六話
ーひまわりの霊界ー
オレ(ゆずは)は銃口を下に向けてから、話し始めた。
「オレに星の化身としての力を分けて欲しい」
「…は、はぁ?ゆずは先輩、何言ってるんだ??」
「…オレを
この霊界の化身にしてほしい
この霊界の全知全能の神にしてほしい
そのために…この霊界、ふうがとオレの魂、力、全てをひとつにして、それをオレが自由に操って、管理干渉できる力がほしい
そして、この霊界をオレの意識の中に飲み込んでしまいたいんだ。この霊界の過去も未来も、全てがオレの手の中にあれば…ふうがをどんな運命からも守ることができる。
ふうがの魂を書き換えれば、憎悪の力が宿る造花を無かったことにすることもできる。憎悪の力から解放されたふうがの魂は誰にも汚させないように、オレが握る、そしてずっとそばに居る。
霊界と魂を繋げたオレとふうがは、この霊界から二度と出られなくなる…そして霊界を司るオレの魂が壊れたら、この霊界もふうがも無くなる…運命共同体って感じ。つまりオレに大きな力を与えちゃっても、それはあくまで独立したこの霊界の中での話で、霊界の外、星にはなんの影響もないってこと。
さくら君が死んで星がなくなれば、この霊界もなくなっちゃうだろうけど…それは今は仕方ないかな、今はね。どうせさくら君にはこの星の全ての世界を見渡して行き来する力があるし、もし心配してくれるなら監視でもしててよ。
あ、それからこの霊界に埋まってる魂たちは天国に連れていってあげてね。ふうが以外の存在なんて邪魔なだけだし。
どうかな、さくら君…すごくいい方法じゃない?」
「はぁあああああ??おえッ……ギ…ッ、ぅ、どう?じゃねーよ。
霊界の化身!?意味わかんねぇ、世界や魂を管理するのって、簡単なことじゃねぇんだよ!!それに、そんなことしたらオレの力減っちまうだろ!!体の一部をプレゼントするような話だぜ?
…それで弱体化したオレが星を守れなくなったら、責任とれるのかよ。全滅だぜ?
そんなリスクを負ってまで、こんなちっせぇ霊界の為に、こまけぇ事したくねぇよ!!
ていうか、他人の魂を手に入れるってどういうことかわかってるのか?ふうがさんを自分の一部…意識の延長線に組み込むイメージだぜ?
やろうと思えばふうがさんの心も丸わかりだし、簡単に書き換えられてしまうし、…それって酷いことなんじゃねぇの?」
「やだなぁ、オレがそんな酷いことするわけないじゃん…
それに、さくら君、自分の手は汚したくないでしょ?オレのこと、消したくないでしょ?
この霊界の問題はオレに任せてよ。
…オレさ、この霊界に来て、ふうがと出会って、やっと変われたんだ。
自分のことを好きって言える自分に。
誰かに心から好きだって言える自分に。
ずっと憧れていた自分に。
滅茶苦茶にしてでも、ふうがのこと、守ってあげたいんだ。
ふうがが生前、どんな悪人だったとしても、関係ない。ふうがにはその自覚も記憶もないんだ。そんなふうがの罪を、悲しみを一緒に背負って、助け合えるのは、この宇宙にオレしかいないんだ。
どんな恨みを背負ってもいい、許してあげたいんだ、オレだけは。
いつだって、嘘の言葉も本当の言葉も隠さず言いあって、受け入れあって、笑いあってるオレたちなんだ…オレもふうがも、何も変わらないよ」
「…まぁ、ふうがさんがこんなことになったまったのは、俺の責任でもあるし。小さな霊力を器用に使いこなして、銃まで作っちまえるようなゆずは先輩なら、大きな力もうまく操れるだろうな。
はぁ…
先輩にはお見通しみたいだったけど…俺はこの霊界の下に、秘密の世界を作ったんだ。そこにひとりの侵略者を閉じ込めてる。
でもまぁ、大事な奴なんだ…先輩が、ふうがさんのことを大事に思ってる気持ちと同じかは分かんねぇけど。…同じだと、思いたい。
その侵略者と出会って、心振り回されたりなんかして…俺も色々変わっちまった。でもそれで真面目に星守る気になったんだ。
それまでは人間で遊んだり、超適当だったから…俺のせいでもあるって言ったのはそういう意味。
今は仲間もできたし、心に少し余裕も出来た。星抱えてんだ…チマチマこまけぇことは気にしたくねぇけど、それでも可哀想なやつはほっとけねぇし、懐は広くありてぇ…そんな風に思える様にもなった。
結局最悪の事態までなんねぇと先輩のことは壊したくねぇし、痛みの中でも先輩を説得できるいい方法ねぇかなって迷って…今の今まで…いや、今も考えてんだよ、俺は…。
…がっかりだぜ、ホント。尊敬してた先輩が、俺のこと簡単にボコれるクズだったからさ。ゆずは先輩があの子を監禁したり傷付けたりした事件なんて、信じたくなかったけど、そっちから闇の行動力を証明してくんなよ。
でも、先輩っていつも本気で生きてるんだな。
そんな風に感じた。
なんかそういう所は変わってない気がして、やっぱり嫌いにはなれねぇんだ。ゆずは先輩は今もまだ、俺の先輩だ」
「さくら君…」
オレは銃をただの鉄の棒に変えてから、地面に捨てた。倒れているふうがの元へと駆け寄る…すやすやと眠っているふうが。ぎゅっと抱きしめた。
心の熱がさめていく…冷静になっていく。
あ、オレ、やらかした。さくら君、大事な後輩なのに…。
どうしよう恐ろしいことをしてしまった!
「さくら君、酷いことしてごめん…」
「いや。ごめんですまねぇよ?俺は簡単には死にはしねぇし…はじめから先輩に殺られるような雑魚い体はしてねぇけど。
やろうと思えばこのまま飛べるし走れる。でも再生能力はねぇし、苦しいし…痛てぇんだよ…。
くそ、喋りすぎたゲホッげほ…ゴボッ、くるし、し、いてぇ!!」
「…ほ、包帯とか?ないよ…オレたち血とか出ないし。ふうがはすやすや寝てるから、道具も出せないし。あ、今日バーベキューしたからライターとかならあるけど…!!!」
「皮膚焼いて塞げってか!?鬼畜かよ…!!!人間じゃねぇから…まぁとりあえずはこの無限に湧き出る血を体外に出さないようにできたらそれでいい。
あとは…天国に帰ってからどうにでもなる。再生能力持ってる奴(さくま)に治してもらう。
テープとビニール袋とかでいいから…それもねぇの?」
「それならあるかも、ちょっと見てくる…待ってて…。あっ、昨日ふうがが遊んでた紙粘土もあるけど…あった方がいい?」
「…ば、馬鹿にしてんのか!?それから、切れて、落としちまった指も探してこい!!くっつけるから!!」