八話
結局ふうがはもともと持っていた力…ものを作る力(と飛ぶ力)以外はいらないと言った。残りの力は全てオレが持っておいて、何か思いついたら伝えるからやってみて欲しいと…。理由はびっくりさせられたいから、らしい。面白い事が好きなふうがらしいといえば、らしいか?
オレが力を返すためふうがに向かって青い光を放てば、ふうがは「すげぇえ!」と目を輝かせた。
でかすぎる図書室にいきなり放り込まれたみたいな感覚だったけれど、ふうががワクワクしながら「これ面白そうだぞ!」と持ってきた本を開いてみて、一緒に試せばいいのなら、それは何だか楽しみだな…圧迫感なんてない、怖いこともない。
それからふうがは何かを思いついたかのように、突然オレの手を引いて、外へと連れ出した。朝の太陽、水色の空が眩しい…。ふうがは手を離し、ひまわり畑の方へと駆けていく。振り返り両手を広げて、オレに叫ぶ。
「雨、降らせてみようぜ!大雨!やってみてくれよ!!おれ、雨みてみたい!」
「できるかなぁ…やってみる!」
空を見上げる。目を閉じ、頭の中で雨をイメージしてみる。
雨…。雨…。雨の日の匂い…そうだ、雨の日は確か、こんな湿った匂いがしたな。
…頬に冷たい雫が触れた。
目を開けると、濃灰色の雲が空全体を覆い、太陽を隠していた。
落ちる雫がぽつぽつと頬を、服を湿らせていき、やがてザーザーと音を立て、それはシャワーの様に降り注いだ。土砂降り。そして大きな水玉に痛い程に降り付けられ、瞬く間に髪も服もびしょ濡れになっていく。
「プールと全然違う!地面もどろどろ!」
「ふうが、転ぶなよっ」
ふうがは靴を脱ぎ捨て、作り出した長靴をはいた。
「はじめて履いたぞ!」
雨にうたれながら水溜まりを踏んではしゃいでいる。オレも長靴を思い浮かべて履き替えてみる。走り回るふうがの元へと向かう。ふわふわ歩きまわるふうがの、雨に乱されくしゃくしゃになった髪…滴るそれを振り払って、無邪気に笑う。
「なぁ、ゆずは。おれ、これからは、自分が分からなくなることなんてなくて、1人の人間、ふうがとしてここで生きられるんだな。
生きていた頃の記憶や過去が欲しいと思ったこともあったけど、もう、そんなものいらないって、胸を張って言えるぞ!だって、おれのはじまりと永遠の先には、この霊界とゆずはだけがあればいいんだ。
おれはここにいる。ゆずはがいてくれるから、ここにいられる。
これからも、よろしくな!」
「うん、よろしくね。ありがとう!」
オレは空に手をかざし、その濃灰色の雲を解いていく…太陽が顔を出し、振り続けていた雨は止んでいく。日差しがオレたちを照りつける。そして大きな七色の橋が空に輝いた。見上げる虹。びしょ濡れの顔、誤魔化すように、こっそり赤い目元を拭ったふうがの幸せそうな横顔。
…なぁ、ふうが。
この変わらない世界を、変えていこう。もっともっと時間を忘れてしまおう!
永遠の約束。これからもこの幸せな監獄で、ありのままのオレたちでいられますように。
終えた人生のその続き。2人ぼっちの切り離された霊界で、自由で無邪気なオレの片割れと過ごす日々。
ひまわり畑に囲まれて、現実と幻の間で笑い合う。もう何も変わらない、何ひとつ変えさせない。
オレの心を満たす安心感。手に入れた安心感。
絶対に離さない。心も、体も離さない。
全部オレのもの
全部、オレの…
思い通り