。

…例え2人で永遠に一緒に生きられる世界に逃げられたとしても

…例え2人で死を選び永遠に心を沈めてしまえたとしても

僕は永遠に変わらない「恋心」なんてものはないのだと思いました。

だって、いつかは忘れてしまうのでしょう?変わってしまうのでしょう?何十年、何百年たってしまえば、あなたとの思い出も、この悲しみも薄れてしまうのでしょう?

僕があなたを愛したことは、あなたの幸せだったのか

…迷い続けてしまうのでしょう?

…だからこそ、「今」をこんなにも愛おしく感じ、抱きしめられるのです。

この選択は間違いではないと心から信じられている「今」を。

あなたの声を、あなたの感触を、あなたの笑顔をはっきりと覚えている「今」を。

あなたを心から愛していられる「今」を。

でもそれが愛する人の我儘なら仕方ありませんね。

優しい毒を飲み込み続けて、僕は何度もあなたへの愛を思い出すのでしょう。

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夕日に照らされた丘の上。

遠くに見える、燃え盛る城が紫色の夕焼けを赤く赤く染めていきます。

(みどりだけはありすを知ってくれている、味方でいてくれる、愛してくれる。それが、ありすの自由と幸せの全てなんだよ)

あなたの優しい言葉を何度も何度も思い出します。

もう手が届かないところに、王様は行ってしまいました。

叶うなら…

叶うなら…

もう少しだけでもあなたのそばにいたかったです。

今だからこそ言えることがあります。これは僕の秘密の我儘です。

あなたが死んでしまうことが決して避けられない運命だったのなら…せめて、僕の手で1番苦しくない方法でおわらせてあげたかったです。

せめて僕の腕の中で冷たくなったあなたを抱きしめてあげたかったです。

あなたを強引にでも連れさって、一緒に死にたかったです。

あなたの命がなくなってしまったら、あなたの心は僕が預かっておきますね。2人で過ごせた時間は長くありませんでしたが…思い出として大切に、大切に守りますから。

この愛は僕たちだけの秘密です。

僕は両手を合わせ、握りしめ、

燃え盛る城へ向かって叫びました。

「僕はきっと…きっと、あなたを愛しすぎたキョウ人でした。

だから、僕はあなたに嘘はつけませんでした!

我儘も言えませんでした!

僕は、あなたの心を救えましたか!!!

僕だけはあなたを知っていますよ!!!

味方でいますよ!!!

愛していますよ!!!

心から、愛しているのですよ!!!!

ありす…

ありす…!!!!

ありす…!!!!

さようなら」

END(4章に続く)

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